もう一度お弁当。
「あっキョンくん。こんにちは、今日は早いんですね」
朝比奈さんは珍しく制服のままでパイプ椅子に座っていた。
目の前の机には・・・弁当箱?
「どうしたんですか、こんな時間に弁当なんて。もしや意外と大食」
「ち、違います!お昼休みに食べようと思ったら涼宮さんがいきなり教室にやって来て、
ずっと学校中をあれこれ引っ張りまわされて・・・結局食べ損ねたんです」
いや、分かっていたけど。しかし昼食抜きとは。俺だったら発狂するかもしれん。
「それでハルヒの奴、朝比奈さんを連れて一体何をしようとしたんですか?」
「それが・・・昼休みの間に何か学校で不思議なことが起こらないか見回りをするわよって。
優秀な探偵には優秀な助手がついているものなのよ、って」
「・・・」
「仮に優秀じゃなくてもドジッこなら話のタネになるからいいでしょう、って・・・」
頭の中を読まれた!?
い、いかん。朝比奈さんの顔に暗い陰が。話題を変えねば。
「と、ところでその弁当なんですが。やっぱり全部自分で作ってるんですか?」
「えっ。うん、時々前日の残り物を使う事もあるけど基本的には。それに同じ物ばかりだと
飽きちゃうから最低でも週に一つは本を読んで新しいものを作るようにしてるの」
表情が明るくなったようだ。うーむ、お茶もそうだがその飽くなきチャレンジ精神は実に
感服する。見習いたい。それにしても朝比奈さんの手作り弁当か。もう一度弁当箱の方に
目をやってみると、小皿に分けられていて品目は多いものの量は俺の弁当の半分程だ。
しかし小さくとも、そのお味はどんな一流シェフも裸足で逃げ出すほどの美味に違いない。
「キョンくん、よかったら食べますか?」
「はっ!?い、いやいや。朝比奈さんの大切なお弁当を奪うなんてとてもとても」
「わたしなら大丈夫。それに、自分の作った物の客観的な評価を知りたいし」
朝比奈さんのお誘いを断れようか。客観的になれる自信はありませんが、いただきます。
「はい、どうぞ」
箸を受け取って、さっきから気になっていた物を取って口へ運ぶ。
「・・・美味い!」
「本当?これ、今日はじめて作ったの。嬉しいな」
「うんうん、本当に美味しいっすよ。今度はこっちを・・・ううん、これもすばらしい!」
食べるたびに朝比奈さんが喜んでくれるので調子に乗って、弁当箱をほぼ空にしてしまった。
朝比奈さんはわずかに残ったものを食べ終わると普段通りメイド服に着替え、直後にハルヒ
達がやって来ると甲斐甲斐しくお茶を淹れてくれた。とはいえさすがにきつかったのだろう、
それ以降は終了までずっと椅子に座って休んでいた。さすがに申し訳なく思い、お詫びに何か
奢りたいと提案したが朝比奈さんは微笑みながら辞退した。
で、夜になってふと思った。
俺は朝比奈さんの使っていた箸で弁当を食べたんだよな。そして朝比奈さんはその箸で・・・
って何を考えてるんだ。ただ貸してくれただけに過ぎないだろうに。早く寝ろ俺。
次の日、朝比奈さんはまたも部室で弁当を広げていた。
「キョンくん、今日も新しいものに挑戦したんです。もしよかったら・・・」