「いやー、みくるがハルにゃんに拉致られて行方不明なんだっ。  
ということで一緒にお昼ご飯を食べよう!決まりだねっ」  
 
目の前で言い終わるや否や、有無を言わさず俺の腕を掴んで歩き出そうとした  
鶴屋さんに一瞬思考が停止するも、一歩進んだ所で身体機能が回復して弁当箱を  
もう片方の手で掴むことができたのはSOS団で鍛えられたお陰だろうか。  
そもそも断る理由も無いので抵抗はせず、俺は素直に拉致された。  
 
屋外に出た俺たちは芝生の適当な場所に座り、弁当を広げた。  
俺のは言わずもがなとして、鶴屋さんの弁当もごくごく普通に見えた。  
 
「うんうん、やっぱりこういう晴れた日のお昼ご飯は外で食べるのが一番だねっ。  
どれどれちょいとお宅拝見・・・むむっ。きんぴらごぼう!お主なかなか通じゃなっ!  
これ、貰ってもいいかなっ?」  
「どうぞどうぞ」  
「ありがとっ。優しいキョンくんには唐揚げのプレゼントだっ」  
 
うちのキンピラなんかと鶴屋さんの唐揚げじゃどう考えても対価として釣り合わないが、  
これも僥倖。ありがたく頂戴する。やはり冷めてても鶴屋さんの唐揚げは美味かった。  
 
「卵焼きはお弁当の華だねっ!あたしのとキョンくんのとで食べ比べしてみよう!」  
 
という具合に結局おかずのほとんどをとりかえっこした俺達は昼休みが半分回った頃には  
食べ終わり、そのままとりとめもない世間話やSOS団、主にハルヒが起こした色々な騒動の  
話をした。鶴屋さんが腹を抱えて気持ちいいくらいに大笑いしてくれるので調子に乗って  
大小面白おかしく誇張したりしたのだが大筋は間違ってないぞ。  
後で鶴屋さんからハルヒに話が漏れたとしても俺は謝らないからな。  
 
「風が気持ちいいねー。あたしはこの季節が一番好きっさ」  
 
ふと、そよ風を受けながら長い髪を触る鶴屋さんが妙に色っぽく見えた。  
あのあけっぴろげな性格や独特の口調でついつい忘れてしまいがちだが、  
鶴屋さんは美人だ。谷口風に言えばAAランク・・・いや、ランクなんて無意味か。  
そもそもあの性格あってこその鶴屋さんなのだし。静かな鶴屋さんなんて想像できんな。  
もしあるとしたらどういう状況なのだろう。あの世界のような感じか?だがそれは  
 
「キョンくん、さっきからあたしの顔をじぃーっと見てるねっ。  
頬にご飯粒でも付いてるのかなっ?そ・れ・と・も、お姉さんに見とれてたとかっ?  
あはは、なーんて」  
「すみません」  
「えっ」  
 
思わず謝ってしまった。鶴屋さんのことだからこういうことは笑ってハイおしまい  
だろうと思っていたが、予想に反して鶴屋さんの表情は固まったままだ。  
何だかとても気まずい。実際には十数秒のことだったのだろうが、  
俺には数分にも感じた重い沈黙を破り、鶴屋さんがようやく口を開いた。  
 
「い、いやぁ。照れちゃうなっ。ま、まったくキョンくんは女泣かせだっ!  
あはは。は、は・・・あっ。ひ、昼休みが終わるっさ。早く戻らなきゃっ」  
 
言うが早いか鶴屋さんは弁当箱を持って立ち上がり、校舎に向かって駆け出していった。  
それから十数メートル離れた位置で鶴屋さんは振り返って大きな声で、  
 
「キョンくん、今日は付き合ってくれてありがとうっ!」  
 
呆然と見送りつつ、ふと思った。鶴屋さんなら一緒にご飯を食べるくらいに親しい友人は  
同級生にもたくさんいるはずだ。それが何故わざわざ俺を選んだのだろう。  
時計を見ると、昼休みはまだ5分以上残っていた。  
 

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