下駄箱に入っていたノートの切れ端。  
 丁寧な、それでいて可愛らしい女の子の文字。  
 
 ――放課後誰も居なくなったら、一年五組の教室に来て――  
 
 淡い期待と大いなる疑心をこの胸に宿して、のこのこ教室に来てみた若さゆ  
えの過ちな俺。  
 そこには、微笑みながら艶のある長いストレートヘアを耳の後ろにかき上げ  
るクラスメイトの姿。  
 教壇から降りて、曰く。  
 
「あなたを犯して涼宮ハルヒの出方を見る」  
 
 
 惚けているヒマはなかった。後ろ手に隠されていた朝倉の右手が一閃、さっ  
きまで俺の首があった空間を鈍い金属光が薙いだ。  
 猫を膝に抱いて背中を撫でているような笑顔で、朝倉は右手の警棒を振りか  
ざした。  
「これ、警棒タイプのスタンガンなの。たぶん素直に応じてくれないだろうか  
ら、無理矢理犯すわ」  
 俺が最初の一撃をかわせたのはほとんど僥倖だ。その証拠に俺は無様な尻餅  
をついて、しかもアホ面で朝倉の姿を見上げている。マウントポジションを取  
られたら逃げようがない。慌ててバッタみたいに跳びすさる。  
 なぜか朝倉は追ってこない。  
 ……いや、待て。この状況は何だ? なんで俺が朝倉に警棒を突きつけられ  
ねばならんのか。待て待て、朝倉は何と言った? 俺を犯す? ホワイ、なぜ?  
「冗談はやめろ」  
 こういうときには常套句しか言えない。  
「マジ危ないって! それが本物じゃなかったとしてもビビるって。だから、  
よせ!」  
 もうまったくワケが解らない。解る奴がいたらここに来い。そして俺に説明  
しろ。  
「冗談だと思う?」  
 朝倉はあくまで晴れやかに問いかける。それを見ているとまるで本気には見  
えない。笑顔でスタン警棒を向けてくる女子高生がいたら、それはとても怖い  
と思う。と言うか、確かに今俺はめっちゃ怖い。  
「ふーん」  
 朝倉は警棒で肩を叩いた。  
「犯されるのっていや? 犯されたくない? わたしにはこんなに可愛い女の  
子が迫ってるのに厭がって避ける男の気持ちがよく理解出来ないんだけど」  
 
 俺はそろそろと立ち上がる。冗談、シャレだよな、これ。本気だったらシャ  
レですまされんが。だいたい信じられるわけないだろ、別に泥沼化したあげく  
こっぴどく振った女でもなく、クラスでもロクに喋りゃしない真面目な委員長  
にスタンガンを喰らわされそうになるなんて本気の出来事だと思えるわけがない。  
 だが、もしあのスタン警棒が本物だったら、とっさに避けなければ俺は今頃  
首から何十万ボルトの電撃を喰らって陸に揚がった小魚のようにピクピクと床  
にのびていただろう。  
 迫るにしてもやり方があるだろうに。  
「意味が解らないし、笑えない。いいからその危ないのをどこかに置いてくれ」  
「うん、それ無理」  
 無邪気そのもので朝倉は教室で女子同士かたまってるときと同じ顔で微笑んだ。  
「だって、あたしは本当にあなたを犯したいんだもの」  
 警棒を腰だめに構えた姿勢で突っ込んで来た。速い! が、今度は俺にも余  
裕があった。朝倉が動く前に脱兎のごとく走り出し、教室から逃げだそう──  
として、俺は壁に激突した。  
 ?????  
 ドアがない。窓もない。廊下側に面した教室の壁は、まったくの塗り壁さな  
がらにネズミ色一色に染まっていた。  
 ありえない。  
「無駄なの」  
 背後から近づいてくる声。  
「この空間は、あたしの情報制御下にある。脱出路は封鎖した。簡単なこと。  
この惑星の建造物なんて、ちょっと分子の結合情報をいじってやればすぐに改  
変出来る。今のこの教室は密室。出ることも入ることも出来ない」  
 振り返る。夕日すら消えている。校庭側の窓もすべてコンクリートの壁に置  
き換わっていた。知らないうちに点灯していた蛍光灯が寒々しく並んだ机の表  
面を照らしている。  
 
「ムード作ろうかしら」  
 朝倉がそう言うと、蛍光灯の昼白色がけばけばしいピンクの光に変わった。  
 嘘だろ?  
 濃い影を床に落としながら朝倉がゆっくりと歩いてくる。  
「ねえ、あきらめてよ。結果はどうせ同じことになるんだしさあ。別に命をと  
ろうってわけじゃないのよ」  
「……何者なんだ、お前は」  
 何回見ても壁は壁でしかない。立て付けの悪かった引き戸も磨りガラスの窓  
も何もない。それとも、どうかしちまったのは俺の頭のほうなのか。  
 どちらにせよ、愛の告白タイムを演出するには程遠い異様な空間だ。  
 俺はじりじりと机の間をぬって朝倉から少しでも離れようとする。しかし朝  
倉は一直線に俺に向かってきた。机が勝手に動いて朝倉の進路を妨害しないよ  
うにしているのに比べ、俺の下がる先には必ず机が一団になっている。  
 おっかけっこは長く続かず、俺はたちまちのうちに教室の端に追いやられた。  
「な、なあ朝倉」  
「なあに?」  
「愛の告白に警棒とか密室はいらないんじゃないかな」  
「あら、愛だなんて」  
 英国あたりにいそうな上流階級の貴婦人のように口に手を当てて上品そうに  
笑う朝倉。  
「理解出来ない概念だわ。でも、セックスすることを愛し合うって言うことも  
あるわよね。そういう意味では理解出来るかしら」  
「俺はハルヒの恋人でも想い人でも何でもないぞ。俺なんかと関係を持ったっ  
てハルヒが何かするとは思えない」  
 
「それはどうかしら。ここ最近のあなた達の関係を見ているとそうは思えない  
わ。あなたを涼宮ハルヒから奪い取ることによって、彼女に劇的な変化がもた  
らされるのはそう低い確率じゃない。そう計算したから、わたしはこうしてあ  
なたに迫ってるんですもの」  
 口での説得は無理か。こうなったら。  
 椅子を持ち上げて思い切り投げつけてやった。ちょっと手酷いかなとも思っ  
たが、スタンガンを振り回されての逆レイプなんて御免蒙る。だが、椅子は朝  
倉の手前で方向転換すると横に飛んで、落ちた。そんなアホな。  
「無駄。言ったでしょう。今のこの教室はあたしの意のままに動くって」  
 待て待て待て待て。  
 何だこれは。何なんだこれは。冗談でもシャレでも俺か朝倉の頭が変になっ  
たわけでもないとしたら、いったいこれは何だ。  
 あなたを犯して涼宮ハルヒの出方を見る。  
 またハルヒか。人気者だな、ハルヒ。  
「最初からこうしておけばよかった」  
 その言葉で俺は身体を動かせなくなっているのを知る。アリかよ! 反則だ。  
 足が床から生える木にでもなったみたいに微動だにしない。手もパラフィン  
で固められたみたいに上がらない。それどころか指一本動かせない。下を向い  
た状態で固定された俺の視線に朝倉の上履きが入ってきた。  
「あなたを奪えば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。多分、大  
きな情報爆発が観測出来るはず。またとない機会だわ」  
 知らねえよ。  
「じゃあ諦めて」  
 朝倉は警棒を投げ捨てた。確かに最初からこうしておけばそんなものいらな  
いわな。  
 
 俺の視界に朝倉の顔が入ってきた。足許にしゃがみ込んだのだ。覗き上げる  
ようにして赤ちゃんに対するような微笑み方をする。  
「そんなに緊張しないで。男性を悦ばせるあらゆる手段をインプットしといた  
から。女性としての身体的特徴も最高の状態だと思うし。絶対にあなたはわた  
しの虜になるわ」  
 別に緊張したくてこうしてるわけじゃないけどな。  
 朝倉は視線を水平にした。つまり、俺の股間。ズボンのチャックを下ろし、  
中をゴソゴソと探る。感覚は生きているので、朝倉の指の動きが実によく解る。  
何ら羞恥することなく、朝倉は俺のイチモツを握ってズボンからはみださせた。  
「ふふ、柔らかくて温かい。素の状態ね」  
 当たり前だ。たとえどんな美少女に握られても、こんな異常な状況で昂奮す  
るほど俺は変態じゃない。  
「でも、人間の男性はどんな状況でも性的刺激を与えられれば色欲を抑えられ  
ないって話だけど」  
 朝倉は俺のイチモツを持ち上げると、大好物なエクレアを食べるようにあー  
んと口を開いた。エクレアが好物かどうかは知らんが、ま……まさか……。や、  
やめてくれ。そんな破廉恥な。うわ、息が直に。うわわわ。  
 その時。  
 天上をぶち破るような音とともに瓦礫の山が降ってきた。コンクリートの破  
片が俺の頭にぶつかって痛えなこの野郎! 降り注ぐ白い石の雨が俺の身体を  
粉まみれにして、このぶんじゃ朝倉も粉だらけだろう、しかし確認しようにも  
身体がピクリとも動かない。下を向いているおかげで顔に直接降ってこないの  
がせめてもの救いだった。  
 だが、白い靄が晴れると、俺の足元に朝倉の姿はなかった。  
 
 頭の向こうから声がした。教室の中央辺りだろうか。  
「一つ一つのプログラムが甘い」  
 長門だった。平素と変わらない無感動な声。  
「天井部分の空間閉鎖も、情報封鎖も甘い。だからわたしに気づかれる。侵入  
を許す」  
「邪魔する気?」  
 対する朝倉の声も平然たるものだった。  
「この人間が奪われたら、間違いなく涼宮ハルヒは動く。これ以上の情報を得  
るにはそれしかないのよ」  
「あなたはわたしのバックアップのはず」  
 長門は読経のような平坦な声で、  
「独断専行は許されていない。わたしに従うべき」  
「いやだと言ったら?」  
「情報結合を解除する」  
「やってみる? ここでは、わたしのほうが有利よ。この教室はわたしの情報  
制御空間」  
「情報結合の解除を申請する」  
 言葉のやり取りはそれで終わったらしかった。それからは、女同士の喧嘩に  
してはやたら派手な音が交わされはじめた。いや男の喧嘩だってこんな音はさ  
せないだろう。まるで戦争物やアクション物の映画の効果音のような破裂音や  
切り裂く音が立ち、ドカドカドカと床が鳴り響いた。おいおい、いったいどん  
な争いをしてるんだ。さっき机を投げた奴の台詞ではないが、なんというか女  
だったらもうちょっと穏やかな方法で決着をつけないか。つーか俺はこのまま  
無視ですか。いやその方が有り難いけど。  
 
「この空間ではわたしには勝てないわ」  
 まったくの余裕な朝倉の声に対し、小説の朗読をするような口調で長門は何  
か呟いた。こう聞こえた。  
「SELECT シリアルコード FROM データベース WHERE コー  
ドデータ ORDER BY 攻性情報戦闘 HAVING ターミネートモー  
ド。パーソナルネーム朝倉涼子を敵性と判定、当該対象の有機情報連結を解除  
する」  
 床が湾曲し、渦を巻いて踊る。見ていると酔いそうだ。悲惨なことにまぶた  
すら閉じようがないので実際酔った。最悪だ。せめて目だけでも自由にしてく  
れ。うっぷ気持ち悪い。まるで遊園地のビックリハウスに乗っているような視  
覚効果。目が回る。助けてくれ、これじゃ拷問と変わらない。  
「あなたの機能停止のほうが早いわ」  
 聴覚もおかしくなったようで、朝倉の声がどこから聞こえてくるのか全然解  
らない。  
 ヒュン、と風切り音。割と近いような気がした。  
 何だろうと思っていると、  
「そいつを守りながら、いつまで持つかしら。じゃあ、こんなのはどう?」  
と、朝倉の声。俺を守りながら?  
 次の瞬間、ドスドスドスと、いやな音がした。まるで、柔らかい肉を固い何  
かが貫くような──続いて、カツンと固いものが床に落ちたような乾いた音。  
 嫌な予感がした。  
 俺の視界に向こうから誰かの影が滑るように入ってきて覆った。続いて後ろ  
足が。長門。生真面目にも上履きの横に小さく名前を書いているのがこいつら  
しい。  
「長門!」  
「あなたは動かないでいい」  
 長門は平然と言った。  
 
 今のいやに生々しい音が気になった。不吉な胸騒ぎがする。何が起こったん  
だ?  
 すぐに解った。  
 眺めていた長門の上履きに、足をつたって鮮血が流れ落ちてきたのだ。足か  
らだけでなく、上半身からもボタボタと。大流血が。  
 つまり、朝倉は俺と長門に向かって同時に多方向から攻撃を加え、そのうち  
のいくつかを防いだものの、迎撃しきれなかった分が俺を襲い、俺を守るため  
に長門は自分の身体を使用した、ということだったのだが、この時の俺にはそ  
んなこと知るよしもなかった。  
 鮮血が長門の足許に小さな池を作り始めている。  
「へいき」  
 いや、ちっとも平気には見えねえって。  
 長門の身体から何かを引き抜く音がし、周りの床に茶色い槍が落ちてくる。  
これで攻撃されたのか。乾いた音を立てて転がった血まみれの槍は、数瞬のの  
ちに生徒机へと姿を変える。槍の正体はそれか。  
「それだけダメージを受けたら他の情報に干渉する余裕はないでしょ? じゃ、  
とどめね」  
 朝倉の笑っているような声。長門の身体の向こうから後光のようにまばゆい  
光が届いた。朝倉がどんな攻撃をしようとしているかは窺いようもないが、最  
後の一撃に相応しい大技であることだけは解った。  
「死になさい」  
 長門は動かなかった。いや動けないんだ。くそ、眉毛一本すら動かせねえ。  
彼女たちが人知を越えた戦いをしていることは認める。俺の出番なんかないだ  
ろう。だが、それでも為す術なく結果が出るのを待つしかない今の自分を呪っ  
た。目の前で窮地に立たされている長門を助けることも出来ないなんて、最悪  
にくそったれな状況じゃねえか。  
 
 ドス、ドス!  
 さっきの槍よりも太いものが貫通したような、耳を覆いたくなる音が立て続  
けに二回、した。長門の足が揺れ、俺の顔に赤くて温かい液体が飛び散った。  
 その直後、腕のようなものが恐ろしい速さで俺の頭の左右を空気を切り裂い  
て通過し、後ろの壁をぶち抜いてやっと止まった。  
 小さな上履きがぶらぶらと宙に浮いたまま。  
 長門の身体から吹き出した血が白い足をつたって床の血溜まりの幅を拡大さ  
せていく。  
「終わった」  
 ポツリと長門が言う。何も起こらない。  
「終わったって、何のこと?」  
 朝倉は勝ちを確信したかのような口調。  
「あなたの三年あまりの人生が?」  
「ちがう」  
 これだけの重傷を負いながら長門は何もなかったように言った。  
「情報連結解除、開始」  
 いきなりだ。  
 教室のすべてのものが輝いたかと思うと、その一秒後にはキラキラした砂と  
なって崩れ落ちていく。俺の視界の中にあった机も細かい粒子に変じて、崩壊  
する。  
「そんな……」  
 今度こそ朝倉は驚愕の声音だった。  
「あなたはとても優秀」  
 長門の足許にできた血溜まりにも砂が落ちる。  
「だからこの空間にプログラムを割り込ませるのに今までかかった。でももう  
終わり」  
 
「……侵入する前に崩壊因子を仕込んでおいたのね。どうりで、あなたが弱す  
ぎると思った。あらかじめ攻勢情報を使い果たしていたわけね……」  
 俺の視野の左右を塞いでいた腕のようなものも結晶化していく。おそらく朝  
倉の腕なんだろう。  
 朝倉は観念したように言葉を吐いた。  
「あーあ、残念。しょせんわたしはバックアップだったかあ。膠着状態をどう  
にかするいいチャンスだと思ったのにな」  
 次の言葉は俺に向けたものだった。  
「わたしの負け。よかったね、貞操守れて。でも気を付けてね。統合思念体は、  
この通り、一枚岩じゃない。相反する意識をいくつも持ってるの。ま、これは  
人間も同じだけど。いつかまた、わたしみたいな急進派が来るかもしれない。  
それか、長門さんの操り主が意見を変えるかもしれない」  
 俺は……何も言えなかった。硬直がまだ解けてないからだ。  
 なにかがおかしい。  
 戦いはどうやら長門に軍配が上がったようだ。朝倉の作り上げた空間は覆さ  
れていく。なのに、なんで俺は自由にならないんだ? 一番後回しになってる  
のか?  
 その時、視界の隅で動くものがあった。じっと見つめるしかない床に積もっ  
てゆく砂の下を、もぐらのように何かが潜ってくる。途中で砂の量が足りず、  
その姿が現れた。  
 警棒。  
 まさか……くそっ、長門ッ! 朝倉はまだッ……!  
 ──声が出なかった。  
 それは長門の死角から、つまり俺の目の前でワイヤーアクションのように飛  
び上がった。長門の生の足めがけて。  
「長門ッ!」  
 
 やはり声は出なかった。相変わらず何一つ動かせやしない。だが、長門の足  
が俺の心の呼びかけに気づいたように、こちらに踵を返そうとする。  
 遅かった。  
 長門のふくらはぎに警棒の胴体が触れた。スイッチがひとりでに入る。  
 バチッ! 青白い電光。  
 まばたきも出来ずに、俺はその鋭すぎるフラッシュを網膜に焼き付けるしか  
なかった。  
「──ッ!!」  
 長門の声にならない声。  
 バチッ! バチイッ!  
 続けて何度も残酷な発光が起こり、その度に長門の足がビクンビクンと激し  
く痙攣した。  
 肌が、肉が焦げる嫌な匂いが漂ってくる。  
 電気を放出し尽くすと、警棒型スタンガンは力を失ったように血と砂が混ざ  
り合った上に落ちた。  
 そしてさらにその上に、長門がドサリとくずおれた。  
 やばい倒れ方だった。  
 華奢な身体が小刻みに痙攣し、天井を仰いだ目が虚ろに見開いている。力を  
使い果たし、ダメージが蓄積した身体ではスタンショックに耐えられなかった  
ようであった。  
 長門の身体は穴だらけの血だらけで、眼鏡もなくなっていた。さっきの乾い  
た音の正体が解った。  
 本当に今度こそ、朝倉の勝ち誇った声が教室内に響き渡った。  
「情報連結解除処理を中断。情報連結再構成」  
 再び教室が光り輝き始め、その中で真の終結宣言が高らかに声明される。  
「わたしの勝ちよ」  
 
 
 ピンク色に染まる視界。その中にある長門の身体をつま先でのかし、朝倉が  
またしゃがみ込んで俺を覗いてきた。異様な戦いを繰り広げた後とは思えない、  
黒板の前で俺を待っていたあの時と何ら変わらない清らかな姿と上機嫌な笑顔。  
「危なかった。さすが長門さんね。わたしがバックアップに回ったわけがよく  
理解出来たわ」  
「長門は……どうなるんだ」  
 長門の身体の端はまだ見えていた。血がまだ止まっていない……って、俺喋  
れてるな。  
「さっき、私の腕が砂粒状になっていくのを見たでしょう? ほっといてもあ  
あなるわ。なんなら今とどめを刺してもいいし」  
「やめろ」  
「だめよ」  
 まるで恋人と戯れの会話をするような朝倉の可笑しそうな表情。  
 長門の代わりにお前がメインストリートに踊り出るってか。そりゃ機嫌も良  
くなるわな。  
「そうよ」  
 朝倉は鈴を鳴らすような声で言う。  
「わたしが勝ったのよ。今後はわたしが主導権を握ることが出来るの。嬉しく  
て仕方がないわ」  
「なあ、朝倉。ひとつお願いがある。それを聞いてくれたら、俺はお前の言い  
なりになってもいい」  
「あら、本当?」  
 目を輝かせる朝倉。運勢曲線絶頂だね。  
「無理矢理する面倒が省けて助かるわ。で、お願いってなあに?」  
「長門を助けてやってくれ」  
「だからそれはダメ。助ける理由がないわ」  
 まるで純情少年の一世一代の告白をあっさりふるように朝倉は即答する。  
 俺は食い下がった。このままでは長門が死んでしまう。  
 
「長門を無力化した上だったらどうだ? お前が勝ったんだろう、そうするこ  
とは出来ないのか? せめて命を獲ることだけでも勘弁してくれ」  
「命?」  
 朝倉は痴呆老人を見るような哀れさを宿す目で俺を見上げた。  
「わたしたちは単なるインターフェースよ。都合上あなたたちと同じ有機構造  
を取ってるけど、あなたが言うような『命』は有してないわ」  
 そういえば長門も同じような話しをしたっけ?……って、そうじゃなくて。  
「それでも何とか出来ないか? 確かに長門はお前を亡き者にしようとした。  
殺し殺されようとした敵に助いの手を差し伸べるのが愚かな行為ってのは解る  
気がする。だが、それでもお願いだ。長門を助けてくれ。俺はどうなってもい  
いから……このとおりだ」  
 俺は頭を下げようとして身体が動かないことに再び気づいた。馬鹿か俺は。  
「自分を引き換えにしようっていうんだ」  
 朝倉の目に疑いがありありと浮かんだ。  
「あなた、もしかして長門さんが好きなの?」  
「いや、好きってわけじゃないが、嫌いでもない」  
「ふうん……じゃあ、そこまで長門さんの助命嘆願をする理由はなに?」  
「死にそうだからに決まってるだろ。お前らが何と言おうが、俺はお前らの姿  
を同じ命を持つ者として認識している。ましてや、身を挺して自分を守ってく  
れた奴が死にそうになっているのを見捨てることなんて出来るかよ」  
「そう……じゃあ、わたしがさっき死にそうになった時、あなたはわたしが助  
かってくれ、死なないでくれって……そう思った?」  
「……」  
 どう答えればいいのか、俺は一瞬迷った。人道主義者や博愛主義者のように  
その通りだと言えばいいのか。朝倉は表情があるような、でも奥底には何も宿  
らず──だがしかしさらにその奥になにかが微かに揺らめいてるような光彩を  
湛え、俺を凝視した。  
 
 嘘をついても仕方がない。そう感じた。俺は正直に吐露した。  
「いや、思わなかった。お前は長門を殺そうとした。そして実際に殺す寸前だ。  
すまんが、そういう奴が助かってくれとは思えない。だけどもし、朝倉と長門  
の立場が逆だったら、俺はお前を助けてくれって長門に頼んだだろう」  
「正直な回答ね……そうね」  
 朝倉はしばし思案に耽ったが、なにかひらめいたようにパッと顔を輝かせた。  
ハルヒよりはだいぶ大人しいが。  
「いいわよ。助けてあげる。でも、その代わりの条件として今あなたが約束し  
たことを厳守して貰うわ。今からあなたはわたしの言うことを何でも聞く奴隷  
になって、わたしの計画に従うのよ。それを破れば即刻長門さんを砂に変える。  
いい?」  
 奴隷かよ……でも、死ぬよりは断然いい。俺は固い表情で頷いた。それで長  
門が助かるなら構わない。クサイ演技と嘲笑されるかもしれないが、命の恩人  
を見捨てる事なんて出来ない。砂になるっていうのは、つまり、存在が消えち  
まうって事だろう。それは命を失うこととどう違うんだ? 俺を助けてくれた  
長門が殺されるのをただ見ているほうがよっぽどどうかしている。  
 そうだ。朝倉は……朝倉は何ら躊躇することなく長門を殺そうとした。計画  
とやらに俺の殺害が含まれていれば、ベルトコンベアに流れる製品にパーツを  
組み込むような具合に俺も殺すんじゃないのか。あの警棒がもしナイフや拳銃  
だったら、今頃俺は床に散乱する砂の一部になってたかもしれない。そんな奴  
に同情は出来ない。  
 だが、ふと思った。長門もそうなんだろうか。朝倉が言ったように、長門の  
操り主とかいうのがいたとして、もしそれが心変わりしたら、ハルヒや俺をな  
んらためらいもなく殺そうとするのだろうか。  
 ……やめよう。そんなこと考えても仕方がない。  
 朝倉は長門の脇に移動すると、無惨な姿で床に転がる長門を見下ろし、なに  
かぶつぶつと呟く。  
 
 長門の身体に変化が起き始めた。傷口が次々と塞がって破けた制服が元に戻  
り、血のりが跡形もなく消えていく。意識こそ覚まさないが、どうやら朝倉は  
俺の願いを聞き届けたようだ。  
 俺はホッと胸を撫で下ろすように息を吐いた。撫でられないけどな。  
「さてと」  
 朝倉は俺に振り向いた。  
「長門さんのボディは修復したわ。これで消滅は免れたわけね。じゃ、あなた  
にも協力してもらうからね。ていうか有無は言わせないけど」  
 俺はためらいがちに頷いたが、同時にこうも言った。  
「犯られるのはいいんだが……こうなった以上、俺はお前に逆らえなくなった  
わけだし、別に無理してヤらなくてもいいんじゃないか?」  
「いいえ、肉体的結合はしっかり果たすわよ。口だけだったら何とでも言える  
しね」  
 そりゃそうですね。ハア……嬉しいやら悲しいやら。  
 朝倉は眉をひそめた。  
「なんか会話が微妙に食い違ってるわね。まあいいわ。実際に行ってそこで説  
明すれば解るだろうし」  
 なにが、と言う間もなく、俺の周囲の景色が劇的に変化した。薄紅色の靄が  
鼻の先の様子すら解らなくなるほど立ち籠め、薄まるのも同じく急激だった。  
 すっかり靄がなくなった時にはもう、俺たちのいる場所は教室ではなくなっ  
た。その間わずか数秒。まあ今さら何が起こっても驚かないがな。  
「……どこだここは」  
 左右を見渡す。あれ? 首が……いや、身体が動く。今さら安堵の溜め息も  
出ないが、ようやく全身の自由も取り戻せたわけだ。  
 
 ホテルの一室のようであったが、窓はなく、四方の壁は一面総鏡張り。赤青  
黄色の原色電球が柱や梁にけばけばしく並んでいて光ってないのが何よりだっ  
た。天井には無駄に豪華なシャンデリアが吊されているがそのきらびやかな姿  
に見合う目映さは微塵もなく、陰気にすら感じる低照明を放っていた。  
 そして……おいおいマジかよ。部屋の中央にあるのは何だと思う?  
 回転ベッドだぜ。回転ベッド。やたらとでかいし。  
 長門が横たわってゆっくりと回っていた。すげえ、回ってる。いやそんなア  
ホな感想抱いてる場合じゃねえ。  
 俺は長門に駆け寄った。ベッドの端から様子を覗き込む。気を失ったままで  
あった。しかし、もうどこにも争ったような形跡はない。穏やかな息をしてい  
る。ふと気づいた。長門の寝顔はあらゆる煩悩から隔離された純真無垢な少女  
そのものだった。  
 朝倉が俺の横に立ち、部屋を見回しながら長いストレートヘアをかき上げて  
言う。  
「ラブホテルの典型的な一室を模してみたんだけど。ちょっと違ったかしら」  
 ちょっとどころかだいぶ。いや、俺も実際に見たことなんてないがな。でも  
なんでラブホテルなんだ?──って、ああ……俺を犯すんだっけ。女に強姦さ  
れるのか。考えてみれば凄い美味しいシチュエーションだが、ちっともワクワ  
クしてこないな。  
 朝倉は俺の顔を見やり、フフッとイヤに可笑しそうな笑みを浮かべた。  
「いえ、まずは長門さんをレイプして貰うわ」  
 は?……なんだって。  
 俺は一瞬、耳を疑った。  
 それこそ、冗談か幻聴だよな?  
「大まじめよ。長門さんの機能をロックするのは、力を使い果たして消耗して  
る今しかないの」  
 
「それがどんな関係があるってんだ」  
「いたって単純明快よ。あなたが長門さんを犯せばロックがかかるようにした  
の。頑張って長門さんを女にしてね。絶対、経験ないはずだから」  
 そう言うと朝倉はコロコロと底抜けに朗らかな声を上げて笑った。女友達と  
歓談に興ずる時と何ら変わらない笑い。  
「これはあなたの忠誠を試す儀式でもあるのよ。口では何とでも言えるから。  
さあ、新しいご主人様の命令よ。長門さんを犯しなさい。たっぷりとね」  
「……くそっ……!」  
 どうすりゃいいんだ。朝倉の勢力下であり逃げ場などない空間。戦いに敗れ  
気絶している長門。殺しをまったく厭わないクラス委員長。無力な俺。  
 ……どうしようもないじゃないか。  
 例えば、後先考えない無謀な蛮勇を発揮して朝倉に殴りかかったとしよう。  
そして万が一にも無いと思うが、朝倉を殴り倒せたとしよう。その後はどうす  
る? こっからどう逃げる? それよりも確率が高く遙かに想像しやすい状況  
がある。殴りかかった次の瞬間、俺は何らかの形で殺され、そして長門も殺さ  
れる。  
 エニアックよりも劣る性能だろう俺の頭で考えてみても、そんな最悪なケー  
スに結果は終わるとしか弾き出せない。  
 殺されるよりはマシだった。  
 その一念だけで俺はネクタイをゆるめ、ベッドに上がろうとした。  
 すまん、長門。生きるためだ。  
 朝倉が口を挟んできた。  
「あら、服を脱がないの? せっかく誰の目も気にせずにやれるんだから、あ  
の涼宮ハルヒに見初められた身体を拝ませてみてよ」  
 別に見初められてなんかねえよ、この痴女め。  
 
 俺は朝倉に振り向くと、のろのろと服を脱ぎ始めた。男のストリップなんて  
くそ面白くもなんともない。だが朝倉涼子は興味津々といった風に俺の動きを  
眺めていた。お前本当に人間とは違うのか。  
「ふうん、暇な部活に入ってるわりにはまあまあの体つきね」  
「そりゃありがとさん。お陰様で運動するのは嫌いじゃない方なんでね」  
 いよいよ最後の一枚を降ろそうかというところまでくると、女の目の前で言  
われるがままに全裸になろうとしている自分にかなり情けない恥ずかしさが湧  
いてきた。だが、一度は見られているモノだ。それに、この常軌を逸した異常  
事態に半ばやけっぱちにもなっていた。しっかとパンツを掴むと、勢いよくず  
り降ろす。  
 俺の股間にぶらさがるものを見て、朝倉はニヤニヤと笑みを浮かべた。なん  
てやらしい顔つきだ。辛うじて保っていた最後の幻想が砕けた。俺の憧れの品  
行方正クラス委員長朝倉涼子よさらば。本当におさらばしたい。  
「だいたい平均的ね。それとも大きいって言って欲しいかしら?」  
 どっちでもいいわい。  
「じゃ、長門さんも脱がせなさい」  
「……俺がか?」  
 真っ裸の俺はマヌケの生き字引のような反応を返した。  
「当たり前じゃない」  
 今さらなに言ってるの、といった調子で朝倉は呆れ顔になった。だろうなあ。  
 女の服の脱がし方なんて知らねえよと心の中で毒づきながらのそのそとベッ  
ドに上がる。長門は未だ起きる様子を見せない。この場合、意識があるのとな  
いのとじゃどっちが幸せなんだろうか。どっちもぜんぜん幸せじゃないな。  
 俺はもくもくと長門の服を脱がす作業をこなした。気が乗らない。自然、自  
分の時のように手は遅くなった。  
 後ろから少し苛ついたような朝倉の声。  
「なんか身が入ってないようね」  
 
「いやそうは言っても……うわ!」  
 俺はびっくりして飛び上がった。背後に首を曲げた俺が見たのが朝倉の全裸  
だったからだ。なんて見事に整ったプロポーションなんでしょうか。いやだめ  
だだめだなに考えてるんだ俺。こいつは非情のライセンスを持つ女だぞ。職業  
殺し屋だ。外見に惑わされちゃいけねえ。だから反応するなって俺のムスコよ!  
 まるで年季の入った娼婦のような妖艶な笑みをこぼすと、髪を手で梳きなが  
ら胸を張り、匂い立ちそうな肢体を見せびらかすようにベッドに上がってくる  
朝倉。たわわに育った果実が……こんな近くに……うわ凄え。  
 俺は──硬直した。すわ、また動けなくされたのか。いや……単に体が言う  
ことを聞かないだけだ。  
 女のしかも女子高生でこんないやらしそうな素っ裸なんて慣れてないんだか  
ら仕方ねえだろ! と、いもしない嘲りの観衆に言い訳がましくまくし立てる。  
 朝倉は人差し指で俺の顎を撫で上げ、視線を絡み合わせてきた。  
「やっぱりムードって大切なのね。あなたも気分が盛り上がらなくちゃ頑張れ  
ないってことなんでしょう?」  
 こんな状況に陥ってムードはこの上なく満タンですよと答えようとしたがそ  
れは果たせなかった。  
 朝倉の唇が俺のと重なったわけで。  
 裸同士で。  
 
 なんていうかもう。  
 世界が吹っ飛んだ。  
 それが正直な感想だった。  
 キスだけで? そう。たかがキスだけで。  
「…………!?」  
 体奥でなにかが閃(はし)ったように火が灯った。熱い火が。  
 朝倉の唇が……気持いい。とろけるような感触。絡みついてくる舌。情熱的  
なディープキス。気持いい。気持ち良すぎる。  
 
 俺の意識の荒野に理性と本能が相対した。どちらも大群。いや、よく見ろ。  
理性の兵士達が次々と武器を放って本能の陣に寝返っていくではないか。なん  
という無様なていたらくか。沸き返る本能軍。瓦解してゆく理性軍。理性大将  
軍が馬上で動揺している。おい帰って来いよ! マジお願いだからさ!  
 朝倉はぐいぐいと唇を押し付けてきた。俺を長門の上に押し倒し、からだを  
寄せてきてなお濃厚なキスを強いる。  
 
 んちゅ……くにゅちゅ……  
 
 うおお、し……新世界が見えそうだ!  
 それほどの快感が俺の全身を駆け巡りあらゆる箇所を次々と支配下に置いて  
いった。  
 理性が……最後のもののふ達が……荒野の果てに敗れ去ってゆく……待って  
くれえー。  
 
 ちゅぱあ……  
 
と、世にも卑猥な音を立て、淫らに粘つく糸を引きやっと朝倉は唇を離した。  
 上気し赤らんだ顔で淫蕩に笑うと、  
「どう……? わたしのキス……」  
 俺は答えられなかった。呆然と天井を見上げていた。  
 それを見て朝倉はフフと笑う。  
「お楽しみはこれからよ……」  
 そう言って、悠然と手を伸ばす。俺の股間に。  
 そこも、もう天を衝かんばかりにカチコチになっていた。  
 
「こんなに固くしちゃって……凄いガチガチね……それに熱くて……」  
 朝倉は本当の痴女になったように艶笑しながら俺の上にまたがって股を広げ  
ると、俺のすっかりケダモノと化した欲棒を握り、余裕の手つきでおのが秘裂  
の下まで誘導した。  
 これから起こる事を想像し、ごくりとつばを飲む俺。  
 やめろ──と、どこからか遠い声が聞こえたような気がした。  
 朝倉の瞳が婉然と輝いた。  
「天国に連れてってあげるわ……」  
 そして、腰を落としていった。ずぶずぶと朝倉のアソコに埋め込まれてゆく  
陰茎。  
 言葉通り、そこは天国だった。  
 声は遠く霞んで消えた。  
 
 汁気もたっぷりにねっとりと吸い付いてくる朝倉の膣道。とろけるように熱  
く柔らかく、どこまでも俺を呑み込んでゆくぬれぬれの淫肉。  
 あ、あ、あ、と情けない声を上げながら、三分の二ぐらい埋まったところで  
俺は射精してしまっていた。朝倉の膣内にビュクビュクと青臭い精子をほとば  
しらせる欲棒。  
 朝倉のからだがビクンと震える。その唇が上擦るようにいやらしく開き、獲  
物を手中に収めた肉食動物のようにうっとりと微笑んだ。  
「んんっ!……ああ……わたしの体内で精液を出してるのね……フフ、随分と  
早いわね……」  
 いや……あんまり良すぎるから……  
「でも……まだ固いわ……」  
 ホントだ。一発抜いたら萎えるのが普通なんだが、今は何回でもできそうな  
最高の気分だ。  
 
「やれそうね……」  
 朝倉は笑みを深くすると、さらに腰を落としてゆく。みっちりと俺を呑み込  
んだ秘裂からひとすじふたすじと白い体液がつたい流れたが、その部分もすぐ  
に呑み込まれ、ぶちゅぶちゅと結合部が白く泡立つ。ついには彼女の内腿が俺  
の腰に着地した。根元まで淫肉に埋まった俺の欲棒の先端にいきどまりの感触。  
子宮を、朝倉の子宮を思う存分突き上げたい。欲棒が肉の悦びにたぎり立って  
歓喜に武者震いする。  
「あぁ……深いところまで感じる……んんっ?」  
 朝倉の嬌声が上がる。俺が下から突き上げ始めたからだ。  
 
 ズチュッ、ズチュッ、ズチュッ、ズチュッ──  
 
「あ、あ、あ、だめ、だめぇ……?」  
 俺をいよいよ昂奮させるあえぎ声を出しながら、朝倉は俺の動きに合わせて  
自らも腰をくねらせた。俺の頭の両脇に手をついてかがみ込み、形のよいバス  
トを俺の視野いっぱいに淫らに揺らす。  
 俺は腰を激しく打ち上げ続けながら朝倉の胸に手を伸ばした。朝倉は俺の手  
を取って導き、双乳を揉みしだかれると気持ちよさそうな声を上げてからだを  
わななかせた。  
「ああぁ……上も下も嬲られて……すごい気持いいわ……!」  
 うあ……うああ……なんて……なんて快感なんだ……!  
 俺が情事に没頭するのにそう時間はかからなかった。  
 あれ、何か忘れてる気がする。背中に感じるベッドとは違う感触とか。  
 だが理性が崩壊して意識の全てが淫らな欲望と朝倉のからだに向けられた今、  
それが何だったのか、おかしなぐらい思い出せなかった。  
 朝倉の、朝倉の肢体から目が離せない。  
 俺は朝倉の腰をがっしと掴んで強く押し込むように密着させると、せわしな  
く小刻みに出し入れする動きに変えた。ズンズンと朝倉の子宮を突き上げる。  
 
「ああっ! 感じるっ! 子宮が突き上げられてるうぅっ?」  
 朝倉は喜悦の涙を流し始めた。  
「またっ! また出るのねっ!?」  
「出る、出すぞ! 膣内に出すぞッ!」  
「いい、いい、いいわ! 出して! 全部わたしの膣内に出してぇっ!」  
 その言葉と同時に、俺は朝倉の膣奥に夥しい精を放っていた。  
 
 ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ!  
 
「アアアアッ!!」  
 朝倉のからだが膨大な歓喜に仰け反り、膣壁がギュウギュウと締め上げてく  
る。エクスタシーに打ち震える朝倉。  
「んあああ……! 出てる……! あなたの熱い精液がわたしの膣内にどくど  
く流れ込んでるよぉ……!」  
「うお、うおお!」  
 俺は放出しながら腰を動かしていた。   
 まだ、まだだ……。  
 さっきとは逆に、俺は起きあがって朝倉を押し倒すと、休む間もなく第三ラ  
ウンドに入った。朝倉も手足を絡みつかせて俺を歓迎する。  
 女の甘い体臭を胸一杯に吸い込み、ただひたすらにガシガシと腰を突き動か  
す。汁気が満ち溢れた膣がうねり、たまらない心地よさで絞り上げる。快感は  
後から後から際限なく沸き上がってきた。  
 背中にあった感触は消えた。朝倉のからだしか見えない。  
 何もかもが泥沼のような淫欲に没した。  
 
                               (続く)  

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