こんな星の夜には  
 
 好きな人に会いたくなって  
 
 外に飛び出してみてもいいんじゃないっ?  
 
 
 きっと、何かいいこと見つけられるっさ。  
 
 
 
 【スノースマイル】  
 
 
 
 肌寒さを感じて目を開けると、部屋の様子が変わっているような気がした。  
 ここはいつもの俺の部屋ではない。SOS団冬季合宿として訪れた鶴屋家の別荘だ。  
 布の擦れる音がして目をやってみる。…窓が開いてる。吹き込む夜風でカーテンが舞っていた。寒いのはそのせいか。月が出ているようで、窓の周辺が浮き出ているように見える。  
 その月明かりに浮かんだ、見覚えのあるシェルエット。ピンクのカーディガン、膝まである長い艶のある髪。神秘的な美しさを漂わせるその人影は、微笑んでいるようだった。  
「鶴屋さん…?」  
 間違えるはずがない。あの笑顔を何度も至近距離で見てるからな。  
「おはよう、キョンくん」 鶴屋さんはそう言うと、音もなくこっちへ近寄ってきた。  
「今からちょっち、付き合ってくれないかなっ?」  
 まだ横になっていることに気付き、慌てて俺は身を起こした。そして時計を探す…何処にあるのか分からない。今は何時だろう。かなり遅いはずだが。  
「何処へ行くんですか」  
「うふふん。それは着いてからのお楽しみさっ」  
 こんなに暗くても、いや、周りが暗いからこそ、彼女の笑顔は昼間見るよりも光って見えた。  
 
 鶴屋さんが案内してくれたのは屋根裏部屋だった。  
 そう、鶴屋さんが小さい時に使っていたという瞑想部屋である。  
「懐かしいなあっ」  
 部屋はこじんまりした感じだった。家具も机とベッドくらいしかない。サイズはもちろん子供向けだった。  
「キョンくん、こっちにきて」  
 まだ夢見心地の俺は、招かれるままに窓辺の鶴屋さんに近寄った。そして鶴屋さんの隣に立ち、両開きの窓から外を見た。  
 
 絶句という二文字は今の俺にこそふさわしいだろう。見渡す限りの雪原。それ以外は何もない。あるとすれば、地平線で雪原と繋がる冬の星空。  
 雪は月の光を浴びて一つ一つが輝きを放っていた。星は夜空にだけあるものじゃない。雪の日には、ここの景色全てが星になるようだ。  
「この景色を誰かに見てほしかったんだ。……には」  
 今、何と言ったのか。小さすぎて、俺には聞き取れなかった。  
「ぶるるっ、寒くなっちゃった。風邪ひくといけないっ。戻ろっか」  
 鶴屋さんは何事もなかったかのように窓を閉め、先に歩き出した。  
   
 部屋に戻った俺は、さっき鶴屋さんが言いかけたことを思い出そうとしたがその思いも空しく、俺は数分で寝てしまった。  
 俺はずっと忘れないだろうな。月明かりの下、雪の結晶のように笑う、鶴屋さんの姿を。  
 
 
 ……誰かに見てほしかったんだ。  
 
 
 ――キミだけには。  
 
 
 
 
(終わり)  
 

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