ああ、いったい何だってこんなことになっているんだろう?俺が一体何をしたというんだ。気まぐれで怒りっぽくて猪突猛進型の神様とやらに対して、文句の一つも言ってやりたいね。  
「できればやめて頂きたいですね、僕としては。これ以上バイトが増えると、大切なSOS団の活動に支障がでますから……それより、大切なことは、いかにしてこの状況をのりきるか、です」  
いつものように、ハンサム顔ににこやかな笑顔を浮かべ、超能力者が肩をすくめた。しかし、その爽やかスマイルも、俺たちを襲った異常事態に三割ほど明るさが落ちているようだ。  
「ふえぇ……やっぱり、未来との通信がとれません……時空に断絶が生まれてます……」  
朝比奈さんがふるふると震えながら、その瞳に涙を浮かべる。どうやら、今回もまた、朝比奈さんの出る幕は全くといっていいほどなさそうである。  
「この空間に、閉鎖空間と近しいものを感じます。とはいえ、どうも僕の力は有効化されていませんね……閉鎖空間であっても、どちらかといえば、あなたと涼宮さんがふたりで行ったもの、に近いようです」  
一言で要約すると、古泉も役立たずであるらしい。  
「……だけど、肝心のハルヒはどうした?前のときには、俺より先に目を覚ましていたはずだが」  
「そこです」  
超能力者は、溜息混じりにまた肩をすくめる。  
「なぜ、涼宮さんだけがいないのか……この謎を解くことが、ここから脱出する一つの鍵でしょう。そして、もう一つ」  
古泉が指を一本たて、それを文芸部室の奥にある、うず高く積まれた本の山に向けた。  
「彼女の力を借りる必要がありそうですね」  
超能力者に指差された本の山が、おもむろに喋る。  
「……びっくりするほどユートピア」  
やれやれ。  
 
状況を簡単に説明しよう。  
1.俺が夜布団に入って、目を覚ますと、そこは我らがSOS団の根城、文芸部室だった。  
2.そこには、先に目を覚ました古泉と、朝比奈さんがいた。  
3.いつも長門が座っているパイプ椅子あたりには、大量の本が山をつくっており、長門はその真ん中で、顔だけ本の山から出していた。  
4.ハルヒだけは、どこにもいない。  
 
なにがいったいどうなっているんだ……正直、頭が痛くなってきた。  
「……これは、あくまでも仮説」  
「なんだ、長門」  
「ここは、真の読書家にだけその門を開く、本の楽園であると推察される。一日一冊以上読まないと、その厳しい入国審査にパスしないらしく――」  
「却下だ。俺も古泉も朝比奈さんも、そんなに本を読まん」  
長門は口を噤むと、顔の前に本をたて、無言の抗議を表しつつ、本の楽園へと溺れていった。だめだ、一番頼りになるはずの長門が、全く使い物にならん。  
「……あなたは、今日、部室でおきた、涼宮さんと長門さんの会話を覚えていますか?」  
額に指をあてて、背の低い刑事のやる推理のポーズをとりながら、古泉が真剣な表情で聞いてきた。  
あー、たしか、ハルヒが長門に話しかけていたような……。  
「あたし、覚えてます……涼宮さん、『有希は本当に本が好きね!さすがあたしの見込んだ読書キャラだわ!!』……って言ってましたぁ」  
長門はもともと文芸部に付属されていたのであって、ハルヒが探してきたわけではないはずだが……まあ、確かに、ハルヒがそんなことを言っていたような気がするな。  
「ええ、どうやら、すこし謎が解けてきたようですね。涼宮さんは、おそらく長門さんの読書好きに、今日の会話によって、なにか思うところがあったのでしょう。  
そして、おそらくは、夢を見ているあいだに、無意識にそのような世界をつくってしまった……」  
二割ほど笑顔に明るさを取り戻しながら、古泉が得意の解説を始める。うーん、筋は通っているようにも思うが、説得力が足りない上に、重大な欠点がある。  
「なぜハルヒがここにいない?」  
あの天上天下唯我独尊のSOS団団長涼宮ハルヒが、世界を創りかえるときに、自分だけ元の世界に留まっているようなタマだろうか?いや、ありえないね。  
「……じゃあ、じゃあ、あ、あたしたち、ひょっとして、このままですかぁ?ふ、ふええぇ……ぐすっ……ぐすっ……」  
朝比奈さんが耐え切れずにとうとう泣き出した。俺は朝比奈さんの肩に手を置いた。  
「……いえ、この世界から出る方法はあります。俺の仮説が正しければね」  
え、と顔を上げる朝比奈さん。古泉も意外だといった表情で俺を見る。  
「聞かせてもらえませんか……あなたの仮説を」  
なに、簡単なことだ。  
 
俺は、本の山に埋もれている長門に声をかけた。  
「長門、ちょっと出てきてくれないか?」  
「……だがことわる」  
そうかい。  
ま、それも予想してた答えだ。俺は心を痛めつつも、本を一気に床に崩し、長門のユートピア、本の城を陥落させた。  
本の山から出てきた長門の姿をみて、古泉と朝比奈さんが絶句する。  
「…………やれやれ」  
「…………なるほど、こういうことでしたか」  
「…………な、長門さん……そのおっぱい……」  
 
いつもの平らな長門の胸は、もはや跡形もなく。  
そこには、朝比奈さんのメロンをも優に超える、巨大、かつたわわな二つのスイカ。  
巨乳少女、長門有希がそこにいた。  
 
「…………じつにGカップ」  
くらっときたね。鬼に金棒、長門に巨乳。  
俺はその場で長門に求愛し、長門は初めてにっこりと微笑んでそれを受け入れてくれた。  
「…………祝福を。結婚にはそれが必要」  
長門の言葉に、拍手をする古泉と朝比奈さん。  
もちろん、この世界にはハルヒという邪魔者もおらず、とうとう二人の愛の生活が―――  
 
 
……………………  
 
 
「おい、起きろよ長門。閉館時間だ」  
俺は机につっぷして寝ている長門を、少々無理やりだが、ゆさゆさと揺さぶって起こした。久しぶりに二人で図書館にきたのだが、やれやれ、長門が居眠りしているとは、空前絶後のこともあったもんだ。  
「………祝福……Gカップ……ユートピア……」  
寝ぼけているのか、長門はぼんやりした目で俺を見ている。ぼーっと膝の上に置かれていた手が、何かを探すように胸に伸びて、そこではたと止まった。  
「……どうした?」  
「ない……」  
いや、もともとだろ。  
「これが観察に適したサイズ」とか、前に自分で言ってなかったっけ?ぺたぺた。  
自分の平らな胸に手をあてながら、愕然としたように、わなわなと震えだす長門。一体どうしたんだ?  
「もう、閉館時間なんだ。読んだ本、棚に返しとくぞ」  
俺は長門が読んでいたらしいSFの文庫本を棚に持っていく。ああ、これ、映画になったやつだ。というか、この作家の本、映画にしすぎだろ。  
ふと、タイトルに書かれたことがちょっと気になった。帰りにでも長門に聞いてみるか。  
 
「ヒューマノイド型インターフェイスって、夢とか見るもんなのか?」……ってな。  
 
 
―――『長門有希は電気羊の夢を見るか?』―――  
 
おしまい  
 
 
 

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