「今からあなたに嘘を吐く」
突然長門に変な宣言をされてしまった。一体何なんだ?
「四月一日の万愚祭に先じて虚実の訓練」
虚実の訓練って……いや、まあいいか。長門が珍しく能動的な態度を示しているんだ。
俺で良かったらいくらでも付き合おう。それで、えっと嘘を吐くんだったっけか?
「そう。今から言うのは総てわたしが考えた嘘」
よしわかった。では聞かせてもらおうか。
「言葉、特にこの惑星で使用される言語は時代を経る間に様々な変化をみせる。
良い意味が悪い意味になったり発音が微妙に違ってきたりと、まさに千変万化」
そうだな。言葉っていうのは変わるもんだ。
「過去の言葉が変化しているのと同じように、あなたが今使用している言葉がこれから先の未来に於いて
全く変化しないと言う事などまず有り得ない。ここまでは良い?」
ふむ。ここまでは話の枕、つまり嘘の為の地盤固めってヤツか。
OKだ長門、話を進めてくれ。
「……一例をあげる。
朝比奈みくる。この時代ではただの単語であっても彼女のいる時代では別の意味になっている言葉が当然ある」
なるほど、そういう切り込み方でくるのか。なら俺が言うべき言葉はこれだろうな。
──それで、例えばどんな?
「あなたの呼称とされている『キョン』は、彼女の時代では性的な意味での『下僕』を意味している」
……は? 何だって?
「また彼女の名前とされている『みくる』はやはり性的な意味での『アイドル』を、彼女の名字である
『朝比奈』は同じく性的な意味での『我が女王』を意味している。
つまりあなたは無意識的に朝比奈みくるを女王と慕い、また彼女にとってあなたは下僕と認識されている。
さらに涼宮ハルヒや朝比奈みくるのクラスメート等は彼女をアイドルとして慕っている事になる」
……なあ、長門。それ、嘘なんだよな?
「……そう。今のは全て嘘」
だ、だよな。まさかそんな都合良く意味が変わるだなんて
「先の単語の本当の意味は卑猥過ぎる為、未来では公衆面前で話すと犯罪行為となる」
マジかよ!? 俺のあだ名はそれだけで犯罪だっつうのか!?
「……だから、嘘」
え、あ、ああ、そうだったな。取り乱して悪かった。
「ちなみに宇宙では自分のお気に入りの場所は神聖な場所として認識されており、そこへ他者を誘う行為は
宇宙共通の求愛行為という共通見解がある」
は、はあ……そりゃまたメルヘンな話で。
「……また、図書館に」
プロポーズだったのかよそれ!?
「だから、嘘」
……悪い、長門。チキンハートの俺にはお前の嘘は耐えられないようだ。
「……そう」
長門はそれだけ言うと嘘を語るのを止め、またこれ以降も俺に対して嘘を吐く事は一度も無かった。
ちなみに朝比奈さんが俺の事を呼ぶ度に何だか下僕扱いされてる気分に陥っていたのは俺だけの秘密だ。
「……全部、嘘」