ある日の生徒会定例会議でのヒトコマ。
「それでは今回の議題はこういったかたちで決定とする。
異議のある者はいるかね?」
生徒会長の宣言。
それに異議を差し挟む者はいない。
と、思われたのだが
『なんでやねん』
との、声がどこからか聞こえたではないか。
生徒会長が声の出所、すなわち自分の隣の席に視線を向けると
「なんでしょう?」
自分の腹心の部下、喜緑江美里が笑顔で着席していた。
「なんだね? 先程のふざけた声は?」
「すみません。偶然、このICレコーダーの再生ボタンに手がかかってしまいました」
そう言って彼女は校内放送で使用した小さな機械を見せる。
「そうか、気をつけたまえ。
では、これで今回の定例会議を終了とする」
『なんでやねん』
再び同じ音声。
「喜緑くん…」
「すみません。設定がリピートになっていました」
そう、釈明する生徒会書記。
その変わらぬ笑顔からは悪意と呼ばれる感情を読み取ることは出来ない。
「…そうか。それならば仕方が無い。
では、これにて解散とする」
『なんでやねん』
再び同じ音声。
「………」
「すみません。機械の操作に不慣れなもので」
「もう、電池を抜いておきたまえ。それで解決だ」
「流石は会長。いいお考えです。早速そういたします」
そして、機械の背面に手をまわし、カバーを開いて単3電池を取り外す喜緑女史。
これでレコーダーは無力なオブジェと化した。
「それでいい。では今度こそ解散だ。諸君、ご苦労だった」
「会長の傍にいると感じる質の悪いスモークチーズのような異臭」
「喜緑くん!」
「別のレコーダーのスイッチを押してしまったみたいですね。本当に申し訳ありません」
「そもそも、そんな音声は録音してなかったのではないかね!」
「偶然録れていたんですね。わたしも驚きました」
「あと、確認しておきたいのだが、さっきの声は君の口から直接漏れていたように聴こえたんだが、これは私の気のせいかね!」
「はい。気のせいです」
喜緑江美里の笑顔にはひとかけらの迷いも見られなかった。
ある日の生徒会定例会議でのヒトコマ。
ことほどさように北高生徒会は平和そのものであった。