今年は例年以上に暖冬だ。  
 
 これだけ暖かいと部屋にいて暖房をかける必要も無い。  
 外に出て散歩でもしていたら体がたちまち暖かくなってくる。  
 車道を走る車を見ると皆暖房をする必要が無いためか窓を開けて走っている。  
 そう。窓を開けて走る人間ならいるのだ。なぜなら暖かいから。  
 しかし屋根を開けて走っている人間は滅多にいないだろう。なぜなら暖冬とはいえ  
まだ春にはなっていないのだから。  
 だが、年中頭が暖かい人間と宇宙人と未来人と超能力者の組み合わせならどうだろう。  
 そんな奴らはいない?暖冬を通り越して春になっているのはお前の頭だ?  
 そうかもな。この四人と付き合っているおかげで俺の頭の中はヒートシンクが  
必要なほどに熱を持って春の暖かさどころか夏の暑苦しさまで感じている。  
 だから暖房の効きなど論外である屋根の無い車に乗っている四人が俺の  
すぐ右で停車してもなんとも思わない。  
 何故ならいつも通りだから。さらにSOS団は暖房要らずの熱暴走集団だからだ。  
 いや、俺は違うぞ。俺はいたって普通の人間だからストーブやファンヒーターなどの  
暖房器具がなければ冬を越せない。この四人とは違うのだ。  
 ・・・・・・それでもこいつらと一緒にいるのは、こいつらが俺の仲間だからだ。まあ、俺は  
熱暴走などしていないが――ホッカイロ程度の暖房能力は持っているのではないだろうか。  
 
 前置きが長くなった。まとめよう。  
 
 
 散歩していたら二人乗りのオープンカーに乗ったSOS団の四人に遭遇した。  
 
 
 俺はまず折りたたまれている幌の上で胡坐をかいている団長に話しかけた。  
 
 なあ、ハルヒ。  
「何よ」  
 まず聞いておきたいんだが、何故オープンカーで走ってるんだ?  
「そんなの決まってるじゃない。こーんなに暖かいんだから屋根を開けてても  
 全然平気でしょ! つまり今日はオープンカー日和なのよ!」  
 それでも少しは冷たい風が来るだろう。たった今俺が感じているように。  
「あんたなに言ってんの? 生粋のオープンカー乗りの人たちは雨とか雪とか  
 雹とか鳥の糞とかが降ってこない限りは屋根開けてんのよ!」  
 俺は生粋のオープンカー乗りではないし、そもそも車の免許すら持っていない。  
「いいじゃない。今からオープンカーの味を知っておけば自動車人生がバラ色に  
 なるって偉そうなヒゲ親父も言ってたわよ」  
 今は自動車人生より学校生活をバラ色にしたいんだがな。  
 そもそもなぜSOS団全員で二人乗りのオープンカーに乗らなきゃならんのだ。  
「その方が楽しいじゃない!」  
 ・・・・・・お前にとってはその理由だけで充分なんだろうな。  
 俺はこんな正気を疑われることは緊急時だけ行いたいものだ。  
 
 
 次に相変わらずの無表情で車のハンドルを握っている宇宙人に話しかけた。  
 
 なあ、長門。  
「・・・・・・なに」  
 まず聞いておきたいのだが、お前免許なんか持ってたか?  
「持っていない。無免許」  
 おい!まずいだろそれは。俺はハルヒのアホな思いつきで警察のやっかいに  
なりたくないぞ!  
「大丈夫。この車に警察車両探知用レーダーを装備させた。半径10km圏内であれば  
 自転車に乗った警官も感知できる」  
 ・・・・・・そんなもんどうやって作ったんだ?  
「まずこの車のトランクに設置してあるバッテリーの端子に、市販されているレーダー探知機を  
 直結する。レーダー探知機は分解して・・・・・・」  
 いや、いい。説明しなくてもいい。  
 つまり、おバカな五人乗りをしてても警察に発見されることは無いってことだな?  
「そう。・・・・・・私は負けない」  
 うん。そうやって熱くなってくれるのはいい傾向なんだけどな。  
 もっとまともなことで熱くなってほしいと俺は思うわけだよ。  
 
 今度は助手席に座っている愛らしい年齢不詳の未来人に話しかけた。  
 
 朝比奈さん。  
「なんですか?キョンくん」  
 最初に聞いておきたいんですが、寒くないですか?  
「はい。全然寒くないです」  
 俺は風の巻き込みがきつい場所にいるから結構寒いですよ。  
 朝比奈さん、寒さに強いんですか?  
「この後ろについてるエアロボードっていうのを立てると風があまり来ないんですよ。  
 それに暖房もかけてるからまるで露天風呂に入ってる気分です」  
 首から上は寒いけど首から下は温かいってやつですか。  
「はい。オープンカーって気持ちいいんですね。私初めて乗ったんです。  
 未来では――――ごめんなさい。禁則でした」  
 いえいえ。未来の車のことなんて興味無いから気にしないでください。  
 ところで、露天風呂に入ったことがあるということはやはりあなたは日本人?  
「ふふ。露天風呂にはさっき行って来たところですよ」  
 なにい!?温泉に行くんならハルヒの奴も俺を誘えばいいのに!  
 くっ・・・・・・朝比奈さんのお風呂上りのお姿を拝みたかった・・・・・・。  
 
 
 最後に俺と一緒にトランクルームに座っている微笑の超能力者に話しかけた。  
 
 古泉。  
「はい。なんでしょう」  
 最初に聞きたいことがある。この車を手配したのはお前か?  
「ええ、そうです。幸い新川さんが所有していたので一日限定で貸してもらったんですよ」  
 そうか。新川さんもせめて五人乗りのオープンカーを持っていてくれたらよかったのにな。  
「こういうのもいいじゃありませんか。仲良しの友人たちと一緒に違法行為を行う・・・・・・  
 僕はこういうのを一度やってみたかったんです」  
 こんな馬鹿げたことを心の底から歓迎しているのはお前くらいだ。  
「おや、その割にはあなたも乗り気のようですが?  
 僕たちが目の前に現れたときも逃げ出そうとはしませんでしたし」  
 逃げたらハルヒにろくでも無い目に合わされるのは目に見えてるからな。  
 上半身裸でオープンカーに乗せられる罰ゲームをやらされてもおかしくない。  
「トランクルームに男二人で座っているのもすでに罰ゲームのようなものですがね」  
 言うな。それを認識したくないから話を逸らしているということを察しろ。  
 あ、後ろの車に乗ってる子供が手を振ってる。はは、あはははは・・・・・・  
 
 
 今日は快晴。空は真っ青。確かにハルヒの言うとおりオープンカー日和なんだろう。  
 だが、今俺は決めた。もうこの四人とは一緒にオープンカーに乗らないと。  
 まあ、こんなことはもう無いだろうけどな。  
 あ、くしゃみ出る。  
 
 
 「はっくしょい!」  
   
 
 終わり  
 

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