「目を閉じて。すぐにすみます」  
四月某日。  
お世辞にも堅固とは言えない偽SOS団のチームワークが未来人と宇宙人によって披露された後、誘拐犯こと橘京子は俺の手を握りながらそう言った。  
敵対組織のものであろうとこいつが超能力少女だとするのならば、昨年も似たような目にあった気がする。いや、気のせいじゃないな。  
古泉が俺の手をひしと握っていたことを思い出すと今でも良い気分はしない。  
――極めて失礼な発言とも取れるんだろうが、そこら辺は標準的な男子としての性だ。許せ。  
第一、野郎と仲良く手を結んで喜ぶ輩は少数派だろう。少なくとも俺はそう思っている。  
朝比奈さんみたく可愛らしい女子なら誰だって諸手を挙げて喜んで――いや、ちと軽薄だな。  
しかし女の子と手を繋ぐ、なんて単純かつ稚拙ですらある共同作業が心ときめくものである事に間違いは無いだろう。あってたまるか。  
ああ俺にもそんな可憐なイベントがあったらな――。  
 
――と、ここらで現実逃避を終了する。必死にこの状況を喜ばしいものと思い込もうとしたが、無駄骨だった。  
そりゃ今俺の手を握ってる奴は一般的な見解からすれば可愛い子に分類されるさ。問題なのはその目的だ。  
親交を深めるわけではなく、況してや伝説の空中都市を崩壊させる呪文を二人で唱えるわけでもない。新たなトラウマを植えつけられる羽目になるやもしれん。  
 
「キョン。目を」  
 
佐々木から二度目の忠告を受ける。後ろ足を踏みたがる俺に多少なりともじれったさを感じているのだろうか。  
――腹を括るしかない。俺は、ゆっくりと目を瞑った。  
 
 
覚醒☆くるくる橘 -如何にして男子高校生は変態へと至るか-  
 
 
「もう開けていいわ」  
右手以外の感覚神経が瞬時にして死滅してしまったかのような静寂。虚無感。  
ブラームスの雅音と客のダベり声のミスマッチした歌唱が途絶えている。  
 
俺が目を閉じていた時間は二十秒にも満たない筈だったのに。  
その間に、誰も彼もが消失した。俺と、橘京子だけを、この喫茶店に残して。  
どんな手品だ? ――いや、馬鹿げた一人漫才はよそう。  
「閉鎖空間……」  
もしくは、その類の何か。所謂次元系ってやつだな。あいつはデジョンでも使ったのかね?  
ならば俺はお約束に従って「あーれー」とでも言わなければなるまい。  
さあ行くぞ? せーの、あ  
「古泉さんはそう呼んでるみたいね」  
橘京子が席を立ったことでふと我に返る。  
……どうやら、存外に俺は混乱しているらしい。  
「案内するほどでもないのですけれど、ちょっと外に出てみませんか?」  
てくてくと店の出入り口まで進み、佐々木と入った時と同じように自動ドアを開けた。  
仕方が無く俺も外に出た。  
 
 
巨人の不在。色調の相違。それに伴う雰囲気の良さ。  
この三つが橘京子が俺に佐々木が神の力を得るに相応しいと訴えたい根拠の一部らしい。  
二人並んで空間内を散歩しながら聞いた情報をまとめるとそんな感じだった。  
どうにも新興宗教の臭いがぷんぷんとする。  
俺は現実世界での己が身の心配をしつつ、橘京子は言いたい事は全て話した、と喫茶店の方へと身を翻した。  
 
その時だった。  
 
「きゃん!」  
突如目の前から奴の姿が消える。  
か細い悲鳴と共に、橘京子が俺の視界から消滅してしまった。  
瞬間移動でも使ったのか? いや、わざわざ自己のサイキックっぷりを証明する必要は無いだろう。  
常に平穏が保たれている筈の世界で起こった変異。あのフロイト先生にすらこの現象を佐々木の深層意識やら何やらから分析するのは不可能であろう。  
しかし、俺には今あいつが何処にいるのか分かる。特殊能力の一つも持ってないし精神学など齧ってすらいない一般ピーポーだが。  
正確な位置さえも特定できる自信がある。そんじょそこらの一般ピーポーだが。  
 
――すまん。意味も無く色々と回りくどい言い方もしたが、つまりはだな。  
 
こけた。  
そりゃもう見てるこっちが気持ち良くなるくらい古典的にひっつまずいた。  
朝比奈さんじゃあるまいし、何も無い所でこけるなよ。  
 
「い……いたぁい……」  
女の子座りになって痛む箇所を擦る様は、吃驚するほど弱弱しい。  
捻挫でもしたのかなかなか立ち上がらない。  
しょうがないと思い、俺は手をさし伸べてやろうとした、が。  
 
――待て。  
俺はこいつから、二月半ばにあったあの誘拐について面と向かって「ごめんなさい」を言われていない気がする。まあ、真に謝罪されるべきは朝比奈さんなのだが。  
古泉は橘京子は拉致作戦について否定的だったと言っていた。  
しかし――しかし、だ。  
俺は目の前の誘拐犯に対しての憤怒を抑えただけであって消し去ってはいない。  
 
手を突いて起き上がろうとする橘京子を改めて見やる。  
 
こいつ、思った以上に弱そうだな、と。  
少しくらい小突きてえな、と。  
いろいろと朝比奈さん誘拐の件についてあちら方の組織に釘をささせなきゃならんな、と。  
 
俺はそう思った。  
 
そして何も邪魔が入らないと断言できる今こそ実行すべきだ。  
確固不抜の信念を持ってやり遂げて見せよう。  
誘拐犯がやっとの事で立ち上がるのを見届けながら、決心する。  
 
「おい」  
我ながら乱暴な口の聞き方だと思う。  
一方、橘京子はスカートの埃を払いながらきょとんとした目で俺を見ていた。  
「なんですか? あ、ひょっとして佐々木さんの説得に協力することに決めたんじゃ」  
そのままでも文意は通じるが、多分、「ないんですか」と続くところだったのだろう。  
されど俺がその言葉を聞く事は無く、橘京子がその言葉を発する事も無く、更に言えば未来永劫俺が佐々木の神格化に肯定的になる事は無い。  
少女の手を強引に引っ張りながら、俺は小走りで喫茶店に向かう。  
後ろから「へ? あのっ、ねえっ」などと聞こえるが敢えて無視する。  
自動ドアが見えた。何も変わっていない。寂々とした様子。音楽室のような人工的な無音のままだ。  
さっきと違う事を挙げるとするのなら、それは俺が先陣を切っているという事だけだろう。  
 
「な……何を、するつもりなの?」  
橘京子の手首を喫茶店の壁に押さえつけると、爛漫としていた表情が色を寒色系に変えていくのがはっきりと分かった。  
――怯えている。  
何らかの能力を発揮する様子は無い。  
青ざめた顔のまま、俺の動向を伺っているだけだ。抵抗と言えるものも、精々足をじたばたとさせるくらいのもんだ。  
勝てるな、俺でも。他に誰もいないし。  
自らの優位を確信すると共に、ちょっとした悪戯心が湧き上がってきた。  
誘拐犯のレッテルが先行していて気付かなかったが、こいつもなかなか可愛らしい顔立ちをしてるじゃないか。  
ポニーでないのが惜しい所だが、ツインテールもいいもんだ。  
ああ、美味そうな首筋だ――っておい。待てコラ。いい加減に目を覚ませ俺。  
 
おかしい。  
明らかに今の自分は常軌を逸している。  
俺は無力な少女を見て興奮するようなキャラだったか?  
そんなのは長門辺りに撃墜される三下だけで十分だ。  
ヤバいだろ。常識的に考えて。  
ツインテだとか首筋だとかはどうでもいい。俺は謝罪請求をしているんじゃなかったのか。  
そうだ。目的を忘れるとこだった。いけねいけね。  
 
――そういえば女子相手にここまで強勢に出たことは今まで無かったな。  
ハルヒにゃいつも負かされてるし、朝比奈さんには恐れ多い。長門に至っては俺が返り討ちに会うに決まっている。  
あ、ちょっと涙目だ。クソ、可愛く見える。Sの素質でもあるのかね、俺。――いや、こいつは敵なんだぞ。何考えてんだ。でも性欲を持て余す。  
 
そうだな、例えばこの鎖骨とか――。  
「やぁ……あ、んんっ……く、くすぐったい、です」  
おお、ただ舐めただけなのに良い反応だ。というよりも敏感すぎじゃないのか。  
硬い骨に被ったふにふにした皮が何とも言えずグッド。  
いつのまにか橘京子は足をばたつかせて足掻く事すら止めている。  
腕にも力が入っていない。ぐんにゃりと、俺の手の平にもたれかかっていた。  
 
「あ……ひゃあ……や、やめて」  
開いている胸元に舌が伸びると、そんな声が聞こえた。  
"止める"?  
何処と無く違和感を覚える。何故行為の中断を俺は避けているのか。  
――ああ、また本来の目的を忘れていた。  
俺はお前にお仕置をする筈だったんだよ。  
「お、おしおき……?」  
そうだ。二月に朝比奈さんを勾引かそうとした事を忘れちゃいまい。  
その事に対してきちんと落し前をつけたいんだよ、俺としては。  
 
「そんな……だ、だからって、こんな事ぉ……やぁっ」  
男は、原始の頃から女性の胸部、または臀部に大きな関心を抱いていたそうだ。  
俺は生物学的にも精神的にも紛れも無く野郎であり胸に心惹かれるものがあるのは俺の常日頃からの朝比奈さんへの視線から考えても確かだ。  
橘京子のそれは小さめではある。しかし貧相と言うものでもない。  
B……いや、C? 服の上から、それも舐めただけだとよく分からんが、程よい大きさって奴だろう。  
 
「や、やだぁっ」  
柔らかい。単純かつ何も考えてないような感想ですまんね。  
手は壁に押さえつけたまま。足がフリーなのはちと怖い。こいつがその気なら俺の鳩尾にピーターアーツお得意の膝蹴りが打ち込まれるね。ひょっとしたら金的かもしれんが。  
どうして抵抗しないんだろうね?  
洋服の生地と、多分下着。  
それらの緩衝材を挟みながらも、橘京子は喘ぎ声を上げる事に余念が無い。  
一体何がお前をそこまで昂ぶらせると言うのだ。疑問が募る。  
 
心付いた点が出来たので、とりあえず口にしてみた。  
「なあ、何だか一部分だけやけに硬い所があるんだが、一体何なんだろうな?」  
これだけではまだまだ仕置きには程遠いんじゃないかと思い、言葉責めにも手を出す事にしただけだ。  
「そ……そんなのぉ……わ、分かってるんでしょ……」  
だって意外なんだよ。自分でも信じられん。  
服の上からペろぺろと舐めただけで女性がここまで過敏に反応するなんて何処のエロゲだ。  
俺は断じてこの道の熟練者ではないし、第一これが初体験だ。その割には変態入ってるけどな。  
俺がペッティングに関して天賦の才を秘めていたと見るか、橘京子の性感帯を偶然にも探り当ててしまったと見るか。  
ともかく、硬いものが一体何か分かってはいるが、口にしたら負けだ。  
本人の口から、無理矢理にでも言わせる事に意味があるのだ。  
勿論、物理的な責めは止めない。  
舌先だけの小賢しい愛撫だが、相手の反応が面白いので止められない。  
 
「早く答えろよ」  
賢明な方々にはお分かりいただけるだろうが、橘京子の着衣は首根っこの辺りから今俺の頭がある辺りまでゆったりと開けており、且つ暴かれている部分を隠すようにもう一枚内側に服を着ている。  
畢竟するに、俺がこれから何をしたいのかと言うと、  
「え……ちょ、ちょっと! あ……」  
布を一枚でも取っ払って舐めてやりたいわけさ。  
俺は顔だけを上着の中に潜り込ませる。  
じんわりとした熱気が艶かしい。  
「あっ、んっ、だ……だめぇ……」  
おっぱいに被りつく俺の姿は傍から見れば相当に情けないものなんだろうね。でもいいや。  
中着とでも言うのかは分からんが、俺が直面している布地はかなり薄い。  
だから例の突起物も――うわ、むっちゃ硬い。生地も唾液でべとべとだから肌に引っ付いて更に浮き出てるな。  
この感触だと、もう他には下に何も着てないんじゃないのか――。  
 
――ん? 待てよ。……おい、まさか。  
 
「お前……ブラ、してないのか」  
「あ……あうぅ……」  
爆ぜちまうんじゃないかと思わせるほどに橘京子の心臓が動いていた。  
ノーブラ、ノーブラ、ノーブラ!  
頭の中でファンファーレが鳴ったぜ。もうこりゃ完全にエロゲだな。  
「だからぁ……駄目って、言ったのにぃ……」  
その声は弱弱しいを通り越してエロス。  
エロい。エロティックさ。性欲を持て余す――こりゃさっき言ったか。  
もう辛抱たまらんね。据え膳食わぬは何とやら。お決まりの文句を心中で呟いて、ついでにいただきますとも呟いて、  
「い、いたぁいっ!」  
橘京子の桜桃に歯を立てた。勿論性的な意味ので。  
 
「あっ、いやぁっ、ちくび、噛まないでぇ……」  
脳内に設置された俺フィルターを懇願の声が通り抜けられる筈も無く、責めは続行する。  
可愛い。有り得ん事だが可愛い。誘拐犯だと言って嫌っていたのは誰だ。けしからん。  
嗜虐心をそそると言うか何と言うか。ハルヒとも朝比奈さんとも長門とも違ったこの情動は一体何物だろうね。  
充血した肉が持つ独特の硬軟。甘く噛んでやるとコリコリと小気味の良い噛み応えがある。  
鼻腔には甘酸っぱい匂い。頭の中はピンク色。如何に表現すべきか困るこの高揚。  
舌の腹で胸の肉と共に舐め上げる。  
ベロは突起に引っ掛かり、限界まで達するとぷるん、と重力に従って滑り落ちる。  
俺の顔にも橘京子の肌着にも唾液が塗りたくられている。  
脳みそが焼け付くような感覚を覚えつつ、止めを刺してやろうと思い切り吸引してやると、  
「も……だめぇっ!」  
あっけなく陥落した。らしい。  
 
 
"お仕置"の間ずっと握り締めていた手首を離してやると、力が抜け切った少女はぺたんと喫茶店のフロアに尻餅をついた。  
上半身のみ着衣が乱れ、そしてぐちょぐちょだ。主に俺の仕業だが。  
息が荒い。俺も、こいつも。  
橘京子は眼を閉じて、チャームポイントのツインテールのくっついた頭を上下させている。  
俺はというと、だ。  
いきり立っておられる。いや、姿勢ではなく息子が。有体に言えば肉棒が。  
そうだな、今からナニをすべきかなんて分かりきってるよな。  
ここまできたら溜まりに溜まったリビドーを発散――。  
 
待てよ。  
ここから先の領域に足を踏み入れると言うのは十二分に法に抵触する行為に相当しないのかい?  
それはヤバいって。レイプだぞレイプ。  
 
目の前にはぐったりとして頬を赤らめてさえいる世間一般の判断基準で見れば高水準とも言える容姿をした少女。  
そして眼下には屹立した俺の分身。  
 
――どうするよ、俺?  
 
脳内で理性と欲望のサミットが始まって、  
 
いや、もうこれ以上するもしないもたいした差じゃ――いやいや大問題だって――いいじゃねえかよ、まだ「ごめんなさい」の言葉を聞いてないだろうが――そういえばそうだよな!  
 
あっさり終わった。  
そういえばそうだよな!  
俺は誘拐犯の脇に手を差し込み、近くにあるテーブルまで連れて行く。  
誰もいない閉鎖空間で良かったなぁ、と思いつつ橘京子をうつ伏せにさせ、抵抗も無くスカートを捲り上げた。  
 
「……あ、あれぇ? 何、するんですかぁ……」  
意識が軽くだが戻ったらしい。  
強いて言うならば、お仕置きの続きだよ。  
そう言って、俺は下着に手を掛けた。  
「……! あ、い、いけませんっ! それだけはっ……」  
やかましい。  
もうぐちょぐちょに濡れてるくせしやがって。  
「そんな……あたし、感じてなんかっ」  
口答えの回数が多い。  
足を上下に動かし必死に足掻く。  
その両方を止めるべく、俺は濡れそぼった秘所を軽く撫でた。  
「あっ……! あ、やぁん……」  
ここまで思い通りに行くと返って気持ちが悪い。  
 
見て直に触った感じでは、あまり毛は生えていない。  
局部の陰毛も含めて、体毛というのはどうも個人の年齢やら幼さやらを視覚的に実感させるものらしい。  
橘京子の年齢は俺とさほど変わらない筈だが、妙に毛が薄いそこはこいつが俺よりも年下だとデモクリトスが挙げた甘い物の原子形状についての論拠並みに感覚に頼り切ったやり口で俺に印象付けるのであった。  
しかしこいつはちっこい。長門よりは大きいが、それでも小柄な方だろう。  
その小さい臀部に両手を当て、マイサンの先っぽを女性器に押し当てる。  
「覚悟しろよ」  
俺は悪人のような台詞を吐き、晴れて童貞とさようならをした。  
 
夜の友として絶賛活躍中の18歳未満には鑑賞が進められていないビデオではもうちょいとスムーズに進入していたと思う。俺のものが濡れてなかったせいなのかね。無理に挿入したせいだろうな。  
橘京子の体内に息子を侵入させてから、まだぴくりとも動いていない。というよりも、キツくて動けん。  
さあどーすっかねー、と気楽に考えながら手に新たな感触がしたのでそちらを見るとだ。俺はびっくりしたね。  
……赤い、液体。破瓜って奴か。  
処女膜をぶち破ってしまったことに罪悪感を覚える。が、  
「んぁっ……お、おっきいです……」  
意外にも嬉しそうな声を出しやがったので俺は罪の意識を道頓堀に投げ捨てた。  
こいつめ。痛い事をされて喜ぶというのか。Mなのか。俺はSだが。  
 
なら、やってやろうじゃないか。思う存分。手加減無しで!  
 
「……っ! あっ、はぁん……やぁ……い、いいのぉ……」  
くぐもった声が興奮を煽る。  
もう労わるものか。とことん痛めつけて何としてでも謝らせてやる。  
にちゃにちゃと淫靡な水音。  
力の限りを込めて前後運動を繰り返す。ピストンだっけ?  
保健の授業の時に教科書に載っていたワギナを思い浮かべてみるも、快感のせいか上手く図を脳内で再現できなかった。  
そういや初プレイというのに俺はやけに冷静だな。しかもバックで、避妊具も無い。  
相手はついさっきまで処女だったと言うのにすっかり語尾にハートマークを付けている順応性の高すぎる誘拐少女。  
体格差もあるだろうが締め付けが非常にヤバい。お、折れる。  
根元から雁首まできゅうきゅうと圧搾される。果ててしまいそうになるが、必死になって堪える。  
狭い。そして熱い。  
さっきからコンコンと亀頭が子宮口と衝突している。  
硬いそこにぶつかる度に、  
「あぅ、ひぁあっ」  
などと嬌声が飛ぶ。……ひょっとして、喜んでたりすんのかね?  
 
ちょいと腹が立った。  
俺は少なくとも橘京子に折檻をしているのだ。  
だというのにこいつからは悔悟の念など微塵も感じられない。しかも善がってさえいる。  
 
「ぁあっ! あっ、はぁっ」  
俺は揉み応えのある尻を掴んで、円運動を加えた。  
橘京子がぐい、と身体を反り上がらせる。  
何のサインなのかを計る必要も無さそうだ。違いない。  
 
「キョンさん! キョンさん! もっと、もっとぉ……」  
こいつ、悦楽に酔いしれてやがる。  
 
お前もその名で俺を呼ぶのか。  
しかも全く逆効果ってか。  
そして更に強く締め付けるな。要求するなよ。  
 
「あ……なかでぇ……あ、あばれて……ああっ!」  
膣が収縮する。  
俺の一物は勿論その動きに巻き込まれ、遂に音を上げた。  
 
「う、うああっ!」  
息子の芯から流動体が迸る。  
際限が無い。次から次へと、まるで橘京子の締め付け、もとい求めに応じているかのように。  
熱い。さっきもそう思ったのだが、その時とは比べ物にならんくらい熱い。  
人の熱量ってのは凄いよな。人だけじゃなく、動物全般について言えるが。  
例えば凍傷にかかったエスキモーがアザラシの体内に腕突っ込んだり。別に俺はそんな過酷な環境にいるわけじゃないがね。  
人の温かさってのは何物にも代え難い物なんだな。今更ながら思い知ったよ。  
いやはや本当に熱い。とろけるんじゃないんだろうか。バターみたいに、とろ、とろに――。  
 
わけの分からないことを考えながら、俺は力尽きて少女に覆いかぶさった。  
 
 
さて。  
俺はこの短時間に様々な事に気付かされたね。  
自分がドが付くほどのSな事とか。  
誘拐少女はドが付くほどのMな事とか。  
 
つい数十分前にはコーヒーが運ばれるのを待っていた場所で強姦なんてな。  
人生、何があるか分からないよな――。  
 
――すいませんでした反省してます。  
 
 
「で、見たのかい? 僕の内面世界とやらを」  
「……ああ。一応」  
あの後、気絶した橘の服の乱れを整えてから揺り起こし、俺は無事に現実世界へと生還した。  
どうやら佐々木製の閉鎖空間に移動しても俺の身体が喫茶店から消失する、なんて事は起きず、ただじっとエスパー少女と手を握り合っていただけだったという。  
「感想はあるかい?」  
いや、それはどうにも言い難いんですが。  
「?」  
佐々木は何も言わない俺を訝しげに見ている。  
何か言わなきゃならんらしい。というかお前は自分の中に誰かが入ってきたって実感があるのかね。  
出来れば、そのやけにきらきらとした純真な眼で俺を見ないでくれ。  
ひどく自分が矮小な存在に感じるんだ。  
「強いて言うなら、何もねえな」  
秘技・お茶濁し。  
だって言うわけにはいかんだろう。気付かれてたら怖いが。  
……待てよ。気付くも何もはっきりと一部始終を見てたんじゃないだろうな。  
内心気が気でない俺を見ながら、  
「くっくっ」  
佐々木はいつものように喉を鳴らした。  
――大丈夫、なのか?  
問い尋ねる事も出来ず、俺は水を口にした。  
 
「ねえ――」  
ずっと黙っていた橘京子が口を開いた。  
佐々木に神になるよう再度頼むのかと思えば、  
「キョンさん」  
何故か俺を呼んだ。  
おい待て。何故俺をそんな熱を帯びた眼で見る。なんだか潤んでるぞ。顔も赤い。  
 
「また来週、ここで会えますか?」  
 
 
一週間後。  
SOS団に新メンバーが参入する事も天蓋領域の攻撃が始まる事も無く世界は平和そのものだった。  
ウインドウ越しに先週と全く同じ位置にちょこんと座っている橘京子を見つける。  
 
俺は改めて、自分の頭の螺子が二、三本抜けてたんだなと思い知った。  
なんて俺は軽率な事をしたのだろう。橘は敵対機関の幹部だった事をすっかり忘れていた。  
……逆襲か。それとも、慰謝料請求か。  
リンチでもおっぱじめるつもりじゃないだろうな。  
恐々としながら俺は席に着いた。  
 
「待ったか?」  
自然にそんな言葉が出た。  
馬鹿か。デートじゃないんだぞ。  
 
「いいえ、気にしないでください。そんなに待ってませんから」  
朗らかな笑み。  
そこに俺は恐怖を感じた。  
無関係な立場から見れば随分と微笑ましい光景なのだろうと思うのだが。  
 
「えーとですね、今日は――あの、その」  
もじもじと膝上で手を摺る橘京子。  
俺ではなくテーブルを見ているその様にはどこか恥じらいのようなものが見られる。  
それ以降言葉らしい言葉は出さず、「あ」だの「え」だの聞き取れない音を発するのみだった。  
 
「んん……! もうっ!」  
上手く話せない自分に少々苛立ったらしい。  
一、二回深呼吸をすると、俺に矢のような視線を射るようになった。  
やべえ、怖い。  
コンクリ詰めになるのだろうか。それとも毒殺か。バラバラは止めて欲しい……というかデッドエンドはどいつも御免被りたい。  
 
「は、はっきりと言いますねっ、あ、あのっ!」  
俺は息を呑んだ。  
この少女の言動に己の運命が映し出されるのだと考えると足がすくんだ。  
上下の唇が離れる――ああ、もう駄目だ。おしまいだ。  
 
 
 
「お……おしおきしてくださいっ!」  
 
――ああ、父さん、母さん。  
どうやら調教フラグが立ったようです。  
 
 
おしまい。  
 
 

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