朝。
あたしはいつものように通常の約3倍の速度で北高の坂を登りきり、教室に向かう。
トップスピードのあたしは登坂車線の10トン車くらい余裕でかわせる。そんな自分の脚力が悩ましい。
いけない。またファンを獲得してしまう。
すでに獲得しているファンの数から言えば微々たるものだけど、ヒロインとして運命付けられているあたしに休息など許されない。
「春なのね」
ふと気が付く。玄関先を淡く彩る花びらの群れ。
そう。新館の前は桜吹雪。遠山の金さんを松平健が演るなんて誰が予想しただろう。
あたしもおもわず目を奪われた。マツケンサンバに。
「オーレー、オーレー」
おもわずつぶやく。
うん。
誰も聞いてないわよね。
聞いてるやつがいたら即ぶちのめして奥歯ガタガタいわしてから無理にでも忘れさせるし、別にいいけど。
――全裸で
‥‥‥のいぢ絵のあたしの裸をバストDカップ未満でイメージしたあんた、そこに直りなさい。今日のあたしの正宗は血に飢えてるわ。
がちゃがちゃ。
鼻にツンとくる微かな臭い。ゲタ箱の臭いなんてのは男子だろうと可憐な乙女(あたし)だろうと実はあんまり変わらない。
「ふん」
あたしは鼻を鳴らす。
こんなところにラブレターとか呼び出しの手紙、ましてや牛みたいな乳した年増が秘密連絡の手紙を入れるなんて想像を絶する恥ずかしさね。
あたしなら自殺するに違いない。ええそうよ。
んな間抜けなことするくらいなら、今頃中庭のあの桜の木の下で灰になって眠ってるほうがマシだと思う。力石もそのほうが喜ぶわ。
ましてやあの年中寝惚けたようなアホ面男のゲタ箱になんぞ入れた日にゃあ‥‥‥。
と、いうか誰か入れたんじゃないでしょうね。
いたらマジ殺すわよ。マジよ。見つけたらその場で中性子崩壊させるからね。
そんなことを考えてるうちに、ついいつもの癖で以前の教室の前まで来てしまった。見知らぬ若造と目が合う。
気まずい。
とりあえず見とがめたあのクソガキに三日後の満月の夜破孔から血を吹き出して死ぬくらいのガンをとばす。
――しかも全裸で
んなわきゃないわよ。
リアルで妄想してるバカがいたら異次元から黄金聖闘士けしかけるわよ。ハーデス編とか関係ないから。
あー、なんか調子狂っちゃう。やっぱ新しいクラスだし。
教室の場所入れ替えさせようかしら。
でも、まあいいわ。
あの一日仏頂面とまた一緒のクラスらしいし。
あいつのちょっとだけ大きい背中を思い浮かべる。
朝のHR中にシャーペン突き刺す場所を二ヶ所決め、あたしは意気揚々と教室に乗り込む。
――ここでバク転
本当にやってしまった。