「キョン君、長門さんにお茶を淹れてあげてくれませんか?」  
 なんとも珍しい、いつもなら自分で淹れる朝比奈さんらしからぬお願いだ。しかし断る理由など無い、あるハズが無い。  
「珍しいですね、別にいいですよ」  
 そう言うと朝比奈さんは嬉しそうに急須を俺に手渡し、魅惑的な笑顔で、  
「ふふ、ありがとう。お願いね」  
 まあ、たまにはいいだろう。俺は慣れない手つきで長門にお茶を淹れてやった。  
「ほら長門、飲めよ」  
 いつものノーリアクション……と思ったら、  
「いただく」  
 こっちを向き、ちゃんと返事をした。珍しいことは立て続けに起こるものなのか。  
「えぇ〜っ……」  
 朝比奈さんも驚愕、唖然としている。  
 と、お茶を手にした長門の手が飲む直前、顔の前で止まっている。どうしたんだ?  
「このお茶は……」  
「どうしたんですかぁ? 長門さん?」  
 なぜか偽悪的な笑顔の朝比奈さん。口調もどこか冷然としている。なにかイヤな予感がする。  
「飲まないんですか? キョン君がわざわざ注いでくれたそれをいただくって言いましたよね?」  
 ちょ、ちょっと朝比奈さん?  
「………」  
「いただくって言ったからには飲んでもらいますよ。それともキョン君が嫌いだから飲みたくないんですか?」  
 えぇ!? なにを言ってるんですか!?  
「そんなことは無い」  
 長門は湯飲み茶碗を掲げるようにしてお茶をイッキに飲み干した。いったいなにが起きている?  
「わっ! 本当に飲んじゃったんですかぁ!? 汚いですよぉ!」  
 汚い……いま汚いと仰いましたか朝比奈さん? これはいったい何事なんでしょうか?  
「違う、飲んだワケでは無い」  
「じゃあどこに隠したんですか?」  
「それは禁則事項」  
「ふぇっ!」  
 よくわからんが長門……こいつには何か人に認められていく才能みたいなものがあるらしい。  
 

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