朝、雲一つ無い澄み渡った青空に俺は柄にも無く感動してしまった。
これで雨が降ってさえいなければ文句のつけどころが無かったのだが、さてこの文句はどこにつければいいものかね。
「おやおや、そこを行くのはキョンくんじゃないかいっ?」
と鶴屋さんに声をかけられたが、これは鶴屋さんではなく鶴屋さんに化けた朝倉である。
「キョンくん濡れてるねぇ。風邪ひくよっ?」
そう、俺は晴れていたので傘は持って来ず、今も晴れているのだが、雨足はどんどん強まって今や豪雨と言ってもいいくらいになっていて、俺は滝に打たれる修行僧の気分を満喫していたところだった。
朝倉はと言うと、膝まで届く長い艶やかな髪を丹念に編み上げて笠にしていた。
「ちょう……たし…りた…みがさ……てるんさ…」
こうしてる間にも雨はどんどん強まって、その音で目の前の朝倉の言葉も聞き取れない。
朝倉は突然、鞄の中から刃渡りが三十センチ以上もあるナイフ――というか短剣だな――を取り出したので俺は肝を冷やしたが、朝倉はそのナイフを情報操作して瞬く間に折り畳み傘にしてしまった。
それを俺に渡すと、朝倉は「じゃーねー!」と言って立ち去った。
朝倉が去った後も俺の肝は冷えたままだったので、俺は肝を暖めるべくコタツに入った。
正月の特番を見ているうちにウトウトしてしまったらしい。目が覚めたのは大型トラックが俺のコタツを破壊した時だった。やはり車道にコタツをセッティングしたのは間違いだったか。
いつの間にか雨は夜更け過ぎに雪へと変わっていたようで、ギラギラと眩しい真夏の陽射しがアスファルトを灼いていた。
やれやれ、あのままコタツに入っていたら体中の水分を絞り出されて干物になっていたところだ。やはり車道にコタツをセッティングしたのは正解だった。
そうだ、思い出した。俺は学校に行かねばならない。俺はふと思い立ち、いつものハイキングコースをケンケンで登ることにした。
すると後ろから谷口がムーンウォークで追いついて来て、「遅刻しそうだ」などと吐かしやがったので俺は谷口にジェットエンジンを装着してやり、学校方向へ向けて発射してやった。
周りの女子生徒が何人か喝采を挙げたのが気持ち良かった。
着地の保証は出来ないが、谷口が人並みの運動神経を保有していることを祈るばかりである。
慣れないケンケンのおかげで学校に着くのに一週間もかかってしまい、その頃には右脚が左脚の倍くらいの太さになってしまっていたが、なんとか遅刻はせずに済んだようだ。
教室に行くと何故かミイラ男が居た。太古の王墓から蘇ったのだろうか。ハルヒが大喜びするだろう。
国木田はセーラー服を着て、女子たちとコスメの話で盛り上がっていたので、とりあえずおはようのキスをしてやった。
「谷口は来てないのか?」
「谷口? ああ、そういえば見てないね。遅刻か、さもなければエスケープかな」
全く、せっかく人が間に合うように便宜をはかってやったと言うのに。人の好意を無にする奴め。
とりあえずミイラ男を掃除用具入れの棺桶に封印して、俺は席に着こうとした。着こうとした、と言うのは、俺の席には先客が居たからだ。
ハルヒと佐伯、阪中、瀬能が四台の机を合体させて麻雀に興じていた。どうやら、ハルヒが八連荘をかましたところらしい。
「あ、おはようキョン!」ハルヒが言った。
こんなどんよりと曇った日でも、ハルヒの満天の笑顔を眺めれば俺の心は晴れ晴れとしちまうのさ。
だから俺はいつものように言った。
「おはよう、ハルヒ」
-End-