禍福はあざなえる縄のごとしとは言うけれど、今の俺には本当に不幸の後に幸福がやって  
くるのか疑問を感じる。  
不幸の後に不幸がやってくる、そんな気さえするこの一年だった。  
いや、全てを不幸と見なしてしまうのは言い過ぎか?  
なにせ俺は朝比奈さんという天使に出会えたことはこの上ない幸福であるし、SOS団の活  
動が全て俺にとって不幸かと問われればそうでもないと答えられる。  
だが、これから紡ぎ出されるエピソードは、俺にとって間違いなく不幸という名のアルバ  
ムに種類分けされるだろう。  
もはや俺には耐火金庫にでも記憶を封印してしまいたい気分だったが、あえて語ってみよ  
う。  
では回想シーンだ。  
 
 
 
春の暖かな風が窓から入り込む金曜日の夕方、なにをするでもなく部屋でくつろいでいた  
俺は、あまりの心地よさに脳内睡眠薬によって地上の楽園へと誘い込まれる。  
まあ、安あつらえの我が寝具、つまりベッドのことなんだがな。  
だが、こんな気分のいい日に部屋でむっつり勉強をしているなんて、俺の性にあわん。  
ならば日の高いうちからシャミセンのように惰眠をむさぼるのはいいのか? というのは  
なしだ。都合の悪いことは忘却の彼方で、遙か太陽系の外へでもほっぽり出すのさ。  
ホーキング博士もびっくりだ。  
 
だがすでに俺のまぶたは、宇宙ステーションにランデブーする寸前のスペースシャトルの  
ように接合間近だ。  
後の事は任せた小人達。  
さらば俺を苦しめる厚さ33ミリの参考書という名の睡眠導入剤よ。ようこそまどろみの  
楽しき世界。  
 
というわけで、俺は寝る。  
「ピンポーン!」  
寝る。  
「キョンくーん。出て〜」  
お前は親父のトイレを急かすマジではみ出る5秒前か?  
などと、つまらないツッコミはいい。  
しょうがない、出てやるか。  
 
俺はのそのそとベッドから立ち上がると、コントにでも出てきそうな酔いどれ親父のよう  
によたり気味に部屋を出た。  
急ぎながらも映画のワンシーンのようにならないよう慎重に階段を降り、すぐさま玄関に  
向かった。  
そして2度目のベルが鳴る前に扉を開けた。  
 
ドアの前に立っていた少女は、妹の親友にして臨時家庭教師のミヨキチ――吉村美代子だ。  
彼女は礼儀正しくお辞儀をすると、勝手知ったる友人宅への訪問にしてはその表情に少し  
の緊張感を滲ませ、それでもうれしそうにほほえみを見せた。  
「お兄さん、こんにちは」  
「ミヨキチ、キミだったのか。やあ、いらっしゃい」  
だが、俺は呆気にとられてミヨキチを見つめてしまった。  
というのも、ミヨキチは俺がプレゼントしたリボンで髪を結わえて、ポニーテールにして  
いたのだ。  
とはいえ、やや不躾だったかもしれない。  
ミヨキチは俺の視線に気づくと途端に顔を赤らめ、もじもじし出した。  
「あの……お兄さん、どうしました?」  
 
ミヨキチはまるで飼い主を見上げるフェレットのように、少しおどおどしながら尋ねた。  
「いや、キミのその髪型、よく似合っていると思ってね。そのリボンも使ってくれている  
んだ?」  
「ありがとうございます。ほめてもらってとてもうれしいです……お兄さんにプレゼント  
してもらったこのリボン、これからもずっと大切に使っていきます」  
俺にほめられた程度でそこまで感動することもないだろうに、ミヨキチは俺を潤んだ瞳で  
見つめていた。  
まあ、悪い気分はしないがね。  
 
ミヨキチは俺の嗜好にピタリと合ったその髪型に、年齢不相応に大人びて整った容姿、そ  
れを彩りさらに強調するよそ行きの装いをしていたのだ。  
もしミヨキチが俺と同い年なら、とつい思ってしまいそうになる―――いや、なんでもな  
い。そんな妄想をした日にはまたハルヒから『ロリキョン』という不名誉な称号を授かり  
かねない。  
聞かなかったことにしてくれ。  
だが、この時は思わなかったのさ、ミヨキチのそのヘアスタイルがこの後とんでもない騒  
動を引き起こすなんてな。  
 
ミヨキチは俺の差し招きに従って「お邪魔します」の挨拶をするとおもむろに靴を揃えて  
脱ぎ、俺が用意したスリッパに履き替えた。  
そして勉強道具一式が入っているであろう手提げカバンを体の前で携え、俺の案内を待つ  
かのように見上げた。  
「おーい、ミヨキチが来てくれたぞー!」  
と、俺は不肖の生徒である妹に声を掛けたのだが  
「部屋まで連れてきてー!」  
などと迎えに来ようともせず、なんと不出来な妹だと俺に嘆かせた。  
 
しかしながらミヨキチは、いやな顔一つせずしっとりとした物腰で俺の先導に付き従って  
妹の部屋まで行く。  
やっぱりミヨキチはいいお嬢さんだ。  
いっそのこと、うちの妹にシャミセンまで付けて交換トレードしたいくらいだ。  
もっとも、一線級の投手を放出しようという球団もそうはないだろうが。  
 
ところで、なぜミヨキチが家に来ているかというと、別に遊びに来ているわけではなく、  
ちょっとした事情があって、妹と一緒に勉強するためにわざわざ家に来てくれているんだ。  
というのは先日の日曜日、ハルヒとの間で一悶着あってだな、ミヨキチにしては珍しくそ  
の場の勢いというか、あるいは最初に妹の家庭教師をすると提案したハルヒに対抗してか、  
妹の家庭教師代わりとして一緒に勉強すると宣言し、現に今週の月曜から、俺に似て決し  
て優秀とはいえない妹の勉強をけなげにも見てくれているわけだ。  
 
しかもそれが実に効果覿面で、妹の成績が鰻登りとは言わないまでも、メダカが小川の流  
れをさかのぼる程度には上昇する兆しを感じさせる。  
これはもう兄貴としては感謝感激するしかないね。よほどミヨキチの教えがいいんだろう  
な。  
それにミヨキチなら、楽しそうに罵倒したり、丸めた教科書でコントばりのツッコミを入  
れたり、はたまた罰ゲームを課したりはしないだろうしな。  
さて俺は誰のことを言っているんだろうね?  
 
などと考え事をしながら歩くと、もはやすでに妹の部屋の前だ。  
そこで一度立ち止まり、ミヨキチを見やった後再びドアに向き直る。  
そこで別にしなくともよいのだが、紳士のたしなみとしてノックを二度三度。  
「おい、ミヨキチを連れてきたぞ。入るぞ」  
「いいよー」  
ノブをひねり俺たちが連れだって部屋に入ると、妹はさも楽しそうな面、というよりニヤ  
ついた面を向けてきた。  
どうも最近こいつの考えがよくわからん。いったい何を企んでいるんだと思わせる表情だ。  
 
そして部屋の真ん中辺りまで進むと、ミヨキチはカバンを床に置き、そこから筆記用具と  
参考書を取り出しテーブルの上に並べた。  
そして妹と向かい合わせに着座した。もちろん、まるで疲れたサラリーマンのようにだら  
しなく座っている妹と違い、ミヨキチは姿勢も美しく正座だ。  
育ちの良さと躾の行き届いた様を感じさせる見事な対比だ。  
その様子に感心しながら見届けた後、俺はおもむろに口を開いた。  
「おい、何でお前がミヨキチを迎えに来ないんだ。お前は言わば、ミヨキチの教えを受け  
る生徒だろうが」  
「キョンくん、わかってないな〜。あたしが迎えに行かない方がいいんだよ。ね、ミヨち  
ゃん?」  
「も……もう、何を言い出すの?」  
ミヨキチは酸に浸したリトマス紙のように顔をしだいに赤らめ、妹を少し咎めるような目  
つきで見た。  
 
全く訳がわからないんだが……。  
「キョンくんってば鈍感さんだね〜。これじゃあ、ミヨちゃんやハルにゃんも苦労する  
よ」  
なぜか俺を注文を間違えたカフェの店員を見るように睨め付ける妹。  
そんな幼稚園の年長組のような表情で睨み付られたところで、蟻の足先ほども恐れなど抱  
かないが、俺が責められる理由を教えてくれ。  
つうか、なぜミヨキチやハルヒが苦労するんだ?  
 
「ふっふーん。ニブチンのキョンくんには教えてあげない。ね、ミヨちゃん」  
「わ、わたしに聞かないで。……お兄さん、何でもないですから気にしないで下さいね」  
ミヨキチがそう言うなら別に気にしないことにしたいが、妹に言われっぱなしと言うのは  
気に入らんな。  
そこで俺は妹に一度、兄としての尊厳を示しておくべきか、それとも速やかに自分の部屋  
に戻ってアニメの大泥棒のような様で頭からベッドに飛び込むべきかと煩悶していると、  
再び玄関のインターフォンが鳴り響いた。  
 
俺には誰が来たのかは分かっている。そいつが俺に用があるということもな。  
どういう事かというとだな、つまり家庭教師がつくのは妹だけではないということだ。  
遺憾なことにハルヒは俺の家庭教師を無理矢理買って出て、ミヨキチと同じく今週の月曜  
日から毎日通っているというわけだ。  
「キョンくん、早く行かないとハルにゃんが怒っちゃうよ」  
そうだ、あいつのことだ。ちょっとでも遅くなれば、罰金として家財道具を持って行きか  
ねない。まるで泥棒扱いだな。  
俺は急いで妹の部屋を出ると、やや足を速めながら階段を下り玄関のドアを開いた。  
 
するとハルヒは玄関前で山門の仁王像のように腕を組んで突っ立っており、俺を見上げそ  
して睨み付けた。  
「おそいわよ、キョン! わざわざあたしがあんたに勉強を教えてあげようってんだから、  
それなりの敬意を持って迎えてくれなきゃダメよ。あんたには師を敬う気持ちが足りない  
わ」  
よく言うぜ。俺のニーズもお構いなしに一方的に宣言して家庭教師になったというのに。  
需要と供給のバランスをお前も少しは考えろ。  
お前の場合は供給一辺倒だろうが。それじゃあ、市場原理に則っとって供給過剰で価格は  
暴落だ。  
 
「なあに? じっとあたしを見つめて……ひょっとして、髪を見ているの? 髪型だった  
ら当分変えるつもりはないわ。残念だったわね」  
ハルヒは何とも見当違いのことを言い出した。なんのこった。  
別にそういうつもりで見ていたわけではないのだが、何を思ったのかハルヒは勘違いして  
いるようだ。  
ただ、ひょっとしてミヨキチのポニー姿を見た後だからつい無意識にそういった目の色に  
なっていたのかも知れないが。  
だとしたらハルヒの観察力というか直感力はたいしたもんだ。  
だが髪型は変えないというなら別にかまわないぜ。俺はミヨキチを見て心を和ませるから  
な。  
 
ハルヒはまるでリンクの上を滑るように玄関に入ると、タイルの上で足を止め、すぐさま  
靴を脱いで玄関マットの上に上がりスリッパに履き替えた。  
そして廊下の上で昂然と無闇に胸を反らして顔を起こすと、原発1年分の発電量に匹敵し  
そうな笑顔で、  
「さあキョン、ぐずぐずしてないであんたの部屋へ急ぐわよ。特にあんたの成績は一秒た  
りとも無駄に出来ない電波時計のようなものなんだからね」  
 
何が電波時計だ。お前こそあちこちから妙な電波を受信したり、キテレツな電波を発信し  
まくる電波女じゃねえか。  
ハルヒはそう宣言すると俺の手を掴み、半ば引ずるようにして俺の部屋に到着した。  
まったく、牽引車のような女だ。手がしびれるじゃないか。  
 
ともあれ、俺の部屋に入ったハルヒは伊達眼鏡を掛け、すぐさま参考書やハルヒが作成し  
たと覚しきプリント類を机の上に並べてスタンバイ完了だ。  
ハルヒは入社したての新卒社員のように全身にやる気を満ち溢れさせ、トレードマークで  
ある大きな目をさらに拡大させて俺の着席を促す。  
それに従い俺が座ると、同時にハルヒの授業が始まった。  
 
こいつの教えを受けていていつも思うんだが、ほめたくはないが実に教え方が絶妙だ。  
というのも、ハルヒは俺の性格や習得のリズムを知り尽くした教え方を行い、時折言い出  
すご無体な罰ゲームや楽しげな罵倒も、言わばアクセントとなってリズムよく俺に吸収を  
促す。  
 
ほめるとこいつは調子に乗るから言わないが、家庭教師としても一流だ。  
どうやら、天は二物どころか無制限にハルヒに才能を与えたらしいな。  
やれやれ、少しは俺にもお裾分けして欲しいぜ。世の中というのはは実に不公平なものだ  
な。  
 
なおもハルヒの授業は続く。  
その間もハルヒは俺が答えを間違えたりすると、実にうれしそうに「バッカ」と俺を丸め  
た参考書でどついた。  
まるで友達の誕生会にでも出席した小学生のように満面の笑みを浮かべ、そして楽しそう  
にしているハルヒを見ていると、俺は不覚にも悪くはないと思ってしまったのは内緒だ。  
いや、今すぐ俺の頭の記憶装置から証拠を隠滅したい気分だ。  
 
さて、時間が予定の半分を過ぎたところで休憩をすることになった。  
俺は一度伸びをするとベッドに腰を掛け頭と体の疲れを癒している。  
ハルヒはといえば何やら本棚の裏を物色しているが、俺は別に気にしないことにした。  
というのもハルヒが探しているブツはすでに処置済みで、俺の部屋にあろうはずがないか  
らだ。  
何か? とは聞かないで欲しい。  
俺ぐらいの年の男なら大抵の人間が持っている、いわゆる男のロマンというやつだ。  
まあ、この話題はこれぐらいでいいだろう。  
再びハルヒに目を向けると、成果ゼロの俺の部屋の不思議探索に飽きたようで何やら言い  
たげな目つきだ。  
 
「ねえキョン、わざわざあんたのために教えに来てくれた家庭教師の先生に対して何か忘  
れてない?」  
なんのことだ。感謝の言葉でも欲しいのか?  
「違うわよ。催促するみたいで意地汚いと思われるのはいやだけど、お茶の一杯でも出そ  
うという気持ちはないのかしら?」  
そういや忘れていた。  
「すまん、すぐ持ってくるからちょっと待っててくれ。朝比奈さんのようなお茶くみ名人  
と言うわけにはいかんが丹誠込めて用意しよう」  
 
「飲み物は紅茶で、アールグレイをお願いね。それと、冷蔵庫にシュークリームがあった  
わよね?」  
なぜお前は俺ん家の冷蔵庫の中身を知っているんだ……?  
ていうか、めちゃめちゃ催促しているじゃねえか。  
しかし、まあいい。俺としても、家庭教師に感謝の意を込めてお茶と菓子を用意すること  
にはやぶさかではない。  
ついでにミヨキチたちにも差し入れをしてやるか。  
 
そう考えて俺は台所に向かい、準備を整えると盆を持ち、まずは妹の部屋を訪れた。  
ノックをした後部屋に入り、二人が向かい合うテーブルに紅茶とシュークリーム並べた。  
「ありがとう、キョンくん!」  
「お兄さん、ありがとうございます」  
2人とも花が咲いたような笑顔を浮かべた。  
ただし、妹は向日葵のような、そしてミヨキチはナデシコのような、といった違いはある  
が。  
 
さて、そろそろハルヒが待ちわびている頃だろう。今頃テーブルでも齧っているかも知れ  
ない。  
だが、俺は2人が食べ始める前に出ようかと考えたところ、妹が呼び止めた。  
「ねえ、キョンくん。ちょっとこっち来て」  
「なんだ? 俺はハルヒ大魔神の元に貢ぎ物を差し出しに行くんだよ」  
いいから来てと手招きされ、仕方がないので手持ちの盆を床に置き、妹に向き直った。  
紅茶が冷めちまうな。また罰ゲームを課されそうだ。  
すると妹は何を思ったか、あわてるミヨキチの手を引いて立ち上がらせ、ベッドにうつぶ  
せに寝かせた。  
「ちょっ、ちょっと、何するの?」  
 
「おい、お前は何をやっているんだ? ミヨキチが戸惑っているじゃないか」  
妹はミヨキチの背中をさすりながら、  
「ミヨちゃんねえ、まだ若いのに体のあちこちが凝っているんだよ。これは絶対勉強のし  
すぎだよね」  
いいからお前もミヨキチを見習って学習に勤しめ。マッサージぐらいしてやるから。  
 
「ううん、あたしはいいから、ミヨちゃんのマッサージをしてくれない?」  
いきなり何を言い出すんだ、こいつは?  
「ええっ?!」と驚くミヨキチ。  
そりゃそうだ。この年頃の女の子は、異性に体を触られるなんてとんでもないことだろう。  
だがミヨキチは一瞬躊躇したが、意を決して、まるで決戦前夜のような表情になって、  
「お兄さん、ふつつか者ですがお願いします」  
なんと、やる気になってじゃないか。つうかそのセリフは変だろう。  
 
なぜこうなったかわからないが、成り行きで俺はミヨキチをマッサージすることになって  
しまった。  
なんでだろうね?  
それでも仕方がないので俺はベッドに座り、ミヨキチの背中を押さえた。  
 
「お兄さん、わたし初めてなので優しくお願いします」  
「わかった。なるべく痛くならないようにするよ」  
と言って、ゆっくりと強張った筋肉を揉みほぐす。  
もみもみもみ  
「どうだい?」  
「はい、何か体中がぽかぽかしてきました」  
それを証拠立てるように、ミヨキチの顔色が徐々に紅潮し始めた。  
さらにミヨキチの体を揉み込んだ。  
「ふぅっ……」  
ミヨキチはそう吐息を漏らし、全身のこわばりが全て解けたようだ。  
俺のマッサージもなかなかのもんだろう?  
「じゃあ、(力を)入れるぞ」  
こくりとうなずくミヨキチ。  
「痛っ!」  
「すまない、痛かったかな。もうちょっと優しくするよ」  
だがミヨキチはかぶりを振り、  
「いいえ、もう大丈夫です。大分気持ちよくなってきましたから」  
「じゃあ、ゆっくり動かすぞ」  
ふたたび気持ちよさそうなミヨキチの吐息が漏れてきた。  
「は……ぁあ……」  
 
とミヨキチが声を漏らした瞬間、部屋のドアが時限爆弾が爆発したような音を立てて乱暴  
に開けられた。  
 
「ドガンッ!!」  
 
するとブラックマンデーを迎えた証券マンのように血相を変えたハルヒが、特殊部隊さな  
がらの勢いで部屋に飛び込んできた。  
だが、  
「あ、あんたたち、何をしてんの! このロリキョン!!」  
と喚いたところで俺たちの様子を見て一時停止、たっぷり5秒ほど冷凍中。  
そして状況を理解しようやく解凍、ハルヒは振り上げた拳をどう下ろすべきか、ワナワナ  
としながらも対処に困ったような怒り顔だ。  
 
まったくこいつは何を勘違いしたのか。  
おそらく俺の部屋にいたハルヒが、俺たちの会話を何か勘違いして、いてもたってもいら  
れなくなって飛び込んできたんだろうが、見当違いも甚だしいぜ。  
「おい、ハルヒ。お前、何か勘違いでもしただろう?」  
ハルヒは赤い顔を殊更赤くして弁解しだした。  
「してないわよ! あ、あたしは……あんたが中々戻ってこないから、どこで油を売って  
いるのか気になって、それで妹ちゃんの部屋に来てみただけ!」  
 
語るに落ちるとはこのことだな。もはや言い訳にさえなっていない。  
「じゃあ、さっきの剣幕は何なんだ? とてもただ来ただけとは思えなかったんだが」  
「うっさいわね。あんたこそこんな小学生の体を触って、いやらしいわね」  
と言って、ハルヒがベッドからすでに起き上がっていたミヨキチに視線を滑らせて再び動  
作停止。  
ハルヒのやつ、故障でもしてんのか?  
 
ほどなく動きだし、ギギギと軋む音がしそうな様子で俺に向き直ると、ハルヒは無理矢理  
笑い顔にした般若の面のような表情で俺を睨んだ。  
つまりなんだかわからない。  
「ちょっと、キョン。この子、どうしてこんな髪型をしているのかしら?」  
ハルヒはミヨキチを指して俺を詰問した。  
なぜだか背筋が寒くなる。  
 
「どうしてと聞かれても、それはミヨキチの自由だろう。彼女がどんな髪型をしようとも  
な」  
俺には何もやましいことはない。たぶん。  
「そうです。わたしがお兄さんからもらったリボンを付けているからって、どうだって言  
うんですか?」  
ミヨキチ、それはまずい。  
「プレゼントしたですって? ちょっとキョン、いったいどういうことなの? 初耳よ」  
そりゃ言ってないからな。  
しかし、俺はハルヒと顔を合わせることが出来なかった。  
もちろん恐怖によるものだ。  
 
「この間の日曜日に、わたしにお礼だと言って買っていただいたんです」  
ミヨキチはハルヒに臆することなく毅然とした態度でそう言った。  
「ふーん、そう。キョン、ひょっとしてあんた、今のうちから彼女を手なずけておいて、  
理想の女の子に仕立て上げるつもりじゃないでしょうね?」  
何を言い出すんだ、こいつは。光源氏じゃあるまいし。  
ひょっとして、頭のねじでも抜けちまったか? いや、元からだがな。  
 
だが、それを聞いたミヨキチは、憤然としてハルヒに対峙した。  
「涼宮さん、お兄さんにそんな失礼なことを言わないで下さい!」  
さすがのハルヒも、ミヨキチのこの態度にはたじろいだ。  
俺も呆気にとられた。今後ミヨキチを怒らせないようにしよう。そう心に固く誓った瞬間  
だった。  
だが、この剣呑な雰囲気はいったいなんだ?  
 
すると、ミヨキチは居住まいを正してハルヒを見据え、  
「涼宮さん、ちょっと聞いていいですか?」  
「な、なにかしら」  
珍しく動揺するハルヒ。ミヨキチに押され気味だ。  
「涼宮さん、お兄さんのことどう思っているんですか?」  
なんという直球過ぎる質問だ。  
それでも普段のハルヒなら軽く受け流しただろう。  
しかし、なぜか朝比奈さんのようにあたふたするハルヒ。  
珍しい見せ物だ。顔が赤いぞ。  
ただ、俺のことなんか雑用係の便利なやつだと思っているんだろうから、そう言うのかと  
思ったのだがな。  
 
それでもハルヒは、動揺を悟られまいと殊更笑顔を浮かべミヨキチに、  
「あなたこそ、キョンの事をどう思っているのかしら?」  
質問を質問で返した。会話でやってはいけないことの基本だな。  
「……わたしの大事なお友達のお兄さんで、わたしにとっても……その……」  
後はゴニョゴニョと言ってよく聞き取れなかった。そしてなぜかミヨキチは赤くなり俯い  
てしまった。  
おそらく、ハルヒにこう切り返されるとは思ってなかったからだろうな。  
 
だが、俺もそろそろ居心地が悪くなってきた。  
この流れでは当然俺に矛先が向かってくるはずだからだ。  
それというのも、これまでの俺の経験則から得たものさ。  
その前に……。  
 
―――助けてくれ!  
 
俺は必死に妹に目配せし、山で遭難した登山者のように救助を請うた。  
すると妹は、わかったという表情を浮かべ、首肯した。  
「キョンくん、そろそろお風呂に入る時間だよね?」  
妹は二人にも聞こえるようにややボリュームを上げて、突如そんなことを言い出した。  
俺を逃がそうとしているんだな。  
しかし、風呂に逃げるというのは多少みっともない気もするが。この際致し方ない。  
 
「そうだな。いつもこの時間に入っているから、時間は守らないとな」  
「うん、そうだよ。じゃあ入ろ」  
 
…………?  
 
まてまて、なぜお前まで入るんだ。  
「どうして? いつも一緒に入っているじゃない」  
こら、お前はなんてことを言うんだ。誤解を招くぞ。  
確かにハルヒたちの注意をそらすことは出来たが、むしろ余計にまずい状況だ。  
案の定、ハルヒはミヨキチとの諍いを中断して俺に変質者を見るような視線を向けた。  
「キョン、この変態! 妹ちゃんと一緒にお風呂に入っているなんて、なんて破廉恥な事  
をしているの?」  
ハルヒは鬼の形相で、目から怪光線を出して蝿を撃ち落としそうだ。  
これはつまり、地獄から抜け出そうとして、すんでの所でさらに深い地獄に突き落とされ  
たようなものか。  
 
どうすればいいんだ?  
今さら誤解を質したしたところで、ハルヒは聞く耳を持たないだろう。  
ならば、道は一つしかない。  
すなわち、  
 
―――開き直れ!  
 
「ハルヒ、お前何をいかがわしい妄想をしているんだ? 俺が妹と風呂に入って何が悪い。  
こいつはまだ小学生だ。それに俺がいつも一緒に入るということは、なんのやましいこと  
もないという証拠だろうが」  
言ってやった。  
しかし、俺は何かを失ってしまったような気がする。  
 
それでも気を取り直してハルヒに目を向けてみると、俺からそんな反撃を受けるとは追わ  
なかったのだろう、ハルヒはやや驚いた様子で咄嗟には言葉が出ないようだ。  
「じゃあキョンくん、お風呂に入ろ〜」  
すかさず妹が俺を促す。  
すると、今まで沈黙していたミヨキチが突如口を開いた。  
「あの、お兄さん。わたしもご一緒してもいいですか?」  
「なんだって?!」  
「なっ?!」  
俺とハルヒの声が見事にハモった。  
 
「いや、それはさすがにまずいだろう、ミヨキチ」  
俺はミヨキチを窘めた。  
「そうよ、ミヨキチちゃん。嫁入り前の娘がこんなエロキョンと一緒にはいるなんてダメ  
よ。考え直しなさい」  
めちゃくちゃな言われようだ。  
しかしながらハルヒの忠告を聞いたミヨキチは、それとは逆にますます決意を固くしたよ  
うな表情を見せ、  
「わたし、まだ小学生です。だったら、友達のお兄さんと一緒に入ったってかまいません  
よね?」  
 
いや、そういう問題ではないと思うんだが……。  
だが、妹はそれに乗っかるように、  
「そうだよ、ミヨちゃんも一緒に入ろ。ほら、キョンくん行こ〜」  
と、妹とミヨキチは俺「ちょっと待て」という俺の言葉にも耳を貸さず連行した。  
 
後に残されたハルヒは何やら呆然としており、もはや言葉を発することさえ出来ない様子  
だった。  
俺は手を引かれながら、何がミヨキチにこんな態度をとらせるのか、名探偵ではない俺に  
は皆目見当がつかなかった。  
 
 
 
というわけで、俺は浴室にいる。  
先ほど脱衣所に到着した俺は、妹とミヨキチが着替えの用意をしている間にすぐさま身に  
つけている衣服を脱ぎ捨て、2人が来る前に超特急で体を洗い終えた。  
そして、俺が浴槽につかると同時に妹、ミヨキチ、そしてハルヒが……って―――。  
 
 
―――ハルヒ!?  
 
 
何でこいつまで……?  
ハルヒはバスタオルを体に巻き付け、それでも恥ずかしそうに顔を紅潮させ、俺の顔をま  
ともに見ようともしない。  
それにしても、ハルヒが見せるバスタオルを巻き付けた姿は、ほめたくはないが、体のラ  
インは見事なもんだ。そこらのモデルに引けを取らないと言っても過言じゃないな。  
だが、つい凝視してしそうになって、あわててもやもやっとした思いを振り払った。  
 
続いて入ってきたミヨキチもハルヒと同じようなバスタオル姿で、恥ずかしそうな表情が  
実に庇護欲をそそる。  
なお、あまり見つめるのは失礼だと思ったが、ハルヒの言うところの長門より胸があると  
いう意見には同意できそうだ。  
―――すまん、長門。  
 
そして最後に入ってきた妹は、バスタオルを巻くこともなく生まれたままの姿で起伏のな  
い肢体を兄の前にさらけ出している。  
うむ、少し和んだ。  
だが、なぜハルヒまでここにいる?  
「ハルヒ、何でお前まで入ってくるんだ?」  
エロキョン呼ばわりされた俺としては、当然の質問だ。  
それにこいつが入ってくるのは、俺にとって一番まずい。何せ一部俺の意志とは無関係に  
反応する別人格があるもんでね。  
だがハルヒは依然として目をそらしたまま、バスタオルを押さえてアヒル口を開いた。  
「しょうがないじゃない。キョンのような野獣がいる中に妹ちゃんやミヨキチちゃんのよ  
うなあどけない女の子を一緒にさせるわけにはいかないもの」  
 
こいつはいったい、俺をなんだと思っているんだ? 実に失礼な女だ。  
ていうか、相変わらずでたらめな理由だ。  
だが、ハルヒは俺の視線に気づいたのか、ますます顔を赤くして、  
「キョン、こっち見るな! あんたはお湯の中にでも潜ってなさい」  
また、めちゃくちゃなことを言い出した。  
俺に溺死しろとでも言うのか? 勝手に入ってきたくせに。  
 
そんな俺の嘆きも憤りもどこ吹く風、ハルヒたち3人娘はせっせと体を清め始めた。  
だが俺はもちろん見るわけにもいかず、ハルヒによって手ぬぐいで目を覆われ、今は音し  
か聞こえない。  
すると、なにやら妹が自作の歌を口ずさみながら、ハルヒの後ろに回り込む音が聞こえた。  
そして、ハルヒの「ひゃっ」という小さな悲鳴が上がり、  
「ねえ、ハルにゃん。ハルにゃんって、とってもきれいな体してるね〜」  
お前はエロ親父か?  
「ちょ、ちょっと妹ちゃん、キョンもいるんだからバスタオルを外さないで。こら胸を触  
らない!」  
 
「いいじゃない、減るもんじゃないし。それにさわり心地がいいよねえ〜」  
「妹ちゃん、やめっ、あんっ……」  
こら、なんて声を出しているんだ。  
「ねえ、やめなさい。こら、こねまわさないで! ん……はぁっ!」  
 
なおも続く妹のセクハラ。ハルヒがセクハラされるというのもそれはそれで興味深いもの  
だが……このままではやばい。  
収まれ……ええい、南無阿弥陀仏、祓いたまえ、心頭滅却すれば火もまた涼し…………。  
最後のはちょっと違う気がするが、この際何でもいい。  
 
俺は滝に打たれている修行僧のような心持ちになって、煩悩を必死に抑えようとした。  
するとどうやら妹はセクハラに飽きたのか、ハルヒの荒い息遣いも収まったようだ。  
助かったか……?  
 
 
「今度はミヨちゃんだね」  
 
 
何ですと!?  
「ちょっと、今度はって何? やめようよ、ね?」  
「いいじゃない、ちょっとだけだから」  
俺はこいつの将来が心配になってきたよ。マジで。  
できることなら、速やかにこの場を脱出したいところではあるが、この状態では無理だ。  
出れば、ハルヒに殺されかねない。  
 
 
「うわ〜、ミヨちゃん、ホントにあたしと同い年? ひょっとして、有希ちゃんより大き  
いじゃない?」  
またしても比較される長門。  
この会話は監視対象になっていないだろうな?  
「ちょっと、やめてよ。ひゃっ!」  
妹のセクハラ開始。  
何が行われているか俺には見えないが、耳に入ってくる音はミヨキチの悩ましい声と、妹  
の感嘆の声、そして胸を触っているであろう水のピチャピチャという音だ。  
そしてそれらの音が風呂場という密閉された箱の中で反響する。サラウンドというやつだ。  
 
正直たまりません。  
 
「あん……ちょっ、やめ……は……んっ」  
「ほらほら、どう? ミヨちゃん」  
「はふぅ……ひぁ……」  
 
この状況では音だけしか聞こえないが、ミヨキチの小学生とは思えないなまめかしい声が  
俺を惑わせる。  
しかし、俺は煩悩を抑えなければならない。  
 
「はい、おしまーい」  
「もうっ……」  
ミヨキチは息づかいが荒く、その熱がこちらにも伝わってくるようだ。  
……ようやく終わったらしい。  
……だが、俺は煩悩に惑わされて、妹のセクハラを止めることを忘れてしまった。  
ハルヒ、ミヨキチすまん。  
 
 
先ほどの余韻を残したハルヒの声がかかる。  
「キョン、もう手ぬぐいをとってもいいわよ。でもあまりあたし達をエロイ目で見ちゃだ  
めよ」  
見ねえよ。と言いたいところだが自信がない。  
そして俺はようやく視界を遮っている手拭いを取り去り、久しぶりの夜明けを味わった。  
妹はすっきりしたようなつややかな笑顔、ハルヒとミヨキチはどことなく高揚したような  
瞳と赤い顔をしていた。  
 
「ちょっとキョン、もうちょっと端に寄りなさい。あたしが入れないじゃない!」  
「お兄さん、失礼します」  
「あたしも入るー」  
おい、みんな入るのか? いったいどういうつもりだ。無茶をするな。ここは温泉旅館の  
大浴場ってわけじゃないんだぜ。  
つうか、これはどういう状況だ? 俺は年齢制限付きゲームの主人公にでもなったのか?  
いや、そんなわけねえ。  
それとハルヒ、俺の目の前で浴槽の縁を跨ぐな。きわどすぎる。  
それどころか……いや、見てない。俺は何も見てないぞ。錯覚だ。  
 
雑念を払うためしばらく瞳を閉じていると、3人娘が湯船に入ったことにより、浴槽を満  
たしている幾分かのお湯を追い出す音が聞こえた。  
みんな浴槽に入ったようだが、よく4人も入れたものだ。  
 
では説明しよう。俺の両隣にはハルヒとミヨキチがいて、ミヨキチの隣りに妹がいるのだ。  
しかし完全に定員オーバーであり、窮屈すぎた。それに密着度が高まり本当にまずい。  
「ちょっと、キョン。あまりこっちに寄らないでよ」  
とは言ってもだな、妹のやつがミヨキチを押して、そのせいで俺が押されて……。  
「いいからもっとそっちに寄りなさい!」  
「まて、押すなハルヒ!」  
押し出された俺は、当然のごとくミヨキチとの密着度を高めた。  
「きゃっ!」  
 
俺がミヨキチに抱きつくような格好になってしまった。  
「ミヨキチ、すまん」  
「いえ、気にしないでください」  
顔を真っ赤にして俯くミヨキチ。  
悪いのはハルヒのはずなのに、罪悪感で一杯だぜ。  
だがそれによりあわてた俺はのけぞり、再びハルヒにぶつかった。  
 
その瞬間、どういう体勢になってしまったのか、俺は2人のマシュマロをこの手で掴んで  
しまった。  
 
2人のそれは大きさに違いはあれど、柔らかく極上の触り心地だった。  
って、何を冷静に解説している? そんな場合じゃねえ!  
 
「まずい!」と思う間もなく俺のエクスカリバーが鞘から放たれ、抜き身の姿になった。  
しかしミヨキチはそれには気づかず、非難の言葉も出せずに顔まで湯につかり石化中。  
また、ハルヒも入浴剤が入って白く濁った湯のため気づかず、痴漢にでも遭ったかのよう  
に怒りに満ちた表情をしていたが、つい湯にたゆたう俺の分身を握ってしまった。  
「……ぐっ!」  
俺は思わず声を漏らした。  
しかし決して気持ちがよかったから、というわけではないので誤解なきよう。  
 
ハルヒはそれが何かはすぐにはわからず、胸を触られたことも忘れ怪訝な表情でしばらく  
弄んでいたが、やがて理解できると、みるみるうちに梅の花の赤よりもさらに赤く顔を染  
め上げ、  
「ぎゃっ!!」  
まるで台所にいる茶羽の虫でも発見したような、まことに失礼な叫び声を上げた。  
そしてハルヒは、マグマを吹き出しかねないほどの顔色と形相で、  
「あたしの胸を触ったうえにこんなモノまで握らせて……この、エロバカキョンっ!!」  
と叫ぶと同時にハルヒが放ったコークスクリューパンチが俺の顎に見事に決まった。  
その直撃を受けた俺は壁にしこたま頭を撃ち付け、100万ボルトの電気が走りあえなく  
気を失った。  
 
 
………………  
 
…………  
 
……  
 
 
目が覚めると、俺は自分の部屋のベッドに寝かされていた。  
そしてハルヒ、ミヨキチ、妹の3人が俺を見下ろしている。  
なお、妹以外は一様に顔を赤らめており、俺を見る目も何やらよそよそしい。  
「悪かったわよ。でもね、あたしの胸を触った上に、あんなモノを見せたのも飽きたらず、  
それを触らせたあんたも悪いんだからね!」  
「それはあやまる。すまん。だがあれは不可抗力だ! ……待て、それよりも見た……の  
か?」  
「しょうがないでしょ? あの状況じゃ。それに、あんたが今服を着ていることを不思議  
だと思わなかったの?」  
 
そういや、俺は裸で気を失ったのに今は服を着ている。  
てことは……ハルヒだけでなくミヨキチや妹までもが……見た……のか?  
「そうよ、気を失ったあんたを部屋まで運んで、服を着せたんだからね」  
まて、順序が逆じゃないのか? せめて先に服を着せてくれ。  
「わたし、男の人に胸を触られたのも、男の人のあんな状態を見るのも初めてです。でも、  
お兄さんだったから……」  
終始俯きながら、ミヨキチはか細い声で語った。  
ただ、最後の方は聞こえづらかった。俺だったらなんだ?  
だが、よほどショックだったらしい。  
申し訳ない。  
しかし、俺だってショックだ。ミヨキチにまで見られるなんてな。  
 
……ところで、お前も見たのか?  
「うん、キョンくんすごかったよ」  
何がすごかったんだろう?  
それでも、そんな無邪気な笑顔で大胆な発言をさらっとするんじゃない。  
 
しかしどうも、俺は京都の国宝級の仏像のように特別展示をしてしまったらしい。  
3人限定だがな。  
まさに、お宝の陳列だな。だが、笑えねえ。  
やれやれだ。  
 
 
 
 
回想シーンはここまでだ。  
 
この騒動以降、ミヨキチやハルヒがしばらくの間俺と目を合わせてくれず、時には顔を赤  
らめることもあり、それがクラスの連中やSOS団のメンツにさらなる誤解を生んだりした  
のだが、またの機会があれば語ろう。  
 
 
終わり  
 

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