「わ〜、ちっちゃくて可愛い〜♪」  
 シオはその場にかがみこんで、そう言った。  
「ぅ、そ、そう、そうだね。……シオから先にどうぞ」  
 俺は妙な興奮の余り、思ってもいないことを口にした。  
「またまたフィル君ったら、強がり言っちゃって。じゃあ……、本当に、私からでいいの?」  
 本当は俺だって触れたい。  
 だけど俺の方からしたら、シオに嫌われるんじゃないかって、そいいう気持ちの方が強かった。  
「俺は、男だよ。れ、れでえファースト。女性優先だ、だよ」  
 慣れない状況と言葉に、声が裏返る。  
「そう? やっぱりどうしようかな。でも、フィル君がそう言うなら……」  
 シオは時々上目づかいで俺を見るもんだから、胸がもっとドキドキしてきた。  
「じゃあ、僭越ながら、私から……するよ?」  
 シオも緊張してるのか、少し声が震えている。  
 だけどこういう時でもお姉さんぶってか、シオはためらわず一気に手を伸ばした。  
 そして、  
「あ、凄い、あったかい……」  
 そんなことを言った。 シオは、やっぱり慣れないらしく、少し撫でては反応を見るのを繰り返していたけど、すぐに持ち前の順応性のおかげか、  
「あ……、もしかして、ここをこうすると気持いいのかな?」  
 なんて事を言いながら、仔猫でも可愛いがる様に優しく頭を撫でだす。  
 俺は堪らず、  
「う、あうぅ……」  
 と、声を漏らす。  
「あはは、フィル君。可愛い声だねぇ」  
可愛いのは、笑顔のシオだ。  
 でも今の俺は、そう言える程冷静じゃなかった。  
「なら、これはどうだ♪」  
シオはそう言って、今度は口の下を微細な指遣いで撫でる。  
「シ、シオ。俺、やっぱりもうガマンできないよ」  
「え〜、フィル君はやすぎだよ〜。まだ私触ったばっかりだよ?」  
 シオはわざと意地悪な口調で言う。  
「で、でも俺も、俺も触りたいんだ」  
 それでもシオは、  
「だって、女性優先って言ったのはフィル君だよ。もう少しガマンして。触るのはそれから」  
シオは話ながらも手の動きは止めない。  
「シ、シオ!? どこ触ってるのさ!?」  
 なんとシオは、お尻に手を伸ばし、ゆっくりゆっくりさすりだした。  
 
「え〜、変かなぁ?だってシータはこうすると、ふにゃ〜って悦ぶんだよぉ。そう、丁度今のフィル君みたいに」  
「な、お、俺は悦んで……」  
俺は恥ずかしさのあまり、言葉に詰まってしまった。  
あ、なんだか凄く変な気持ちになってきた。切ないような、それでいて甘く心地よい気持ちに。  
「シ、シオばっかり……ずるいよ。俺にも……」  
「フィル君は男の子なんでしょ?私、男の子はガマン強い方が好きだなぁ〜」  
そ、そんなこと言われても……。  
シオはまるで見せつけるように、オーバーな仕草でさする。小悪魔の様な、天使の笑みで。  
 あまつさえ頬擦りまで始めた。  
 シオの柔らかい頬が、ふにゅふにゅと形を変える。  
 それ所か、鼻をこすりつけたりして顔全体でじゃれだす。  
 そんなことをされた俺は、もうガマンできなかった。  
込み上げる衝動はもう抑えきれなかった。  
「シオ、ごめん。俺、もう我慢できない!!」  
「え、ちょっとフィ、フィル君!?」  
俺は叫んだ。  
 シオは突然の事に驚いたようだが、俺は我慢できなかったんだ。  
 俺は、そのまま欲望を放出した。  
「シオ、ごめん。どうしても、我慢できなくて」  
 爆発した気持ちというのは、こんなにも快感なのか。俺は初めての感覚に酔いしれた。  
「もうフィル君たら、せっかちなんだから。もう少し待っててくれても良かったのに」  
シオはまだ物足りないと言った風に、顔と手に残る余韻にひたりつつ、ふくれっ面をしている。  
「ごめんね、シオ。この償いはキチンとするから」  
俺はシオに謝りつつ、独特の匂いだけど慣れればこれも良いものだな、なんて考えていた。  
「もう、じゃあ後でお昼ご飯おごってよね」  
「わ、分かったよ」  
財布は少しピンチだけど、シオの機嫌がそれで直るなら安いかな。  
「だけど、その前にもう一度触らせてよね。フィル君の仔犬」  
 

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