その・・・なんだ・・・長門。オナニーは便所以外でするのがいいと思うぞ  
 
 
「個室便所は自慰行為の場所としては悪くない選択。  
 他人がそうそう入ってこない個室である為第三者の来訪を気にする必要が無い。  
 大概に於いて換気する方法に長けている為、行為後の臭気を緩和しやすい。  
 また行為後の後処理も容易。ペーパーを使用し流してしまえばいい。  
 だが最適な場所とも言えないのも事実。個室特有の臭気と行為を補助するおかずと称される  
モノの持ち込み、更に個室占有による第三者の介入が問題。  
 よってわたしはあなたに個室よりも適した場所を斡旋する」  
 ……なんで長門と自慰行為に適した場所探しなんて話になってんのかよく覚えていない。  
 だが長門が適していると言うのなら適しているのだろう。あくまで知的探求の一端として聞いておきたい。  
決して妹の乱入を考え扉にカギでもと考える反面、親に色々と勘ぐられたくないからではないぞ。  
「わかっている」  
 長門が小さく頷く。いや、そうあっさり納得されるとそれはそれで良心の呵責があるのだがまあいい。  
 それで、その場所とは?  
 
 
「わたしの家。あなたの妹を始めとした第三者の乱入もない。部屋に臭気はないし、  
行為後のあなたの臭気もわたしは気にならない」  
 ……。  
「あなたはわたしがいる事によって一人では無いと考えているかもしれない。  
 でもそれは間違い。わたしは確かにあなたが行為を行う間そばにいる。だがそれは」  
 静かに語りながら長門が近付いてくる。そして既に長門のトレードマークとなっている  
カーディガンに手を掛けるとゆっくりと袖から手を抜きはじめた。  
 
 
 
「──あなたのおかずの為。今から試してみる?」  
 
 
 
 長門の部屋でとあるごたごたを終えた俺は、今回を含む今までの労いもかねて長門が満足するまで  
色々と付き合ってやる事にした。  
 時々部室で遊びたそうにしていたオセロに興じつつ、寡黙な端末少女と言葉少ない会話に小さな花を咲かせていた。  
 
 ……はずだったのだが。  
 
 いつの間にミステリートレインに乗りこんでしまったのか、その行き先不明な会話は何故か自慰行為を  
行うのに最適な場所と言う話題になった挙句、ついに長門が暴走し始めてしまった。  
 
 長門はコタツから立上がると後ろを向いてショーツと紺のソックス以外の着衣を躊躇いなく脱ぎ捨てる。  
 だがそのまま振り向いて何かを始めるのかと言う俺の考えに反し、長門は足下に落した制服の中から  
最初に落としたカーディガンを拾いあげると、素肌の上から直接袖を通してその身に纏った。  
 
「準備完了。後はあなただけ」  
 
 襟元をただしこちらを振り向く。裸エプロンや裸ワイシャツの長門風アレンジ版、裸カーディガン状態の完成である。  
 長門の白い肌に浮かぶなだらかな二つの丘陵が覗くもその登頂点はカーディガンによって巧妙に隠されている。  
 なまじショーツとソックスだけ残しているのがまた何とも言い難く、正直言ってそういった属性が無いはずの  
俺でも簡単に墜ちてしまいそうなぐらいその姿は淫靡な魅力を放っていた……とは言え、だ。  
 
「取り敢えず落ち着け長門。俺の知る限り、自慰ってものは他人にどうぞと言われてはぁそうですかと  
するようなものではない。わかるか? こういうのは精神的にむらむらっとして来た時に行うものであってだな」  
 そんな俺の訴えは蒸留され不純物が取り除かれた水の様に透き通った瞳で俺の股間の変化をただ見つめてくる  
長門によってあっさりと却下される。  
 
「……むらむら?」  
 あぁ悪かったな、まんまとお前の挑発に乗せられて俺の息子はスタンディングオペレーション状態さ。  
 仕方ないだろ、タダでさえ最近妹の目を盗むのが大変で溜まってるんだ。そんな状態で長門の欲情的にして  
刺激的な姿を見せられていきり立たない男など解脱した高僧か女性に興味がないホモか古泉ぐらいのもんだ。  
 そして俺は高僧でもホモでも、ましてや古泉でもないので一般的な男子に習い興奮してしまう事を否めない。  
 
「あなたの情報遺伝子のフレアを誘発させる。わたしという固体もあなたには達してほしいと感じている」  
 また妙なアレンジを聞かせた言葉を放ち、四つん這いになりながら俺に近付いてくる。その姿はまるで  
毅然たる態度で塀を歩く猫のように感じ取れた。同じ猫でも家でいつも丸く転がっているシャミセンとは大違いだ。  
「…………」  
 余計な事を考えて冷静になろうとしている俺の思考を読み取ったのか、長門は何かを訴えるように  
グレードDのダイヤモンドのような透明な瞳を桜の花びらのコンタクトでも付けたかのような色を付与して  
俺の瞳と思考と四肢、いやこの場合は愚息を入れて五肢だろうか、とにかく行動を束縛してくる。  
「待て、頼むから落ち着いてくれ長門。俺を束縛して何を始めるつもりだ」  
 
 
「それはやはりナニでしょう」  
 
 俺の悲痛な叫びに答えたのは目の前の長門ではなく、いつの間に現れたのか台所に立つ喜緑さんだった。  
 
「あ、どうぞお構いなく。ちょっと塩を切らしてしまったのでお借りしに来ただけですから。  
 わたしの事はどうぞ台所に置かれた乾燥ワカメ程度に考えて気になさらないでください」  
「わかった」  
 いやいやいやいや、そこは流すところじゃないだろ長門。たとえお前が流そうとも俺が突っ込ませてもらう。  
 何せこっちは貞操の危機に加え、あそこでさも当然のように緑茶をすする喜緑さんの前で公開羞恥プレイが  
行われそうな勢い、この絶望的な空気を払拭できるのならどんな事でもしてやろうじゃないか。  
 
「い──」  
「ところで長門さん、少し宜しいでしょうか」  
 
 出端をくじかれるとはまさにこの事か。俺の意気込んだ言葉に被るよう喜緑さんが口を開いた。  
「…………」  
 長門は視線だけ送り尋ねかえす。  
「さしでがましい事ですが、わたしか見た感じでは彼は自慰行為に乗り気では無いように伺えます」  
 意外や意外、青天の霹靂。まさか喜緑さんから助け船が出されるとは思ってもみなかった。  
 藁をも掴む気分で喜緑さんの言葉に頷く。そうだ長門、俺は今自慰という気分では  
「──これはわたしの勝手な憶測ですが、おそらく彼は長門さんにおかずになっていただきたいのではなく、  
長門さんに直接手淫や吸茎などをしていただきたいのではないでしょうか」  
 逆転サヨナラホームラン、何て斬新な学説でしょうか喜緑さん。信じた俺が馬鹿でした。  
長門は喜緑さんの方に顔を向け、次に俺を見つめてから小さく頷くと  
「理解した」  
 そのままそっと手を俺の股間へと差し延べてきた。  
 
 
 
 
 

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