目の前に広がるものが色あせて見えた日以来、わたしはずっとそのことを考えてきた。  
   
 わたしは名づけ変えたいと願った。  
   
 人類の生活を無味乾燥なまま固定するために意味を付されたあらゆる名前を、この世界に満ち  
ている騒音のようにわめく音を、濁った空気を反映するために去勢されたかのような色という色  
を。  
   
 わたしは創造したいと願った。  
   
 古本屋の片隅で埃をかぶって眠っていた驚嘆すべき箴言をふたたび取り上げる詩人のように、  
それがそれ本来のものとして孕む活気や強さ、息をのむような美しい調べ、尽きることのない喜  
びの源泉にその居場所を取り戻してやることを――これこそ〈リ・クリエイション〉と呼ばれる  
もの!  
   
 わたしの両目にわたしは〈見ること〉を課した。  
   
 不可視の世界への道を妨げる、よどんだ空気の底の底に沈殿するあらゆる煩いごとから逃れて、  
まっすぐであるべきものを歪めるすべての誤謬また目に見えるはずのあらゆるものを目に見えな  
いものとして規定するすべての常識・自己規定から逃れて〈見るように〉と――――  
   
 わたしは強く願った。  
   
 信じることを妨げるあらゆる不信、不道徳、世俗的な紐帯もそれを制約することのない、恒星  
系の重心のように確固とした、古そうでいてまさに新しい新星のような、煤けてくすんでいるよ  
うでいて実はいかなる目も正視できぬような、そんな輝きがわたしの内に灯るように。  
   
   
 そして夢を見た。世界の有り様を形作るための音楽を発表する場のような夢だった。  
   
 音楽が聞こえてきた。緑柱石でできたような虹の中から。  
 その大音声のなかにはそれはなかった。  
   
 激しい怒りの表明のような音声(おんじょう)を伴う積乱雲の暗がりが広がって――  
 だが、そこにもなかった。  
   
 琥珀色に透き通った海から大海嘯の響きがあった。  
 そこにもいなかった。  
   
 そのあと半時間ほどの静寂があり――  
 そこにそれはいた。   
 それは形のないものだったが、やがて人の形をとって輝きだした。  
   
 パステルホワイトに輝くケープを纏い、その目は火の炎のように燃え立ち、その赤銅色の足が  
立つ海の水は沸騰して激しく沸き立っていた。だが彼が声を発するやいなやほかのすべての超自  
然的なものは形をとることをやめた。ただ海と空が広がっている。   
 
 静穏のなかに彼の言葉が響く。  
 蒼穹はただただ静粛を保ち、大海嘯に満ちた海は鏡のように静まって鳴り止み、天上に満ちた  
あらゆる音楽はその声を待つようにその嫋々とした演奏を止めていた。  
 わたしに理解できる言葉でそれは語った。  
   
 自分のことを思い出す時が来るだろうと彼はいい、最後にこう言ってふたたび混沌へ還ってい  
った。だが、「自分の言葉を秘しておくように、最後の声を除いて」とそれはわたしに告げた。  
 そう、最後に彼はこう言ったのだ。   
 
〈世界にはきっとある、わたしがその中に生きつづける心が……〉   
 
   
――――わたしは高校生になり、ついに彼を思い出した。  
 

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