「有希、ちょっとちょっと」  
 ホワイトボードの前でハルヒが手招きしている。  
『ったく人が読書中だってのによぉ邪魔すんじゃねえよいつもお前の我儘に付き合わされてるこっちの身にもなってみろよ張っ倒すぞ』と内心思ってるかどうかは知らないが、呼ばれるままハルヒの方へ近付いて行く。  
「ちょっとここ立って。んーんこっち向きで」  
 
 キュポン キュッキュッキュッ  
 
 ハルヒがホワイトボードの長門の顔の横あたりに、Mを横にしたような、っていうかギザギザの線を書き入れた。  
「キョン、見て見て! じゃじゃじゃじゃーん! どう?」  
「……どうって言われても、お前が何をしたいのかがわからん」  
「あたしさー、一回でいいから有希のびっくりした表情を見てみたいと思って、実際過去何度か勇猛果敢にチャレンジしてみたんだけど、いずれも敢え無く撃沈したもんで、今回このような最終手段に訴えてみました」  
「……ああ、そう」  
「何よそのリアクション! 腹立つわ!」  
「だってお前……それじゃ長門がびっくりしてるわけでもなんでもないし、だいいち表情は変わってないだろ」  
「んでもびっくりしてるように見えない?」  
「……あー、確かに」  
 口論するのも面倒臭いので同意しておくことにしよう。  
 ま、こんなくだらないことでハルヒが満足してるうちは世界は安泰だし、長門が実際にびっくりした表情を見せる時は世界が崩壊の危機に晒された時であって、そんなものは見たくない。  
 
 
 ――翌日  
 
 
「キョン、キョン、キョーン!」  
「なんだお前はうるさい。ジャングルの奥地に居る野鳥か?」  
「見て見て!」  
 長門の背後には、今度は記号でなく、ひらがなが四文字書かれていた。かわいらしい丸文字で。  
「『うきうき』してる有希。どう?」  
「……それはちょっとかわいい」  
「でしょっ?」  
 
 

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