「――――――好きです」  
 
 
 
 
 
 なんてまあ、おっそろしく直球な台詞に、かえって俺は返す言葉を捜さねばならない。  
ハルヒの落雷や古泉の皮肉なんかにならスラスラと回答できるマイ言語中枢だが、ね。  
わかるだろ? 朝比奈さんや長門の前じゃあうまく回らないのと同じことだろ。  
 
 っていうか何がどうしてそうなるんだ? 疑問をそのまま口にする俺に、、彼女は  
少しだけ苦笑してみせた。ますますもってわからん。お前ほどの美少女が、よりに  
よって俺なんかを選ぶ道理もないだろう。そりゃあ確かに付き合いはそれなりに  
長くもなったが、こっちとしてはそんなフラグを立てた覚えはまったくない。  
いやいや、迷惑だとかそんなことを思ってるわけじゃないんだぜ? ただ不可思議で  
仕方がないのさ。ついでにいえば、裏があるんじゃないかと勘繰ってしまうのも  
無理はないと察してくれ。SOS団なんてのに在籍した故の、職業病のようなもの  
だからな。  
 
 
 
 で、どういうことなんだ? ミヨキチ。  
 
 
 高校を卒業して3年、まあ言うまでもなく俺の、もとい俺たちの日々は変わらなかった。シベリア超特急のごとく邁進するハルヒに、引きずられる  
ボロ布の如き俺。でもってニコニコ解説小泉が三歩離れて付いてきて助けず、一足先に卒業なさった朝比奈さんも再加入、おろおろとうろたえる姿さ  
え萌えてしまうね。長門もまあ相変わらずだ。ただ少し、俺の袖を引くことが増えたか。興味を持てるものが増えているのは良いことだろう。そうし  
て現在にいたる、のだが。  
 
 で、くだんのミヨキチはというと、俺が高1のとき小6だったわけだから、なに、もう高校生なのか? あの当時から大人びていただけに養子に変  
化はあまり見られない。強いて言うなら纏う空気に落ち着きが出てきたってくらいだ。いや、それだって充分な変化なんだけどさ。できればうちの妹  
にも見習わせたいぜ。  
 
「………少し、歩きませんか?」  
 
「あ、あぁ」  
 
 黄金週間とはよく言ったもので、大学生ともなるとこの時期の時間の余裕は高校時代とは比べ物にならない。もっとも  
その分団活に連行されてしまうのだけどな。しかし今日はまだ始まるその前日、ハルヒのぶっ飛んだ計画開始までのわず  
かな休暇ということだ。で、うちでぼんやりベッドに転がっていた俺の携帯を鳴らしたのが、思いもよらぬ彼女、ミヨキ  
チだったというわけさ。意外や意外、声を聞くことさえ何年ぶりだろうってくらいのレベルだ。受験のあたりの繁忙を境  
に会った記憶はないのだから、都合30ヶ月は経っている。  
 
「お兄さんは相変わらずですね」  
 
「……褒めてるのか、それ」  
 
「はい」  
 
 何がおかしいのか、くすくすと口元を押さえて笑うミヨキチ。なんとなく朝比奈さんを連想させる仕草だ。  
 
「だから、安心しました」  
 
「なんだそりゃ」  
 
「私の好きなお兄さんのままで、安心したんです、よ?」  
 
 絶句したね。どうしろってんだ? こんな明け透けに行為を示されたことなんてないし、いやまてよ、自分の妹と同年代だぞ? まかり  
間違っても俺にロリの気は……いや、4,5歳のさなんてたいしたものでもないか、聞かない話でもないって焦点が違ってるぞ動揺しすぎ  
だ落ち着け俺!  
 
「…………普通、確認してから言うものじゃアリマセンカ?」  
 
「えへへ。そうなんですけど、お兄さんの顔見たら舞い上がってしまいました」  
 
「………………そぉデスカ」  
 
「そうなんです」  
 
 とミヨキチはそれはそれは楽しげに首をかしげる。わからん。これはいったいどういう現象だ? 教えて長門さん。  
 
「――――――では……解説、……する――――――」  
 
「うおおおァああっ!??」  
 
「きゃっ!」  
 
 ちょっと待て! いまどっから沸きやがったこの昆布! しかも呼んだのはお前じゃないぞ!?  
 
「―――――――そ……う――――?」  
 
 飛びのいた俺たちに目もくれない周防九曜はわずかに何事かを考え、  
 
「――――――つまり………あなた、の」  
 
「いや何事もなかったかのように続けるな。そして帰れ」  
 
「――――――――ひど……イ――――――」  
 
「帰れ」  
 
 背中を押してやると、まるで摩擦係数が0のようにするすると進んでいく怪奇なる黒髪電波女。曲がり角に消えたところで溜め息をつく。やれやれ、疲れるぜ。  
 
「あの……いまのかたは」  
 
「あー、何て言っていいもんか。…………昔のクラスメイトのそのまた知人だ。見たとおりできればお近づきになりたくはないタイプなんだが、そうも行かない事情があってな」  
 
「………綺麗な人、ですね」  
 
「……………………まあ、そうかもしれんが」  
 
 しかしそれ以上に怖すぎる。  
 
「それよりだな」  
 
 本気なのか、とはさすがに口には出せない。そこまでデリカシーを無くしたわけじゃないんだ。だが、どうにも腑に落ちないのさ。  
 
 
**  
 
 
 
「何故なんだ?」  
 
「人を好きになるのに、理由が要りますか?」  
 
 まいった。いや、両手を挙げて降参するしかないだろ? どっちが年上だか分からなくなる回答だ。  
 
「でも、そうですね。きっと……………」  
 
「きっと、なんだ?」  
 
「きっと、―――――ら」  
 
「え?」  
 
 
 
 
 
 
 小さな呟きに、耳を寄せただけだった。信じてもらいたいが、他意はなかったのだ。本当に。まさか人通りも多いこんな駅前で年下の美少女に唇を奪われるなんて、想像つくわけがないだろう?  
 
   
 
 
 唖然とすること、多分1分少々だったと思うのだが。その間顔を両手でがっきりと固定された  
まま動けず、重ねられたそれの感触に、ああもう誤魔化しようもなく、俺は完全に意識を奪われ  
ていたらしい。でもって我に返ったこの瞬間も現在進行形でキスは続いている。もとい、続けら  
れている。  
 
「―――!? ――――、!」  
 
「――――――――…………ン、ふ」  
 
 心臓が跳ね上がる。漏れた吐息ははっきりと、女のソレであった。童貞=年齢の俺にでも間違  
えようのない、発情の前触れ。  
 こりゃあ拙いと慌てふためくが、抵抗なんてどうしろってンだ? 下手に引き剥がせばどうな  
るかなんて、考えるだけで恐ろしい。しかし人目が。場所分かってるのかミヨキチ、ここは天下  
の大通りですよ!?  
 
「―――――ん、ぅ!」  
 
「あっ」  
 
 というか、酸欠。息継ぎさえ許してくれぬままの口付けで、快楽だけではなく物理的にも頭が  
霞みかけた。覚悟なんてする暇もなかったのだから、当然溜めも出来なかったんだぞ、こっちは  
さ。だからその、なんだ、涙目で睨むなって――――――――  
 
 
 
 
 ――――――――――――――げ。  
 
 
 
 
 恨めしそうに俺を見上げるミヨキチの背後に陽炎のようにひっそりと佇む長門有希の眼差しに、ゆだりかけていた脳みそが表決したことは言うまでもないだろう。、  
 
 
 
 で、どういうわけか右手に長門、左手にミヨキチをつれて歩く俺がいるのだった。いや意味が分からないぞ。更に言うなら今の俺は、絶対  
零度と超高温にはさまれたあげく衆人環視の軽蔑的視線という衝撃でぶったたかれた鉄板のごとくぽきりと折れてしまいそうなわけで、だか  
ら手を放していただけませんでしょうかお二人とも。  
「無理」  
「だめです」  
 片や冷ややかに、片やにこやかに。まったく対称な表情の割には結論は同じなのか。  
「……どこに向かってるんだ?」  
「私の家」  
 ひたり、とミヨキチの足が止まった。なんだ、打ち合わせてたとかじゃないのか? それに釣られて長門も立ちどま―――らな! いだだだ千切れる千切れる! 大岡裁き!?   
「今日は、お買い物ですよね、お兄さん?」  
 一言一言区切るような物言いに、背筋がぞわわと総毛立った。アラート、アラート! 脳内で電気信号が走り回る。  
「え、えーとだな?」  
「ですよね?」  
「ハイ」  
 反射的に頷いたのは、そりゃあ仕方がないことだろ? お前は朝倉か。笑顔の恐怖を再び見ようとは思わなかったぜ。しかし前門のトラはそれを許しちゃあくれないらしい。  
「それは後日にすべき」  
「っ!」  
「彼は既に私と先約がある」  
「え?」  
「ある」  
 そんなのあったか、と言いかけて、慎み深く口を閉ざす。コウモリやろうと笑うがいい、俺はまだ砂になって散る予定はないのだ。両手を180度引かれながらがっくりとうなだれるが、やっぱりどちらも気にしてはくれないらしかった。  
「……………わかりました」  
「それが賢明」  
「私も行きます」  
「許可できない」  
「行きます」  
「許可できない」  
「行くんです!」  
 誰か何とかしてくれ。今なら土下座してもいいぞ。ついでにここに至るまでの経過を俺に理解できるように説明してくれると嬉しいのだが、それこそ神様にだって無理なんだろうけどな。  
 

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