「なんか……おかしいな今日は」  
 
行為を始めてから、すでにかなりの時間が経っている。  
普段なら、長門のうっすらと上気している表情に見守られながら  
あっという間に達してしまえるのに。  
 
動かし続けた腹筋が痛い。  
中途半端に下ろしただけの制服のズボンは、長時間の行為によってもうしわしわのぐちゃぐちゃだ。  
家に帰ったら、母親になんて言い訳しよう。見つからずにアイロンを取ってこなくちゃ。  
 
そんな事を考えていると、ますます快楽は遠ざかる。  
もくもくと腰を動かすが、もうすでに下半身からは殆ど何の感覚も伝わってこなかった。  
「……」  
声も立てずに俺をじっと見上げていた長門が、ほんの数ミリ眉根を寄せる。  
彼女の不満そうな様子を見、俺ははじめて自分の性器が充分な硬さを保っていないことに気がついた。  
 
「ん」  
「……あ」  
ぬるん、と押し出される感触。長門が身じろぎすると共に、俺たちを繋いでいた部分がふたつに分かれる。  
俺がいくら腰を押し付けても元には戻らず、長門の入り口の前でだらんと垂れ下がるばかりだった。  
 
「スマン長門、長々と……。気持ち良くなかったワケじゃないんだが」  
「いい」  
自分の不甲斐なさを弁解しようとした俺を遮って、長門が唇を開いた。  
「人間の性行為は、繁殖目的のみのそれと違い、精神的な要素が強く影響する。ままあること」  
そんなもんかな。  
気休めなのか、それともどんなカップルにも有りうるのか。  
初体験からひと月足らずの俺には俄かに判らないが、  
とりあえずその言葉は落ち込んだ気分を少しだけ軽くしてくれた。  
 
なんせ、この1ヶ月ヤリまくったもんなぁ。部室で、俺の部屋で、そしてここ長門の部屋で。  
痛覚も操作できるから、長門も最初から痛がったりしなかったし。遠慮無しだったな俺も。  
そのおかげで、2人きりになると俺の体はひとりでに長門を求めてしまう。  
その度に長門も抵抗ひとつしないで俺に身を預け……今日もまたこうやって体を重ねた訳だけれど。  
 
誇らしげな気持ちで今までにヤッた回数を思い浮かべている俺の両の頬に、長門が手を添える。  
「それに、」  
手にやんわりとこめられた意思に導かれるまま、俺は長門の唇にキスを落とした。  
行為の最中の貪るようなキスではなく、触れるだけの、  
恋人となった初日に交わしたような、柔らかいキス。  
 
口付け俺の重みで潰してしまわないように長門の脇に身を横たえ、もう一度同じ口づけを交わす。  
唾液の糸も引かない、一瞬の後に感触も淡く消えてしまうキスなんて――もう、何日ぶりだろう。  
 
「こうやって抱きあっているだけでも、私は嬉しい」  
「……そうか」  
長門の華奢な体を壊してしまわないように、腕をそっと回す。  
くぅ、と猫がのどを鳴らすような声を立てる長門。  
行為の最中よりもずっと満足げな様子に、胸がずきんと痛んだ。  
 
何やってるんだ、俺は。  
部屋に上がりこんだ途端に長門に襲い掛かって、自分がヤリたいばかりにヤって。  
こいつが求めていたのは、もっと別のものだったんじゃないのか。  
先ほどまで長門が浮かべていた快楽に耐える顔を思い出す。  
苦痛に耐える顔、快楽に耐える顔。そのふたつにどれほどの違いがある? 俺はどちらを与えてたんだ?  
 
腕の中の長門は、ここしばらくで見たことも無い穏やかな表情を浮かべている。  
「なあ、長門」  
「――なに」  
眠くなり始めているのか、その返事は普段よりもいくぶん遅い。  
「しばらく、セックスは無しにしようか」  
 
「ん」  
しばらく目を閉じていた長門が、俺の言葉にとろとろとうす目を開いた。  
「別に嫌いではない。して欲しい、とも思う。ただ、」  
言葉を切って長門がまた、とろとろと目を閉じる。俺の胸に顔を埋めて、呟くように囁いた。  
「こうしている時が、私は好き」  
そのまま部屋に浮かぶ、小さな寝息。  
 
 
そうだな。お前の言うとおりだよ、長門。こうやってる時間も、俺達には必要なんだ。  
長門のさらさらの髪を撫で、天井を見つめながらそんな事を考えた。  
付き合い始めた頃の気持ち、誰よりもこいつを大切にしようという誓いを新たにする。  
 

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