夜風に頬を撫でられ、俺は大きく欠伸をした。  
 自転車を押しながら再び欠伸をひとつ。  
「どうしたんだいキョン。随分と眠たそうにしているが」  
 隣を歩いていた佐々木が、面白がるように微笑を浮かべてそう訊ねてくる。  
「今日は授業中も欠伸の連続だったね。夜更かしでもしているのかい?」  
 
 そんなところまでわざわざ見てるのか。ご苦労なことだね。  
 俺はつい先日買ったばかりのゲームに熱中していて、ちょっと攻略に詰まっていた。  
「ああ、ゲームなんだがな。なかなか面白くてつい」  
「へぇ、そうかい」  
「お前もやってみるか? 面白いぞ」  
「いや、遠慮しておこう。君が遊興に耽っているものに興味が沸かないでもないが、生憎僕はゲームのようなものは時間の無駄だと思っているのでね」  
「時間の無駄ねぇ……」  
 確かに無駄といえば無駄だろうが、そうあっさり言わなくてもいいじゃないか。  
 高橋名人の言いつけなんか無視して一日何時間でもやってる俺なんか、今まで一体どれだけの時間を無駄にしてきたんだろうね。  
 いやいや、計算するのが怖い。  
 
 いっそ適当に計算してみようかと思ったが、単純な計算でさえも今なら間違えてしまいそうな気分だ。  
「本当に眠そうだね。夜はちゃんと寝たほうがいい。健康のためにもそうあるべきだ」  
 
 俺と佐々木は近道のために、公園へと進んだ。塾へ行く時は通らないのだが。  
「ほいっと」  
 公園の入り口にある数段の階段を、自転車の前輪を浮かせて通過させる。  
 夏の夜空が俺たちの頭上を覆う。ふと見上げれば、星が綺麗に散りばめられていて、なんとなく自分がちっちゃくなったような気がしてしまうね。  
 俺たちの他には誰もいないのか、随分と静かで、どっかで鳴いてる犬の声くらいしか聞こえてこない。  
 
「ところでキョン」  
「んあ?」  
 何度目かわからない欠伸が混じった声が出てしまう。佐々木はちょうど頭の上にある夜空を嵌め込んだような瞳で、じっと俺を見つめていた。  
「君は週に何回くらいマスターベーションをするんだい?」  
「……5回くらいだな」  
 って、何マジメに答えてるんだ俺は。  
 
「お前、いきなり何を訊いてくるんだ」  
「そうか、週に5回か。そういうものなのか。いやなに、参考になった」  
「参考になったって、お前……」  
「キョンも既に精通しているだろうし、となれば日々自慰行為に勤しんでいるんだろうと思ってね。しかしそうなると、僕がたまに触れる君の右手は、自身の性器を扱いていた後のものだったのかもしれないな」  
「ちゃんと洗ってるぞ、手は」  
 大体、そんなこと気にしてたら男はみんな握手なんかできねぇよ。  
 なんでいきなり猥談なんか始めやがる。つっても、こいつが言うとあまりいやらしさは感じられない。  
 例えるなら保健体育の教科書に載ってる女の裸と、エロ本の差か。って、俺は何マジメに考えてるんだろうね。  
 
「ちなみに僕もそのくらいの頻度だ」  
「何がだ?」   
「マスターベーションだよ」  
「……そ、そうか」  
「君が答えたのに、僕が答えないのはアンフェアだろうと思ってね。君にとっては知りたい情報でもないだろうが」  
 ああ、特別知りたいと思う情報ではないな。  
「まぁ友人同士、こういう話題も別に構わないだろう。むしろ、自らの内面に近い性の話題は、互いの距離を縮める良いアイテムだと思うけれどね」  
「そうかよ」  
 佐々木は目を細め、狐じみた笑い声を漏らした。  
 
「ところで、君は誰を想って自慰に耽るんだい?」  
「はぁ?」  
「俗に言うならズリネ」  
「言わんでいい」  
 佐々木の言葉を遮る。一体どうしたというんだ佐々木は。俺と同じように、眠気に頭をやられてるんじゃないだろうか。  
 猥談自体は別に構いやしないがな。  
 
「岡本さんかい? 彼女はかわいいし、気立てもいい」  
「岡本? なんであいつなんだよ。お前が何を考えてるのか知らんが、普通は知り合いをそんな風に、あれだ。考えたりしないだろ。普通にエロ本だよエロ本」  
「……そうなのか?」  
「そうだろ普通は」  
 後はAVくらいか。  
「そうか、なるほどね。男性は視覚からの情報によって性欲を誘引されるというが、なるほど。そういうものなのか……」  
 妙に関心したように、佐々木は顎に手を添えてやや視線を落とした。  
 
「ちなみに僕はねキョン、君を想って自慰に耽るよ」  
 唇の端を引いて、佐々木は目を細めた。  
「俺の裸なんか思い浮かべて楽しいか佐々木よ」  
「楽しくなんかないね。ふふ、どうやら男女では随分と性欲を起因させるファクターに差があるらしい。君は視覚から得る情報を多大に評価しているようだが、僕はそうでもない。いや、女性一般がそうなのかな」  
 ふいと手を振って、佐々木はそう言った。  
 静かな夜に、俺たちの硬い足音だけが地面から聞こえてくる。街灯の薄いオレンジが道を照らしていて、そいつらが時々くしゃみをするように途切れたりを繰り返していた。  
 
「最初はただ、疲労感から妙な、いや、むずむずするような気持ちになってね。それが何かはよくわからなかったが、自分の体に触れていると気持ちが良かった。ああ、その時は特定の箇所を触るといったようなものではないよ。  
 そんなことが何度かあって、たまたま君のことを考えていたらより気分がよくなった。その時、ようやく自分の体が性欲に蝕まれていることに気づいたのさ。  
 驚いたさ。あまり意識していなかった性欲というものを、僕ははっきり感じることが出来たんだからね。三大欲求のひとつに数えられる性欲だ。僕の手は自然と胸や股間に伸びた。  
 柔らかく触れてみたり、さすってみたり、それだけで快感を覚えることができたよ。そんな感じだったね」  
 
 突如として自分のオナニーを語り始める佐々木。大丈夫かお前は。そう言いたくもあったが、こいつが変わり者なのはよく知ってることだし、興味が無いわけでもない。  
 
「それから、まぁさっきも言ったように、週の何回かの頻度で僕は自慰行為をしているわけさ。ちなみに、僕の妄想の中での君は、僕が知る君よりも乱暴物だね」  
「人を勝手に乱暴物にしないでくれ」  
「ふふ、いいじゃないか。ただの妄想だよ。妄想に罪は無い。そうだね、先日はこの公園で君に犯されることを想像したよ。ほら、見てくれ、あそこに少し大きな木が生えてるだろう」  
 佐々木が指差した先には、確かに木があった。暗くてそいつの周りはよく見えなかったが。  
   
「君は突然僕の手を掴んで、あの木の辺りまで連れて行くのさ。どうしたんだいキョン、不意な行動に狼狽した僕に構わずあの辺りまで僕を連れてくると、君は突然ズボンを脱ぐ。  
 そして屹立した男性器を僕の目の前に晒すのさ。さすがに勃起した実物を見たことがないので、このあたりは僕の想像力の限界を感じざるを得ないが、まあそれはいい。  
 とにかく、君は僕を暗がりへ連れ込み、男性器を晒し、僕の髪を掴む。あろうことか、キョンは僕の顔を君のペニスへ近づけるのさ。  
 僕は怯えながら、どうしたんだキョン、と弱弱しく声を出す。荒い息だけしか帰ってこない。友人の豹変に戸惑いながらも、僕は君のペニスから目が離せない。  
 君は何を思ったのか、舐めろ、と命令する。僕の髪を掴むキョンの手に、さらに力が込められる」  
 
 時折、妙に感情の混じったセリフを発しながら、わざわざ妄想の内容を披露する佐々木。  
 
「力では敵わない。ああ、僕はキョンの言うとおりにするしかなかった」  
 いやいや、蹴飛ばしてでも逃げろよ。俺くらいならなんとかなるぞ。  
「……これは僕の妄想さ。残念ながらリアリティには欠けているだろうけれどね。そして僕は君のペニスに舌を伸ばすのさ。  
 舌先で、怯えた子猫がミルクの入った皿に舌を伸ばすように、おっかない仕草でね。舌がキョンの性器に触れると、君の性器が一度びくりと震えた」  
 そんなに動きやしねぇよ。  
「何度もぺろぺろと舐めたさ。こんなことをするのは初めてだ。ああ、ちなみに僕は処女だよ。オーラルセックスの経験もない」  
 オーラルセックスってなんだ? なんでそんな言葉を知ってるかねこいつは。元々語彙の豊富な奴だったが。  
 
「キョンはぎこちない僕の動きに業を煮やし、掴んだ髪を一気に引き寄せて、僕の口腔へ自らのペニスを突き立てる。  
 突然のことに驚き咽る僕のことなどおかまいなしに、君は僕の頭を掴んで性器を出し入れする。少しだけ慣れてしまったのかもしれないが、僕もその動きに応えるように舌を這わせて、唇を窄める。  
 ああ、なんてことだろう。僕は君の行為を心で受け入れてしまっていた。太く硬くなったキョンのペニスを舐めることに、大した抵抗もなくなっていたのさ」  
 
 いや常識で考えれば気持ちの悪いことだと思うがね。そう簡単に受け入れるなよ佐々木。お前、犯されてるじゃないか。  
 
「僕の口からペニスを引き出したキョンは、僕を見下ろしてにやりと笑う。僕の唾液で濡れた性器が、夜のわずかな光に煌いていて、それがとてもグロテスクに見えた。  
 キョンは僕を立ち上がらせると、あの木に僕を押し付ける。そして、僕のスカートを後ろからめくりあげた。  
 やめてくれ、そう言った僕の言葉なんか聞いていない。君は僕の下着に手をかけると、それを引き摺り下ろした。ああ、僕の下半身が外気に晒され、そして君の視線に貫かれる。  
 君が何をしようとしてるのかは解っていた。けれど、僕は抵抗も出来ず、いや、する気がなかったのかもしれない。  
 キョンになら、僕は犯されてもいいと思えた」  
 
 思うなよ。そんなすぐに諦めてたら、大変なことになるぞ。  
 佐々木は立ち止まって話しを続けた。俺もそれにつられて立ち止まる。瞳を輝かせて、ふっと夜空に視線を移す佐々木。  
   
「僕の腰に両手を添えた君は、後ろから、僕の体を貫いた。処女喪失の瞬間だよ。身を裂くような痛みに悲鳴をあげる僕の体を、君は一心不乱に腰を振って、ペニスを突き立てる。  
 痛いっ、やめてくれ。そう言いながら、僕は木によりかかり、背後から僕を犯すキョンの熱い息を感じる。腰と腰がぶつかる音が次第に間隔を狭めた。  
 僕の体に、キョンのペニスが入ってきている。そう思うと、体が熱くなった。肉体的な痛みと、精神的な痛みの二つに襲われる。  
 信じていた友人が突然僕をレイプしたんだからね」  
 
 そんなことしないから安心してくれ。俺は女に優しい男と評判なんだぞ。主に妹から。それと妹の友人。  
 
「キョンの息の荒さが際立ってきた頃だ。君は、もう出る、と呟く。その意味を理解するのに、ゼロコンマ7秒はかかった。  
 それだけはやめてくれ、キョン、やめてくれ。叫ぶかのように僕はそう言葉を放った。けれど君には届かない。僕の膣内で君の性器がびくびくと暴れまわった。  
 そして暖かさを感じた。君がふぅ、と成し遂げたように息を漏らし、僕はああ、と嘆きの声をあげる。ようやく僕の膣からペニスを引き抜く。  
 ぬめった音がした。僕はくず折れてその場に手をついた。そして、僕を犯した男を見るために振り返ろうとして、中途半端に膝あたりでひっかかった下着に足を取られる。  
 キョンは、まるで教室で一緒にいる時と同じように微笑んでいた」  
 
 そんなに笑ってる印象は無いんだがね。  
 
「ああ、そして君は自分のペニスを手で掴むと、再び僕の眼前に突き出した。キョンは何も言わない。でもその行為が意味することはわかっていたのさ。  
 これを舐めろ、ってね。僕の破瓜の血でペニスは赤くなっていた。それに舌をつけろと言うのだ。  
 ……僕は何も言うことが出来ず、従った。屈辱だよ。僕を犯した男の性器に、舌を絡ませて、付着した血液を舐め取るんだからね。  
 涙が出そうだ。でも、僕は自分の行為を止めることができなかった。いや、それどころか娼婦のように君のペニスに指を絡ませ、舌の腹で全てを舐めた」  
 
 感極まった指揮者のように、佐々木は腕を広げた。呆けたように空を見上げ、きらきらと輝く瞳がわずかに濡れているように見えた。  
 おーい、佐々木。大丈夫か?  
 そして佐々木は広げた腕を狭め、胸の前で組んだ。喘息に襲われたかのように苦しげな表情を作る。  
 
「僕は君に屈した。君の奴隷になったのさ」  
 暗黒時代じゃあるまいし、奴隷もなにもあるものか。全人類平等だと学校で教わっただろう。それに、犯されたのなら警察に行ったほうがいいんじゃないのか。  
「それからというものの、僕は学校のトイレや、塾のトイレで、君のペニスを舐めさせられた。もう君のペニスを口に含むことに抵抗なんかなかった。  
 むしろ、喜びさえ感じていたのかもしれない。そのまま君を射精に導き、放たれた精液を僕は飲み込んだ。そんなことが何度も繰り返された。  
 僕の両親が出張で家を空けた日には、君は僕の家へやってきて僕を犯し続けた。もうこの頃には僕は自分から腰を振ることを覚えていた。  
 学校や塾で会う時は普通の友人さ、けれど二人きりになったらキョンは僕の体を貪る。若い君のことだ、加減もせずにせっせと僕の膣にペニスを挿入するだろう。  
 君は自身の性欲を、果てなく満たすことが出来る道具を手に入れたのさ。いつでも自分のペニスを舐めてくれる女の子をね」  
 
 佐々木はくっくっく、と含み笑いを漏らし、肩に提げた鞄を背負いなおした。  
 
「あのな、佐々木」  
 俺は自転車のサイドスタンドを立ててから、佐々木の肩に手を置いた。  
「おや、どうしたんだい?」  
 にやにやと笑う友人をわずかに見下ろす。  
「いいか、男に襲われそうになったら、まずは逃げろ。それからまず、絶対人気のないようなところに行くんじゃない。その、あれだ、犯されなんかみろ、もしかしたら妊娠したりするかもしれないし、そうなったらお前の人生とか体にとって大きな傷になる。  
 そんなことになったら、お前もお前の両親も、俺も、心が痛むし、犯人を憎む。正直、お前がそんな目に遭ってみろ、俺は怒り狂って犯人を殴りに行くぞ。  
 襲われたら、抵抗しろよ。相手が一人だったらな、金的を打てば勝てるから。そもそも、まずは襲われないようにするのが先だな。  
 一人で夜出歩くのは危険だぞ。今はまぁ、俺がいるけど、正直俺じゃ暴漢に勝てるかどうか自信はない。けどまぁ、時間稼ぎくらいにはなれるさ。俺がボロボロにやられてる間に逃げてくれ」  
 
 きょとんとしている佐々木。ちょっと頼りなかったかね。俺はひとつ咳払いをして、  
「とにかく、そんな簡単に諦めるな。絶対に抵抗したり、助けを呼んだりしろよ。な?」  
「あ、ああ……。そうだな、そうするよ」  
「見た目も良いんだし、そこらへん自覚しとけよホント」  
 夜風が吹いた。佐々木から、いつもとは違った香りがした。香水でもつけてるんだろうか。  
 
「ちょっと寒くなってきたな。帰ろうぜ、お前のとこの門限も、もうすぐだろう。バス間に合わないぞ」  
 俺はサイドスタンドを外すと、自転車を押して歩き始めた。  
「ああ、別に急ぐ必要はないんだ。今日は両親が出張で留守にしていてね、ゆっくり歩いて帰ろうと思っていたのさ。バス代ももったいないしね」  
「そうなのか。じゃあ家まで送るぞ、乗れよ」  
「……ああ、なるほど。わかった、じゃあお言葉に甘えよう」  
「なるほど? なんのことか解らんが、さっさと乗ってくれ」  
 
 後ろの荷台にちょこんと腰掛けたのを確認すると、俺は一気にペダルを踏み込んだ。夏の夜の風が気持ち良い。  
 点け忘れていたライトを、足で蹴って点灯させると、ジーッというモーターの回る音がした。さすがに人を乗せて、ライトまで点けるとペダルが重いな。  
 
 俺は佐々木に道を尋ねながら、およそ20分ほど走り続けた。家まで送ると言ったことを少しばかり後悔したのは、額を流れる汗が何条かわからなくなった頃だった。  
「そこだ、そこが僕の家さ。ああ、自転車はそこに停めておいてくれ」  
 俺の家よりかは立派な三階建ての住宅を前に、佐々木はそう言った。ゆっくりとブレーキをかけて停まると、佐々木は体を自転車から下ろした。  
 少し疲れたからか、再び眠気に襲われて欠伸が出た。ああ、そうだ。やりかけのゲーム、さっさと家に帰って続きをやろうと思ってたんだ。  
 
「さぁキョン、どうしたんだ? 疲れただろう。お茶を出すよ、あがってくれ。汗が気になるのなら、シャワーでも浴びてくれればいい」  
「いや、遠慮しとく。さっさと家帰ってゲームやりたいしな」  
「……ゲーム?」  
「ああ、ちょうどいいところでやりかけなんだ。じゃあな佐々木、また」  
「え? あ、ああ、また明日……」  
 
 俺は片手を挙げて、来た道を引き返した。  
 その後、ぶっ続けでひたすらゲームをやり続け、落ちるように眠り、翌日妹のフライングボディプレスを鳩尾に食らって悶絶した挙句の果てに遅刻した。  
 
 
 
「なぁキョン。君が言ってたゲーム、もしよかったら僕に貸してくれないか?」  
「ああいいぞ、もうクリアしたしな。ハードは? 無い? じゃあそれごと貸してやるよ。お前も勉強ばっかりじゃなくて、たまには息抜きしたほうがいいからな」  
 
 
 
「なんていう詰まらなさだろう。僕はこんな幼稚なものが存在していることに怒りを覚えるね。そもそも、仮想現実の世界での物語に一体どれほどの価値があるというんだ。  
 シナリオも十分ではないしご都合主義。これなら薄っぺらい娯楽小説のほうがよっぽど愉快さ。ああ、こんな物に時間を費やした自分が愚かに思えて仕方ない。  
 キョン、これは君にも言いたい。君はこんなものに熱中していたのかい? 今すぐこんな無意味なことに時間を費やすのは止めるべきだね。人にとっての時は有限だ。慎重に取り扱うべきものだろう。  
 特に僕たちのような受験を控えた生徒にとって、時間こそが命綱の強度と言ってもいい。  
 とにかく、僕はこんなくだらない物を認めない。こんなくだらないものに熱中していた君もね」  
 
 せっかく貸してやったのに、なんていう言い草だろうねこいつは。  
 クリアもせずに途中で放り投げたとかいうから、多分攻略できなかったんだろう。だからこんな言い方になるのかもしれない。  
 俺も、一度は諦めかけたからな。あそこだけは本当に辛かった。どうすりゃいいのかサッパリわからなかったからな。  
 
「なぁ佐々木」  
「なんだいキョン」  
「水の神殿の仕掛けだけどな。あれはブロックをちゃんと移動させて水の流れを整えてからじゃないと進めないようになってる。まぁそれが大変なわけだが、お前ならなんとかなるさ。もうちょっとやってみろよ」  
 佐々木は絶句して、大きな目を見開いて俺を見ていた。そして次に目を細めて、俺を睨みつける。  
 
「キョン、もし将来、君に恋人が出来たら、すぐ僕に紹介してくれ。是非その尊顔を拝みたい」  
「いきなり何を言い出すんだお前は」  
「おそらく君にはね、周囲を巻き込んでまで自分の理想を追求し、自己中心的で他人の意見を聞き入れるようなことのない、独特な価値観を持ってる人が向いてるよ」  
「そんな奴には関わりたくねぇよ。こっちから願い下げだね」  
 
 
 
 

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