さて、これはとある高校の生徒会長と書記でありまた全校公認のバカップルでもある二人組が、自称でもそうなる事になってから数時間後のお話である。  
 
1.  
 
 喜緑江美里は会長の部屋のベッドの上に座っていた。これは彼女が会長の告白を受けた後、泣きながら彼の胸にしがみつきそのまま離れなかったせいであり、決して彼の下心の結果というわけではない。愛という字は真心だ、という言葉の通りである、多分。  
 江美里が彼女にしては珍しくベッドの上で何もせず呆けていると、飲み物を持った会長が部屋に入ってきた。  
「落ち着いたかね、喜緑くん」  
 江美里はコップを受け取り、しかし口をつけずに、ただ彼の顔をボウッと眺めている。ふわふわした浮遊感がずっと続いているようだ。恋愛初心者につきものの自己世界への旅立ちというやつなのだろう。  
「うん、どうしたんだね。睡眠薬はまだいれていないよ」  
 ………ちなみにではあるが、恋という字は下心、という言葉もある。フォローにはなっていないが。  
 恋する乙女のアッパーカットで意識を刈り取られてベッドに沈む馬鹿。………一つ言葉を送ろう、空気を読め、と。  
 
 
(えっと、どうしましょうか)  
 ベッドで幸せそうに眠っている(眠らされていると言った方が正確ではあるが)会長を眺めながら江美里は考える。何となくだがこういう事で思念体からの情報ダウンロードは行うべきではないような気がする。  
 そう思った彼女は、自己データ内に存在するクラスの人間の会話やたまたま目に入った本の内容を一つ一つ検証していく事にした。  
(こういう時、恋人同士がする事といえば………)  
 いきなり顔が真っ赤になる江美里。いろいろと有害指定な事を想像したようだ。彼女の起動した日からの期間を実年齢とするならば、『耳年間』というやつにあたるのだろう。  
(ああ、そういう事はまだ早いですけれど、………キス、くらいは)  
 このままだと意識を飛ばしておいて無理矢理奪ったそれが、二人のファーストキスということになってしまうのであるが、不幸な事にそのような事をつっこんでくれるいつもの後輩はここには不在であった。  
 
 二人の唇が軽く触れ合う。  
(え、何?)  
 瞬間、江美里の頭は真っ白になった。  
「ふっ………んっ……んちゅっ」  
 そのまま二度、三度と触れ合うだけのキスを繰り返す。触れ合うたびに脳髄が芯からしびれていく感覚に襲われる江美里。どうやらかなり感じやすいタイプのようだ。  
(もっと、深くに………)  
 上唇を甘噛みしながらそれに舌をはわせる。無い筈の甘みを何故か感じる。断続的なしびれ感は既に彼女のニューロン全体に回っており、正常な思考は不可能な状態である。  
 だから彼女は、確かな意思を持って突き出された彼の舌も、迷う事無く自らの口内へと受け入れた。  
 
「ふむ、ちゅぱっ………、ちゅぷっ」  
 そのまま口内で舌を絡めあい、卑猥な音を立てる。彼の手がいつの間にか背後に回りこみ、江美里の頭を固定しているのだが、彼女はそれにすら気付かない。既に意識はキスにしかないのだ。  
「んくっ、……ちゅ、…コクン」  
 歯茎をなぶる。頬の裏をこする。口腔内の全ての場所から彼の液体を集め、嚥下する。体の感覚は舌以外大部分が麻痺している。舌は全身に、全身は舌になる。『全身』を使って彼を感じている。  
「ふっ、んっ、ふっ、ふっ」  
 お互いに動きが激しくなる。『全身』は既に感じるままに求め合うだけの肉の塊。呼吸のため離れようとした相手を追いかけ、捕まえる。呼吸のため離れようとしたところを追いかけられ、捕まる。  
「ふむっ! んちゅ、……はむっ」  
 頭がボーとする、酸素が圧倒的に足りていない。心が乾いている、彼が全然足りていない。  
(わたしは、彼が欲しい)  
 酸素を拒絶し、彼の舌を、彼だけを求めて動く江美里。彼もそれに答える。  
「ふっ、むっ、ん、んちゅ、ちゅる」  
 静かな部屋の中、ただ粘膜同士が擦れあう淫らな音だけが響いていた。  
 
「ん、………あ」  
 一瞬意識がとぶ。酸素不足により脳が限界を迎えたのだ。江美里は力が入らずにそのまま彼の胸に倒れこんだ。  
「かはっ、げほっ、ごほっ」  
 肺が無理矢理に酸素を取り込もうと痙攣を起こす。そのためキスを続ける事はおろか、まともな呼吸を行う事すらできず、江美里は咳き込んだ。  
 見上げると彼も同じような状態に陥っている。胸に耳を当てるとすごく早くなった彼の鼓動が聞こえてきた。  
 何となくお互いに抱きしめあう。鼓動と温もりを感じる。始まりはいろいろアレだったが、まあおおむね成功といえるファーストキスだったのではないだろうか、………答えは彼等の中にしかないだろうが。  
 
 
2.  
 
「さて、一つ疑問があるのだが………」  
 会長がそう話を切り出した。  
「キスで死んでしまった場合も腹上死というのだろうかね?」  
 ………つくづく空気の読めない人である。  
 江美里はその言葉で今までの自分の行動を思い出し、実感し、  
(うわぁ)がすっ! 「ぐはぁ」  
(いやぁ)ごすっ! 「ぶるあっ」  
(ふあぁ)どごすっ! 「ぼぐるぁっ」  
 と、可愛らしい照れ隠し(相手にとってはわりと致死的な打撃)を行うのであった。  
 
 飛びそうな意識を必死に繋ぎとめながら会長は話を続ける。  
「いや、すまないね、喜緑くん。ここからは大事な話なのだよ」  
 そう聞いて、やっと江美里は殴る手を止める。………顔は真っ赤なままだったけど。  
「実はね、上手くは言えないのだが、その、………私は本当はこんな私ではないのだよ」  
 今の顔はとある目的のために作り上げたものであり本当の自分の顔ではない、と会長は言う。  
 既に江美里はそのことは知っていた。そしてこの期に及んでもまだ本当の顔を見せてくれない彼を少しだけ不満に思う。  
「では、本当の会長はわたしの事をどう思っているのですか?」  
 思わず意地悪な質問をしてしまう。  
「心の底から愛しているよ。この顔で言っても信じてもらえないかもしれないが、これが、これだけが、私の真実だ」  
 思いもかけずに返ってきた真剣な返答。それを聞いて顔に再度血が集まってくる、止まらない。  
 そんな顔を見られないよう俯いた彼女は彼の顔を見ていない、………泣き出しそうな彼の顔を。  
「情けない話なのだがね、私は恐いのだよ。本当の顔を見せてキミに嫌われるのが恐いのだ」  
 それが彼の悩み、彼の憂鬱の正体。  
 
 顔を上げようとした江美里は彼に抱きしめられる。そうやって自分の顔を見られない状態にしておいて彼は話を続ける。  
「すまない。今の顔は………、見られたくない。それで、喜緑くん、キミは………、こんな私を、嘘つきで弱い私を、………どう、思うかい?」  
 言葉は狭い部屋の中、小さく、弱弱しく響く。恋愛は人を弱くする。  
 江美里は考えた。  
(わたしは………)  
 ふと気付いたら、彼女の体が勝手に彼をベッドに押し倒していた。  
(………ならば、これが答えなのでしょう)  
 そう納得し、宣言する。  
「わたしは、どんなあなたからも、逃げません」  
 そして反論と、唇を塞ぐ。  
 彼はまだ、彼女に全てを見せたわけではない、けれど、  
(弱さを見せてくれたのは、前進したという事でしょう)  
 そう思うだけで彼女は嬉しくなる。そんな自分にあきれながら江美里は彼に話しかけた。  
「あなたが見せたくなった時に、全てを見せてください。………それと一つだけ、わたしも心の底から、あなたを愛していますよ」  
 言いながら江美里は覚悟を決める。恋愛は人を強くする。  
(いけるところまで、いってしまいましょう)  
 
 
「では、それ以外の全てをわたしに見せてください」  
 江美里のそんなセリフに顔に?マークを浮かべる会長。  
(えっと、何言ってんだ、こいつは)  
「具体的に言いますと『脱げ』という事です」  
 恋愛初心者のインターフェイスが暴走を開始したようである。  
(いや、まあ)  
 したくない、といえば嘘になってしまうだろう。目の前にいるのは大好きな女の子なのだから。  
「見せられるものは全部見せてください。………その、わたしも、全部、………見せますから」  
 真っ赤な顔で、潤んだ瞳で、そう宣言する江美里。  
「いや、喜緑くん。そのセリフの意味、分かっているのかい?」  
 いちいち聞きなおす彼、実にヘタレである。  
「はい、更に具体的に言いますと………、その、わ、わたしをあなたのものに、……して……ください」  
 女性にここまで言わせる男性というのはどうだろうか? ………夜道で刺されても文句は出るまい。  
 ヘタレも事ここに至って、ようやく覚悟を決めたらしい。  
「分かったよ、喜緑くん。今、キミに見せられる全てを見せよう」  
 そして今度は始まりを告げるキス。  
「とりあえずブルマとスク水は外せないだろうね」  
 ドゴスッ!  
 再度意識を刈り取られる馬鹿。………なんというかもう、フォローのしようがない。  
 
 
3.  
 
 二人は部屋の中で裸になって向かい合っている。  
 江美里は手で胸と秘部を隠し、恥ずかしそうに俯いている。いかにも初めてを感じさせる微笑ましさだ。  
 会長は何一つ隠そうとせず堂々と男性自身をさらしている。男らしいのかただの変態なのかは区別が難しい。  
「さて、喜緑くん」  
「ひゃ、ひゃいっ」  
 緊張のあまり受け答えがおかしくなる江美里。ただ、視線はさっきから彼の男性自身に固定されている。どうやら興味津々のようだ。  
「とりあえず、今からキミにエロい事をするわけなのだが」  
「うー、直球ですねー」  
「変化球が投げられるほど経験があるわけではないからね」  
「えっと、その事なんですけど、………わたしもこういう事は何も知らないんですけど」  
 彼女は結局思念体からの情報ダウンロードは最後まで行わない事にしたようである。  
「問題ないだろう。愛さえあれば、何でもできる」  
「いえ、その、あまり変態的なプレイは、ちょっと困るのですが」  
「はっはっは、またまたご冗談を」  
「………殴りますよ」  
 笑顔で拳を握り締める江美里。会長は慌てて言いなおした。  
「冗談だよ。うん、優しくする、約束しよう。………それと、愛しているよ、喜緑くん」  
「はい、わたしもあなたを愛していますよ」  
 ………なんというかもう、バカップルである。  
 
 
 抱きしめあう。肌と肌がじかに触れ合う。  
「ふあ、………ああ」  
 彼に触れた部分から江美里の脳髄へと、先程のキスより数倍も強い痺れが伝わる。  
 思わず、声が出た。  
「ひんっ。……ちょ、まっ……、ひゃあっ!!」  
 気を落ち着かせようと深呼吸をしようとした所で胸を揉みしだかれ、意識が飛びかける。  
「かいちょぉ、………まってよぉ」  
「………すまない。耳元でそんな声を聞かされて冷静でいられるほど私は聖人君子ではないよ」  
 そう言って彼は右手で逃げられないよう江美里の体を固定し、左手で思うがままに胸を揉みしだいた。  
 
「ふあっ……、んんっ………、はむっ」  
「痛っ」  
 江美里は無意識に彼の肩に歯を立てる。彼は仕返しとばかりに江美里の先端の突起を強くつまんだ。  
「んーーー!!!」  
 彼の肩から血が滲み出してきた。江美里が相当強く噛んだせいであろう。  
「ん、ぺろっ、んちゅ、ちゅる」  
 その唾液より濃い液体を舐め取る江美里。頭が働かない中、右手で彼の背中を固定、左手で彼自身をしごき始める。お互いの体を弄り合う。全ての感触を記憶に焼き付けながら、  
「んっ、……ちゅっ、ちゅくっ」  
 キスをする。少しでも互いの隙間を埋めようと舌を絡ませあう。  
 彼の手が胸から秘部に下りていった。  
 
 薄めの草原を掻き分け、『彼女』に辿り着く。くちゅり、と水音。そのまま浅い部分をかき回す。江美里の体が震える。彼はこのままキスを続けて舌が噛まれやしないか少し不安に思ったが、止まれない、と判断した。  
「ふっ、んっ、んっ、んっ」  
 鼻息が荒くなっている。早いような気もするが、そろそろ限界なのだろう。  
 彼は人差し指と中指で彼女の中をかき回しながら、親指で充血している突起を強く押しつぶした。  
「んっ! んーーーー!!!」  
 江美里は口を塞がれた状態で背筋を突っ張らせて二・三度痙攣した後、そのまま会長の胸に倒れこんだ。達したのだろう、どこか虚ろなその表情は目の焦点が合っていない。  
「だ、大丈夫かね、喜緑くん」  
 慌てる会長。  
「えへへ……、すき、……すきぃ」  
 達した後の回らない頭でそう答えながら、はむはむと彼の二の腕に噛み跡をつけていく江美里。どうやら噛み癖がついたらしい。  
 彼はそんな江美里を優しく見つめながら、彼女の頭を撫でていた。  
 
 
4.  
 
 肩から二の腕にかけて10箇所ほど噛み跡をつけようやく落ち着いたらしい江美里を会長は再度ベッドに横たえた。  
「えっと、では、……キミをもらうことにするよ」  
「名前」  
「ん?」  
「名前で呼んでいただけますか」  
「そうだね。愛しているよ、江美里くん」  
 彼に噛み付く江美里。どうやら嬉しさの表現のようだ、………分かりにくいけれど。  
 抱きしめあいながら彼自身の先端が、彼女の入り口を探そうと彼女の肌をこすりつける。  
「ふい、………ああ、ん」  
 こすれ、はじかれるたび、江美里の口から押さえきれない嬌声が飛び出す。  
 何度か繰り返していると、くんっ、と少しだけ入り込む場所があった。  
「ふあっ、は、はい、そこ、です」  
 ん、と頷き、腰を前に突き出した。  
 
「いっ! あ、んんっ!」  
 彼女の中は十分に濡れてはいたがやはり初めてなのだろう。抵抗が強く彼のモノはなかなか中に入っていかない。  
「ふ、んん、ん」  
 彼は歯を食いしばって痛みに耐える江美里にキスをして強く抱きしめた。  
 肩に歯が、背中に爪がたてられる。そこから血が滲み出し、痛みが走る。それで江美里が感じる痛みが少しでも紛れれば良いと思いながら、更に奥へと進んだ。  
「ん、………ん」  
 痛みを感じ、与えながら進んでいくとやがて、強い抵抗を感じる部分に突き当たった。  
「いいかい?」  
 問う。こくり、と彼女が頷いたのを確認し、愛情と決意を込め、そのまま彼女を貫いた。  
 
「んーーー!!!」  
 瞬間彼女の中の『彼』が焼き尽くされそうな熱さと食いちぎられそうな締め付けに襲われた。  
 動こうにも動けず、とりあえず彼女の顔を見た。  
「痛い、というか熱い、………んあ、ですね。………こんな感じ、なんですか?」  
 泣き笑いの顔で江美里がささやく。彼はそんな江美里のあまりの可愛さに思わず暴走してしまいそうになった。  
「そう言われても、私には良く分からないのだがね」  
 そう言いながら自分を抑えるため、江美里を見ないようそっぽを向く彼。  
 とりあえずお互いにいろんな意味で落ち着くまで動かないようにしようという結論に至った。  
 
「ところで会長、背中とか結構血まみれですよ」  
 少し時間がたった後で江美里にそう言われて、彼は自らの背中を確認するため少しだけ体を捻った。  
「ひあっ」  
 その動きにより中で微妙に『彼』が動き、江美里はその衝撃で思わず声が出た。  
(………痛いのか? いや、というよりむしろ)  
 彼は体に力を込め、彼女の中で彼自身を振動させる。  
「ひうっ、……あんっ」  
 明らかに悦びを含んだ声が彼女の口から飛び出した。  
 結合部からは血液が流れている、初めてであった事は間違いないだろう。  
「ふむ、エロいね、江美里くん」  
「………なぐりますよ」  
「この体勢では力が入らないだろう」  
「………か、かみますよ」  
「むしろ快感だが」  
「………うー、なきますよぉ」  
「それは………困るね、うん」  
 いつもより弱く、可愛くなっている江美里とじゃれあいながら、もう大丈夫だろう、と彼は判断する。  
「動くよ」  
 という問いに、  
「はい」  
 という答えが返ってきた。  
 
 最初はゆっくり抜き差しする。  
「ふ、…ん、……ん」  
 江美里はまた歯を食いしばっているがそれは痛みをこらえるというよりはむしろ、  
「声を出したまえ、江美里くん」  
 そう言って彼は彼女の口を自らの舌でこじ開けた。  
 舌の絡ませながら腰の動きを早くしていく。  
「いあっ、ふむっ、ふあっ、ああっ」  
 彼の背中に再度爪が立てられる。その痛みすら心地良い、と感じ、ぐっ、と押し込み彼女の最奥を突く。  
「ひああっ! そこ、いい!」  
 角度を変えながら同じ部位を叩く、擦り付ける、抉り込む。ぐちゅぐちゅという淫らな音と彼女の嬌声が部屋中に響き渡る。  
「あ、うんっ、…すき、…すきぃ」  
 彼は突きこむ速度を更に速くする事で彼女の言葉に答えた。肉同士がぶつかり合い、ぱしんっ、と音を立てる。  
「なか…にぃ、だしてぇ」  
 その言葉に興奮し、彼女の全てを埋め尽くすかのように更に彼のモノが膨張する。お互いにもう、限界は近い。  
 
「くっ、もう、すぐだよ」  
「うんっ、きて、…きてぇ」  
 神経の中を淫らな液体が走ってくるような感覚。それをごまかすために動きを更に大きく、早くする。  
「んあっ、あ、あ、あ、あ、」  
 一際強く、彼女の奥に彼自身を叩きつけた。  
「や、あ、あ、あーーー!!!」  
 昇りきり、背筋をそらしびくびくと痙攣しながら叫ぶ江美里。彼のモノが今までで一番強い力で締め付けられた。  
「うっ!」  
 その締め付けで彼も達し、信じられないほどの量の白濁液が彼女の中に注ぎ込まれた。  
「ふあ、入ってくる………あつい、よぉ」  
 自分の中に入ってくる彼の液体を感じながら、彼に抱きつく江美里。余韻にひたりながらはむはむと彼に噛み付き始める。彼はそんな彼女を改めて愛しく思い、想いを込めてぎゅっと抱きしめた。  
 
 
5.  
 
 終わった後、二人は何となくお互いに離れたくなく、同じ毛布に包まりながらどうでもいい話をしていた。  
「ところで会長、わたし思い切り中に出されたんですけれど、もしホームランだったらどう責任とってくれるんですか?」  
「………キミが、中に出せ、と言ったような気がするのだが」  
「気のせいです」  
 さらりと嘘をつく江美里。まあ、これも一種の甘噛みであろう。  
「愛しているよ、江美里くん」  
「わたしもです。ですからごまかさずに答えてくださいね」  
 ごまかそうとして墓穴を掘る典型的なパターンである。  
 
 彼はここでため息を一つ。恥ずかしい事を言う決意を固める。  
「江美里くん、私はキミといると幸せになれる。キミも私と共にいて幸せになって欲しいと思うよ。できればずっと、打席の結果によらず、ね」  
「ふあ? え、い、いきなりプロポーズですか?」  
 自分で追い詰めておいてパニクる江美里。  
 追い詰められたネズミは不敵に笑った。  
「ふははははは! では、返答を聞かせてもらおうか!」  
 江美里は言葉を考え、出てこないと結論し、行動で示すことにした。  
 彼のほうを向き、目を閉じ、軽く顔を上げる。  
 そして、誓いの口付けを。  
 
 
 キスを交わしながら、永遠を誓いながら、彼は思う。  
   ―――これが幸福というやつなのであろうか、と  
 
 
 
 

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