「あたしが選りすぐりの素材で作った団長特製スペシャルドリンクよ! ありがたくいただきなさい!」
「なあハルヒ、それは人間に飲める代物だよな?」
「このドリンクは、通常の数値では計り得ないほどの高い栄養価を秘めている。コップ一杯で、およそ七日間不眠不休で活動できる」
「んなバカな!」
「全く無作為に調合した飲み物がそれほどのものだったなんて、さすが涼宮さんですね」
「なにぶつぶつ言ってるの? いいからホラ、キョン飲みなさい」
「なんで俺が!」
「なんでもいいの! 団長命令よ! それとも何? あたしがせっかく手間暇かけて作った飲み物が飲めないっての?」
頼んだ覚えはねえ! ってか、お前自分で飲んでみたのかよ。
「……もちろん飲んだわよ。あったりまえじゃないの!」
絶対嘘だ!
「いいからちゃっちゃと飲む!」
くそっ、わかったよ! うぐ、このにおい……。
「……大丈夫、人体に害は無い。むしろ体に良い」
生憎だが、人間っていうのはそれだけで計れるものじゃないのさ。体に良い悪いよりも大事なことがある。
「ええい! ままよ!」
俺は意を決してコップの中身を一気に飲み干した! う……ぐぅ、うっく、ぅうあぁ〜。
「どう? キョン」
どうもこうもねえ、ひどい味だ……あれ?
「どったの?」
「いや、昼過ぎから凄く眠かったんだが、目の腫れぼったさがとれてスッキリした」
「でしょお〜? さすがあたしの特製ドリンクよね!」
意図して製造されたものでないことだけは断言できるがな。まあいいか。効果があったのは事実だ。なんだか軽く運動でもしたい気分だぜ。この天気のいい日に部室の中にいちゃあ腐っちまう。……。
「古泉、なんか今日暑くないか?」
「え? いいや」
そうか。まさかこれもドリンクの効果なのか? 悪いがブレザーを脱がせてもらおう。
「……」
だめだ、まだ暑い。俺は乱暴にネクタイを外し、シャツを第3ボタンまではだけた。
なんなんだこれは、やっぱアレは飲んじゃいけないものだったんじゃないか? くそっ、暑い、っていうか熱い。体の内側から爆発的な衝動がこみあげてくる。一言で言うと み な ぎ っ て き た !
ふとハルヒのほうを見やると、あのひどい味の飲み物を涼しい顔で飲み乾しながら、何やらぶつぶつ言いながら思案していた。そして俺の方を見るやいなや、途端に驚いたような表情に変化してこう言った。
「あ、あ、あんた何やってんのよ! なんでそんなラフな格好してんの!」
仕方ないだろ、さっきからやたら暑いんだよ。おそらく、あのドリンクの副作用でな。
「だからってねえ! そんなに胸出すことないでしょ! 女子が三人も居るんだから、少しは考えなさいよアホンダラ!」
いつも朝比奈さんを裸に剥いてるのはどこの誰だ。 ん? どうしたんだお前、顔真っ赤だぞ。
「き、気のせいよ!」
ほう、そうかい? 俺は椅子から立ち上がってハルヒに歩み寄った。
「……!」
俺から目を、いや、俺の胸元から必死で目をそらすハルヒ。
「どうしたんだよお前、さっきから変だぜ?」
「どうもしてない!」
「そんなわけないだろ、明らかにいつもと違うぞ」
「ち、近寄るなバカキョン……あっ!」
俺は左手でハルヒの手首を掴んだ。
「やっ……離して……!」
「おいおい、随分かわいい声出すじゃないか。いつものハルヒはどこへ行ったんだ?」
俺は右手の指をハルヒの首筋に這わせた。
「やああ……! バカぁ、変なのはあんたよぉ……」
「いつもそんなにかわいけりゃいいのにな? 抱き締めたいぜ、ハルヒ」
首筋から、髪をかきあげ、耳のうしろに触れる。ハルヒの体がビクッと反応し、その途端、
「もぉダメ!」「うわっ危ね――」
急にハルヒが飛び掛かってきて俺は押し倒されてしまった。息つく暇も無く、俺の口はハルヒの口で塞がれた。
感情が堰を切って溢れ出したかのようにむしゃぶりつくハルヒ。お世辞にも上手いとは言えない、ただ衝動のままに、激しく、乱暴に舌をねじ込み絡めるキス。
「んあ……はふ……むちゅ……はあ……」
俺は背中に回した手を、セーラー服の裾から差し込んで素肌に触れた。
「…! んああぁぁ!」
あのハルヒが俺の手が触れるたびに悶えている。ああハルヒ、愛しいハルヒ……。
「ひえぇ〜……」
「長門さん、何が原因なんでしょう?」
「わからない。人間の行動原理は謎」