その日は朝から苛立っていた。  
右耳を蹂躙闊歩するいまいましい存在に。  
たった2、3ミリ程度の輩の癖に人間様を苦しめるとは生意気なっ。  
 
要は耳垢がゴロゴロしていて気になって仕方が無かった。  
 
赤点ぎりぎりの俺に言えた義理では無いが、学生の本分である勉強はおろか、  
ハルヒが授業中にいろいろとかけてくるチョッカイも気に出来ないような状態である。  
まさか分身・縮小した小ハルヒが耳の中で暴れているのではあるまいな。  
変態パワーにあふれるやつならやりかねん。  
 
 
その如何ともしがたい状況に、  
放課後になるやいなや、級友への挨拶もそこそこに俺は部室へと急いだ。  
部室は主にハルヒが突っ込んだ、使途不明な訳のわからないガラクタが山ほどあるから  
耳掻きの1つや2つはあるだろう。  
後ろで今日は掃除当番だったハルヒがなにやら喚いていたような気もするが無視じゃ。  
今の俺のこころは猫の額のごとく狭いのさっ。  
 
 
そして部室を訪問した俺を待っていたのは。。。  
 
 
 →1なぜか■■■だった。  
 →2■■■さんだった。  
○→3長門だった。  
 →4あまりうれしくないことに■■だった。  
 →5なんと、■■さんだった。  
 →6正気を疑ったが■■だった。  
 
 
 
『耳掃除(長門編)』  
 
 
 
部室にはもうすっかりこの部屋でおなじみとなった読書中の長門がいた。  
耳が気になって仕方の無い俺は、長門への挨拶もそぞろに部屋中を掻き回し始めた。  
そんな俺に、いつもの3点リーダとともに長門の透明な視線が投げかけられる。  
 
「・・・」  
 
「悪い。読書の邪魔したか。  
ちょっと耳掻きをさがしてたんだ。」  
 
「耳掻き?」  
 
そう。朝から耳がずっと気になってて勉強も手につかないんだ。  
と柄でも無いことを言いつつ家探しを続ける。  
 
 
すると、パタンと言う音とともに長門が本をしまい、  
近くにあった小物入れから鈍い銀色の金属製のボールペンを取り出して、  
右手で掲げるように自分の顔の前に固定した。  
・・・まさかとは思うが、その先端が凶悪な凶器で耳を突かれるのではあるまいな。  
そこまで気に障ったか?  
 
そんなちょっと恐ろしげな想像をしながら眺めていると、  
そのボールペンは飴細工のように見る見る間に形を変え、  
一本の耳掻きへと変わった。  
 
・・・なんか、途方も無い技術(と呼んでもいいものかね、これは?)を  
すげーしょうも無いことに使ってるな。  
たかが毒直すのにエリクサーつかってるような気分。  
だが、まあ過程はどおあれ耳掻きは耳掻きだ。  
 
 
「すまん、助かる。貸してくれるか」  
 
 
でも、長門はなぜかこちらへと渡そうとせず席を立ち上がった。  
そしてそのまま部室の端に置いてある馬鹿でかいソファーへと向かい、  
端にちょこんと言った形で腰掛けた。  
 
 
ちなみにソファーはついこの間、ハルヒが強奪してきたものだ。  
何でも校長室に置いてあったものらしい。  
 
どんな辣腕・悪行を振りまいてパチってきたものかは知らないが、  
さすが校長室に置いてあったものらしく、スプリングがしっかりとしており座り心地は抜群である。  
ここならうちの駄猫でなくとも連続で13時間は寝られそうである。  
が、運ぶときはハルヒという女帝の号令の元、まさしく地獄を見た。  
ピラミッドの巨大石を運ばされる奴隷に共感を覚えるくらいに。  
 
 
 
「・・・もしかして俺の想像が間違ってなければ、  
耳掃除をしてくれるとか?」  
 
そんな淡い期待とともに問い掛けると、わずかな沈黙のあと首を微かに前に倒して見せた。  
長門研究家の俺にはわかる。表情からは見えないが間違いなく照れている。  
やべえ、ちょっとくらっときた。  
それにしてもマジで?Really?  
 
 
「・・・その、膝枕で?」  
 
「・・・早くきて」  
 
そんな台詞と共に投げかけられる長門の上目遣いを見ていると、  
すげえ気恥ずかしくなってくる、顔に血が上っているのがわかる。  
だが、健全な一男子高校生としてこんな夢のような  
シチュエーションを逃せるか!  
 
 
「よろしくお願いします」  
 
 
すぐさま長門の膝にルパンダイブしそうな気持ちを抑えながら、  
ソファーに横たわり、ゆっくりと長門の太ももに頭を乗せる。  
細い外見からは反し柔らかな感触が迎えてくれた。  
女の子って言うのはやっぱりやーらかーいものだなーと鼻の下を伸ばしていると、  
つい、と長門の白い指が降りてきて俺の耳たぶをそっとつまむ。  
長門の指は少しひんやりしてほてった耳には気持ちよかった。  
そして、まずは耳たぶの外周のあたりから掻き始めた。  
 
まずは窪みの部分を優しく掻いていく。  
元金属ボールペンの耳掻きは意外にもやさしい当りで、  
耳垢が少しずつこそぎおとされていく。  
 
カリカリカリ…コリコリコリ・・・・  
コリコリ・・・ カリ・・・  
 
ちょっとくすぐったいようなむず痒い感じだが、  
とても気持ちがいい。  
 
コリコリカリカリ・・・コリコリッ  
 
 
段段と奥の方に進みだし敵(耳垢)も手ごわくなってくるのか、  
微かに引っかかるような感触がある、でもそのはがれる感触もたまらない。  
耳を通して背筋のほうにまで軽い電気のようなものが走る。  
 
コリコリッ・・カリカリカリリ・・・クリクリッ  
 
耳の壁をマッサージするように先端を回転させてくる。  
その技巧に体中が弛緩してくる。  
 
 
それにしても、長門も膝枕で耳掻きなんて初めてだろうにめちゃくちゃ上手いな。  
前のギターのように技術をどっかからダウンロードかなんかしたのかね。  
一家に一人、メイド朝比奈さんも良いが、  
長門も捨てがたいな。毎日こんな風にしてもらえたら幸せだろうな・・・  
などと男のロマンについて考えながら俺の意識はすうっと落ちていった。。。  
 
 
こんな感じで長門の技巧を存分に堪能し至福の時間をすごしてた俺だが、  
まあ、あれだ。  
部活開始前にこんなことをしていれば、  
賢明な読者のみんななら予想できると思う。  
 
 
次に気が付いたとき、俺が置かれている状況はだ。  
顔を赤くしながらこちらを見守る朝比奈さんと、  
にやけ笑いを張り付かせた小泉と、  
 
そして、ダークなフォースを撒き散らかす大魔王閣下が  
そこにいましたとさ。  
 
 
 
ちなみに、長門は一見いつもどおりの表情に見えたが、  
こころなしかいたずらが成功した子供のような雰囲気をかもし出していた。  
 
長門よ…、人間的に成長してくれるのはすごくうれしい。  
この前に人生初の冗談も聞かせてくれたし。  
だが、ちょっと、洒落になってないぞ。マジで・・・  
 
 
                       大魔王の蹴りとともに暗転  
 
 

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