中学校の卒業式でのことだ。  
暖かな春空の下、俺は佐々木に呼び出され、片手に卒業証書の筒を握り締めて屋上に向かっていた。一体何の用事だろう? アインシュタインの一般相対性理論についての講義の続きでなければいいのだが。  
佐々木は屋上の手すりに寄りかかって遠くを眺めていた。俺が鍵のぶっ壊れた屋上のドアを音を立てて開くと、佐々木はゆっくりと振り返って笑った。  
「やあ、キョン。よく来てくれた」  
風に短い髪を揺らしながらそう言う佐々木は、いつもの饒舌な口調とは違い、どこか言葉少なめだった。いつもならこの三倍くらいでまくし立てるんだが。  
「君にお別れを言わなきゃならないからね。春から僕は私立高校だ。キョンは北校に行くのだろう?」  
大げさだな。別に生き別れになるわけじゃないんだぜ。いつでも会いたいときに会えばいいじゃないか。  
「いつでも、かい?」  
「ああ、ちゃんと電話するからさ」  
俺がそう言うと、佐々木は、もじもじと俯いて卒業証書の筒をぎゅっと握ったり持ち替えたりして弄っていたがいたが、上目遣いに俺を見ると微笑んだ。  
「じゃあ、僕は君から電話がかかってくるのをじっと待機していることにしよう。ベルの音に反応するように訓練された、哀れなパブロフのイヌのように。約束だ、最初はちゃんと君から掛けてくれよ?」  
僕からだと、寂しくて際限なく電話を掛けてしまいそうだからね、と本気とも冗談ともつかない表情で言うと、佐々木はくっくっと笑った。  
「それで、そのことが今日の本題か?」  
俺がそう聞いた途端、佐々木はカエルが首を絞められたような声を出してから沈黙した。おい、大丈夫か?ちょっと顔が赤いけど、熱でもあるのか?  
「熱? ああ、キョン。実は、僕もある病気にかかったようなんだ。なかなか根治治療は難しいが、症状を安定させるためのちょっとした処方箋があるらしくてね、君がもしよければ、その、僕の精神病の一種、いわゆるコイの病を……え、おい、キョン? な、何で急に手を……」  
ごちゃごちゃ佐々木が何か言っているが、やはり風邪でも引いたらしい。何か魚の病気にかかったとかなんとか、よくわからないが、要は熱のうわごとだな。俺は佐々木の手をとって、ぐいぐいと保健室に向かった。  
「キョン。君は誤解している。非常に重大で馬鹿馬鹿しい誤解だ、さっきのは一種の比喩的な意味での告白、いや、告白的な意味での比喩というか。とにかく僕は大丈夫だ、放してくれたまえ」  
「親友が熱出してるのに放っておけるか」  
握った佐々木の手から力が抜けたような気がした。  
「親友……親友か……それが君の答えか、キョン……」  
急に佐々木はおとなしくなって、俺に手を引かれるままに保健室に入っていった。佐々木は少し寝て、少し泣いた。  
「キョン、君はずるいな……」  
 
……………………  
 
「それ、誰?」  
「ああ、こいつは俺の……」  
と、俺が紹介を言いかけた途中で、  
「親友」  
佐々木が勝手に解答を出した。  
 
……あれ、佐々木、なんでちょっと怒ってるんだ?  
 

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