何ということだ。
俺は今絶対絶命の危機に立たされている。
俺はいつものように部室でトランプをやっていただけだった。
なのにどうしてこんなことなっちまったんだ!!
事の発端は十分前。
大富豪も二十連続でやると飽きるもので。
次で終わりにしようというときに突然われらが団長涼宮ハルヒが突拍子もないことを言った。
「最後にビリになったやつは一位になった人の言うことを聞くのよ!!」
いや、突拍子ないのは毎回のことだな。というかもう慣れました。
それにどうせ負けるのは古泉だし……
そのときまではそう思っていた。
だが!!
あろう事か!!
あの古泉が一位になってしまったのだ!!
これにはハルヒも目を見開いて驚いていた。
いや、全神話の勝利の女神という女神が驚愕したことだろう。
え、負けたのは誰だって?
もうあらかた察しがついているだろうが……俺だ。
最後は朝比奈さんが
「キョンくんごめんなさい!!」
とハートのクイーンを出されあっけなく終了。
ああ、あなたに命令されるのならまったくかまわないですよ。
きっと民から愛されるすばらしい女王様になるでしょう。
ところが現実は甘くはない。カカオ99%並にほろ苦い。
古泉がスマイル100万ドルの笑顔を浮かべながら
「まさかこの僕が勝ってしまうとは驚きですね」
と言った。
何だか無性に腹が立ったのは言うまでもない。
しかし古泉なら無茶な注文はしないだろう。そう思っていた。
だがここからが本当の地獄だった。
「そうですねえ……」
悩んでないでとっとと決めろ。早くしないと俺は帰る。
「そうだ。いいことを思いつきましたよ」
早く言え。俺は聖人や賢者のように気は長くないぞ。
しかし古泉の発した言葉は激しく俺を困惑させるものであった。
「好きな人を大声で叫んでください」
は?
と驚いたのも一瞬。
SOS団三人娘がすごい勢いで俺に振り向いた。それもまったく同じタイミングで。
とたんに空気が重くなる。
俺の顔を一点に睨み付けてくるハルヒ。顔から笑みが消えた朝比奈さん。
無表情二割増しの長門。
考えてみたら無表情二割増しという表現は変だな。0には何かけても0だしな。
ていうかそんなこと考えている場合じゃなかった。
この状況を論理的に打破せねば!
好きな人か…そうだ、国木田とは中学時代からの友人だ。
仲のよさならきっと一番のはず。
「ああ、もちろんLikeではなくLoveの意味で、ですよ」
ちっ。やはりだめか。だがあきらめたらそこで試合終了。
時間がある限り戦うんだ。
ふと妹の顔が思い浮かんだ。
嫉妬も何も知らないまだあどけないが自慢の妹だ。
どこの馬の骨とも知らんやつには嫁に出すことはできないね。兄として。
家族。
おお、愛だ。俺は家族を愛しているぞ!!!
「面白味がないので家族というのもやめてくださいよ」
くそ、顔に微笑なんか浮かべやがって。
もし俺がセカンドレイド使えたらこいつの頭にスマッシュしてやりたいね。
アニメを見たやつの男の七割は賛成じゃないだろうか?
そうしている間にも刻々と過ぎていく。
そろそろハルヒ達も限界だろう。
古泉だけは相変わらず笑みを浮かべていたが。
というか俺をはめたのはこいつじゃねーか。
この状況を!
この三人を!
切り抜ける状況はあるのか!!
……たった一つだけ残されてるじゃないか。
そのたった一つの策とは……
逃げるんだよおおおー!!
うわーなんだこの男!!自分でつっこむのはどこかむなしい。
体をターンさせ部室の扉へ体当たりするようになだれ込む。
しかし現実は先ほどにも申し上げたようには甘くはない。
ハルヒが神のごとく瞬発力で回り込み扉を閉める。おまけに鍵までかけやがった。
お前はさっきまで団長机に座っていただろう。
人間とことんハイになると頭がおかしくなるようで。
俺はとっさに窓から逃げることを考え付いてしまった。
再び体をターンさせて文芸部室の開いている窓に突進する。
アーイキョンフラーイ!!ってね。
ところが窓はひとりでに閉まり鍵までかかる。
長門よ、お前もか。
とどめに朝比奈さんに足を払われ盛大にすっころぶ。
謝罪の言葉もなく。無言で。
ああ、実に惨めだ……
厳しい現実に打ちのめされた俺は身も心もぼろぼろ。
ようやく立ち上がった俺はいつの間にか三人に囲まれていた。
みんなただならぬ雰囲気をその身に纏っている。
謀ったな、古泉!!
「君とはよい友人でしたが君の優柔不断さがいけないのですよ」
お前はどこの変態仮面だ。
喜ぶべきハーレムの状況なのにどうしてこうなってしまったのだろうね?
一歩でも動いたら殺られそうだ。
結局呆然と立ち尽くしたまま時間は過ぎていき帰ったのは夜。
どうやって俺はあの状況から抜け出せたのだろう?
もういい疲れました。思い出すのもめんどくさいです。オヤスミナサイ。
小鳥のさえずりとともに目が覚める。
すがすがしい目覚めとはいかない。
なぜなら昨日うやむやな状況で帰ってしまったからな。
「キョンくんご飯―」
妹の軽やかなソプラノヴォイスが朝ごはんを告げる。
腹が減っては何とやらだしな。
しかし目の前の光景は思わず自分の目を疑ってしまうものだった。
なんと昨日と食事が同じなのだ。
ちなみにうちは食事が重なったことが一回もない。
まさかと思い新聞に目をやると。
果たして昨日と同じ日付だった。
エンドレスサマーならぬエンドレス修羅場ですか。
結局ヘタレな俺は次の日に行くまでに十三回も同じ日を繰り返しました。
おしまい