いつもの文芸部の部室。珍しくハルヒ以下、女子の団員が来ていない。
「買い物らしいですよ。いかがでしょう? たまにはちょっとした推理ゲームでもしませんか?」
ボードゲームマニアとしては珍しいな。かまわないぜ、それで、一体お題はなんだ?
「『涼宮ハルヒの驚愕』の予想、でいかがでしょう?」
おいおい、マジか。
俺は構わないがな、そういうメタ的なssは正直どうなんだろうか。ここでやっても叩かれるのがオチじゃないか?
「枯れ木もスレのにぎわい、ですよ。ネタとして許容して頂けることを祈りましょう」
「さて、あなたに僕の仮説を一つ、申し上げておこうと思いましてね……これはあくまで推測に過ぎませんが」
そう言うと、古泉はぐっと体を乗り出してきた。おいこら、近いぞ。気色悪い。
「これは失礼……あなたは疑問を感じたことはありませんか? 涼宮さんの力は四年前に生まれたものである、という事実についてです。
彼女は世界を自由に創造する力を持っていた。あるいは、すでにそのとき、世界は涼宮さんによって創りかえられていた可能性だってあります。
ではなぜ、彼女はあれほど苛立っていたのでしょう? 果てしなく閉鎖空間を生み出してしまうほどに」
「何が言いたい。実はハルヒに神の力なんてなかったとか言いたいのか?」
古泉はやや疲れたような、いつもの輝きが3割ほど失われた笑顔を傾けた。
「最近、よく昔を思い出すんですよ。閉鎖空間がひっきりなしに発生し、毎晩神人狩りにかりだされていた頃をね。もっとも、神人の凶暴さでは比較になりませんが……」
言われてみれば、確かにこいつはSOS団一、二を争う苦労人だ。ハルヒあたりに二階級特進させて、名誉顧問にでもしてやるように進言したほうがいいかもしれん。
「ありがたいお言葉ですが、話を戻しましょう。涼宮さんは力を手に入れたにもかかわらず、彼女が望むように宇宙人、未来人、超能力者が現れることはなかった。
少なくとも、直接には。結果、彼女は非常にストレスを抱え込んでいました」
「ちょっと待て、今だって同じだろ。あいつは近くに宇宙人やらなんやらがいるって気がついていないはずだぜ」
「そこですよ。当時と今の違いはなんです?」
知らん。
「おやおや……それは当然、あなたが涼宮さんの近くにいることです」
古泉の顔は真剣だった。
「涼宮さんの力が発現したとき、そこにあなたがいました。彼女の力が求めていたのは、はっきりと言ってしまえば、あなたそのものですよ。
宇宙人、未来人、超能力者など、そのオマケに過ぎません。現に今まで、あなたと一緒にいることで、彼女の力は消滅に向かっていました。そして、鍵となるのが、涼宮さんのカウンター・パートの存在です」
……佐々木のことか?
「御明察です。機関が佐々木さんが神であるという仮説を取らなかったのは、直感的にそう感じられなかったということもありますが、はっきりといえば、一般人としか思えなかったからです。
しかし、力を行使しないことは、力がないことと同義ではありません。あるいは、こう言えばいいでしょうか」
古泉は芝居がかっているしぐさで言葉を切った。
「世界を創りかえる力に対して、世界を保つ力の存在ですよ。その力は一見目立ちません。世界が変化しないのですから。
しかし、涼宮さんほどの力を打ち消しているとすれば、話は別です。仮定の話ですが、佐々木さんの能力が、世界改変に向かったとしたら、それは涼宮さんの力と真っ向からぶつかるでしょう。
最悪、世界の破滅です。それを免れても、世界が二つに分裂する可能性さえありますね。それぞれの神を持ちながら」
本気で言ってるんだろうか?それに――
「分からないな。佐々木は何を保とうとしてたって言うんだ?」
「おやおや、分からないのですか?」
古泉が心底呆れたように言った。実に腹立たしい。
「もちろん、あなたとの関係ですよ。中学3年でのね。1・2年では二人の間でせめぎあいがあったはずです。最終的に、佐々木さんの力が勝利を収め、あなたとともに過す世界を手に入れた。
おそらく、涼宮さんはすでに力を放出していたためでしょう。中学3年では、その世界が固定されていたんです――ところが」
古泉は言葉を切って、肩をすくめた。
「高校に入って、一気に天秤は傾いた。涼宮さんはあなたを手にいれ、宇宙人、未来人、超能力者と同じ部室で活動している。一方の佐々木さんは一年間も親友のあなたと音信不通です。
中学3年の最後で、佐々木さんとあなたの関係に何かが起きて、これまでのバランスを破壊したと考えるべきでしょうね。
しかし、そのバランスが再び変化している。佐々木さんの周りに、宇宙人、未来人、超能力者が集ったことは、彼女の力が外向きに放出されたことを示しています。
天秤に掛けられた世界は、涼宮さんと佐々木さんのどちらの世界にふれるか、揺れている段階ではないでしょうか? ちょうど、あなたの心の揺れと同じように」
こら、邪推するな。古泉はくっくっと笑う。
「あのお二人とあなたの共通点がありますよ。どこまでも素直ではないんですね……おっと、これはあくまで仮説に過ぎませんから、お忘れなく」
そう言うと、インチキ超能力者はニヤニヤと笑った。
「そろそろ涼宮さんたちが買い物から帰ってきます。今日のところはここまでとしましょうか」
どうでもいいが、このssは失敗だな。まったくオチてないぜ。俺が作者だったら、もう少しマシなものを書くね。
「そこは、他の書き手さんたちに期待しましょう」
投げっぱなしか。俺は溜息を吐き出す。まあ、確かに、そろそろ朝比奈さんのお茶が飲みたいと俺の味覚がリクエストをしているし、長門が部屋の隅で読書をしていないと落ち着かん。
あとは……そうだな。やっぱり、あいつが――――
ばーん、
とけたたましい音を立てて、ドアが吹っ飛ぶように開く。そこから入ってくる団長の、100万ワットの笑顔から放たれる光が、部室を照らした。
「たっだいまー! キョン! 今帰ったわよ!!」