埋めネタその2 『長門有希の研究』  
 
いつものように扉を注意深くノックし、小春日和を想起させる返事のないことに幾分の落胆を抱きながら文芸部室に入ると、  
いつものように宙人専用端末が、アナログ式な情報収集に励んでいた。  
「あれ!?長門、今日はまだお前だけか?」  
「そう」  
 
そこで俺は、記念すべき光景を目の当たりにすることとなった。  
ちらりとこちらを向いてミリ単位の会釈をよこす長門の顔が、どことなく上気しているではないか!  
こんなことは、クリスマス前の一件を除けば初めてだ。なにやら不穏な予感が。  
 
とりあえず、長門観察スキルを発動して、より詳細な状況分析を行うとしよう。  
ふむ、頬がいくぶん上気して見える以外は、いつもどおりだな。  
あえて相違点を探すならば、厚物好きの長門が、今日は通常サイズの文庫本を読んでいることくらいか。  
 
「部室で文庫本なんて珍しいな。なに読んでるんだ?」  
「フランス文学」  
「へー・・・お前、フランス語まで読めたのか」  
ってまあ末端とはいえ、ビッグバンとともに進化し続けてきた情報の塊に連なる身とって、外国語の習得なぞ朝飯まえ以前の・・・って、ちょっとまて!  
長門がこちらに向けてくれた黒い背表紙の文庫本は・・・どうみても書院文庫です。本当に(ry   
「ちょwwwおまwwwなに読んでんだ!!!111!!」  
ありえねえええ!!無表情系文学美少女キャラに書院文庫!!!男に尽くすハルヒ同じくらいありえねええええ!!!!  
 
「この団体の名前は?」  
へ!?なに言ってんだ長門!まさかお前、また暴走しちまったのか!?  
「え・・SOS団・・・」  
「そう。SOS「団」。だから『団』」  
「しかも鬼六かよっ!!!」  
 
「いや、そうじゃなくて!なんのためにそんなもん読んでんだおまえ!!」  
「研究」  
けけけ研究!?わからん!さっぱりわからん!!宇宙にあまねく広がる情報網の端末が、書院文庫でいったい何の研究をするつもりだ!?  
「涼宮ハルヒが朝比奈みくるに着目した理由」  
ハルヒが朝比奈さんを拉致ってきた理由といえば・・・もしかして、萌え要素か?  
「そう」  
いやまちがってるから!書院文庫に萌えは無いから!!むしろ何かを燃やすほうだから!!  
んで、そこから垂れる雫の熱さに、さすがの無表情系宇宙人専用端末も・・・って、なに妄想してんだ俺!!!!!  
 
「で・・・面白いのか?それ」  
「ユニーク」  
「すべてが、か?」俺の先回りの質問に対する答えは、さらに斜め上だった。  
「地球における有機生命体に宿る、有機体型情報因子の時間軸移動時における手段の多様性が」  
すまん。なにを言ってるんだか、さっぱり分からん。  
だが、有機生命体の時間軸うんぬんが、書院文庫に描かれているとは、俺にはとうてい思えないぞ。  
長門の黒曜石の瞳が、少しだけ揺れながら、真摯に俺の目を捉えた  
「分かりやすく言うと、Y染色体型情報因子とX染色体型情報因子の混合時におけるぷれいの表現がユニーク」  
!!!!!  
「・・・実践を推奨する」  
この日、俺は初めて、耳まで真っ赤になりながらうつむく、眼鏡なしの情報端末を発見した。  
 

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