『フラグ・クラッシュとトーキング・ヘッド』  
 
 
土曜日には、いつもSOS団恒例の活動である不思議探索が行われている。まあ、実際に不思議が見つかることなどめったに、というかむしろまったくなく、単に遊んでいるだけに近いが。  
さて、その不思議探索だが、今回は少し雲行きが怪しかった。といっても、天気の話ではなく、涼宮ハルヒの機嫌のことである。  
 
「まったく、有希もみくるちゃんも欠席って、一体どういうこと!?ふたりとも神聖なるSOS団の活動を一体なんだと思っているのかしら」  
 
ぷんすかとわめくハルヒ。眉を吊り上げ、いらいらと足踏みするところを見ると、ご機嫌はすっかりナナメのようだ。  
まあ、そう言うな、団長殿。俺としては、喫茶店でのおごりが軽くなることを考えると、むしろありがたいと言いたくなるね。もっとも、朝比奈さんや長門と会えないことで、その喜びも半減だが。  
そして、最後のSOS団員であるスマイル超能力者も、どうやら遅刻気味である。とはいえ、まだ集合時間の十五分前なので、これを遅刻と定義するのはかなり酷というものだろう。  
と、俺の携帯に電話がかかってきた。かけてきたのは……古泉だ。  
 
「もしもし……どうした」  
 
用件は分かりきっているが、一応聞いておくのがマナーだろう。  
 
『実は、閉鎖空間が発生していまして……至急、仲間の手伝いに向かわなくてはいけなくなってしまいました。そういうわけで、今日の活動には参加できそうもありません。  
申し訳ありませんが、涼宮さんに、そのことを伝えて頂けませんか』  
 
「分かった……ああ、じゃあな」  
 
可哀想に、古泉もこないと知ったら、ハルヒの機嫌がどうなることやら……正に、神頼みだよ。  
 
 
「キョン、電話、古泉君から?」  
「そうだ。実は、急用が入って、今日の探索には参加できないそうだ」  
 
それを聞いて、またもや、ハルヒの眉がぐいと吊り上る。眉間にしわを寄せて、怒りのためか頬を紅潮させながら、いつもよりやや早口な口調でハルヒが言った。  
 
「なによ……じゃあ、あんたとふたりっきりってこと?」  
「まあ、そうなるな」  
 
嫌なら今日は解散してもいいんじゃないか?という俺の至極まっとうな申し出に、ハルヒは頬を染めたまま、ぷい、とそっぽを向きながら答えた。  
 
「ふん、途中でやりかけたことを投げ出すことの方が百万倍も嫌よ。仕方ないからガマンしたげるわ。キョン!ほら、とりあえずあんたの奢りで喫茶店にでも行くわよ!!」  
 
そう言って、ぐいぐい俺の腕をつかんで歩き出す。なすすべもなく、ずるずると連行される俺。  
ああ、ハルヒのやつ、そうとう機嫌が悪いんだな。古泉のバイトも時間がかかりそうだ。最悪、世界崩壊の危機が迫っているのだろう。  
と、再び俺の携帯が鳴る。俺はハルヒに手を放させ、携帯に出た。やけに明るい古泉の声。  
 
『閉鎖空間は完全に消滅しました。どうやらあなたのおかげのようです……実に助かりました。  
仕事もなくなったことですし、そちらにすぐ行きます。涼宮さんにお伝えください』  
 
古泉がまた来れるようになったらしい、と言うと、ハルヒはさっきのヒートアップした状態とはうって変わって、落ち着いた様子で、ふうん、と頷いた。  
 
「……ま、さすがに古泉君ね。SOS団副団長の任務を忘れてないわ。キョンも見習いなさい」  
 
あーあ、よかった、キョンとふたりっきりになっちゃったかと思ったじゃない……などと言って、パーカーのポケットに手を突っ込みつつ、どこを見るともなく空を見上げるハルヒ。  
やれやれ、古泉が来ると聞いて、ハルヒの機嫌も直ったようだし、これで世界の危機は去ったってことだろう。また電話がかかってきた……また古泉からか。  
 
『閉鎖空間が再び異常発生です!涼宮さんの身になにかあったんですか?とにかく、僕は閉鎖空間に急行します。申し訳ありませんが、涼宮さんにはよしなに……では』  
 
切れた。  
はて、どうしたことか。ハルヒの機嫌は直ったと思ったのにな。ハルヒ、古泉、やっぱり来れないって。  
 
「はあ!?一体どういうことよ、こんのバカキョン!!結局、アンタとふたりだけじゃない!ああもうっ、最悪だわ、ホント!いーい、団員その一。こうなったのも全部連帯責任よ、責任とってアンタが――――」  
 
途端に、顔を真っ赤に紅潮させて、早口で俺に罵声を浴びせるハルヒ。あれ、電話だ。  
 
『閉鎖空間はまたもや消滅たようです。今、機関の仲間から連絡が入りました。ずいぶん今日の涼宮さんは機嫌の変化が激しいようですが、本当に、なにも変わったことは――――』  
 
心配そうにハルヒの精神状態について訊いてくる古泉。横では、ハルヒが俺の腕を引きずりながら、連帯責任なんだから、遊園地にアンタの奢りで行くわよ!と、眉を吊り上げ、紅潮した顔でわめいている。  
さて、一体なにがどうなっているんだろう?分かる奴がいたらここに来い。そして俺に説明してくれ。  
 
「ほら、ぐずぐずしないの、さっさと歩きなさい!まったく、よりにもよってあんたと二人っきりなんて……んもぅ、このバカキョンッ!!」  
 
やれやれ、怒るなよハルヒ。俺は溜息をついた。  
こうして、俺と怒れるSOS団団長は、今日もまた恒例のSOS団活動を開始したのであった。  
 
 
おしまい  
 
 

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