「なんだそれは」
いや、それが何かくらいは見りゃわかる代物なんだが。
あまりに唐突な場所で、しかも見た目好青年が記念撮影のタイミングを待つ卒業旅行中の若者のような笑顔で側に佇むシュールな
光景だったもので、思わずツッコんでしまった。
「見てのとおり、『もし○ボックス』です」
見てのとおりじゃねーよ。なんだよ『もしまるぼっくす』って。伏字をそのまま読んじゃいました的発想のネーミングだな。
「いろいろとまあ、大人の事情がかくかくしかじかでして」
わかった。お前俺を怒らせたいんだな、そうなんだろ?
「滅相もない。ただ重大なミッションを我々の仲間が無事完遂してくれたことが純粋に嬉しいのです。それでついこんなことをあなたに
話してしまっているのかもしれませんが」
話の内容をつかめていないことを俺が荒ぶる鷹のポーズ(嘘)で伝えると、古泉はいつもの調子で事情を解説しだした。
簡単にいうと、こいつらの敵性組織が知り合いの宇宙人的存在の好意を受けて調達してきたものを命がけで鹵獲したものらしい。
外見はとことん公衆電話BOX的だ。今時珍しいくらい。
で、最終的に処分する前にこのドラッグストアの駐車場に仮置きしている最中なんだと。荷物番バイトを古泉が自ら買って出たらしい。
「最近、あちらのバイトがめっきり減ってしまい、個人的収入源が限られてしまっているものですから」
ちなみに俺は買い物の帰りに声をかけられた。この店が家から近いんだ。つうかわざとここで待ち合わせしてるんじゃないか?
俺のこの推察には直接答えず、
「我々『機関』と彼らとの緊張状態は、現時点においては力の均衡によって保たれた冷戦状態であるといってもよい状態です」
聞いてもいないのに裏事情を語りだしやがった。まあいい。どっちにせよ巻き込まれるんなら話だけでも聞いておくか。
「で、その『もしまるぼっくす』が使われるといろいろやばかったってことか」
「その通りです。あの猫型ロボットのいる世界における『もし○ボックス』と同じ機能を有した、これは対人類妄想支援用非人類型端末なのですよ。
不幸中の幸いなことに、彼らがこれを供与されたのはごく最近のようですが」
わざとらしいことにかけては右に出る者のいない左大臣クラス(俺調べ)の苦笑を浮かべながら古泉は言った。
「ただし、たとえ使用されていたとしても我々にはそれを知覚することができない。場合によっては電話をした本人さえも。なぜならこれは世界の
枠組みの外から環境を変数化させ再入力するという、いわば規格外の機能を有するモノだからです、」
ふう、と溜め息を吐く。
「そして、使われなかったという保証はありません」
なるほど……。納得してる俺もどうかしてるな。
それで、異世界体験をつい最近もさせられてきた俺の反応を見てみたかったってわけだ。なかなか筋のいい余計な詮索だ。
この世界はたしかに変化してるらしいぜ古泉。言っても信じないだろうがな。
おかげで説明の付かない俺のこの欲求の出所がわかった気がする。
――そう。
理屈のないこのデザイアが俺にイメージさせるものは、ハルヒのきばる姿だった。