俺は常々思っていた。周囲の目を気にしないということは、周囲の人間を人間だと認識
していない証拠なんだと。それこそイモかカボチャ程度の認識。
数学の授業がもうすぐ終わる。次の体育で午前中、最後の授業となるわけだが、俺た
ち男子はこの授業が終わると同時に隣のクラスに走らなければならない。
ハルヒが服を脱ぎ出すからだ。ストリップ嬢ですか。
しかし、毎度の事とはいえ面倒だ。本来、遣う必要のない気を遣わなければならないん
だからな。このクラスにいると過度に神経をすり減らしてしまう。もとい、ハルヒの側にいる
とだな。
だが、ここに秘策があった。数日前に撮影したハルヒの大股開きの画像だ。俺はこいつ
をパソコンに転送して印刷して大事に家で保管している。もちろん、携帯にも保存したまま
だ。と、脅迫するわけではないんだが、ハルヒに何らかのリアクションを期待しているのは
確かだ。あれから数日が経っているが、今のところ目立った変化は見られない。
チャイムが鳴り、教師が慌てて話をまとめ、そそくさと出て行く。一般的なクラスであれば、
ここで生温い空気が流れ出すのだが、俺たちのクラスは今こそピリピリしている。
「なあ」
俺はやおら振り返りハルヒに話しかけた。
「……なによ?」
ハルヒは体操着の入った可愛らしい袋を手にしたところだった。こいつは、その内面の突飛
さを考慮しなければルックスに関しては文句なしだ。あまりじっと見ているとこちらも緊張してくる。
「男子が出るまで着替えるな。少しは待ってくれてもいいだろ?」
「そんなの私が知るわけないでしょう? キョンの指図は受けないわよ」
相変わらずの毒舌だ。
ハルヒがセーラー服を脱ごうとするので、俺はハルヒの耳元でこう囁いた。
「あの時の写真、よく撮れてるぜ?」
ハルヒの顔が強張り手を止める。その後、
「……さ、さっさと行きなさいよ」
それだけ言うとハルヒは、自席に踏ん反り返った。
「一体、どんな魔法を使ったんだ?」
教室を出て谷口が感心したように言った。
「まさか脅迫でもしてるんじゃないだろうな?」
国木田がまさに真実を言い当てる。俺はそんな二人に笑いかけながら、
「あいつを脅迫って、どうすりゃ実現するんだよ?」
そう言うと二人とも「そりゃそうだ」と首を縦にふり納得していた。
写真のことを仄めかしてやるとハルヒは存外、反論しなかった。
俺の予想では「勝手にすれば?」とか「やれるものならやってみれば?」みたいな強気な
構えを期待していたのだが、ハルヒは俺の脅迫に恐れをなしたのだ。
羞恥心の欠片も見られないあいつがである。
奇妙に感じながらも俺は、その違和感の正体を掴めなかった。
放課後――部室で朝比奈さんの入れたお茶をすすっていると、ノックの後にドアが
開いて、剥きだしの白い歯を煌かせながら古泉が入ってきた。ちなみに、長門は部室
の片隅で広辞苑みたいに分厚い本を異常なまでのスピードで読んでいる。
ページのめくられる間隔がどうにもうそ臭い。
「あれ? 涼宮さんは?」
朝比奈さんに手渡された湯飲みを「どうも」と受け取り古泉が俺の隣まで歩いてきた。
「さあね」
部室に行こう、と誘うと「一人でいけば?」と冷たくあしらわれた俺は一人でこの部室
を訪れていた。
「あ……そういえば、最近の涼宮さんって変なんですよねぇ」
朝比奈さんが指を口元に当てながら思い出したように呟いた。
「また何か企んでいるのでしょうか?」
古泉が唸りながら考え込む。
「長門はどう思う?」
俺が訊くと、隅っこでじっと身動き一つしない長門がロボットのように頭だけを上げた。
「……特にイレギュラーは見られない。いたって平穏」
それだけ言うと再び何千ページあるかも判らないハードカバーに視線を落とした。
「ちょっと教室見てきます」
「そうですか? じゃあ、お願いしますね、キョン君」
微笑む朝比奈さん。いつだって彼女は可憐だ。
「くれぐれも、おかしなことは吹き込まないでくださいよ?」
古泉に念を押された俺は部室を出る前にこう言ってやった。
「何があいつに影響を及ぼすのか、俺が知りたいぐらいだよ」
窓の外には赤い空。薄い青と薄い赤が曖昧な色合いで重なり合っていた。それなりに
時間が経っていたので廊下にはもはや人の気配はなくなっていた。
「おい、何やってんだ?」
ハルヒは自分の席に座り、肩肘をついて窓の外を眺めていた。どこかの少女漫画の
主人公みたいなセンチメンタルな後ろ姿――だが振り返ると仏頂面のハルヒ。
俺が脳内に構築した儚い少女のイメージは僅かな時間で崩れ去った。
「部室に顔も見せないで何やってんだ? 白馬の王子様でも待ってんのか?」
ハルヒは「馬鹿じゃない」と冷たくに言い放ち、席を立った。乱暴に鞄を掴み、歩き出そ
うとしたので俺はハルヒの腕を掴んだ。
「……なによ……ううんんん!?」
教室内には俺たちしかいないわけで……だから、心の表面がぞくりと震えた瞬間、
ハルヒのやかましい口を塞いでいた。こういう感情を何と言うのだろうか。ともかく、舌を
捻じ込み、逃げ出そうとするハルヒの体を両手で掴んで抱え込んで、同じように逃げ出す
ハルヒの舌を自分の舌でからめとる。
「……ん……ん……ふあぁぁん……」
解放してやるとハルヒは床にへたれこんだ。
いけない。またやってしまった。
だけど、衝動的に体が動いてしまうんだ。それにハルヒだって嫌がってなかったし。
「……どうして……こんなことするの?」
おかしな質問だと思った。ハルヒの表情にはまだ余裕みたいなものが残っていた。
思えば、冗談から始まったような気がする。
けど、それに乗じたハルヒが今更何を言っているのやら。
「とりあえず、体操着を着てくれ。話はそれからだ」
「……何言ってんの? 気でも狂った?」
「いいから、それ着ろよ。いつも平気で着替えてるだろ?」
「今、着替える必要なんてないでしょ」
朝比奈さんには平気でコスプレさせるのにな。
「だいたい、こんなの着てどうしようっていうの?」
ハルヒが袋から体操着を取り出し机の上にばらまいた。
上は紺色のラインが入っただけのノーマルな作り、下はスパッツだ。
「着たままやるに決まってるだろ?」
「……や、やるって……そ、その……って何言わせる気よ!」
言わせようとした覚えはないぞ。勝手に暴走するなよ。
「四の五の言わずに着替えてくれ。こっちも暇じゃないんだ」
ズボンから一枚の写真を取り出す。密かに携帯してたりする。
「……卑怯者!」
何とでも言ってくれ。
俺は口を閉ざし、黙殺を決め込んだ。
徐々に無言の圧力が効果を発揮し出す。ハルヒは今にも逃げ出しそうな弱気な表情
で――しかし、体操着に手をかけた。こちらを上目遣いに見ている。
これだ……この表情が見たかったんだ。ハルヒに対して覚えるこの優越感がたまらない。
ハルヒを屈服させることが、これほどの快感を伴うなんてな。この前の部室での一件で
感じた、背筋のゾクゾクする感情の正体はこれだったのだ。
「ん?」
ハルヒがスカートを穿いたままスパッツに手を伸ばそうとしたので、俺は片手でそれを
制止した。ハルヒはこちらを睨んで「……何よ?」と低い声で呟いた。
着替える作業に没頭する余り、自分の立場を忘れてしまったようだ。
「スカートをちゃんと脱いでから穿けよ」
「……わ、わかったわよ……」
俺の言葉に従うハルヒの表情はまるで捨てられた猫のように悲壮感に満ちていた。
スカートがするりと床に落ちる。
「白だな」
俺はどこかのマンガの主人公みたいなセリフを吐いた。ハルヒの顔が赤く染まる。
ついでに上も脱ぐように命令する。下着姿+黒ハイソというマニアックな格好になった
ハルヒは俺の次なる命令を待っているようだった。
窓の外でカキーンという金属音が響いた。野球部の掛け声も教室まで届く。
とりあえず体操着を装着させた。そう、装着なんだ。
「よし」
放課後の教室に体操着姿の女子高生。もう、これ以上のシチュエーションはあるまい。
しかも、こちらの命令どおりに動くのだから信じられない話だ。
考えてみれば妙だった。目の前で繰り広げられる現実が脅迫の恩恵だとは到底思えない。
ハルヒならこの程度の辱め、なんとも思わないはずだから。どういう思惑があるのだろうか?
それとも単に何も考えていないだけ? 答えはどこにもなかった。
余計な思考を排除し、ハルヒに手を伸ばす。俺は椅子に座ってハルヒをそのまま招き寄せた。
ハルヒが俺の膝の上に乗っかり、またがる格好になる。お互い向き合った状態でさらに密着する。
そこで重大なことに気づく。
Q:スパッツでどうやって挿入すればいいのデショウカ?
どこからか片言の外人が俺に質問を投げかける。
ふむ、確かにスパッツでは挿入が難しい。うちの学校のスパッツは膝まであるから、俺の
モノをそこから挿入したって絶対に届かない(つーか、物理的に不可能だ)。
しばしの勘考――だが、難局打開の妙案は浮かばない。
ハサミで切ると後々困ったことになるし(やけに現実思考)、かといって俺の息子は、
これ以上の成長は期待できない。
……ああ、閃いたぞ。
A:そこでブルマーですよ。
どこぞの掲示板風にグッドアイデアが浮かぶ。
確か、谷口の野郎がブルマーを所持していたはずだ。しかも、俺はその隠し場所さえも
知っている。谷口は馬鹿なので、不用意にも自分のロッカーにそれを仕舞っている。
俺は素早く谷口のロッカーを漁った。鍵も机の中にあったので拝借。
え? やけに強引な展開だって? まあ、気にするなって。
「……そ、それ……」
ハルヒが驚愕の表情を浮かべ、俺が右手に持つブルマーを見つめていた。
「よろしく」
万遍の笑みを浮かべそう頼んだ。ハルヒは青い顔でこくりと頷いた。逆に不気味に映った
らしい。結果オーライだ(ブルマーの妄想にふけってニヤけていただけなのだが)。
――選手の交代をお知らせいたします。スパッツに代わりましてブルマー、ブルマー。
俺の頭の中だけで木霊する選手交代を告げるコール。
ここまで来たら、やるところまでやるしかない。
再びハルヒの体を持ち上げ、膝の上に持ってくる。
腕の中にすっぽりおさまるハルヒは目を細めてこちらを見上げていた。体操着越しでも、
体の起伏が分かる。
こいつの穴は俺のモノを挿入するためにあるのではなかろうか?
そんなとち狂ったエゴと支配欲が俺を操作する。
体を一度持ち上げ、ブルマーの隙間から挿入を試みようとする。
あ、前戯なしだけど――ま、いいか。
「……あ、ちょっと、まって……!」
「なに?」
止まる。そのままの体勢でハルヒに訊くと、
「きょ、きょうはやっぱり……」
今更、拒否? どういう了見だ?
……いや、待てよ。
俺は一旦ハルヒを椅子から降ろし、立ち上がった。その椅子にハルヒを座らせる。
さらに、無理矢理足を開かせる。
その開けた空間に俺は突撃した。竹やりを持った日本兵のごとく!
「……きゃ……なにっ!?」
股間を調査する。すぐに判明した。
隊長、タンポンを発見しました!
心の隊長が親指を立てて俺に向かってウィンクしたように思えた。
「……だ……から、嫌だって……」
ハルヒがマジ泣きしそうだ。さすがのハルヒも男に生理的な(つーか、生理だけどな)一面を見られたことに対するショックは大きいらしい。
そりゃそうだ。俺だって、誰かにオナニー覗かれたら死にたくなるだろうし。
「白けたな」
そう呟くと曇っていたハルヒの表情が僅かに晴れたような気がして――だから、
俺は再び思考を歪めた。
歪め、閃き、歩み、微笑みかけた。
「なあ、ハルヒ……これさ、途中で切ったらどうなるか知ってるか?」
「……え? 途中って……なに……を?」
「だから、これ」
ひょっこり顔を出すタンポンの先――つまり紐の部分。
「これさ、切ったら面白いことになるんだよなー」
引き抜くために必要なこいつを途中で切ると――。
「……だ、だめ! そんなことしたら……」
自力じゃ抜けなくなるんだよ。病院に行って「タンポン抜いてください」ってな羽目になる。
想像しただけで笑える。
「冗談だよ。けど……それじゃあ尚更、つまんねーよな?」
ハルヒの耳に手を伸ばす。そのまま指を滑らせ頬を撫でる。
「ど、どうすればいいの……?」
逃げることも選択肢の一つにあるというのに、ハルヒはそれを実行しようともせず、
ただ俺からの言葉を律儀にも待っている。
「後ろで」
「……う、う、うしろで!?」
こいつ一言で意味を察しやがった。わりと性知識は蓄えているのかもしれない。
「ば、ばかじゃないの! そんなこと出来るわけじゃないでしょう!」
「……するんだよ」
「――んんんん!?」
唇を強引に塞ぎ、舌も捻じ込む。唾液を交換し合いながら、ハルヒを窒息させる
ぐらいの心持で数分間、夕暮れの教室で貪りあう。
至福の時とはまさに今、この瞬間だろう。
それにしても、俺ってだいぶキャラ変わってきたな。ま、その辺は気にするなよ。
後背位でやることに決めた俺は、ハルヒを机に覆いかぶせ、尻をこちらに向けさせた。
ブルマーを剥いで下着も剥いで、おもむろに挿入を開始する。
「……い、いったああああぃ!! ちょっと、やっぱり……むり……だって……」
あー、前戯してねー。やはりというべきか不都合が生じた。
止める。代わりに人差し指を突っ込む。一本ぐらいなら平気そうだ。
「……あっ……なんか……変な感じ……」
そりゃ変だろ。アナルだし。
徐々に馴染んできたようなので中指を追加してみる。ハルヒは体が柔らかいのか抵抗感が薄い気がする。他の女がどうなのかは知らないけど。
「……あっ……あっ……あっ……ああああっ……イク!!」
一際高い声で絶叫したハルヒは――どうやらイったらしい。
「うわ、マジで? もう? しかも、尻でイった?」
薄ら笑いを浮かべながらハルヒに訊くが、気が高ぶっているのか、荒い息を教室中に
響かせながら、もはや机に突っ伏した。
「……へばるな、これからが本番だぞ」
床に垂れる愛液と紅い雫が生々しい。俺はハルヒを机の上に仰向けに寝かせた。
ちょっと微妙に位置は違うが狙いを定めて挿入開始。
「……あぅ……ん……ん……はぁぁぁっ!!」
「今日は……誰も来なきゃ……いいけどな……」
部室に置いてきた三人が気掛かりだった。一応、ハルヒは監視されている身だし、俺も
要注意人物らしいからな。あれから三十分は経過している。施錠のため見回りに来る教師
だっているかもしれない。ま、関係ないけどなぁぁ!!(壊れ気味)。
「……あんあんあんあぁぁあんっ!!」
「そろそろか……?」
「……う、うん……お尻で……お尻でイっちゃうー!!」
パンパンと肉のぶつかる音が俺の興奮をさらに高める。
ハルヒの妖艶な絶叫は隣のクラスどころか、学校中に響き渡っているのではなかろうかと
心配になるほどだったが、その艶かしい声がまた俺を勢いづけさせる。
「あっ……あっ……あっ!! イクイクイクイクゥーーー!! イクゥゥゥ!!」
どうやら先に絶頂に達したらしい。ちなみに俺はまだだ。さらに畳み掛けていく。
「……キョン……私、もう……ああああ……また……またイクぅぅ!!」
ハルヒはイった直後で敏感になっているのか、すぐにまた絶頂に向かう。
「……そ、そろそろだ!」
「あっあっあっ……イクイクイク……イックゥゥゥゥ!!」
白濁液を注ぎ込む。止め処ないその勢いにハルヒが体を震えさせ同時に何度も達する。
ハルヒの腕がぎゅうっと強まる。暑苦しいが悪い気分ではない。
だが――理性が遠のくと、急に罪悪感が立ち込めてきた。
これが俺の望んだことなのか、と。
ハルヒが制服姿に戻る。
日常が戻ってくる。
「……私、帰るね」
表情は暗くもないが明るくもなく、一言で表現するならば無いと言ったほうが正解だろう。
去っていくハルヒ、その背中がやけに寂しく思えた。
誰もいなくなった教室で自分の奇行を思い返し、何故ハルヒが怒りも泣きも笑いもしな
かったのか、それを考えた。けど、答えは見つからない。
ここにハルヒがいないからだ。
−たぶん続く−