埋めネタその3 長門博士の恋愛解析
「なあ長門、喜緑さんは、お前を監視するために、存在しているんだよな」
「そう」
「それってやっぱり、この前みたいに暴走しないためにか?」
「そう。だけど、それだけではない。情報統合思念体は、私という個体の変化にも自律進化の可能性を見出している」
「ハルヒだけじゃなく、お前も『進化の可能性』ってやつに昇格したのか?」
「そう。でも、その過程は複雑。うまく言語化できない恐れがある。それでも聞きたい?」
「ああ」
「有機生命体にとって進化の鍵は、遺伝子情報の効率的な交換にある。全宇宙に散らばる平均的な有機生命体にとって、その目的と行動は極めて単純。
しかしながら、地球人類は、その遺伝子情報の交換に新たな手段を見出した。
それは『恋』という複雑な感情ノイズ混じるステップを経て情報を昇華させ、
配偶者と高次の情報連結を構築した上で、性交渉を通じて遺伝子情報の交換をおこない、次世代を育むという方法。
情報生命体にとって、有機体の限界から発生する情報の規制は、ただのノイズ。
しかしながら、地球人類はこのノイズを積極的に逆用することで、いびつで複雑な情報をくみ上げ、それを配偶者と合致させることで、
容易に途切れない強力な情報連結を構築する。」
・・・なんというか、708号室をはじめて訪れたとき以来の情報伝達の齟齬ってヤツを感じるんだが。
「この『恋』という情報構築手段は、有効ではあるが、複雑であるが故の困難さを伴う。
そこで、次世代が効率的に『恋』を行えるよう、自らの経験を詳細に伝えるために言語が生まれ、それを記録するために文字が生まれた。
そして、これらの情報集積手段を得た人類は、さらに『恋』を円滑に行うために、
因果関係の小さい情報の蓄積も行い、その集合体として文化が発生した。
つまり『恋』という独特な情報構築方法こそが、地球人類の高度な情報蓄積手段を
獲得させる原動力となり、有機情報生命体という独自の進化につながったと推定される。」
・・・要約すると、長門の親玉は、どっかのバカ女よりも極度の恋愛至上主義者らしいってことでおk?
「情報統合思念体は、この『恋』という情報構築手段に、情報生命体の進化の可能性を見出し、強い関心を抱いてきた。
しかしながら、有機体由来のノイズが重要な因子を構成するため、恋は偶然が作用する確率が非常に高い。
そのため、無数の事例を積み上げて解析しても、一定の方向性は見出せるが、個々の事例にばらつきが大きく、原因にはたどり着けない。
そこで、インターフェースに恋を疑似体験させ、その過程を詳細に解析しようと試みてきた。
しかし、残念ながら、ノイズを極力排除することで進化してきた我々には、ノイズの有効活用に関するノウハウがなく、
インターフェースが蓄積する微小なノイズは、『恋』と呼ぶほどの大きさのノイズには成長しなかった。
そこで我々は、涼宮ハルヒの持つ、周囲に大きな影響を及ぼす力に着目した。
情報統合思念体にとって、自らを消し去る力を持つ涼宮ハルヒに必要以上に近づくことは、リスクが大きすぎる。
ゆえに当初の予定では、遠くからの観察だけに留めるはずだった。
しかし、その周囲への影響力が、新たな進化につながる可能性が出てきたため、北高に複数のインターフェースが配置された。
その結果、私という個体に期待通りの情報ノイズが発生した。
また、詳細な解析を行った結果、朝倉涼子の行為にも同種のノイズが作用していたと思われる痕跡を発見した。
我々にはノイズ処理のノウハウがない故に、以前は暴走してしまったが、
これらの経験は情報統合思念体にとって、自立進化に向けた大きな一歩となった。
これらを総合して得られた結論は、涼宮ハルヒの能力を触媒にして、ノイズを利用した偶発的情報構築こそが、
我々にとって、もっとも安全で確実な自律進化の方法であること。それが我々がここにいる理由。」
「・・・スマン長門、情報伝達に齟齬が生じすぎで、いまいちさっぱりだったんだが、
要するに、長門は親玉の恋愛のために、俺たちと一緒に行動しているのか?」
「それはすこし違う。情報統合思念体は『恋』の進化原動力を高く評価しているだけ。
インターフェースを涼宮ハルヒの近くに配置したのは、情報統合思念体の意思。
しかし、恋には自律行動が必須。ゆえに私という個体は、広範な自律行動が承認されている。だから、私がここにいるのは、私の意志」
「・・・えーと、要するに、親玉を進化させるために、自立して恋愛をしなきゃいけないわけか。長門も大変だな」
「・・・にぶちん」