皆の衆、緊急事態だ。
今回の危機レベルは俺にとってかなりのものと推測できるし、今の俺の状況は刻一刻と悪い方向へまっしぐらだ。
そして尺の関係であっさり回想に入らせていただく。
キョンと春休み
なんてことない学校生活もすでに下校時刻に入っている。
授業中も昼休みも変なことは起こらなかったし、部(団)活もまあ普通ぐらいの忙しさだった。
要するにごく普通の学校生活であったということさ。
その証拠にハルヒはいつも通り俺の背中を的にして学校生活における大切な睡眠学習の時間を妨害してくれたし、
逆に朝比奈さんは俺のすり減った精神をその神の御手により精製された、
そりゃもうこれ以上の物はこの世に存在しないというくらいのお茶で回復してくれた。
長門もいつもの場所でいつものように読書を満喫しているようで、エラーとかいうものが溜まっているようには見えなかった。
阪中もあれ以来ハルヒと仲良く話しているように見えるし、鶴屋さんも元気よくあいさつしてくれた。
そう、何てことない一日が終わろうとしていた。ちなみにアホと童顔と超能力者は尺の関係で元気だったとだけ述べておく。
その帰り道、いつものようにみんなで並んで下校中に事件は起こった。
ハルヒは先頭で春休みのSOS団について熱く語っている。
この調子でしゃべり続けたら気が付けば春休みでしたといった勢いのハルヒの演説を聞きつつ、
古泉とだべるのも飽きたので少しの興味で長門に絡んでみた。
「長門、春休みの予定なんかあるか?」
そう言った俺に長門が振り向き、なにか言いそうなところで、
「このバカキョンっ!あんた団長様の話を理解する脳ミソすら持たない下等種族だったのっ!?」
ハルヒの話を理解しないやつは下等種族らしい。
そもそもハルヒの言っていることを理解できることのほうが少ないし、
下等種族の定義が気になるもののこの手の会話でハルヒに勝てるわけもないので素直になる。
人間正直が一番って言うだろ?
「違う、春やすみったってずっと部活してるわけじゃないだろ」
俺のもっともな発言にも耳を貸すこともなく、ハルヒが騒ぎ出した。
むしろ何も言わなけりゃ良かったと、一年間かけてなにを学んできたのかと、自問自答したくなったね。
「それじゃあノンストップで活動するわ!」
目をキラキラさせとびっきりの笑顔でそう宣言しやがった。まさか本当に休みがなくなるとはね。
「そんなもんじゃないわ!泊り込みよ、みんなの家を順番に回っていくわ!」
さすがに俺の精神崩壊が始まる恐れがあるのでここは絶対に引いてはならない。男には引いてはいけない時があるのだ。
「あのなハル「みくるちゃんと有希はいいでしょ?古泉君は?」
「あっ、あたしはこれといって…」
「……べつに……」
もう春休みの日程は決定してしまったも同然なので、改めて長門に違うことを聞こうとした。時には諦めも肝心って言うだろ?
「なあ長門は……ぐっ、いっ、いてぇ……」
なんだこの腹の痛みは、半端じゃねぇ。
朝倉か?朝倉の名前を出さなかったことを怨んでの犯行か?
そもそもこれは宇宙人が主犯なのか?
機関には流石にここまで俺に気づかれずになにかするのは不可能だろう。
…てことは未来人か?
……なにか未来の道具を使えばこういうことができる未来になってるのか?
………やばい、マジでいてぇ…
…………これ以上考えることが………でき…ねぇ……………
「盲腸ですね」
今日はじめての古泉の発言がこれだと思うと少し笑えるが、腹の痛みはマジもんだ。
俺は機関関係のよくお世話になる病院のベッドにいるらしい。
俺が倒れてからハルヒの顔が青ざめて、朝比奈さんが泣き出し、古泉と長門で迅速に対応したようだ。
これだけの説明を十分以上かけてするもんだから尺の関係でカット。
それではと言って古泉は帰っていった。
朝比奈さんと長門もすでに帰ったらしいし、親にはすでに連絡はついており、夜ぐらいになったら顔を出すと言っていたようだ。
ハルヒは忘れ物を取りにいってから見舞いに来るらしい。
来なくていいのだが団長だからしょうがなく来ると意気込んでいるそうだ。
この説明に三十分以上かかったのでこれもカット。
「キョン!起きてる!?」
ここが病院だということがわからないらしく、ハルヒボイスは病院をも壊しますといった勢いで団長様のご来店だ。
そもそも病院は静かにしなければいけないという常識が備わっていないという疑問が浮かび始め、
これからのSOS団、いや、世界のためにここは俺ががんばるしかないと意気込んだ矢先。
なにやら俺が非常に困りそうなものが目に飛び込んできた。
「おいハルヒ、その大荷物はなんだ?ここで戦争でもおっぱじめるきか?」
ハルヒはグアムに行こうとしたら間違えて病院に来てしまいましたといった大荷物で登場した。
本当に戦争でも始めるつもりなのかね?
「はぁ?あんた古泉君から何も聞いてないの?」
なにか言ってたか?大切なところはしっかり覚えてるぞ。
「あんたの退院は始業式前日だからそれまでわたしが泊り込みで看病してあげるわ!」
……ちょっと待ってくれ、ここは病院だからおまえがわざわざ看病しなくていいだろ。
そもそも盲腸ってそんなに長いものなのか?
「さぁ?でも診断の結果からそうなったらしいわよ」
あのやろう、今すぐにでも連絡を取って昨日の夕刊ぐらいの文字数で文句でも言ってやろう。
「しかも古泉君が宿泊の許可とってくれたんだって。よくわかんないけど」
今朝の朝刊分もサービスだ。
「さぁっ!始めるわよ!」
戦争をか?などと言おうとしたが俺の口が動かない。というかやっとあの大荷物の正体がわかった。
「ハルヒ、それはいったいなんだ?」
俺の視覚能力がおかしくないとすればそれは俺の人生においてまったく役に立たないものであり、
俺にかれこれ十年間苦痛を与え続けてきたものだと理解でできる。
「見てわからないの?勉強道具よ」
ハルヒはせっせと荷物を出している。それは膨大な量の教科書、ノート、参考書、資料集などである。
俺には使い方など一通りしか思いつかないものばかりだ。
「さぁキョン、泊り込みでみっちり鍛えてあげるわ!」
やはり俺がやるのか。
これは一刻も早く古泉に電話しなければいけないのだが、ハルヒが目の前にいるので何もできない。
ここまで考えてたなあいつ。
そして今に至る。
ハルヒが近づいてくる
この一言がどれほどの恐怖を表すかは容易に想像できるであろう。
そしてさっきから無言でいる俺に怒り爆発5秒前といった表情になっているハルヒは、
これ以上持たせてはいけないというオーラ全快といった感じだ。
俺としても実はクラスであった面白エピソードや、部室でのひやひやエピソードなども話しておきたかったのだが、
なにせ時間が足りない。
どこで無駄に使っていたのかね?
古泉のところはもっとあっさりさせたほうが良かったのか?
などと後悔していても仕方ない。
さて、この残り少ない時間を使って俺ができることと言えば一つしかないであろう。
そう、やはり最後のし「こぉらっ!バカキョンっ!」
やれやれ