世間一般の学校には春休みというものがあり、例外になくウチの学校にもある。  
ただSOS団という例外的な組織には、やはり例外的に春休み中も休みは許されず活動と称して遊びまわっているわけである。  
 
そんなある日、SOS団名誉顧問である鶴屋さん宅で「いかにして新入生にSOS団の存在をしらせるか」という議題でミーティングをするとハルヒから連絡が来た。  
 
俺達は律義にもその30分後には鶴屋の屋敷の前に集まっていた。  
 
「やぁやぁ、皆よく来てくれたねっ!今日は遠慮せずにガツガツ食べていってくれるかいっ」  
 
そう案内されたダイニングにはアホみたいな豪華な食事がところせましと並んでいた。  
実は鶴屋さんの両親がパーティーに参加するとかで娘のために用意した食事が、とても一人では食べ切れないとハルヒに相談した結果こうなったらしい。  
 
 
そんなこんなで俺達が夕食を食べ終えた頃、鶴屋さんがコップを載せたお盆を持ってやってきた。  
 
 
「ほいっ、あたしの特製ドリンクだよっ。飲んでみるかい?」  
 
俺以外のみんなはグビグビと飲んでいたが、鶴屋さんのワクワクという擬音が聞こえてきそうな瞳を見ていると嫌な予感がして俺は口をつけなかった。  
まぁ予想通りというか前回と同じようにジュースにお酒を混ぜていたらしく、長門以外が酔っ払うのに時間はかからなかった。  
 
 
3時間後、俺はテーブルに突っ伏している酔っ払い達を部屋まで運んだ後、風呂に入ってくると長門につげて部屋をでた。  
 
 
『男湯』と書かれたプレートを見ながら、どこかに女湯もあるのかと思いつつ俺は人生であと何回も入れない大浴場を満喫していた。  
窓から見える月に見とれて湯に浸かっているとガラガラと扉が開き誰かが入って来た。誰かといってもどうせ古泉なわけで、奴のために首をむけるエネルギーすら惜しく俺は月を見続けていた。  
 
「最近はハルヒも機嫌は良さそうだからお前があのヘンテコ空間に行く機会も大分減ったんじゃないか?」  
 
古泉から返事はない。まさかここで寝てるのか酔っ払いめ  
「おい……」  
と振り返ると  
「キョンくん、さっきから何を独り言いってるんだい。あはははっ」  
 
とタオルを体に巻いた鶴屋さんがケラケラと腹を抱えて笑っていた。  
やばい今のは言ってはマズかったのではと、俺はうまい言い訳を頭の中から捻りだそうと湯から立ち上がり  
 
「いや今のは、ちょっと長湯しすぎて頭が…」  
 
と弁明しかけて、鶴屋さんの笑い声が止んでいることに気付く。ん?鶴屋さんは固まった顔で俺を凝視していた。正確には俺の下半身を  
「あ、あはっ……」  
 
鶴屋さんは一歩二歩と後ずさりし、そして振り返って目にも留まらぬダッシュで、途中で桶につまずき床に滑りながらも出口へと駆けて行った。  
 
 
俺は帰り際にもう一度『男湯』を確認してから部屋に戻った。  
 
 
次の日、二日酔いではない頭痛に頭を抱えながら歯磨をしているとバンッバンッ!と相撲のテッポウのような衝撃を受け口に含んでいた水を吐き出した。  
 
「おはようっ」  
 
と朝からエネルギー全開のような笑顔の鶴屋さんがいた。妹が着ているパジャマと同じキャラクター刺繍の柄だ。着る人が違うだけでこうも違うか  
 
 
「昨日のことだけどさっ、あれは二人の秘密にしといてくれないかい?」  
 
とバツの悪そうな顔で俺を見上げた。そんな顔をされたら誰にも喋れませんよ  
 
「そっか、ハルにゃん達にはものごっつい秘密ということでっ」  
 
といつもの鶴屋さんらしい笑顔で、いや強いていうなら少し頬を赤くしているようにも見えたがそんなことを考えてるうちに鶴屋さんは昨日のように走って去って行った。  
鶴屋さんの今の表情が見れるなら長門や朝比奈さんのは無理だが、古泉の秘密ならいくらでもバラしてやろうか、うーん  
 
「あんたって……やっぱり年上の女にはデレデレするのね」  
 
と背後で震えた声がした。振り返るとハルヒが口元をヒクヒクさせながら仁王立ちしていた。震えていたのは拳だった。怒りで。  
古泉スマン、どうやらお前には今年も頑張ってもらわなきゃならなそうだ  
 
(終)  
 
 

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