下駄箱に入っていたノートの切れ端。  
 丁寧な、それでいて可愛らしい女の子の文字。  
 ――放課後誰も居なくなったら、一年五組の教室に来て――  
 淡い期待と大いなる疑心を胸にして、のこのこ教室に来てみた若さゆえの過ちな俺。  
 そこには、微笑みながら艶のある長いストレートヘアを耳の後ろにかき上げるクラスメイトの姿。  
 教壇から降りて、曰く。  
 
「あなたを犯して涼宮ハルヒの出方を見る」  
 
 ……って、ありえないだろ、普通?  
 委員長気質の真面目な優等生の美少女にいきなり「あなたを犯します」なんて迫られるなんて、  
俺の常識の範疇の出来事ではない。  
 ……尤も、高校入学以来、俺の世界認識はコペルニクス的転換を繰り返しているがな。  
 まあ、それも全て俺一人を嵌めるための性質の悪い冗談でしたってのもまだ期待しているけど。  
「冗談だと思う?」  
 ぜひ、そう願いたいね。そうでなければ、ちょっぴり不器用な愛の告白ってオチを期待したい。  
「やっぱり、涼宮ハルヒ相手がいいわけ?」  
 んなこと一言も言ってねえよ。寧ろこっちから願い下げだ。  
「ふーん」  
 朝倉は小動物のように愛らしく小首をかしげながら薄く微笑む。  
「レイプっていや? たかが性交するだけじゃない。その辺の心理ってよく理解できないんだけど」  
 その可憐な桃色の唇から、ある意味萌えるセリフを紡ぎだす朝倉。  
 俺はというと、古泉を真似たニヒルな笑みを浮かべながら、軽く肩をすくめて言い放つ。  
「人にもよるだろうが、俺は断然ラブ&ピースだな。犯し犯されて喜ぶめでたい性格はしてないね」  
 ふっ、クールだぜ今日の俺。……クラスメイトの女子とすべき会話じゃないって事も十分承知さ。  
 
 そう、確かに自分のおかれた状況に多少驚いてはいたが、この時点ではそれなりに余裕もあった。  
 だってそうだろ?   
 いくら俺が色男だからって、こんな華奢な女一人にそう簡単に組み伏せられたりしないさ。  
 第一、まだ谷口のアホが廊下の陰から、プラカードとピコポンハンマー持って「大・成・功!!」と  
言って飛び出してくるタイミングを見計らっているって可能性もあるからな。  
 ……そのときはハンマーの柄を鼻の穴に突っ込んでやる。  
 
 そう思って背後を確認してみると、いつのまにか、立て付けの悪い木製の引き戸はのっぺりとした  
コンクリートの壁に衣替えしていた。廊下に面した窓も一緒に。  
「………………へ?」  
 時計を持ったウサギを追いかけて不思議の国に迷い込んだ少女のように一瞬にして現実感覚が狂い、  
バカみたいにあんぐりと大口を開ける俺。  
 その後ろで、鈴の音色のような軽やかな声が響く。  
「逃げられないよ。この空間はあたしの情報制御下にある、つまり全てあたしの意のままなんだから」  
 いや、別に逃げるつもりは無かったけど……情報制御下? 意味わかんねぇよ。  
 続けて、『この惑星の構造物は』だとか『分子の結合情報を改変』だとか言い出してる。  
 長門並にアンビリバボーでエキセントリックな奴だ。もしかしたら同種の人間なのかもしれない。  
 いや、そうなると……こいつも人間じゃないのか? ……長門の話を信用するとすればの話だが。  
 そうこう言ってる間にも、背後に迫ってくる気配。  
 振り返る。  
 その先にあるべき夕焼け光線を通す校庭側の窓も、既に無骨なコンクリートに変わり果てていたが、  
それ以上のインパクトを提供する存在が、俺の目の前で普段と変わらぬ微笑を浮かべていた。   
 
 裸だ。  
 全裸だ。  
 朝倉の全裸だ。  
 裸の朝倉様だ(なんだそりゃ)。  
 いつの間に服脱いだんだろう、なんて野暮なことも考えられなかった。   
 正直に言おう。まじで眩暈がするほど綺麗だった。  
 古伊万里も泣いて謝りそうな滑らかな肌。  
 落花生も泣いて謝りそうな腰のくびれ。  
 キリンも泣いて謝りそうなすらりと伸びた手足。  
 ……あーもう、なんの捻りも無い比喩しか出ないのが悔しい。  
 それぐらい、本当に綺麗なのである。  
 胸なんて朝比奈さんほどは無いにしても、コイツの場合スタイルとのバランスが素晴らしいのだ。  
 所謂、黄金比って奴だ。すげえぜ、朝倉様。しかも、健康的に万有引力に逆らうお椀型。  
 きっとこれから20年ぐらい経っても同じ形をキープするに違いない。俺の鑑定書をくれてやる。  
 その上、何よ。  
 秘部を覆うと思われるアレが全く無いって言うのはどういうこった? ツルツルじゃないか。  
 盲腸の手術する前とかにするアレかと思ったが、そんな傷全く見当たらない。じゃあ……  
 そうか、きっと俺が間違っていたんだ。本当はあんな見苦しいのは無いもんなんだぁー。ガッテン。  
 ……なーんて再び俺の常識を覆そうとしてしまうぐらいの、作り物でもこうはいかない神々しさだ。  
 そして、我が眼前に降臨したヴィーナスが、アルカイックスマイルを口元に湛えながら、  
 俺にゆっくり近づいてくる。みごとな和洋折衷。天晴れなり、朝倉涼子。  
 俺は誘われる夢遊病者のように、その白い肌へ手を伸ばし――  
   
 ……いや、待て待て待て。いやマジでお願いだから待ってください朝倉さん、そして俺もちつけ。  
 いくら超常的現象と美味しすぎるシチュエーションに現実感覚を狂わされたからといって、ここで  
情欲の波に身を任せてしまっては猿と同じじゃないか。そん時はプロゴルファーにでもなるしかない。  
 しかも、相手は人間じゃないかもしれないときてる。それでいいのか俺の初体験?  
 ここは一つ、的確な現状認識をした上で、傾向を分析、対策を練るべきであろうそうだろう。  
 そのためには……情報だ。そう、今の俺には情報が足りなすぎる。情報を制する者は世界を制すだ。  
 あ、それは朝倉の方か。くそう、負けるか。  
「朝倉、ちょっといいか?」  
「ん? なぁに?」  
 まだ自分の日本語は通じていることにひどく安心する。異文化コミュニケーションは苦手なんでね。  
 極力朝倉の首から下を見ないように、蜘蛛の糸並に細くなった理性で視線を吊り上げて、尋ねる。  
「まず第一に、お前が一体何者なのかということ。第二に、お前の目的は一体何なのかということ。  
 第三に、その目的と俺の貞操に一体どう関係があるのかということ。以上三点を善良なる一般市民  
 である俺にも十分理解できるように、400字詰め原稿用紙10枚以内にまとめて提出してくれ」  
「イヤ」  
 じゃ、3枚にまけてやってもいいぞ。  
「却下」  
 そうですか。ショボン。  
 朝倉は両手を真上に向けて肩をすくめ、屈託無い笑顔。  
「ねぇ、無駄な足掻きやめて諦めなよ。結果はどうせ同じことになるんだからさぁ」  
 ……まだだ、まだ終わらんよ!  
「じゃあせめて、何で俺を犯すのかぐらいは教えてはくれないのかね?」  
「うるさいわね……最初からこうしておけばよかった」  
 
 ん? 何言っているんだ朝倉……あれ、口が動か……いや、手も、足も、うおう全身動かねぇ!  
 なんじゃこりゃ!? そんなのありかよ!  
 うろたえるリアクションも取れないまま、裸の朝倉が歩み寄ってくるのを眺めるしかない俺。  
「それっ」  
 何が起こったのかは分からなかったが、突然眼前の景色がスロットのように下へと回転すると、  
白い天井を映して止まった。要するに俺が仰向けに倒れたっつー事だな。  
 動けなくても痛みは感じるなんて、なんとも世知辛いね。リノリウムの床がチメタイ。  
 と、視界の隅からひょいっと朝倉の白い顔が現れ、真正面で俺の間抜け面を瞳に映した。  
 鼻先が触れ合うくらいの距離で。  
 笑ってる。  
 それは前に、ハルヒとどうやって話すようになれたか、尋ねてきた時と同じような。  
 さらさらと肩口から豊かな碧なす黒髪が零れ、俺達の顔を覆い、教室の無機質な蛍光を遮る。  
 ほの暗い朧の中、瞳を閉じる朝倉。その顔が、ゆっくりと視界を塞いでゆき、  
「んっ」  
 唇に生まれた、温く柔らかな感触。はじめてのチュウ。朝倉とチュウ。レモンの味はしなかった。  
 こういう時は、瞳を閉じるのが作法だと思うのだが、それすら出来ない。  
 朝倉の睫が震えた。見えないが、唇に笑みを浮かべているんだろう。多分、そんな気がする。  
 俺の頬に、雪のように冷たい両の掌を添えられた。冷え性なんだな、朝倉。  
 完全に上りきっていた血液が、潮が引くかのごとく頭から下っていった。  
 それを合図に、朝倉は俺の上下の唇に自分のそれを押し付け、挟み、舐め、噛み、吸いついてくる。  
 
「んぅ……んんっ……んーっ」  
 朝倉の舌が俺の唇に割り入り、歯茎をねっとりと舐め回す。歯の付け根一つ一つまで丁寧になぞる。  
 どうやら、唇の隙間から自分の唾液を垂らしながら、それを擦り込んでいるようだ。  
 今日はお昼に何食ったっけ、歯垢が溜まってたらどうしようなんて青少年らしい心配事していると、  
その唇の間から朝倉の指が差し込まれ、俺の意図せず閉じたままだった歯がこじ開けられた。  
 そして、全く抵抗できないままに俺の舌が絡め取られ、根元まで吸い込まれる。  
 その間も絶えず朝倉の唾液が俺の口の中に流し込まれ、ぬらついた感触が喉奥に伝い落ちていった。  
 母猫の乳房に群がる子猫のように口内を貪り続ける朝倉から、俺は目をそらす事すら出来ない。  
 揺れる髪から仄かに漂う芳しい柑橘系の香りの中、俺が自分の意識を白濁した靄へと手放しかけた時、  
朝倉はゆっくりと顔を離した。  
 唇と唇の間に生まれた唾液の糸を、全く別の生き物のように真っ赤な舌で舐め切る。  
 艶かしい仕草の中で、細い頤を軽く上げ、人差し指を当ててシンキングポーズ。  
「んー、なんか違うなぁ。あんまり、犯してるって感じがしないかも」  
 そりゃそうだ。  
 お前がやってるのはダッチワイフ相手のロンリープレイ同然だからな。  
「よし」  
 朝倉は俺の腹に馬乗りになったまま、俺のネクタイを外した。  
 それを興味のなくなったおもちゃのように投げ捨てると、次はワイシャツのボタンに手をかける。  
 一つ一つ外されていくその様を見つめ……ていて、自分が首を曲げている事に気付く。  
 おお、何だ動けるんじゃない……か? あれ?   
 しかし、小人の国にたどり着いたガリバーよろしく、何故か両手足は磔の刑にされたままだ。  
 ボタンを全て外し、中に着ていたTシャツを巻くりあげ、俺の上半身をあられもない姿にさせた朝倉が、  
子供向け教育番組に出演するお姉さん風の笑顔で俺の疑問に答えてくれた。  
 
「逃げられると面倒だから。それに……」  
 必死に首をブンブン振り回す俺の股間に、朝倉の魔の手が忍び寄る。あん。  
「こっちまで固めてたら、レイプできないもんね?」  
 ズボン越しに、俺の形を確かめるかのように指先に力を込め、下から上に向かって撫で上げてくる。  
 そのもどかしくも切ない刺激は、ペニス君の身長を越えて脳天までロケットで突き抜ける勢いだ。  
 慣れているのに初めての感触に、オナ禁3週間目ぐらいに、やばいくらいに感じてしまう俺。  
 くそう、昨日の晩、朝比奈さんの下着姿をおかずに抜いたばっかだっつーのに。  
 俺の胸や腹に舐めるように唇を這わせ、両足に跨った朝倉は慣れた手付きで俺のベルトとズボンの  
ホックを外すと、何の躊躇いも無く足首まで引き下ろした。  
 そしてトランクスの中でこんもりと自己主張を始めた第二反抗期の我が愚息を掴み、その頂上部分を  
円を描くようにして掌で撫で回し、少し不思議そうに小首をかしげる。  
「ふ〜ん? 何だかんだ言って、ちゃんと勃起するんだぁ」  
 あー、そうだよ。哀しい男の性(さが)だ。  
「やっぱ、女相手なら誰でもいいんじゃない?」  
 教えてヤンナイ。  
 俺が黙っていると、トランクスはあっけなくひっぺがえされ、守るべき我が愚息は世間の冷たい風と  
好奇の視線に晒される嵌めとなった。  
 それでも我が息子は、力強く天空に向かって雄雄しくも堂々と真直ぐに屹立しているのだった。  
 頑張れ、マイサン。負けるな、マイサン。  
「答えなよ。誰でもいいんでしょ?」  
 そんな健気な一物を、朝倉がリレーのアンカーで受け取ったバトンの如くぎゅっと握る。痛いです。  
「その割には気持ち良さそうな顔してるけど?」  
 んなこと……あっ…とない!!  
「ふーん」  
 朝倉は、血管が浮き出た俺のモノをしげしげと眺め、突然、  
 
「……ぐぎゃあああああああああああああああああ!!!」  
 
 絹を引き裂くような(?)悲鳴。  
 発生源は……俺。  
 情けないって言うなよ?  
 男なら誰だって、自分のお宝にガブッて噛み付かれたら同じような悲鳴を上げるさ。  
 フェラチオさせている時に、「歯を立てるな」っていう意味が身に染みてわかったよ。  
 次回の参考にしよう。  
 できれば、メイドスタイルの朝比奈さんに教え込みたいところだ。  
 さて、頭の上で盆踊りを始めたヒヨコを振り払い、涙目になりながら見てみると、朝倉はといえば  
悪びれた気色のかけらも無い笑顔で、俺の亀頭につけた自分の歯形の窪みに舌を這わせていた。  
 俺の視線に気付いたのか、上目遣いで俺に視線を返す。  
 笑みを崩さない。崩れない。崩しません。  
 カリの先を細い指先で摘んで少し斜めに倒し、棹の部分に浮き出る血管を時になぞり、時に横切り、  
俺に見せつけるようにして唾液の跡を刻んでいく。  
 さらに、カリの周囲の窪みに舌先を抉りこんでくる。  
 その間中、朝倉はずっと俺の顔を見て反応を確かめているみたいだった。  
 朝倉の残った方の手が、マイアヌスから睾丸にかけて指先を滑らせた。  
「うぁ……」  
 思わず、色っぽい喘ぎをもらしてしまった。しょうがないだろ。気持ちいいんだから。  
「気持ちいいんだ?」  
 フフフと笑いながら、俺の愚息を左右に振り回す朝倉。  
 たのむから、もうちょっと、優しく扱ってくれ。  
「いいよ」  
 
 言うが早いか、ジョーズに襲われた観光客にように俺の愚息は頭からぱっくりと咥え込まれた。  
 高い湿度と熱気に包まれ、そこだけ東南アジア地方へと一人旅している感覚。  
 そうか。きっと、朝倉の口はどこ○もドアなんだな。熱帯もしくは亜熱帯地方限定の、うん。  
 そして、亀頭全体を撫で回す、柔らかくもざらついた感触は舌腹か。間違いない。  
 長い髪をかき上げ、再び俺を上目遣いに見る朝倉。  
 その口元の微笑にギュッと肉茎が締められる。  
 それだけで逝っちまいそうな風情ではあるが、その表情はお楽しみはこれからだと言わんばかりだ。  
「んちゅ、んっ、ちゅ、んんっ、ぬふぅ」  
 朝倉が、前髪を揺らし、胸の双丘をプルプルさせながら、頭をリズミカルに上下させ始めた。  
 濡れた唇をすぼめ締め付けつつ、同時にOの字にした指が緩急をつけながら棹をクチャクチャ音を  
たてて根元から扱きたてている。  
 そこに、俺の若き青春の先走りと、朝倉の唾液が混じった粘度の高い液が泡立ちながら絡みつき、  
その動きをより滑らかに、より淫猥に彩っていく。  
 口内ではニトロを搭載した危険なナメクジのような舌が俺の亀頭をねぶり、窄めた頬の滑る粘膜で  
優しく包み込みながら、その奥へ奥へと激しく吸引してくる。  
 朝倉の唇がカリを擦るたび、舌が鈴口にねじ込まれるたび、唾液を絡ませた指が俺の乳首を擽るたび、  
理性という名のダムが決壊の際に立たされる。それを、奥歯を噛み締めて何とかやり過ごす俺。  
 それでもだめそうな時には、古泉のコンビニスマイルを思い出し、強制的に萎えさせる。  
 こんな時でもなけりゃ、あいつの顔なんざ思い浮かべたくも無いが、効果抜群なのが返って悔しい。  
 だが、何となく、そんな俺の涙ぐましい努力も、全て朝倉の思惑通りのような気もしなくもない。  
 
 ……つーか、俺はそこまでして、一体ナニを我慢しているのだろう……  
 
「……え?」  
 不意に、陰茎を蹂躙していた刺激が消えた。  
 射精感に耐えるためきつく閉じていた瞳を恐る恐る開けると、また朝倉の白い顔が正面にあった。  
 朝倉は俺に覆い被さるようにして、四つん這いを崩したような姿勢になっている。  
 肘で上体を支え、俺の顎を人差し指で弄りながら、弾力感に満ちた乳房を俺の胸板に擦りつけてくる。  
 完全には胸を密着させないのは、その先で固く勃起している乳首をわざと意識させるためか。  
 肌と肌を合わせているだけでも十分なのに、朝倉は上半身をくねらせて更に俺の性感を煽る。  
「……ああっ……」  
 朝倉の薄桃色の乳首が俺のそれを掠めた感触に、局部から全身へと放射状に痺れが走る。  
 思わず仰け反ってしまった俺の耳元に、朝倉の温い吐息が掛かった。  
「……ふぁ……」  
 ……そして、濡れた唇が、最後の問いをする。  
「ねぇ……そろそろ、入れたいんじゃない?」  
 気がつけば、俺の最も敏感な部分が、朝倉の熱い愛蜜が溢れる秘部の入り口に添えられていた。  
 それどころか、腰を丸く揺らしながら、自分の媚肉の感触を俺のモノに伝えようとするではないか。  
 亀頭は朝倉の中に既に半ば近くまで埋もれ、朝倉の愛液にしとどに濡れている。  
 ……ああ、俺、もうダメかも……  
「返事は?」  
 ………………………………………………はい。  
「よろしい」  
 朝倉の表情が満足げな色に染まり、目を細めた。……ああ、天使の微笑だ……  
「じゃ、ご褒美に一つ教えてあげるね」  
 俺の股間の上に膝立ちになる朝倉。今、正に繋がりつつあるそこから目を離せない俺。  
 白く緩やかな丘の真ん中に位置するピンクの秘裂を、肉柱の上にゆっくりと下ろしながら、  
 
「あなたを犯せば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす」  
 ……ちょっと待て。今なんて言った? ハルヒ? ハルヒだって? そう言えば、最初にも……  
「多分、大規模な情報爆発が発生するはずなの。あたしの目的はその観測。そのために――」  
 言ってることはよく分からんが……つまりアレか?  
 俺はハルヒのためにこんな目に遭ってるっていうわけか?  
 ……冗談じゃねぇ! そんなふざけた理由で貞操奪われてたまるか! やめろ!  
「うん、それ無理」  
 朝倉は相変わらず微笑を絶やしていなかったが、この時だけは、少しだけ違ったような気がした。  
 潤んだ瞳。頬に、ほんのりと上気した色が浮んでいたから。  
「だって、あたし、本当にしたくなっちゃったんだもの」  
 一瞬。  
 頭の中がホワイトアウトする。  
 朝倉が小さく息を吸った。丸い胸元が微かに膨らむ。  
 そして、  
 
「やめろおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」  
 
 ……こんな大声を出したのは、お袋の腹の中から出てきた時以来なんじゃないだろうか。  
 何しろ、耳鳴りがそれから30分は止まなかったほどだからな。  
 だから、その時は本気で、自分の声が超音波になって天井に亀裂を入れたのかと思った――  
 
……  
 それから、教室で起こった出来事について、俺は説明する事が出来ない。  
 長門の言葉を借りれば「うまく言語化できない」ってところだろうか。  
 まあ、要点だけまとめれば、   
『天井を突き破って飛び込んできた長門が、死闘の末朝倉を見事撃退。朝倉は光る砂になった。  
 そして、俺の貞操は無事守られ、マイチェリーデイズは暫く続くのだった。めでたしめでたし』  
 ってとこである。  
 長門と朝倉の戦闘風景は俺の理解の遠く及ばない所にあるので、今回は省かせてもらおう。  
 ただ、一つだけ。  
 後ろの方で呆然と腰を抜かした俺が、上半身ははだけて下半身はチ○コ丸出しという戦闘シーンは、  
どこまでも緊張感に欠けたものだったに違いなかっただろうね。  
 どんな気持ちで長門は俺を守っていたのだろう。……いや、何も考えてないだろな。  
 そうであって欲しい。  
   
 
 さて、長門の体にできた戦闘の傷はみるみる塞がってゆき、制服までが再生された。  
 極彩色に彩られた空間も、夕焼け色の見慣れた教室に戻り、戦いの痕跡一つ無くなって行く。  
 ほんと、コイツらは一体なんなんだ? って、自分で言ってた通りか。  
 ヒューマンノイド・インターフェース……あまり深く考えない方がよさそうだ。  
 ま、要するに、コイツは大丈夫なんだろ。それならそれでいい。  
 どうせ理解できないのが分かってるんだから、考えるだけ時間と労力の無駄ってもんだ。  
 と、上体を起した長門が俺の方を……俺の下腹部の方に視線を集中させていた。  
 全く顔色が変わらず無表情でいるのが、微妙に悔しいね。見慣れてんのかこんにゃろめ。  
 
 
 ……とか呑気に言ってる場合じゃないだろ俺。  
 しかも、ナニゆえ、いまだにそんなに元気ハツラツオフコースなのだマイサンよ?  
 通行人に水鉄砲をかけたいたずらっ子を苦笑いしながら家に引きずり込む母親のように、こそこそと  
トランクスを上げようとしたところ。  
『むんず』  
「ひっ」  
 俺のモノを掴んだ長門が、能面のような面にくっ付くほど引き寄せて、それを凝視している。  
 そんな長門の手の中で、びくんびくんと力強い脈動を続けている我が愚息。  
 な……なんなんだ? もしや、コイツまで俺の貞操を……  
 と、その唇からモールス信号のような感情の欠けた音声が生まれる。  
「亀頭部から朝倉涼子によって、交感神経への干渉による半永久的な勃起状態の維持と射精管閉鎖筋  
 の収縮強制をプログラムされたナノマシンが注入されている。このままでは血液の過剰集中による  
 毛細血管の異常拡張及び陰茎海綿体の破壊が進行し、男性器の機能不全もしくは壊死が始まる。  
 それに、永続的な射精抑止状態の継続が強度な精神的抑圧感を引き起こし、脳神経系統のホルモン  
 作用に悪影響を及ぼす可能性がある」  
 そこまで言うと、いつものダンマリに入る。どうやら、俺のリアクションを待っているようだ。  
 ただ、視線は相変わらず俺の亀頭に注がれたままだけどな。  
 ここまできたらもう、羞恥心の基準を大幅に引き下げたって、誰にも文句は言わせねぇ。  
 コイツ相手に恥ずかしがってても虚しいだけだしな。  
 相変わらず難解な長門の話の中で、理解できた単語を繋ぎ合わせ、自分の言葉に変換してみる。  
「……要するに、朝倉のナニのせいで、俺のナニが一大事ってことか?」  
 一つ瞬きをして、こくり。  
 肯定の仕草。  
 おお、なんだ、案外意思の疎通ができるもんだな。  
 
「朝倉涼子は性交渉による肉体的刺激を断続的に与えると同時に、射精を禁ずることによる精神抑圧を  
 行うことによって、あなたを一種の洗脳状態にすることを予定していたと思われる」  
 なるほど、俺を肉奴隷にでもしようって魂胆だったってわけか。  
 あのアマ、清純そうな顔してとんでもねぇ食わせモンだったってわけだ。  
 ……砂になる瞬間、「惜しいことしたな」なんて頭の隅で思ってやるんじゃなかったぜ。  
 しかも、消滅してもこんな素敵なプレゼント残してくれるなんて、靴の下についたガム並のたちの悪さだ。  
 必死に我慢していた俺も情けないほどに滑稽だ……が、  
「……どうすりゃいいんだ? 俺はインポかニューハーフになるしかないのか?」  
「大丈夫」  
 長門は凭れていた手を押し返して俺を立たせると、俺の前に膝立ちになった。  
「注入されたナノマシンを早期に無効化すれば、影響は最小限で済む」  
 おお、それは有難い。  
 この年で息子と死に別れたら、俺の人生の楽しみが80%引きの大安売りになっちまうからな。  
 それも間接的にハルヒが原因だと思ったら、機能不全になる前に俺はアイツに襲い掛かりかねん。  
「それは困る」  
 俺もだよ。  
「というわけで、無効化とやらをちゃっちゃとやってはくれないか?」  
 こくり。  
 同意の仕草。  
 長門は俺のモノの先を顔の正面に向けると、口を開い……  
「……ちょっと待て長門!」  
 ……たまま、目だけ俺のほうに向けた。  
「もしかして、噛み付こうとしてないか?」  
 こくり。  
 肯定の仕草。  
 
 朝倉に噛み付かれた瞬間を思い出した。あんな痛みはもう沢山だ。  
 だから俺は、初めての行為に期待と不安を入り混じらせた、恋人を見つめる少女の瞳で、  
「痛くしないで」  
 長門の表情に迷い(呆れ?)が浮んだ……ように見えた……ような気がしている間に、  
 こくり。  
 同意の仕草。  
 そしてポツリと付け加える。  
「その分、少し時間が掛かるけど」  
 ホッと胸をなでおろし、もう自棄だとばかりに股間を長門に向けて突き出してやった。  
 一瞬ピクリと顔を引いたが、すぐに長門は先走ってばかりの愚息を咥える為、口を開けた。  
「……あむ」  
 やわやわと、長門の薄い唇に頭を挟まれた愚息。  
 病人みたいに青白い長門の顔と血のように真っ赤な亀頭の微妙なコントラスト。いいね。  
 そのまま亀頭の表面を滑らせるようにして肉棒をくわえ込んでいく。  
 ……ああ、長門の口もどこで○ドアだったのか。再び亜熱帯地方へと一人旅立つわが息子。  
 可愛い子には旅をさせよとはよく言ったものだ。  
 両手を棹の部分に添えたままというのもなんとも趣深く、結構な御手前だ。  
 なんて、俺が侘寂の世界へと一人思いを馳せている間にも、長門は口内にすっぽりと含んだ亀頭に、  
その鈴口に、ちろちろと舌を這わせていた。  
 決して朝倉のような巧みなフェラとはいかないが、そのたどたどしく拙い動きでも既に膨張しきった  
亀頭には十分な刺激であり、寧ろ焦らされているかのような感覚が堪らなく俺の獣欲を高める。  
「長門」  
 動きを止め、上目遣いに俺を見る長門。  
「先に謝っておく。すまん」  
 
 俺は相変わらず無表情な長門の側頭部を両手で押さえつけ、腰を前にぐいっと突き入れた。  
 先っぽが、ぬめっとした喉奥の粘膜にぶつかった。  
「んぐっ」  
 一瞬、苦悶の声が聞こえたような気がしたが、それは気のせいだったに違いない。  
 そういうことにしておく。  
 腰の動きを前後だけでなく上下左右に変化をつけ、長門の口内の粘膜全体を激しく嬲る。  
 さらさらとした髪と小さな耳の感触を掌に感じながら、肉茎に走る快感美に酔いしれる俺。  
 長門はというと特に抵抗することなく、健気にも俺の動きに合わせて亀頭に舌を絡めてきていた。  
 何度も絶頂感に至りながらもその度に抑え込まれてきた欲望が、マグマのように煮え立っている。  
 やばい。  
 イイけどヤバイ。  
 いいのか? 本当にイっていいのか?  
 視線を下げる。  
 この期に及んでも無表情な長門の眼鏡が、激しい動きのためか、少し斜めにずれていた。  
 
 ……チクショウ!! イってやる!!   
 
 全身の神経を脈動するペニスに集中し、腰の律動運動を最大速度まで上げた。  
 下半身の筋肉があげる悲鳴を無視し、涎すら垂らしながら長門の顔に下腹部を打ち当て、  
 その小さな唇に何度も何度も欲望の化身を突き立てる。  
 そして、  
   
「いくぞおぉ!! 長門おぉ!!」  
 
 こんなことしている場合ではなかったのである。後々俺は、とことん悔やむことになる。  
 痛くてもいいからすぐに終わる方を選び、さっさとこの場を立ち去るべきだったかと。  
「ういーす」  
 ガサツに戸を開けて誰かが入ってきた。  
「わっすれーもの、忘れ物ー」  
 自作の歌を歌いながらやって来たそいつは、よりにもよって谷口だった。  
 俺たちがいるのに気付いてギクリと立ち止まり、しかるのちに口をアホみたいにポカンと開けた。  
 まあ、正常な反応だろう。  
 放課後の人気の無い教室で、クラスメイトが他のクラスの女子に肉棒を咥えさせて腰振っているのを  
目撃したら、俺だって全く同じリアクションをするだろうからな。  
 しかもタイミングが悪いことに、突然の闖入者に驚いた俺が思わず手を離してしまったため、  
長門の口からズルリとナニが抜け出てしまったわけで……  
 
『どぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅ〜〜〜!!』  
 
 出た。出した。もう、誤魔化しようが無いくらいに。通常の3倍の性能でぶっ掛けている。  
 何にって? そりゃ長門の顔面に決まってるだろ。  
 お世辞にも、まるで白いベールを被ったようだね、なんて言えなかった。  
 被ったのは我慢に我慢を重ねて100%濃縮還元された生臭い俺の男汁なんだからな。  
 特に眼鏡がヤバイ。表にも裏にも、ブリッジは勿論、ツルのところまで精液塗れだ。  
 にも拘らず、長門は表情無く、全く微動だにしない。  
 重力に従い滴り落ちる俺の精液だけが、今の長門を彩る唯一の動きだ。  
 ただ、その様はとても扇情的で、眼鏡属性の無い俺でも心臓を鷲掴みにされそうだ。  
 一方、俺は完全に硬直していた。  
 ……歓喜の涙を流しながら、未だに熱くツイストを踊る愚息は別人格だ。俺じゃない。  
 
「すまん」  
 聞いたこともない真面目な声でザリガニのように後ろへ下がり、戸も閉めないで走り去った。  
 追うヒマもなかったが、追った所でどんな言い訳も出来ない状況なのは間違いないわけで。  
 俺は盛大な溜息をついた。  
「どうすっかなー」  
「まかせて」  
 長門は精液塗れの眼鏡の奥から俺を見上げた。  
「精液の付着した部分は情報分解と再構成で処理できる。洗濯の必要は無い」  
 そっちかよ! とまあ、心の中で突っ込んではみたものの、実際この強烈な精液の匂いをプンプン  
させた長門が帰り道に警察官に保護されないか心配なので、ひとまずそれはお願いしておこう。  
 さっそく、長門の『分解』と『再構成』が始まる。なるほど……まずは下からか。  
 プリーツスカートの染みが消え、リボンについた精液がとける。  
 セーラーカラーから立ち上る匂いが無くなり、顔を覆っていた精液がモザイク状になった。  
 やがて、いつもと同じような愛想のかけらも無い長門のデフォルトの表情が現れる……が、  
「あれ? 眼鏡は?」  
 長門が俺を見る。その目は眼鏡越しじゃないのに、絶対零度の冷たさを感じた。  
 一瞬。精液に塗れた長門(眼鏡付き)の姿がフラッシュバックする。  
「……あ、ああ、そうだな。してない方が可愛いと思うぞ。俺には眼鏡属性ないしな。はっはっは」  
「眼鏡属性って何?」  
「あ、た、ただの妄言だ。はっはっは」  
 そう、とだけ言って長門は立ち上がり、乾いたカラ笑いを続ける俺をおいて教室の出口に向かう。  
 開いたままの戸の所で一度俺を振り返り、その口元がこう言った……ような気がした。  
 
「ケダモノ」  
                                      (完)  
 

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