938 名前:そして少女は友人に束の間の休息を与えた 投稿日:2007/04/17(火) 00:09:27 ID:VAw8hq/J 
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そして少女は友人に束の間の休息を与えた  
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 二週連続で俺的観測史上最高のポカポカ日和を更新した、そんなある晴れた日曜日の昼下がりの事になる。  
 俺は先週と同じ公園の中で、沈黙の黒い生物が超能力者亜種の少女を捕獲している場面に出くわした。  
 
 九曜の膝を枕に、髪を毛布にするようにして眠っている橘京子。  
 その眠りは安らかなものとはほど遠く、『それは食べ物じゃあないのー』などと不憫な寝言つきでうなされている。  
 どうやら夢の中まで不幸という名の空回り走り車を、止まり方が脳細胞からすっぽ抜けたハムスターのごとくカラカラと回しているようだ。  
 とりあえず彼女は放っておく事にして、ピクリとも動かないが、おそらくはちゃんと起きているであろう九曜の方に質問する。  
 
「何してんだ、お前」  
「―――膝枕―――あるいは………お手軽―――三分間クッキング?」  
「前者にしとけ、カニバリズムは日本では認められていないぞ」  
 九曜のいつも通りのズレっぷり何故か安堵を覚えながら、いつものように彼女の頭をポスポスと叩くように撫でる。  
 膝の上で『お慈悲をー』などとうめいている橘京子のためなのかどうかは知らないが、今回はちゃんと人肌並みには温まっているようだ。  
 そう、見た目はどうであれ、触れているちゃんと温まるのだ、この人型毛布セット(宇宙産)は。  
 
「だからそれは足に履くものなのです!」  
 そんな埒もない事を考えながら九曜の髪を撫でていると、謎の叫びと共に橘京子が九曜の膝の上から飛び起きた。  
 そして俺は、インドの人が笛を吹いたら籠からモグラが顔を出したのを見た時のマングースように、思考が完全に一時停止してしまっている表情の彼女と顔を突き合せるはめになる。  
 
「おはよう」  
 とりあえず、日本の中ならどこでも通じるであろう、起きた人への共通語を送信した。  
 苦労人二号(一号は分かるだろ。自覚はあるんだ)はようやく俺を認識したらしく、ただまだ自分の置かれた状況は認識できていないようで、周囲を見渡しながら俺にこう尋ねてきた。  
「あ、おはよう、あれ、なんであたしこんな所に?」  
「俺が知るかよ。隣の黒い子に聞いてみたらどうだ」  
 まだ寝ぼけているのか、黒い子こと九曜に素直に質問をぶつける、苦労の子こと橘京子。  
 
「えっと、何であたしはここにいるのでしょう?」  
「―――とても………深い………質問ね」  
 とても綺麗にすれ違っているな、うん。  
 
 
 どうやら橘京子は『機関』の敵対組織が開く集会に参加するため、この公園を通り抜けようとしたところで意識を失ったようだ。  
「疲れていたみたいね。ご迷惑をおかけしたみたいで申し訳ないです」  
 そう言って立ち去りかける超能力少女を、カメレオンの舌のように目にも止まらない速さで再度捕獲する宇宙少女。  
「あなたは―――まだ………疲労している」  
 そう言って捕獲対象を掴んでいない方の手で自分の膝をポンポンと叩く。  
 もう少し寝ていけ、という事らしい。  
「えっと、そういわれても」  
 橘京子の言葉が濁る。この後も用事があるというのを暗に示したいのだろう。  
 
 しかし残念ながら、お節介という行動を覚えたての地球外生命体は、言葉の裏を読むという高等技術まではまだ習得できていないようだ。  
「脳血流を―――遮断……すれば―――眠れる?」  
「何なのですか、その暴力的な子守唄は!」  
 どうやら寝る事は既に確定事項になってしまい、問題は眠る方法へとシフトしたらしい。  
 てか脳血流遮断って、その方法はちゃんと起きられるんだろうな?  
「―――五分五分」  
「「安全性、低っ!」」  
 思わずハモリで突っ込みを入れる俺達だった。  
 
「あたしには諦めるという選択肢しか残されていないの?」  
 確認に近い疑問文を発しながら九曜の膝を枕に横たわる橘京子。どこからかドナドナが聞こえてくるような、切ない瞳をしている。  
「ドナドナ―――ドーナ………ドーナー」  
 ………と思ったら、九曜が実際に歌っていた。  
「何なのですかー?」  
「―――平和的な………子守唄」  
 壊れかけのラジオから聞こえてくるかのような、全世界の子牛さんに思わず土下座したくなるような、悲しみよりもむしろ脱力感が先に来る電波系ドナドナがあたり一面に響き渡る。  
 
 それでも気付けば、橘京子は安らかな寝息を立てて眠っていた。  
 単にこいつがめちゃくちゃ疲れていただけだ、という可能性も否定できない。  
 でも、まあ、九曜の歌にそれなりの何かがこもっていたからっていう理由の方がしっくりくるだろう?  
 それが何かってのは、蛇足だろうから言わないけどな。  
 
 
 九曜はポスポスと、橘京子の頭を叩くように撫でている。  
 ま、お約束ではあるし、一応これだけは聞いておこう。  
 
 
「何やってんだ、お前?」  
 俺の疑問に、  
 
「―――膝枕」  
 彼女はそう答えた。  
 
  ―――何だかすごく、楽しそうに。  
 
 
 

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