「おまたせー!!さぁSOS団のミーティングを始めるわよ!!」  
 
 
放課後、部室にいつもの勢いで突入した涼宮ハルヒは、部室に誰も居ないことを見て取るや否や、  
自分が、「プツッ、サー」という終業ベルが鳴る前に放送機器の電源が入れられることによる  
スピーカーのノイズを聞くや否や教科書ノートを鞄に収納しつつ、キョンに  
「今日ミーティングだから遅れたら死刑よ!」と伝え、ベルが鳴ると同時に教室を飛び出して来たことを思い出し、  
他の団員がそんなに早く来られるわけないことに気づいた。  
 
 「ちぇっ、みんな遅いんだから」  
 
そして彼女は、キョンが今週掃除当番だったことを思い出した。  
 
 「遅れたら死刑なんだから・・・」  
 
と言いつつも、彼女の、彼が本当に死刑になったら自分は楔を抜かれた天守閣のように  
あっという間に崩壊してしまうだろう、という想いが、キョンの遅刻の度に死刑の恩赦が出ることを証明していた。  
 
 
 
いつの頃からか解らないが、キョンは、涼宮ハルヒにとって、次のような存在になっていたのである。  
 
      S≪K≦L   (ただし、K≡キョン、S∈∀同級生、L≡想い人)  
 
日本語に変換すると、彼女のとってのキョンは、任意の同級生より遥かに無視できない存在であり、  
想い人に限りなく近い、というか、想い人なのであった。  
そして、四月の入学以来、コンデンサーに蓄えられる電荷量のごとく、時間が進行するにつれ段々、しかも急速に、  
要するに指数関数的に、想い人に収束したのだ。  
この関係を表す式は、文系の私には微分方程式がサッパリなので割愛させて頂く。  
 
閑話休題  
とにかく、彼女はキョンが好きになったが、その想いを伝えるまで至っていない。  
何を言いたいかというと、涼宮ハルヒは、想いを伝えられないことが原因で、たまに  
「空気を抜く」ことが必要な状態にあるということだ。  
 
 
 「まだ誰も来ないよね・・・」  
 
 
 
ハルヒは、パソコンを立ち上げると、小文字のEが描かれたアイコンをダブルクリックし、ホームページに設定してある  
SOS団のカウンターに貢献したあと(あと少しでキリ番だ!)、手馴れた手つきでURLを入力する。  
そして、英語のサイトが表示された。  
 
 
"This page is for ADULT only. Are you an adult? Yes/No"  
 
 
要するに、涼宮ハルヒは、海外の成人向けサイトを閲覧しようとしているのである。  
ここで、どうして教育機関のパソコンから海外のアダルトサイトにアクセスできるか疑問に思った方がいるかもしれない。  
詳しい経緯は省略するが、校内でこのようなサイトに接続できるのはこのパソコンだけで、コンピ研部長がセクハラ写真で脅されて  
仕方なく接続可能にした、というのが真相だったりする。  
 
 
そして、彼女は、古泉だったら数えていたかもしれない、生涯何千回目かの嘘をついた。  
 
 
 「・・・はあっ・・・あぁん・・・・・・あはっ・・・」  
 
顔が僅かに紅く、息遣いも少々荒い涼宮ハルヒは、パソコンの椅子に、ふんぞり返ったような格好で座っていた。  
無論、威張っているわけではない。  
むしろ見つけられたら威張ることなど到底不可能な行為をしているのだが。  
 
 「や…ぁ……あっ!あん……キョン…はぁっっん、ん…っ、ぁ…」  
 
彼女の右手は鼠径部にのびており、そこを隠すべき青い布は  
彼女自身によって捲られ、そこを覆うべき白い布は取り払われていた。  
赤子の頭のような薄らとした黒に覆われた秘所は、普段触れることの無い外気に触れたせいか、  
はたまた彼女の繊細な指に這われたせいか、じわじわと湿りつつあった。  
 
コンピ研から強奪したパソコンの液晶ディスプレイに表示されているのは、  
外人のグラマーな美人が、筋肉隆々な男の剛直に貫かれている写真だった。  
 
 
 要するに、涼宮ハルヒは、自慰行為を、行って、いる。  
 
 
 
一言申し上げると、涼宮ハルヒは他人の性交を見て発情するような単純なことはしない。  
 
涼宮ハルヒの優れた脳、即ちSSブレインの中では、  
写真のグラマー美人は彼女自身に、  
筋肉隆々男はキョンにそれぞれリアルタイムで脳内変換され、  
なおかつ動画化の上、サンプリングされた音源を元にフルボイス化されているのである。  
さすが情報統合思念体が目を付けるだけある生命体、凄まじい想像力だ。  
 
そして左手は、器用に右利き仕様の光学式マウスを操作している。  
ブルーメンフェルトの左手のためのエチュードをホロヴィッツ並みとはいかないまでも  
相当な勢いで弾けるほど左手が回る彼女にとって、マウスを左手で操作することなど朝飯前なのだ。  
 
 
やがて彼女の指は硬く充血した突起を捏ね回し始めた。  
 
 「あっ!あっ!あぁん……はあっ!…ぁあ・・・」  
 
軽く絶頂を迎えた彼女は、続いて中指を蜜壺に差し込んだ。  
 
 ねちゃり。  
 
すでに十分すぎるほどの量の蜜を湧出していた快楽の壺は、何の抵抗もなく彼女の細い指を受け入れる。  
 
 「ひゃあっ!ああ……んっん………はぁん…」  
 
ハルヒは柔軟に手首を使い、中指を往復させ始めた。  
クチュクチュ、と卑猥な音を立てる。  
 
しかし、直ぐにそれは止まった。  
 
ハルヒがこうして自慰行為をするのは2,3回目のことではない。  
回数を重ねるにつれ、中指では満足できないようになって来ていた。  
代わりになるものを探すべく、部室にある備品をトレースする。  
 
 
そして、それは見つかった。  
 
 
岡部のせいで随分掃除が延びてしまった。  
ハンドボール馬鹿の他に掃除馬鹿というあだ名でも献上してやろうかと思う。  
さて、授業終了から20分も経過している。  
ハルヒに殺されるところまではいかないにしろ、何らかの懲罰を受ける可能性がある。  
今月は財政状況がソ連崩壊直後のロシアに匹敵するほど悪く、寒い。支出は極力避けたいところだ。  
それならまだいい。  
例えば、朝比奈さんがとばっちりを食うような状況は、男として断じて避けなければならない。  
ハルヒは、不機嫌だと朝比奈さんに対する態度が随分変わる。いわゆる「いじめ」モードである。  
朝比奈さんをハルヒの不満の捌け口にするわけにはいかない。  
 
とにかく、急ごう。  
 
そんなことを考えつつ、俺は小走りで男子トイレに入っていった。  
誰も居ない。  
温泉で他の客が居らず貸切になった状態を思い出す。  
 
さて、突然だが、本当に突拍子も無いことを言おう。  
放尿で快感を感じるのは変態だろうか?  
変態とまでは行かないにしろ、何とかフェチに分類されるのだろうか?  
 
しかしそういう分類は勘弁願いたい。不可抗力である。  
何しろ、30分ほど我慢していたのだから。もはや膀胱の限界、安全弁作動寸前である。  
まあ、スリーマイル原発の圧力逃がし弁みたいに開きっぱなしな状況にないことは、感心である。  
素早くファスナーを開放し、構える。  
バルチック艦隊に打たれつつじわじわ接近する戦艦三笠の主砲砲手のごとく待たされたおれは、  
司令長官の砲撃命令が脳から発令されるや否や、電光石火で前立腺を緩めた。  
 
 「うっ………はあ・・・・・・」  
 
とにかく、童貞の俺にとってはオナニーに次ぐ極上の快感だったのだろう。思わずため息をつき、目を閉じた。  
 
 
普段なら真っ暗に見えるはずの俺の瞼の裏側。  
そこに、涼宮ハルヒが、いた。  
 
「あはん!だめっ!はぁん……キョン……や…ぁ……あっ!あん……キョン…はぁっっん、ん…っ、ぁ…」  
 
 
なぜここで、我が親愛なる独裁者が、脳裏に、しかも裸で、性交の相手として、出てくるのか。  
深層心理とか何とか、そういうものか?  
 
表層的には朝比奈さんファンだけど、心の奥底に、ハルヒに対する純粋な想いが隠れていて、  
普段は彼女の行動のせいで隠れてしまって出てこないが、何か「鍵」になるもの、そうだ、  
この快感によって、奥底に隠れたものが展開されたというのか。  
 
……まあ、そんなところか。妙に納得。案外本当かも。  
いかれたところはともかく、容姿知性体力全てのバランスがあのような高度なレベルで拮抗し合っている女性を、  
俺は見たことがない。驚異的という点では、ゼロ戦に初めて出会った米海軍の戦闘機パイロットに状況が似ている。  
 
そして、何より。  
俺は、ハルヒが、好き、だったんだ。  
今、初めて気づいたこの感覚・・・・・・  
 
そして、米海軍がゼロ戦の全てを知ったのは、  
彼らが「その手で、直に」ゼロ戦を調べることが出来てからだった。  
 
彼女だったら、抱いてもいい。  
彼女の全てを知りたい。  
 
そんな願望は、目を開けた途端、現実に変わった。  
 
涼宮ハルヒは、小刻みに震えている手に握った、あるものを凝視していた。  
机の上に置いてあったそれには「団長」と書かれている。  
親戚筋は皆エジプトあたりに住んでいる、と説明すべきか。  
要するに、「角錐型のあれ」である。  
 
 (これなら、使える!)  
 
もはや発見の喜びだけで逝ってしまいそうだ。  
ごくり、と唾を飲み込む。  
彼女はゆっくりと、角錐の頂点を秘所に当てる。  
 
ぬちゃり。  
 
痛くない程度に、ゆっくりと入れたり出したりを繰り返す。  
 
 「あっ……あっ……ハッ…キョン…ぁあん…」  
 
そのピラミッドの親戚は、ハルヒに強烈な快感をもたらした。  
この○○○○、当たりだぜ!!  
そんな台詞が、頭をよぎった。確か分厚いメガネをかけた、働き者のチビ爺さんだったな…  
彼女の脳裏に浮かんだ鼠のような容姿は、すぐさまキョンのイメージによって塗りつぶされた。  
 
 (キョン・・・・・・キョン・・・キョンに犯されたい・・・・・・・・・)  
 
目を閉じる。  
 
目の前には裸のキョンがいた。  
「角錐形のあれ」は、キョンの凶暴そうな剛直にすり替わっていた。  
もはやこの段階まで行くと写真の助けは必要なく、脳内の情報のみによって、キョンと自分の性交を、  
緻密に構築することができる。  
 
 「あはん!だめっ!はぁん……キョン……や…ぁ……あっ!あん……キョン…はぁっっん、ん…っ、ぁ…」  
 
 (キョン!キョン!今すぐ…私を……抱いて欲しい…)  
 
キョンへの思いをそのような形で初めて明文化できたのは、七夕の時だっけ。  
もう十数年後に叶えたい願いだと思ってたけど……  
 
 
今すぐ、欲しい。  
彼が、欲しい。  
 
 
目を開ける。  
 
彼女は、物理法則を超越した。  
 
 
 
 
 「「…………っ!!」」  
   
さっきまでは、目を閉じた状態で相手の姿が見えていた。  
現在は、逆である。  
 
 ((これは、夢?))  
 
二人とも、目をぱちくりぱちくりさせている。  
どうやら、夢ではないらしいことが解ると、彼らは、今現在部室に居て、裸で、パソコンの椅子のところで、  
抱き合っていることを、視覚的、触覚的に理解した。  
 
 「キョン…」  
 
 「ハルヒ…」  
 
服は………あった。なぜか机の上に丁寧に畳まれている。  
たった今あったことについて、長門に小一時間ほど説明を求めたい状況だが、  
彼女が三年前に世界を創造したように、たった今、愛し合う二人が互いの肉体を貪りあっていた、という事実を作り上げた、  
ということにしておこう。  
 
 「キョン…あたしキョンが好き。愛してる。」  
 
 「俺もだ…どうして今まで気づかなかったんだ?」  
 
 「ちゃんと言って、『愛してる』って」  
 
 「愛してる」  
 
 「……」  
 
 「ねえ、どうしてこ」  
 
 「それは棚に上げておこう」  
 
 「……うん」  
 
まるで先ほどまで愛し合っていたように、行為を「再開」した。  
 
 
 
 
 「二人の関係が、新たな局面に進行した」  
 
 「えっ!それって……あ……そんな…」  
 
 「まさかこんなに早く進行するとは……お二人が若い証拠ですね」  
 
 「古泉さんっ!!」  
 
 「すいません、つい……とりあえず、お二人には、部室の前で聞いていたことは黙っておきましょう」  
 
 「同意。それが最善。でも……」  
 
 「でも?」  
 
 「変な気分。不機嫌。これは人間のもつ『嫉妬』という感情なのか」  
 
 「「ええーっ!」」  
 
 「防衛本能。気づかないフリ。」  
 
 
まあ、いやでも次の日に気づかされるのだが…全校周知の事実として。  
ハルヒがキョンとの関係を全校に周知するために起こした騒動もあるのだが、これはまた別の話である  
 
終わり  
 

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