辺りが鮮やかな夕焼け色に染められる頃、  
俺は最早脊髄反射さながらにSOS団部室兼、文芸部部室へと歩を進めていた。  
やがて部室前に辿り着くと、俺は一応確認のためにノックをする。  
いつもならば大抵は天使のような朝比奈さんの声が、たまに不機嫌なハルヒの声が出迎えてくれるのだが。  
「………」  
全く反応なし。  
誰もいないのか?と思いつつ、俺はおもむろに戸を開け放った。  
 
そして俺は納得した。  
山吹色に染められた部室内にはたった一人の人物しかいなかったからだ。  
長門有希。  
彼女だけが、いつものように椅子にちょこんと座りながら本を黙読していた。  
 
こちらを一瞥して、何を言うまでもなく  
すぐさま視線を本に落とす長門。  
これはいつもの事だ。  
「今日は長門だけか?」  
再度こちらを見てこくりと頷く長門。  
どうやら今日は珍しく二人きりらしい。  
「そっか」  
そう言うと俺は長門の傍まで歩いて行く。  
無論、一人で呆けているのも虚しいので長門とコミュニケートを取ろうかと思ったからだ。  
 
だが、ある程度長門に近付くと、  
俺は長門の読んでいる本の違和感に気が付いた。  
いつものハードカバーや、辞典のようなものではなく、  
どちらかと言えば文庫タイプの小型なものだった。  
気になった俺は長門に訊いてみる。  
「長門は今日は何読んでるんだ?」  
この二度目の問掛けを、俺は後でとことん後悔する事になるとも知らず、  
ただ呑気に長門にぶつけた。  
長門は何も言わずに本のページを開いたまま俺に手渡す。  
俺はそのページから始めてざっと流し読みをしていき、  
その小説の趣旨を理解したところで凍りついた。  
 
官能小説。  
長門が読んでいたのはまさしくソレだった。  
内容はざっと見た辺りでは、露出癖のある女性がノーパンノーブラとかで  
ニャンニャンワフワフな事を独白しているような感じのソレだったのだが…。  
とりあえず俺はその小説を長門に返すと、大きく深呼吸をした。  
そしてなるべく平常を装い、  
長門に話しかける。  
「面白いのか…?」  
すると長門はこちらを向いて、  
「人間の欲求の心理として非常に興味深い」  
だそうだ。  
長門らしいな、と思い安心していたのも束の間、  
次に長門が放った一言で俺は再び凍りつくことになった。  
 
「現在、内容を反映し実践中」  
 
確かに長門はそう言った。  
理解したくないと思いながら、不本意な事に瞬時に理解してしまう。  
露出フェティッシュ系の官悩小説。  
実践中という一言。  
俺は自制心と道徳観を一瞬でアンドロメダ星雲辺りまで吹っ飛ばして長門に尋ねる。  
 
「あ、あのな、長門…」  
 
澄んだ瞳。白い肌。小さな唇。  
人形かとも見違うばかりの平坦な表情が俺を見つめてくる。  
 
「…もしかして今、穿いてないのか…?」  
 
その俺の言葉に長門は無言で立ち上がると、  
スカートの裾を摘み、何の躊躇もなくゆっくりと持ち上げた。  
 
結論から言おう。  
 
穿いてなかった。  
捲り上げられたスカートの下からは、陶器のような白皙の肌と、  
女の子の証である一本のスリットだけが姿を見せていのだ。  
 
『意外とシンプルなんだな』などと場違いな感想を覚えながら、  
俺はただその一点のみを凝視してしまう。  
 
「男性器が勃起してる」  
 
だが、恐らく何気無く言ったであろう長門の一言に、  
俺の意識は一気に現実へと戻される。  
言われて気付いたが、見れば俺のモノが長門の女性を見て興奮したらしく、見事なテントを作りだしていた。情けない。  
 
「す、すまん」  
 
不可抗力だ。  
 
「気にしなくていい。男性なら至極通常の生理現象」  
 
男として虚しくなるからそのフォローはやめてくれ。  
 
「と、兎に角今出ていくから、長門ももうそんな実践はやめとけよ」  
 
俺はやや前屈みになりながら長門に背を向けて部室から出ようとする。  
情けない事この上ないが、思い付いた良識ある行動が他にないんだからしょうがない。  
俺は廊下へと続く戸へ歩き出す。  
が、唐突に『くっ』と腕を引かれた気がしたため、俺は反射的に振り返った。  
すると、何時の間に来たのか、すぐ真後ろにこの状況でも未だポーカーフェイスな長門の姿があった。  
 
ふと違和感を覚えた。  
夕日のせいだろうか、ほんの少しだけ長門の顔に赤みが射しているような気がしたからだ。  
しかし、俺がその疑問を口にして出す間もなく、抑揚を感じさせない声で長門は言った。  
 
「してあげる」  
 
何をだ、と聞き返す暇もなかった。  
何故ならば、長門が何かを口ずさんだと思われる次の瞬間、ズボンのベルトがあっさり外れ、  
ズボンが万有引力に従ってズリ落ちたからだ。  
とっさにズボンを引き上げようとするが、何故かズボンに触れない。蜃気楼にでも触っているように。  
俺はこの期に及んで能面のような長門を凝視する。  
 
「ズボンを床に固着させて干渉隔離した」  
 
毎度の事で何を言っているのかは分からなかったが、  
やっぱり長門の仕業か。というか、一体何をするつもりだ。  
 
「あなたの性欲解消」  
 
マジか。  
 
「がまんは体によくない。性病を誘発する可能性もある」  
 
それ以前に何か問題があるような気がしないか?  
 
「無問題」  
 
いや、問題ありまくりだろ。それにここ学校だぞ。  
こんな所を人に見られたらどうするんだよ。  
 
「通常空間からは隔離済み。外部からは干渉不可能」  
 
言われて振り返れば、いつの間にか窓が消えていた。  
 
辺りを染めていた夕焼けの赤も消え去り、  
教室の蛍光灯だけが唯一の光源となっていた。  
しかし、こうなると逃げ場がないのは明白だった。  
恐らく拒否しても堂々巡りは否めないだろう。  
俺はもう開き直り、流れに身を任せる事にした。突発的な出来事にはもう慣れっこだ。  
全然自慢できることじゃないが。  
 
「…それで俺はどうすればいいんだ?」  
 
すると、長門は近くに置かれているパイプ椅子をおもむろに指差す。  
そこに座れと?  
 
「…………」  
 
頷いた。  
どうやらそうらしい。  
仕方なく俺はパイプ椅子に腰かける。  
 
金属部分が冷たくて気持いい。  
が、俺の心持は余りよろしくない。  
何故かって?だったら想像してみろ。  
自分が上はブレザー、下はトランクスだけでパイプ椅子に腰かけている光景を。  
…しかし、これから行われるであろう行為に対して  
期待感がないかと聞かれれば、否定出来ないのも微妙だった。  
長門は静々と近付いてくると、俺の前で中腰になる。  
当然俺は長門の顔を見下ろす形になるのだが、  
何故か俺はいつもと変わらない長門の顔を見てこんな事を言ってしまった。  
 
「なあ、長門…キスしてもいいか?」  
 
何言ってるんだろうな、俺。  
 
なんだかんだ言って俺もこの状況に酔ってきてるんだろうか。  
まあこんな酔いなら大歓迎だが。  
 
「………」  
 
一瞬の間を置きながらも、コクリと頷いた長門は、  
そのまま軽く立ち上がると顔を近付けてくる。  
俺がもう少し顔を前に出せば唇は重なる……のだが。  
頼むから目を開けたまま顔を近付けないでくれ。  
 
「…………」  
 
どうすればいい。  
そう目で問掛けてくる。  
 
「こう言う時は目を閉じるものだろ」  
 
その言葉にすぐさま応えて、すっと長門は瞼を下ろす。  
そして、俺はそれを確認すると、長門の小さな唇に自分の唇を重ねた。  
 
 
…とことん今更だが断言しよう。  
その場の流れなんかに流されるものじゃないと。  
 
自分の性器を異性の前に晒けだす事が  
こんなに恥ずかしいものとは思ってなかった。  
無駄とは思いながらも逃げ出したい衝動に駆られる。  
だが、そんな内心の煩悶をよそに、俺のモノは雄々しく天井を仰いでいる。  
その度胸を一割でいいから俺にくれ。  
 
因みに長門は、俺のモノが露になった時に  
やや目を丸くしていたように見えたが、  
今ではいつもの無表情を通している。  
何もこんな時までポーカーフェイスでなくたっていいだろうに。  
 
「始める」  
 
と、唐突に長門は俺のモノにそっと手を添えると、きゅっと適度に握ると、上下に扱き始める。  
 
「…っ」  
 
自慰とは違う快感に背中が震えた。  
長門の白魚のような指が上下する度に  
体の奥底から何かが込み上げてくるのを感じる。  
 
だが、暫くすると物足りなさを感じてきた。  
気持いい事は気持いいが、ややワンパターンに思えてきたからだ。  
長門もそれに気付いているのか、強弱をつけたりと工夫をしているようだったが、  
正直変化に乏しい感じは拭えない。  
 
もっと長門で気持良くなりたい。  
そんな欲望が何時しか生まれ、  
俺の心に自然と溶け込んでいた。  
だからだろう。  
 
「…なあ」  
 
こんな台詞が臆面もなく言えたのは。  
 
「…口で…してくれないか?」  
 
 
続  

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