ある雪の降る日。
彼女は、生まれた。
あたしは、誓った。
何があっても彼女を守る。
あたしは彼女を泣かせはしない。
【ナイフ】
クラス委員になったあたしにとって、ある人物に近付くのは容易かった。観察対象に探りを入れているのも、はたからすれば仲間の輪に入れないクラスメイトを気遣っているようにしか見えないだろう。
あたしの存在意義は観測。そして彼女のバックアップ。独断行動は許されない。あたしは彼女の言う通りに従う。あたしの操り主が、方針を変えでもさない限り。
あたしは彼女を守る。何があっても。それがあたしの役割だった。
…だけど、それはあまりにも早すぎた。観察対象に情報爆発を促すため、鍵となる人物を抹殺せよ。あたしが受けた命令はそうだった。まさか…こんなにも早く、こんな形で情報統合思想体の意見が分裂するなんて。
上の命令には従うほかない。だが強硬な動きは主流派と対立することになる。つまり…あたしが守るはずの彼女と、対立することに……
抹殺するには彼を呼び出さねばならない。何処がいだろう。邪魔が入らないように学校以外で…いいや、やっぱり身近な一年五組にしよう。そして呼ぶ方法は手紙にしよう。そして下駄箱に入れよう。異性を呼び出す時に使う、人間のやり方にのっとって。
この情報はやや古いかもしれない。だけどいいんだ、このほうが。
どうやって彼を抹殺するか。あたしが直接手を下されなくとも病死なり事故死にすることくらい造作もない。だけど…あたしの誓いに最も似ているモノを。それでいこう。鋭く、打たれては強くなり、誰もが隠し持っているもの。
陽が沈み、西の空が茜色に輝いている。綺麗だと思った。最期に、ふさわしいかもしれない。
誰の最期にふさわしいか…もうじき、はっきりする。行くしかない。そこに、あたしの誓いが待っている。
「行くわよ、長門さん」
一度だけ、名前を呼んでみた。
「情報連結解除、開始」
教室のすべてのものが輝いたかと思うと、その一秒後にはキラキラした砂となって崩れ落ちた。
薄れゆく意識の中、対峙する彼女の顔が寂しさに歪んだような気がした。
ごめんね、長門さん…
あたし、あなただけは悲しませたくなかったの。泣かせたくなかったの。それは、ほんとなの。
でもこれだけは覚えておいて。あたしたちが「悲しみ」を覚えた時…それは……そ…れは
あたしの胸から足は、すでに光る結晶で覆われていた。そんなあたしを愕然と見ているあたしたちの鍵…彼と、目が合う。
涼宮さんとお幸せに。
長門さんを悲しませたら…許さないから。
そして私は音もなく、小さな砂場になった。
その半年後、長門有希はエラーを蓄積させ、誤作動を起こす。
それが悲しみによるものなのか、それとも別の何かが原因だったのか、今となっては誰も知らない。
そして再構築された世界、彼女は再び「誓い」を握る事になる。
それも、長門有希が望んだからなのだろうか。
(終わり)