俺には、ある人物がある行動をとるたびに頭をもたげ、次の瞬間には忘れている、そんな他愛の無い疑問がある。  
いや、本当につまんないものなんだ。俺以外の人間はそんな事、気にもしないだろう。きっと逐一そんなことが気になってしまう、俺の方がおかしいに違いない。  
だが、この際俺がおかしいうんぬんは忘れてしまおう。気になるもんは気になるんだから仕方が無い。  
俺は決心した。今日こそ本人に直接問いただすことを。  
アイツが財布を取り出すたびに感じていた疑問、すなわち、長門の収入源はなんなんだ? ということを。  
 
 
都合のいいことに本日は土曜日恒例不思議探索決行日で、なおかつ俺と長門がペアであることをくじは告げていた。  
長門に質問をぶつける、またとない機会だ。  
お約束のように図書館へと向かう道すがら、俺はいかにも、そんなに興味はないんだぜ、とでもいいたげな軽い調子を装いながら、長門に訊いてみた。  
「なあ、長門。おまえってどうやって金を都合してんだ?」  
と。  
それに対する長門の返答は、シンプルかつ意外なものだった。  
「バイト」  
いやはや、驚いたね。まさか宇宙人である長門が地道な労働によって金銭を得ていようとは、まったくもって予想外だった。  
言い方を変えれば、長門は親元を離れて自分で生活費を工面する苦学生なわけだな。偉いもんだ。  
 
だが、続けて仕事の内容をたずねた俺に、長門が語ってみせたその業務内容はかなり意味不明なものだった。  
「ロボット工学者の友人宅で家事、および時折暴行をくわえている」  
暴行!?  
なんだそりゃ? なんでそれが仕事なんだ? それは犯罪と呼ばれる行為だろ。  
「工学者に、そのように振舞うよう指示されている」  
ますます訳がわからん。そのロボット工学者は友人に恨みでもあるのか?  
と、ここまで考えて、俺はなにやら頭の中に引っかかりを覚えた。  
ロボット工学者、その友人、暴れる家政婦、っていうかロボット……  
なんか、どっかで聞いたことがあるような…  
 
 
「相変わらず無駄の多いバイトをなさってるんですね。長門さんは」  
俺が頭の中で必死にジグソーパズルを組み立てているとだ、いつの間に現れたのやら、俺達の正面には微笑みの上級生、喜緑江美里さんが音もなく立っていた。  
「その点、わたしは一切無駄がなく、なおかつとてもエコロジカルなバイトをしていますから。  
長門さんも仕事はちゃんと選ばないと」  
「得手不得手。わたしにあなたと同じ仕事は無理」  
「そう言う喜緑さんは、一体どんなバイトをしてるんですか?」  
どことなく誇らしげな喜緑さんの態度に、これまた仕事内容が気になった俺は、こちらの方にも確認してみることにした。  
さて、喜緑さんが語るところの『エコロジカルなバイト』とはこういうものらしい。  
「簡単なものです。お客様の隣で相槌を打ちながら、お酒を飲んでいるだけの仕事です」  
それ、ホステスって言うんじゃないですか? それのどこがエコロジーなんだ?  
「なんとですね、わたしが飲んだお酒は100%還元が可能なので、いくらでも再利用ができるのです。  
これこそ完全循環型商法、これ以上なく地球に優しいバイトではないでしょうか」  
え、つまりそれってお客は金の出し損ってこと?  
っていうか、これもどっかで聞いたことがあるような………って!  
「それ! 最終的には客が全員死にますから! 今すぐそのバイトは辞めてください!」  
「そんな……  
最近では、わたし目当てにお店に通ってくれるファンの方も出来ましたのに…」  
「そいつが犯人だっ!」  
 
 
やっぱり万能宇宙人のバイトは地球人の常識からかけ離れてるな。  
この分だと、朝倉あたりは、願いを叶えるかわりに、ライバルは2倍幸せになるっていう悪魔のバイトでもしてたんじゃないか?  
 

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