さて、日々平穏に暮らしている方々にはどうでもいい事かもしれんが、俺には高校一年という人生の1%ちょいでしかないわずかな時間の中で、カンブリア紀あたりから生きてきたとしても足りないくらいの膨大な人生経験を積んできたという自負がある。  
 ………ちっとも欲しくはなかったがな。  
 しかも、その中には世界が陽気且つお手軽に滅亡の危機に瀕するような事も多々含まれていた、というマジで笑えない事実がありやがるのだ。  
 で、結局何が言いたいかというと、俺はそんな井の中の蛙がいきなり大海に叩き込まれるような体験を繰り返したせいで、もう大抵の事には動じなくなっており、そんな俺が動揺しているという現状はちょっとした世界の危機なんじゃないか、という事である。  
 ………では、一体何が起きたのか、を簡単に説明すると、  
 
「長門」  
「………何?」  
「そりゃこっちのセリフだ。お前、何してるんだ?」  
「おふろに入りに来た」  
 
 一日に溜まる百年レベルの疲れを癒すためにのんびり風呂に入っている時に、俺的ランク………は秘密だが、谷口ランクではA−の美少女がいきなり全裸で乱入してきたのである。  
 いやもう、正直、動揺を隠し切れない。  
 その、………体のある一部分が、特に。  
 
「あなたが望むのならば、オプションでそれ以上も可能」  
 やかましい。てか、そっち方向に変な女になるのは止めなさい。  
「大丈夫。面倒くさい女になるつもりはない」  
 ………いや、そういう意味じゃなくてだな。  
「苦しむのは一瞬だけ。わたしもすぐに後を追うから」  
「それもちげーよ! つーか、そりゃ怖い女だよっ!」  
 
 人生巻き込まれ男の突っ込みは、風呂場の内部のみに響き渡って、地面に落ちたシャボン玉のように儚く、すぐ消えた。  
 
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  
長門さんchu!   
 〜野望編、それかおふろラブラブ初エッチ『ポロリって言うレベルじゃねーぞ!』編〜  
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  
 
 
 
1.  
 
「怖いのなら目をつぶってろよ」  
「大丈夫。あなたを信じる」  
「そっか、俺もこんな経験初めてだから、痛いかもしれないぞ」  
「やさしくして」  
 そんな会話を交わしながら、長門の髪を洗う俺。  
 いやー、妹以外で女の子の髪を洗うなんて初めての経験だ。………変な想像はしなかっただろうな。  
 
 ちなみに風呂場のドアは綺麗に消失、かわりにチタン合金もかくやといわんばかりの硬度をほこる謎壁が俺達の周囲を取り囲んでいる。  
 半径3メートルほどの密室にその密室を作り上げた犯人と二人きり、というこの状況で下手に反対意見を述べると、どんな事件の被害者になるか分かったもんじゃない。  
 ここまで説明すれば分かってもらえたと思うが、今の俺に出来る事といえば、可及的速やかに『一緒におふろ』というこのアルプス山脈並みに難易度激高なミッションを終了させる事だけなんだよ。まだ三面記事には載りたくないからな。  
 
 ………そこ、ヘタレとか言うな。  
 
 
 凶悪犯の泡だった可愛らしい頭を、5%の憎しみと95%の親しみの結果、ガシガシと少し強めに擦りながらも適温のシャワーで洗い流す。  
「………」  
 無言ではあるものの、目をつぶって口元を微妙に緩める仕草を見ると、長門はどうやらリラックス出来ているようだ。  
「………」  
 ちなみに同じく無言ではあるものの、目を逸らして口元を盛大にゆがめながら、俺は自然現象を抑えるのに必死である。  
 四方が壁という事はバスタオルなど持ってこれるわけがないという事であり、洗ってる最中にも何度か長門の控え目な二つのさくらんぼが視界をふらふらとして………、  
 
 よし、こういうときは相対性理論でも考えるといいんだよな。  
 ………先生、名前しか分かりません。  
 
 自分の馬鹿さ加減にうんざりしながら、ようやく長門の髪を洗い終わった。  
 ミッションコンプリート! ………体は自分で洗ってもらう事にする。  
「………意気地なし」  
 すみません。もうヘタレでいいんでマジ勘弁してください。  
 
 
「次は、あなたの番」  
 修験者もかくやといわんばかりの苦行を終え、湯船に避難している俺に長門はそんな事を言ってきた。  
「いや、もう俺は髪も体も洗い終わっているんだが」  
「今髪を洗わなかった場合、明日の通学途中で犬に追いかけられ、川に落ちる事になる」  
 長門さん、それは脅迫ですよね。  
 不当な脅しに屈しない人間でありたいと思った俺は、湯船から不動明王のごとく力強く立ち上がり、長門に背を向ける形で堂々と椅子に座り込む。  
「なるべく早く終わらせてくれよな」  
 ………ありたいと思っただけだった。  
 
 
「怖いのなら目をつぶってて」  
「いや、別にいいよ」  
 多少なら目に入っても平気だしな。  
「………ついうっかりシャンプーを目に擦り込んでしまうかもしれない」  
「それは明らかに故意ですよね!」  
「コワイノナラメヲツブッテテ」  
「あれ、もしかして、命令ですか?」  
 上官の指令を受けた三頭兵のように素直に目をつむる。  
 今風呂場の床に線香花火のように儚く零れ落ちた36℃の液体は涙じゃないぞ、多分な。  
 
 目をつむっているので何が起きているのかは分からないのだが、カシュカシュとボトルのヘッドを押しているらしい音と、ペタペタと何かに液体を塗りつける音が聞こえてきた。  
(あれ、頭を洗うんじゃないのか?)  
 
 そう思った瞬間、長門が全身に泡を付けて俺に抱きついてきた。  
 
 そして始まる上下運動、俺の耳元での『んっ、んっ』という声とか、背中に感じる二つの欲望制御装置解除ボタンの感触とかでおにーさんはもう大変です。  
 
 落ち着け、こんな時は般若心経を唱えればいいんだ。  
 ………先生、出だしが分かりません。  
 
 
「ちょ、長門、とりあえず一回止まれ」  
 男の子の尊厳とかいうやつが本当に盆に返らなくなってしまう前に、何とか長門を押しとどめて質問する。  
「お前、一体何がしたいんだよ?」  
「わたしは………」  
 俺の質問に、今夜は少し壊れ気味な万能戦士、こと長門有希は、  
 
「わたしは多分、あなたが、………好き、なんだと、………思う」  
 
 と、彼女にしては妙に歯切れの悪い、場の空気にそぐわない告白を行った。  
 
 
2.  
 
「はい?」  
 話の流れがつかめず、安物の銅像のように固まる俺、あちこち欠けているのは自覚してるんだよ、ほっとけ。  
「わたしはあなたが好きで、だからあなたにわたしを好きになって欲しかった」  
 オーケー、分かった。分からんが、とりあえず分かった事にしよう  
 どこが、とか、いつから、とか分からん部分はこの際気にしないでおく。これが俺流の生活の知恵だ、失敗の元かもしれんがな。  
 まあ、それはいい。………で、何でこんな事を?  
「こうすると、男の人は喜ぶと聞いた」  
 ………誰に? まあ、大体想像はつくが。  
「喜緑江美里」  
 本当に予想通りですね、あのバカワカメ。  
 
 後で対策を練らんと致命的な事をさくっと掘り当てちまったような気もするが、とにかく今はこの暴走宇宙人を何とかせんとな。  
「あのな、長門。お前はお前がしたい事をすればいいんだ。多分だが、それが俺の一番好きなお前なんだと思うぞ」  
「………理解した」  
 俺の説得に大きく頷き、上下運動を再開する長門さん。………いや、どんな種類の定理を理解しやがったんだ、お前。  
「したい、と思う」  
 ………何を?  
「生殖行為」  
 ………  
「愛の営み?」  
 いや、表現方法が問題なんじゃなくてだな。  
「セッ「うん、分かったから少し黙ってろな」  
 
 はしたない事を言わないよう、長門のお口にチャックしてから考える。  
 さて、俺はこいつの事をどう思っているのだろうか?  
 大事な仲間である事は間違いないし、体の一部分を確認してみるとそういう行為も可能であろう。  
 心理的にもこう、………持て余す、というか、欲情している、のだろうな。  
 
 ただ、なあ、なんていうか、  
 心の準備が、とか、  
 最初からいきなり、というのはどうだろうか、とか、  
 ハルヒの顔が何故か脳内に浮かんでくる、とか、  
 ………いろいろ、……………いろいろ、  
 ………なあ………  
 
「あなたが、イヤなら………」  
 行き止まりっぽい思考の迷い道に嵌まっていた俺は、生まれたての病弱な雛のように弱弱しく響いた長門の声にふと顔を上げる。  
 瞬間、脳内のいろんな事をゴミ箱に投げ捨てて、小さな友人を抱きしめた。  
 どうしても見たくない顔ってのが俺にはあって、それはたとえば妹のむくれっ面だとか、古泉の真面目な顔だとか、ハルヒのつまらなそうな顔だとかなんだが、こいつの泣き顔は確実にトップ3に入るんだよな。  
 
「長門、お前の事は大事に思ってる」  
 背中に手が回される。  
 小さな手で、俺をぎゅっと抱きしめる。  
 小さな体は、少しだけ、震えている。  
 
 非日常的な出来事ならともかく、こういうメンタル的というか、心の問題というか、まあぶっちゃけ恋愛事では、こいつは本当に見た目通りの小さな女の子だ。  
 焦燥、不安、悲嘆、そういったネガティブなもろもろの感情を無理矢理押さえつけて俺に伝えてきた、気持ち、想い。  
 他人がどう思うかじゃなくて、俺がどう想うか、だよな。  
 間違っているのかもしれんが、今だけはハルヒの事は忘れよう。………無理でも、忘れたふりをしよう。  
 だって、こいつの事が大切である事は、間違いないのだから。  
 『後悔するぞ』と頭の隅で囁く妄想を無視して、現実に腕の中から俺を見つめている大切な人を抱く決意をした。  
 
「ん」  
 互いに見つめあったまま、二人の距離がゼロになる。  
 
 セカンドキスはボディソープの味がした。………ほろ苦ぇ。  
 
 
3.  
 
 ビターなキスを続けながら体勢を変え、ちょうど俺の膝の間に長門が座る形にする。  
「ん、あたっている」  
「あててんだよ」  
 などと馬鹿な会話を交わしながら無表情娘をいぢり倒す事にした。  
 
「ふ、……んっ」  
 控え目なふくらみを後ろから円を描くようにこねくり回す。  
 必死に声を抑えようとする長門の姿が可愛かったので、先端のさくらんぼをつねるように刺激した。  
「ひぐっ、んんっ」  
 まだ声をあげない。  
 鳴かぬなら泣かせてみせよう長門姫。  
 サルになった俺は、右手で胸を揉みしだきながら左手を局部へと持っていった。  
 
「……ダメ」  
 足をぎゅっと閉じ、左手の進入を防ごうとする長門。  
「ダメっていうやつがダメなんだぞー」  
 自分でも意味の分からん超理論をかましながら、触れるか触れないかくらいの力でへその周囲をくすぐる。  
「ひあっ」  
 予想外の場所への刺激に少しだけガードがゆるむ。  
 ならば、と思い耳たぶにはむっと噛み付き、しゃぶりつく。  
「ひくうっ」  
 完全に力が抜けたところで左手をがら空きのゴールに叩き込んだ。  
 
「あ………」  
「ふむ」  
 ツルツルである。  
「はえてないんだな」  
 いかん、初めてプチプチを潰した時のような衝撃的な感触に思わず率直な感想を口に出しちまったが、これでは飲み屋のスケベ親父よりたちが悪いじゃないか。  
 
「………」  
 長門は黙り込み、下を向いている。  
 ………すみません。怒ってらっしゃいますか。  
「違う。でも、何故かあなたの顔が直視できない」  
 あー、もしかして『照れてる』とか?  
「………そんな感情はわたしには無い」  
 いや、お前も基本的には普通の女の子と変わらないわけだし、無いってわけじゃなくただ知らなかっただけだろう。だから裸で男の前に出てこれたんじゃないのか?  
「………そんな事は、ない」  
 ああ、そういやこいつ、意外と負けず嫌いなんだった。  
 そのとき俺が思いついたのは、………なんだ、好きな女子をいじめたくなる小学生男子の思考、………みたいな。  
 
「そっか、恥ずかしくないのならこんなのも大丈夫だよな」  
 言いながら、長門の肩にあごを乗せ、狙撃手が狙いを定めるかのように局部を注視する。  
「………」  
 無表情ながらもどこか居心地悪そうに俺の左手を足で挟み込んでくる長門。  
「しかし本当、ツルツルだよな」  
「それは、………ひあっ」  
 挟まれている左手をピクピクッと少しだけ震わせる。  
「でも、感度は良好、と」  
「ふ、………んあ」  
 指を細かく振動させながら、外側を軽くなぞる。  
 
「こっちももうコリコリだな。立ってるし」  
「ん、んう」  
 右手で長門のさくらんぼを、種を出すように両側から揉みこむ。  
 無表情でいようと頑張っている表情な長門。  
 まあ、顔が赤いのは隠しようがないがな。  
 
「指、入れるぞ」  
「え、………みうっ」  
 返事を待たずに突き入れる。  
 くちゅり、という音と共に愛液が滴り落ちてきた。あー、これは、  
「長門、お前いじめられて感じてたのか?」  
「………」  
 返事はない、が、  
「変態さんだなぁ」  
「………」  
 指がぎゅっと締め付けられ、愛液が溢れ出してくる。  
 ノンバーバルコミュニケーション、ちょっと違うか。  
 
 もう足からは力が抜けているようだったので、両手を使う事にする。  
「あ、まって」  
 待たない。  
 左手で女の子の内部をかき回しながら右手で隠れている突起を刺激する。  
「ふあっ、やあっ、んっ、んああっ!」  
 声が出た。  
「やあっ、あ、あ、あ、あ」  
 一度出てしまうと止まらなくなる。長門ダム決壊である。  
「んー、イきそうなのかー?」  
「知らな………ああっ」  
 声がオクターブ跳ね上がる。洪水だな、どこがとは言わんが。  
 
 イきそうらしいのでスピードを上げながら再度耳たぶに噛み付く。  
「ひぐっ、そこ…ダメ、んあっ、あうっ」  
「いいから、イっちまえよ」  
 止めとばかりに、ピンピンッとギターを弾くように膨張してきていた豆を刺激する。  
「ふあああっ!」  
 叫びに近い嬌声と同時にこちらまで伝染しそうなくらいに体を震わせた後で、長門の全身から力が抜けていった。  
 
 くたり、と俺にもたれかかってくる長門を軽く抱きしめながら囁く。  
「可愛かったぞ」  
「………いぢわる」  
 そしてそのまま、キスをする。  
 今度はちゃんと、甘いのを。  
 
 
4.  
 
 キスを終え、さて続きでもと思ったところで体が動かなくなり、長門に床に転がされる。  
「次はわたしの番」  
 何をする気なのか不安には思うものの、首が動かないので見る事すら出来ない。  
 
「ふ、………はむっ」  
 先程までの行為で既に破裂寸前まで膨れ上がっていた俺のブツに、熱い吐息がかかったかと思うと、次の瞬間そのまま全体が温かい感触に包まれた。  
「ふ、むちゅ、ちゅぱっ」  
 もしかして俺、ナメられてますか? いや、直接的な意味で。  
「ちゅる、んむっ、ちゅくっ」  
「う、ああ」  
 どこで覚えたのか分からないが、舌を絡みつかせながら的確に俺の急所をついてくる長門。いや、性的な意味で。  
「ふ、ん、ん、ん」  
 口をすぼめ、頬、喉奥、舌と口内全体で俺のものをしごきたててくる。  
 思考が快楽でトビかけている時に、長門の舌が俺の先っぽの穴をこじ開け、強く吸引してきた。  
 ちょっ、これ、無理っ!  
「うおっ」  
「んっ、んぐっ、んー!」  
 予想外の快感に予告も無しにあっさりと暴発する俺。頭は真っ白になり、体からビュクビュクとこれまた予想外に大量の白い液体が長門の喉奥に叩き込まれる。  
 
「ふ、………ん、こく、こくん」  
 白い喉がなり、白い液体が飲み込まれていく。  
「いや、無理すんなよ」  
 どう考えても美味くはないだろうしな。  
「………ネバネバ」  
 だろうな。  
「……苦い」  
 そうだな。  
「でも、美味しい」  
 うおっ!  
 俺の持つ既成概念をあっさりと否定する言葉を放ちながら、ペロリと唇についた残り汁を舐めとる長門はすごくエロくて、………おお、マイサンが既に回復してやがる。  
 
「では、いただきます」  
 いや、待てって。なんつーか、最初は主導権がほしいとか思っちゃったりするのですが………、  
「わたしも、そう」  
 曖昧な嘆願は、バッサリと切られた。切り捨て御免ってやつか? 士農工商はいつ復活したんだ?  
「………あー、なんだ。無理すんなよ」  
 まな板の上の鯉である俺には反抗しようがないし、後はもう調理師長門に任せるしかないんだろう。  
 
 ………流されてるぞ、悪いか?  
 
 
5.  
 
 ところで、いつの間にか首だけは動くようになっていたらしい。  
 長門は指で秘部を広げるようにして俺のものの上に腰を落とそうとする。  
 くんっ、と少しだけ中に入る感触。  
「んっ、つあっ」  
 指を入れた時から分かっていた事だが、やはり狭い。入る俺でさえ痛みを感じるほどの狭さだ。入られる長門は本当に大丈夫なのだろうか?  
 
「んっ、………問題ない」  
 いや、だってな、  
「体の痛みなら、ふうっ、我慢出来る」  
 出来てないだろう。俺の体、知らん間に動かせるようになってるぞ。  
「ダメ、………んんっ!」  
 体を起こそうとした俺を止め、無理矢理自分自身に楔を打ち込もうとする長門。  
「長門!」  
 俺の出した強い声に親に怒られた子供のようにびくっと動きを止める。  
 
「お前が無理に痛い思いをしても、俺は全く嬉しくないぞ」  
「………ごめんなさい」  
 ため息をつきながら起き上がり、優しく抱きしめた。  
 ああもう、本当に、こいつは、  
「無理、しないでくれよな」  
 キスしながら、耳元でささやく。  
「ダメ」  
 キスし返され、耳元でささやき返される。  
「あなたが欲しい。だから、無理をする」  
「………やれやれ」  
 言い出したら聞かないんだよな、こいつ。  
「本当に、無理だけは、しないでくれよな」  
 こんな事しか言えない自分がイヤになるね、本当。  
 
「抱きしめて」  
 せめてと思い、想いを込めて優しく抱きしめる。  
「わたしを、感じて」  
 次の瞬間、何かを引き裂く感触と共に、俺自身が熱いものに包まれていた。  
 
「ふ、う、うん」  
 長門が顔を押し付けている肩に、お湯とは違う36℃の温かい雫の感触。  
「泣いてるのか?」  
「嬉しい、から」  
「そっか」  
 頭を撫でる。  
 一際強く顔を押し付けられる。  
 ぎゅっと抱きしめる。  
 ぎゅぎゅっと抱きしめ返される。  
 少しの間、そうやってお互いを感じていた。  
 
 しかしまあ、何というか、  
「うあ」  
 長門の中はきつくて熱くて気持ちいい。  
 『熱い』を『禁則事項』に置き換えたら3Kだな。  
 そんな明日のホンジュラスの天気並みにどうでもいい事でも考えていないと、動かなくてもこのまま体中の液体が吸い出されてしまいそうだ。  
 
「………?」  
 俺の反応に小首を傾げた長門が、ゆさり、と体を微妙に動かす。  
 その瞬間、長門の壁全体が俺のものを微妙に振動しながら擦り上げていった。  
「うおう」  
 一ミリ程度の揺れが、脳震盪を起こしたかと思えるほどの快感を俺に与え、思わず変な声が出る。  
「気持ちいい?」  
 イノセントな瞳でそんな事聞くのは止めなさい。狼さんが暴走しちゃいそうですよ。  
「暴走、して」  
 そう言って上下運動を開始する長門。  
 痛いくらいの締め付けで、熱くて柔らかいものに搾り取られていく感覚に俺の頭が白く染められていく。  
 
「むむむ、無理言うにゃってー」  
 初めて味わう女の子の感覚に動揺して、言語中枢がおかしくなる俺。  
 当然、動く事なんて出来るわけがない。  
「ちょ、待てって」  
「ダメ、んっ、んっ」  
 動けない俺を尻目に、既に痛みには慣れたのか、長門は楽しそうに動きまくる。  
 コツンコツンと先端が最奥を突く度に彼女から快感を堪えるような声が出て、それが一層俺を再暴発へと追い詰めていく。  
「いや、出ちまうって」  
「中で、ふうっ、出して」  
 ご無体な事を言い、追い詰めたネズミをなぶるように、前後左右上下全ての方向に大きく動き出す。  
 
「だから、うあっ、………なあっ」  
「んっ、へいき、んあああっ!」  
 『何がだよ』という俺の声を掻き消すように、『パンパンパン』と淫らな音が響き渡る。  
 奥にあるもう一つの入り口に竿の先端が強めに擦れた時、長門は明らかに今までと違う甘さを含む叫び声を上げた。  
「ふうっ、んんあっ、やあっ」  
 同じ場所を同じように擦りつけながら、徐々に長門の声が上ずってくる。  
「中……にいっ」  
 耳元でそんなエロ甘な声出すなよ、マジで出ちまうって。  
 
「うあっ、あっ、あああー!」  
 俺自身が膨張するのにあわせるように腰を押し付けたせいで、ごりっという今までで一番強い力で削るように最奥を擦られ、隠しようもない嬌声を響かせながら達する長門。  
「うっ」  
 その瞬間、中がぎゅっと締め付けられ、既に臨界点を軽く突破していた俺から、二回目とは思えないほど大量の液体が長門の中に放出されていった。  
 
 
6.  
 
 初体験は失敗が多いというが、とりあえずは無事に終わらせる事が出来たようだ。  
 お互いの体を再度洗いなおした後、二人で湯船に入り、沈黙が気持ち良いいつもの時間をまったりと過ごしていた。  
 さて、長門のおかげでのぼせる事はないようであるが、これ以上長湯すると家族が不審がるかもしれんよな。………もう手遅れかもしれんが。  
「なあ、そろそろ元の空間に戻しても良いんじゃないか」  
「分かった」  
 
 
 長門のいつもの高速詠唱と共に、消失していたドアや窓が出現し、  
   ―――そして、あたり一面がどこかで見た事のある灰色空間に変貌した。  
 
 
「えーと、長門さん?」  
「………うかつ」  
 何がだ? まあ、俺の外れた事のないデンジャーメーターもさっきからアラームを鳴らしっぱなしなんだがな。  
「涼宮ハルヒに先程までの行為を一分始終見られていた」  
 ちなみに俺のデンジャーメーターは実際にデンジャーな事にならないと発動しないのさ、うわーい。  
 
「ちなみにここは、閉鎖空間」  
「………どうすりゃいいんだ?」  
 脳内で棒切れを持って虫を追い回すという何処か物悲しげな現実逃避をひとしきり済ませた後で、長門にそう質問する。  
「任せて」  
 頼もしい声が閉鎖空間を掻き消すかのように響き渡る。  
 結局こいつに頼っちまう自分が情けないんだが、他に方法が思いつかないしなあ。  
 せめて俺に出来る事があれば何でもするから、命令でもなんでもしてくれよな。  
「分かった。とりあえず、これを」  
 そう言って、長門は俺に三枚のカードを渡してきた。  
 
 カードにはそれぞれ、  
・涼宮ハルヒ  
・わたし  
・両方  
 と、書かれてある。  
 
「えっと、長門さん?」  
「選んで」  
 これは、あれか? あれなのか?  
 どーする、どーするよ、俺?  
 
 
 閉鎖空間内の空気が、まるで空間の主がすぐそばで『分かってるわよね』とでも言っているかのように俺を圧迫してくる。  
 それに対抗するように長門の視線がロンギヌスの槍のように俺の体を串刺しにしていく。  
 
 いや、分かってるさ。悪いのは間違いなく俺なんだろう。  
 それでもやっぱりこれだけは言わせてくれ。  
 こいつは、要するに、  
 
「結局、怖い女かよっ!」  
 
 往生際の悪い駄目男の断末魔の叫びが、閉鎖空間中に響き渡り、溜め池にできた水泡のようにあえなくはじけて、すぐ消えた。  
 
 
 
 

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