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そして少年は大海原をたゆたう
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ある晴れた日曜日の昼下がりの話だ。
二度ある事は三度ある、という言葉の通り、舞台はいつもの公園である。
ふと気付くと、あたり一面に大海原が広がっていた。
「何なんだ、これは?」
「現実逃避か? まあ、あんたの知能レベルで出来る事といえば所詮そんなもんだろう。僕には関係ない事だし、別にどうでもいいがな」
よし、とりあえず落ち着け、マイソウル。
いつの間にか隣に座っている藤原(自称)へとロックオンされている、俺の意思に反して飛び出しそうな握りこぶしを、気合という名の未来人もびっくりな方法で押さえつけながら現状を整理してみる。
散歩中に、いつもの公園に足を踏み入れた瞬間、少しふらっと来たかと思うと、大海原に浮かぶ小さなベンチの上で、生理的に受け付けない未来人野郎と二人きりになりましたとさ。
………どうやら世界ってやつは俺の敵らしいな、うん。
「何で俺達はこんな大海原に浮かんでるんだ?」
「あんたの事なんて知るわけがないだろう。それと、僕はただのメッセンジャーさ。馬鹿馬鹿しい、本当に笑える無駄骨だ」
肩をすくめるその仕草は、意識してやっているとしか思えないほど、絶妙に俺の癇を串刺しにしていきやがる。
当然の事ではあるが、こっちは全く笑えない。
つーか、そっちがそんな態度なら俺がわざわざ友好的になる事は無いな。
「さっさとそのメッセージとやらを言え。そんでもって即消えろ、願わくば俺のいる世界からな」
「僕よりももっと消えたほうがいい存在が、あんたの近くには大勢いるんじゃないか?」
「喧嘩売ってんのか、てめえ」
今なら大特価買取中だぞ。………ただし未来的パワーの使用は厳禁な。
「やれやれ、それだけの価値が自分にあるとでも思っているのか? 随分とおめでたいな、あんたは」
………嫌味な態度もここまで徹底していると、いっそ清々しく感じられるから不思議なものである。
藤原は『低脳な方々にはもうこれ以上付き合いきれないざます』と言わんばかりのため息をつきながら、メッセンジャーとしての役割を果たした。
「こちら側の機械人形からだ。
『―――待ってて』、だとさ」
………ん?
「なあ、まさかとは思うが、それだけか?」
「そうだ。全く、何の意味も無い時間だった」
つーか、なあ、
「わざわざ直接伝えなくても、紙に書くなりなんなりすりゃあよかったんじゃねーのか?」
そういった瞬間、嫌味なニヤケ面が瞬間凍結された。どうやら俺に指摘されてようやくその事に気付いたらしい。
「はっ、あんたににひょん語が読めるとはおみょえにゃかっちゃきゃりゃ………」
カミカミである。
「べ、別にあんたや機械人形のためじゃない! これがたまたま僕達にとっての規定事項だったからだ!」
ツンデレである。
そんなふうにして、一気に憎まれキャラから萌えキャラへとクラスチェンジした藤原を万歳三唱で祝おうとしたその時、
「―――待った?」
無口系電波キャラである九曜が、空気を読む事も無く、気配を出す事も無く、伏線を張る事も無く、いきなりその場に登場した。
………何故かは知らんが、スクール水着で。
藤原は緊迫していたし、俺は油断していたのだろう。
突然の出来事に二人とも脳内ブレーキをかける事が出来ず、九曜独特のラインを見ての素直な感想という大事故が大海原に響き渡った。
「「女は、ボインだろー!」」
まるでそれが全時間軸での真理であるかのように、綺麗にハモッた現代人俺と未来人藤原の会心の一撃に、世界が断末魔の叫びを上げるかのようにゆがんだ、次の瞬間、
………大魔王九曜が放った痛恨の一撃により、大海原が真っ赤に染まった。
大海原の真ん中にどっしりと根を生やした大木。
その枝にくくりつけられ、逆さづり状態の馬鹿一号こと俺と、根っこにくくりつけられ、プカプカ浮いている馬鹿二号こと藤原。
「なあ、お前も巨乳好きなのか?」
「………ふんっ、禁則だ」
「そんな状態で格好つけてもなぁ………」
「………僕にとっては、これが規定事項だ」
何故だか笑いがこみ上げてきた。
嫌な出来事も嫌な野郎も、結局は『見方次第』という事なのだろう。
その証明になるかどうかは分からないが、
―――こうして逆しまに見る世界は、随分と楽しいものなのだから。
ま、今回はこんな感じで。グダグダなまま、いつものやつを。
「何なんだ、これは?」
俺の疑問に、
「現実逃避か?」
少年はそう返した。
―――波のまにまに、たゆたいながら。