梅雨もまだあけやらぬ6月の中旬にして、すでにひぐらしのなく頃合いが恋しくなっている俺であったが、今日も今日とて膝蓋腱反射のごとく部室に赴いているのである。  
部室のトビラを抜けると雪国ではなく、いつも通りの部室だった。  
長門は黙々と本を読みふけり、朝比奈さんはメイド服姿でお茶の準備をしてくれているようであり、古泉はにやけ顔で将棋盤を見つめていた。  
詰め将棋の回答を導き出してやろうとクロック数を限界まであげながら、椅子に腰をかけると、  
「どうぞ、今日は暑いので冷茶にしてみました。美味しく煎れられたかは自信ないんですけど…」  
同時に朝比奈さんが湯飲みを差しだしてくれた。  
迷子になった子供のような不安げな表情で、俺の様子をうかがっている。  
もちろん美味しいに決まってるじゃないですか。  
「よかった」  
そう笑顔で答えてくる朝比奈さんを見ながら、ひぐらしはもう少し先でもいいかと思い直していると、長門が音もなくスッと立ち上がり  
「2三桂、2一玉、3二竜、同金、1一馬」  
瞬く間に、一国の王を不幸のどん底に突き落として、定位置にもどっていった。  
まったく、いつの間に将棋のルールなんか覚えたのか。  
ふむふむとなにやら納得したようすの古泉が、盤面から視線をはずし新たな問題を提起した。  
「涼宮さんはどうされましたか?」  
あいつはいつもどうかしているが、ここで求められている回答はそうではないことぐらい俺にだってわかるのさ。  
「いや、気づいたときにはもう教室にはいなかっ」  
と言いかけたところで、  
「みんなそろってるわね」  
常夏の国の川辺に群生しているハイビスカスのような笑顔を携えたハルヒが勢いよく扉を開け放って登場した。  
その手になにやらを握りしめていることも相まって、枯れない泉のごとく嫌な予感が沸々とわき上がってくるが、あえて先手を打ってみることにする。  
「今度はカヌー大会にでようとか、言いだすんじゃないだろうな?」  
先日の野球大会では、とんでもない目に遭わされたからな。  
やっかいそうなスポーツは先に潰しておくにかぎる。  
何を想像したのか、ぷるぷると小刻みにふるえている朝比奈さんには目をくれず、ハルヒは、  
「そんなワンパターンじゃつまらないじゃない。それにカヌーには5人乗りの競技はないのよ」  
と、軽やかにツッコミを入れた。  
まったく自分に都合の悪いこと以外のことには、案外めざとい奴である。  
まぁこれで、大自然と一体になって激流を乗り切る必要はなくなったわけなのだが。  
朝比奈さんがほっと胸をなで下ろしたのもつかの間、  
「コレよ」  
先ほどからなにかを持っていた右手を、どこぞの女神像よろしく高らかに掲げてみせた。  
それは、世界を照らす自由の灯火でもなんでもなく、最近出来たばかりの動物園のパンフレットとおぼしきもであった。  
ハルヒにしてはあまりにまともすぎる代物に、これはいったいどうしたことかと思いを巡らせていると、いつの間にか朝比奈さんの背後に回り込んだハルヒが、その栗色で綿のように柔らそうな後ろ髪を手櫛で丁寧にとかしていた。  
「いいでしょ?みくるちゃん、動物園」  
森にひっそりと住まう小動物のようにピクッと反応を示した朝比奈さんであったが、動物園というワードに少し揺らいでいるようで、  
「面白そう…ですね。」  
控えめに答えたあと、実はあんまり行ったことないんです、と付け加えた。  
傍らに佇むもう1人の少女に目をやると、分厚いハードカバーに奪われたっきりだった視線をゆっくりとこちらへ向けただけで、また何事もなかったかのように本の元へと戻っていった。  
これで意図が読み取れる奴がいたら、天然記念物に指定してやろう。  
その間ずっと、ハンサムスマイルを顔に貼り付けたまま、傍観者を決め込んでいた古泉は、  
「それは良い提案ですね、さすがは涼宮さん。実は僕もかねがね動物に興味がありましてね。」  
颯爽と賛成票を投じた。何がさすがなのかも、どんな興味があるのかもまったくもって知りたくもないが、ハルヒがどんな興味を持っているかは、はなはだしく気になるところである。  
俺は先ほどから探していた回答を自力で出すことを諦め、  
「目的はなんだ?」  
ど真ん中の直球をハルヒに投げ込んだ。  
「どうも臭うのよね」  
ハルヒはコンパクトなスイングで俺の投球を明々後日の方向にはじき返した。  
何がどう臭うって?  
辺りの空気をかいでみたが、朝比奈さんの周囲に上品でおだやかな香りがただよっているぐらいだ。  
「こんな交通の便のわるい所にわざわざ新しく動物園をつくるなんて、十分怪しいわ」  
ハルヒが、異議を申し立てる弁護士のようにビシビシと指しているパンフレットを見ると、確かにその動物園へのアクセスはあまりよろしくないようだ。  
いろいろあるんだろ、大人の事情が。  
「あんたもSOS団員らしくなってきたじゃない。そうよ、表向きはただ動物園、でも夜な夜な実験を繰り返し、人知を越えた生物を作りそうとしているに違いないのよ」  
小学生が書いた日本地図より適当な俺の答えを拡大解釈したうえ、とんでもない誇大妄想にとりつかれているようである。  
「うまく意表を突いたつもりかもしれないけど、私の目はごまかせないわ」  
いったい誰が誰の意表を突くつもりだったというのか。  
「さぁ、動物たちが首を長くして待ってるわ。行くわよ、動物園、心してかかりなさい!」  
逆手で握り拳をつくりながら言い切った。  
ほら、パンフレットが潰れてるじゃないか。  
 あきれ顔1、無表情1、半喜半憂1、さわやかスマイル1という満場一致とはほど遠い状態であったが、ハルヒはいつも通り一切合切お構いなしに、ピンと立てたひとさし指をリズミカルに左右に振りながら、宣った。  
「今週の土曜日、駅前に9時集合よ。一秒遅刻するごとに、懲役一年だから。いっとくけど執行猶予はないからね。」  
どうやらハルヒ王国でも死刑制度は廃止になったらしい。  
 
その日の帰り際、思春期の少年少女にも勝るとも劣らないため息をつく俺に、朝比奈さんが、  
「やっぱりちょっと心配ですけど、ちょっと楽しみです。」  
と天使のようにほほえみかけてくれたのが、せめてもの救いだ。  
 
 
これは確信を持っていえる、いま俺は世界中のメランコリーを背負っているに違いない、と。  
せめて、この憂鬱が絶望へと変貌を遂げないことを切に祈りたい。  
顔も名も知らぬ神を仰ぎながら、約束の地へと急いでいた。  
「遅い、罰金。妹さんの分もあんたが払うのよ」  
そこで待っていたのは、涼宮裁判長による罰金刑の言渡しであった。スピード結審にもほどがあるだろ。しかし、なんとか懲役刑は免れることができたようだ。  
この事態の発生源たる妹は、キョンくんおねがいね、とだけ言い残し、ご主人様を見つけたチワワのように朝比奈さんのもとへ駆け寄っていった。  
「動物園楽しみだなぁ〜」  
『そうですね。なにか好きな動物はいるんですか?』  
「う〜ん、ねこ。あたし猫を飼ってみたいの」  
招かざる客のはずの妹は、厳しい食物連鎖の中を逞しく生き延びる擬態昆虫なみのとけ込みを見せ朝比奈さんと楽しげに話していている。  
こうしてみていると本当の姉妹のようで実にほほえましい。  
待てよ、そうなると、朝比奈さんは俺のお姉さんにもなるわけか…。  
「ちゃんと予習してきたんでしょうね」  
全米が泣くこと間違いなしの切ない姉弟愛の物語を脳内にしたためているところに、ハルヒが分厚い本を携えて割り込んできた。  
動物園に行くのにいったい何の予習が必要だというんだ?せいぜい必要なことと言えば、バナナはおやつに含まれるのか、という本当にどうでもいい議論を交わしておくことぐらいだろう。  
「まったく、たるんでるわね。団長自ら、ダーウィンの進化論を理解するのに、貴重な一週間を捧げたってのに。」  
動物園で何をしでかすつもりなんだろうなぁ、こいつは。そもそも、そんなものすぐに理解できるものなのか。  
「簡単よ、あんなもん。欠陥だらけのしょうもない理論だったわ。」  
そうかい。  
「コレ、あんたにかしてあげるわ。なにかの足しにはなるでしょ。」  
手にしていた厚揚げの3倍は厚いかと思われる本を有無を言わさず押し付けて、今度は朝比奈さんと妹のところへ向かっていった。  
まるで、村々から年貢を取りたてるお役人のようだ。その本の背表紙には動物図鑑と書かれており、その名のとおり中では様々な動物達が所狭しとひしめき合っていた。  
たいした感慨もなくパラパラとページをめくっていると、  
「どうやら、お迎えが来たようですよ」  
今日も朝から無駄にさわやかを振りまいている古泉が、駅前に停車されようとしている白いミニバンを示した。  
ともなく車の中から、ひょろ長で無精ひげ、まる眼鏡に薄汚れた白衣という、いささかアレな外観の中年男性が現れた。  
「でかしたわ、古泉君。あたしの想像には及ばなかったけど、なかなかの怪しさだわ」  
ハルヒは、俺があえて心の中にそっとしまっておこうとした感想を堂々たる面持ちで発表した。  
「お世話になります。こちらが本日、動物園までのドライバー役をかってでてくださった、僕の知人の柏原さんです。」  
古泉はハルヒの意味不明な賞賛をうけつつ、そのオッサンを得意げに紹介した。  
「私は、動物園で獣医をやっております、柏原ともうします。他ならぬ古泉君の頼みとあっては断るわけにいかなくてね。動物たちのコンディションも良いだろうから、心置きなく楽しんでもらいたい。」  
おだやかな笑顔で挨拶をした柏原さんは、無精ひげをいじりながらしげしげとSOS団員+αを眺めていた。団員紹介もそこそこに、  
「さて、それでは出発しようか。一時間もあれば着くだろう。しかし、ここからの道は初めてでね、誰かナビをしてくれるとありがたいのだが。」  
 
駅を出てから半時ほどゆられただろうか、車窓から見える風景には徐々に緑色の割合が増えてきた。  
助手席では、俺がかしてやった動物図鑑をメトロノームより正確なリズムでめくっている長門が、  
「256m先を斜め51度左方向、道なりに2835m」  
と、ときおり正確無慈悲なナビゲーションを行っていた。  
ちなにみ、今日の長門は珍しく制服でなく、胸元にフリルをあしらったスカイブルーのカーディガンと白いスカートという良家のお嬢様風の出で立ちだ。  
なかなかに似合っているのだが、これをどのような基準で選んだのかは興味が尽きないところである。  
3列目のシートでは、シンプルな装飾が施された淡色のワンピースという非の打ち所がない初夏ルックの朝比奈さんが、いつもどおりのハルヒと妹と盛り上がりを見せていた。とはいえ、盛り上がっているのはハルヒと妹だけであり、  
「やっぱり動物園と言えば、ネコミミは欠かせないわ」  
という超ハルヒ理論よって、ネコミミの装着を余儀なくされた朝比奈さんは、  
「あのあの、これをつけて動物園を回るんですか?」  
ほとんどあきらめの表情で、いちおう最後の審判を求めた。  
「当たり前じゃない、ほら妹さんの分もあるわよ」  
朝比奈さんによる大洪水を前にした土嚢ほどの抵抗をあっさりと退けたハルヒは、わーい、と大喜びの妹とともに自分にもとりつけて、たいへん満足げな表情をしていた。  
 ついでに右隣に目をやると、まったく嬉しくないことに古泉がにやけ面で外を眺めていた。  
そもそも、なぜこのような夢も希望もない席順になったかといえば、それは例によって、当然のごとくハルヒのせいであり、  
任せたわよ有希、と長門を問答無用でナビ役に任命し、そうそうに朝比奈さんと妹を引き連れて最後部を陣取ってしまったからに他ならないのである。  
まぁ、せっかくの機会なので、この隣人に聞くべき事を聞いておこう。  
「何をたくらんでいる?」  
俺は小声で、この状況であれば誰しもいだくであろう疑問を投げかけた。  
「何も。僕はただ、この休日を満喫したいと考えているだけですよ。」  
あやしいもんだな。  
「本当に、今回の件には私個人の思惑は働いていなんです。柏原さんはもちろん『機関』の人間ではありません。  
十全たる善意の獣医師ですよ。もし、あなたが何か外圧を感じているとするのであれば、それは僕以外のだれかのものということになるでしょう。  
それとも、電車に揺られたのち小一時間のハイキングというのがお好みでしたか?」  
いや、善意はありがたくいただいておくにしよう。今ここで、あれこれ考えてみたところで、なるようにしかならないだろうからな。  
だがしかし、このとき俺はある重要なことわざを思い出すべきだったのだ。  
 
タダより高いものはない、と。  
 
ほどなくして、涼宮ハルヒと愉快な仲間達は、目的地に到着した。  
「さぁ、いくわよ!」  
檻から解き放たれた猛禽類のように車を飛び出したハルヒが、朝比奈さんと妹の手をひいてチケット売り場に向かっていった。  
「今日は、ありがとうございました。」  
そんなハルヒたちを代表して、俺が柏原さんにお礼をのべると、  
「どういたしまして。今日は一日園内にいるので、なにかあったら遠慮なく声をかけてくれていいからね。」  
柔和な顔でそういって、ゆっくりと車を発進させた。  
 一時間ぶりの新鮮な空気をひとしきり満喫した俺は、  
「それ、面白かったか?」  
こくり、とうなずく長門からやたらとでかい図鑑を回収した。あとでコインロッカーにでも預けておくか。  
いつも文字や数字が縦横無尽に羅列された本ばかり読んでいるから、たまにはこういうのもいいのかもしれないな。そういえば、  
「ダーウィンの進化論って知ってるか?」  
何の気なしに聞いてみた。  
「知っている。チャールズ・ダーウィンは1859年に進化についての考えをまとめ、“種の起源”として出版した。  
その中で、自然選択・生存競争などの要因によって、常に環境に適応するように種が分岐し、多様な種が生じると説明した。  
彼の主張の最も重要な部分である自然選択説とは、『生物がもつ性質は、同種であっても個体間に違いがあり、それは親から子に伝えられたものである』、  
『環境の収容力は常に生物の繁殖力よりも小さい。そのため、生まれた子のすべてが生存することはなく、より有利な形質を持ったものがより多くの子を残す』、  
『それによって有利な変異を持つ子が生まれ、それが保存されその蓄積によって進化が起こる』というもの。」  
大体わかった、もういい。このまま放っておくと3日間はしゃべり続けそうな勢いだ。そして、長門は最後にこう付け加えた。  
「この理論は完全ではない。」  
そういやハルヒもそんなこといってたな。それは俺にだってわかる。  
そうでなければ、俺が宇宙人や未来人や超能力者と動物園で遊んでいるわけないからな。  
それに、忘れるわけがない、一ヶ月ほど前にこいつから聞いた話、涼宮ハルヒは…  
「自律進化の可能性か…。まだ諦めてないんだよな?」  
『それが、わたしがここにいる理由だから…』  
「そうか…」  
『……』  
長門はいつもの静けさで、いつもの表情よりほんの少しだけ寂しげに俺を見ている、ような気がした。  
俺はといえば、この世に生を受けて3年あまりの全知全能にほど近い少女は、世界が遂げてきた壮大な進化の過程に何を思うのか、図鑑の重さをかみしめながら考えていたのだ。  
「ほら、みんなの分も買ってきたわよ」  
二人の間に満ちた不思議な静寂を打ち破ったのは、チケットを買い終えて戻ってきたハルヒであった。  
 
 園内は休日だというのにかなり空いて、ここの経営状態が心配になるほどである。  
幸い来園者にとっては非常に快適な状態がキープされていることになるわけなのだが。  
どうやら正門を中心に動物園全体が円形になっていて、一回りすれば一通り見物できる仕組みなっているらしい。  
入ってすぐ右手には『ぺんぎん館』と題されたペンギンたちの憩いの場が待ちかまえており、地上に面した部分ではペンギンたちがある晴れた土曜日を満喫していた。  
「かわいー、ぺんぎんさん」  
「そ、そうですねぇ…」  
初っ端から大はしゃぎの妹に負けず劣らず、朝比奈さんもうっとりと潤んだ瞳でまなざしを注いでいる。  
朝比奈さんの熱視線を独占するペンギンたちに軽く嫉妬の念を覚えつつ、ハルヒのほうに目をやると、  
「何たる体たらくなの、気合が足りないのよ。あたしが叩き直してあげるわ」  
奇怪千万としか形容しようのないダメだしを行っていた。  
「やめとけ。あいつらには、あいつらのライフプランがあるんだ。そっとしておいてやれよ」  
柵を乗り越えてペンギンの国に不法侵入していきそうなハルヒの首根っこを捕まえて、制止すると、  
「ふんっ、まあいいわ」  
意外にもあっさりと引きさがった。その調子で是非とも俺の人生設計も尊重していただきたいものである。  
「館内には水中トンネルがあって、ペンギンたちの泳ぐ姿を間近で見られるようですよ」  
まるでそれが自分の手柄であるかのような物言いの古泉に導かれ、ネコミミ3人娘は地下へと広がるペンギンワールドへと吸い込まれていった。  
 
「どうした長門、ペンギンが珍しいのか? みんないっちまったぞ」  
少しはなれたところで、一匹のペンギンを無表情で見つめていた長門に声をかけた。  
「(こくり)」  
「お嬢さんはお目が高いね。ちょっとまってなさい。」  
肯定の意思表示をする長門に割り込んで俺の問いに返答したのは、ちょうど駐車しおえて園内に入ってきたところらしい柏原さんであった。  
柏原さんはその足でスタッフオンリーと書かれた裏口から柵の中に入り、慣れた手つきでそのペンギンを捕獲して戻ってきた。  
「だいてみるかい?」  
無言で頷く長門に、そっとペンギンを託した。  
ちょうど“高い高い”をしているよな感じでペンギンと向かい合っている長門は、何とも言えないシュールさを醸し出している。  
しばらくその状態が続いたのち、  
「イワトビペンギンは小柄だが、少し気性があらいところがあってね。これだけ大人しくしているところを見るとよほど気に入られたみたいだね、お嬢さんは。」  
長門からペンギンの返却をうけた柏原さんは、  
「ゆっくり楽しんでいってくれたら、きっと動物達を喜ぶよ」  
優しく笑いながら白衣を翻し裏口に消えていった。  
「ペンギン目・ペンギン科・イワトビペンギン属・イワトビペンギン、インド洋南部から南大西洋にかけて広く分布し総個体数は734万羽」  
俺の質問への答えの続きのつもりなのか…。なんか、あんまり珍しくないみたいだな。  
「イワトビペンギンに飛翔能力はない」  
そりゃそうだろうな。って、まさか…  
「あの個体は理論上、空を飛ぶことが可能」  
なんてこった。何でこんなことになってしまったのか、そんなこと考えるだけ無駄だ。  
それはどっかの誰かさんの脳みそが、乙女チックな空想で満たされているからに相違ないからである。  
 
俺は憂鬱がそれ以外の何かに変化していくのを感じていた。  
 

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