シオがジェリーランドに閉じこめられてから既に十数分が経とうとしていた。  
 脚はジェリーで固められ、手も体の前で枷のようにされている。  
 腰から背中、背中から肩に上ったグリーンジェリーがもにもにと顔に当たるのを感じる。  
 シオも一端の冒険者だから、長時間経ち続けることなど容易いことだ。  
 しかし、脚を微塵も動かせないで拘束されているとなると話は別だ。  
 適度な時間に体を動かさねば筋肉が凝り固まるように、シオの脚も既にギチギチとなっていた。  
 脚の疲労が激しい。おまけに、周りのジェリー達が何時襲ってくるか分からない緊張感とで、精神も大分疲弊している。  
 あまりの辛さに気を失いたいと何度思ったことか。  
 だが天井から滴る粘液と頬をつつくジェリーに邪魔され、それも許されない。  
 その時、背中全体に、どん、と何かがぶつかるのを感じた。  
 ジェリーだ。それもかなり大きな。シオは半ば混沌と化していた意識の中そう思った。  
 唯一の出口を己が巨体で防いでいた、メタルジェリーキングが動き出したのだった。  
 シオの踵から後頭部に至るまで、ジェリーキングは吸い付くようにひっついた。  
 滴りのおかげでひったりと体についた服ごしに、メタルジェリー独特の、金属のような冷ややかさを感じる。  
 突如、シオは体に浮遊感を覚えた。いや、感じではない、体は事実浮いている。  
 脚をバタバタ動かすも、体を拘束されながら持ち上げられてはどうしようもない。  
 脚を、動かす?  
 シオは視界の端に自分の足を見た。気づけば、ブーツをからめとっていたブルージェリー共が離れているではないか。  
 両手もジェリーが真ん中から分かれ、手を包み込むのは変わらないが、いくらか自由になった。  
 だが、事態は一向に良くはならない。  
 ジェリーキングは、なんとシオを持ち上げたまま壁に向かって猛突進をし始めたのだ。  
 潰される! シオはとっさに目をつぶった。  
 ……。  
 …………。  
 ………………。  
 シオは目をつぶったまま、体が反転するのを感じた。だが、捻り殺される訳でもないようだ。  
 恐る恐る目を開けると、右前方に眩しい光源を見た。どうも出口前から部屋の隅に移動させられたらしい。  
 ジェリーキングはゆっくりとシオの足を地面に戻す。そして、シオの背中から離れていく。  
 ひたり、と両足の裏がグリーンジェリーの絨毯に吸い付く。靴下越しというのがまだ救いか。  
 脚を拘束する物は無くなったが、今度は両手が壁に括り付けられた。  
 両の手を横に広げた格好で、腰を落とすことも許されない。  
 背中に壁が当たる。ゴツゴツとした壁が痛い。  
 
 本来、物事の始まりとは、なんの伏線も、説明もなく、唐突に訪れるものだ。  
 
 背中からジェリーキングが離れたのはいい。だが、肩に登り詰めていたグリーンジェリーはまだ残っていた。  
 何やら、ぶじゅるりという鳴き声なのか何かの器官の音なのかを発したかと思うと、突然ブラウスの襟元からシオの服の中に潜り込んだ。  
 シオは何が何だか分からなかったが、胸元でもにゅもにゅとジェリーが蠢くのは確かだった。  
 まるで∞の文字でも描くかのように、ジェリーはぬったりと胸の周りを這い回る。  
 それが脇の近くや谷間を通るたび、気持ち悪くもくすぐったい感覚になる。  
 いくら下着の上からとはいえ、粘液を分泌しながらそんな所をゆっくり丹念に蠢動されるのは、直に触られるよりも卑猥な感じがする。  
 そのグリーンジェリーの行動をどう見たのか、シオの周りに再び集まりだしたジェリー共は何を思ったのか。  
 ある者は壁を這い上がり、あるものは天井から糸を垂らして滑り落つ蜘蛛の如く、シオの体へと近付いてくる。  
 そして大半の者は、シオの脚を伝って体を上る。  
 ブーツによって守られていた膝下部分のオーバーニーも、一斉に登り詰めるジェリー群に一瞬で嬲られた。  
 上りながらふくらはぎや太股に吸い付く奴、口など無いはずなのに甘噛みする奴までいた。  
 何よりシオが嫌だったのは、ジェリー共が狙っているのはどうも上半身のようだが、彼らがそこに辿り着くまでに、自分の、下着越しに、お尻や、大事なところに触れてくることだった。  
 シオは自慰などしたことがない。自分でも、ほとんど触れることなどないそこを、こんな卑猥な生き物に、いとも簡単に!!  
 シオは悔しかった。遊び半分、いや、それ以下の気持ちで――ジェリーにそんなものがあるかさえ怪しい――、女性の大切な部分を触られたのだ。こんな屈辱があるだろうか。  
 では、遊び半分以上の、本能という名の高尚なる獣欲の元で触れられたら良いのか? などという問いは今のシオでは考えも付かないだろう。  
 上半身で蠢くジェリー共の数はいくつだろうか。十数匹になるか。  
 服の上からでも、もぞもぞと蠢蠢するジェリーの動きが分かる程、シオの服ははちきれんばかりだった。  
 抗おうとしても両腕を動かすことはできない。  
 ある者はへそを丹念に這い、ある者は二の腕にひとり、と吸い付き、またある者は脇腹を噛む。  
 だが、圧倒的なのは胸を這いずる者と、腋の下を丹念に舐め回す者だった。  
 それでも服の中に入りきれないジェリーはいる。そいつらはシオの脚や腕をぬめっている。  
 始めは気持ち悪くもくすぐったい、程度に考えていたシオも、微妙に、だが次第に、体が変化していることに気づいた。  
 くすぐったさより、妙な心地がする。蕾が徐々に開花するように、刺激も徐々に強くなっている気がした。いや、むしろ刺激がもっと欲しいと強く願う気持ちが、芽生えている。  
 シオは時々電流でも走るかのようにピクピクと体を震わす。  
 自分の吐息もなんだか熱を帯びてきている気がする。  
 うなじから背筋へと這う奴がいる。違う、そこじゃない。今通り過ぎたもう少し上の方を、そう、そこをもっと、強くこすって欲しい。  
 シオはいつしか、なにかを求めていた。  
 その気持ちを知ってか知らずか、胸を下着越しでは飽きたらず、その中に進入する者が現れた。  
 しにゅしにゅ、と乳頭をこすられたり甘噛みされたりする度、シオの口から甘く切ない声が出る。  
 大きさは私ほどじゃないけど、柔らかさではあなたの方が上ね、とイヴに言われた自慢の胸も、ジェリーにとってはただの餌食でしかない。  
 ジェリーはその行為にも飽きたか、ついにはシオの胸を揉みしだく。  
 マシュマロのような柔らかさと、餅のような弾力を持つ胸は、絶妙な強弱で潰されたり吸われたりする。  
 シオはますます、口から漏れる声を抑えることが出来ず、それどころか体を弓形に反らした。  
 そのせいで、服の中にギチギチに詰まっていたジェリーも反発した。  
 そしてシオが体を最大に反らしたところで、衣服は音を立てずに裂けた。いや、溶けたのだ。  
 ジェリーの粘液は服の繊維をもろくするとでも言うのか、いままで粘液を滴らせていたのはその為だったというのか。  
 理屈はどうあれ、シオは生まれたままの姿になった。  
 
 堪らず悲鳴をあげるも、ジェリーの愛撫は止まるはずもない。  
 乱雑のような責めは、要所要所のツボを的確についている。  
 シオは、何かが体の中で弾けそうになるのを感じた。まるで、海の中に放り込まれたような、そんな感覚になりつつあった。  
 そんな時、目の前ジェリーキングがシオの眼前に再び迫っていた。  
 何をされるのか、シオは分からなかったし、目の前にそびえるモノが、まさか屹立した男性器に酷似した物だとは思いも寄らなかった。  
 シオは漏れる喘ぎと、熱い吐息を堪えるので精一杯だった。  
 こうしている間にも、体を這い回るジェリーの逡巡は際限なく続く。  
 ヒクヒクと体は震えているも、例え裸だろうと、ジェリーに恥ずかしさは感じない。否、感じてなるものか。シオはそう思った。  
 だが、気持ちとは裏腹に耳まで真っ赤に染め、恥辱の表情を浮かべる少女。  
 嗚呼、汚れとは、汚されるとはどのようなことか知らない無垢なる魂のなんと哀れで健気なことか。  
 子供はキスすると生まれると信じている少女は、まさかジェリーの生殖器官がどのような役割を果たすか知るはずもない。  
 いや、セックスとはどのようなものかも知るまい。いくら都会に住もうとも、性絡みの話をイヴから聞かされる度に顔を真っ赤にしてうつむいてしまうシオだ。  
 内容も覚えていない。それが不幸なことに、絶望を少女はまだ感じてはいない。  
 ただ恥辱の念があるだけだ。もし年相応の知識があったら、シオは気を失っていただろう。その方が、幸せであったと言うに。  
 ズイ、ズイ、とシオに躙り寄って、ビキビキとした肉棒をシオの腹にあてがうジェリーキング。  
 冷たいと思っていたメタルジェリーキングのソレが熱くてシオは驚いたが、気持ちが悪いということだけを感じていた。  
 ずにゅずにゅと上下に何度も何度もこすりつける。  
 ジェリーキングは、ぼふぅぼふぅと蒸気の様な音をならしている。悪魔の鼻息なのか、シオは脚がガクガク震えるのを感じた。  
 それは本能か、蹂躙されるということを感じ取ったシオの雌の野生がそうさせるのか。  
 ジェリーキングはぶるんっとしならせて、シオの腹からモノを離す。  
 そして、モノは、今度はシオの太股にこすりつけられた。  
 シオはよくそこをイヴにくすぐられる。聞けば、そこを触られるとシオの顔がふにゃっとなって可愛いからだ、と言う。  
 今も、シオは顔がそうなっているかは分からない。  
 だが、嫌悪感と、なにか切なさと気持ちよさが同居しているような、耐えられない気持ちを感じ始めた。  
 さっき感じて、波のように退いてしまった弾けるような感覚がまた押し寄せてきた。  
 気づけばシオは、  
「ふゃ……ふああ…………」  
 と、いつしか声を出してしまった。  
 もう、ジェリーに何をされようと構わないと思うようになってきた。  
 どうすればこの状況を打開できるかなんてどうでもいい、立っているのは辛いが、くすぐったさだって気持ちよくなってきた。  
 ジェリーは、殺すつもりはないようだし、胸とかお尻とか触られるのはもうどうでもいいや。  
 ああ、よだれがだらしなくあごに流れてる。でも、それをすすってくれるジェリーがいるから、それもいい。  
 耳、ダメ、くすぐったいよ。そこ噛んでいいのはイヴちゃんだけだってのに、はうぅ。  
 あはぁ、腋の下、くすぐったいってば。あ、おっぱい、イヤ。もっと、優しくして。  
 赤ちゃんにおっぱいあげるのってこんな、感じ……ひゃん! ちょ、ちょっと、強すぎるよお。  
「あ、なに、も……もぅ、頭がぼ〜っとしてきた。う、ぅくぅ」  
 メタルジェリーキングは、できあいを感じてか、太股をさするのをやめた。  
 するとどうだろう、シオは、そのモノを寂しげに見つめるではないか。まるで、純粋な気持ちでねだる、少女の瞳で。  
 シオは、いつしか自分の花弁を潤していた。太股を滴るのはジェリーの粘液でなく、自分の壺から流れる蜜だったとは。  
 そして、モノはそのふとももの付け根に向かう。そう、少女を貫かんと……。  
 
「消えな、腐れ外道」  
 シオはまどろむ意識の片隅で男の声を聞くと同時に、じゅうっと何かの焦げるような、鼻につく匂いを感じた。  
 そしてあっという間にジェリーキングは泡と湯気を立て、そのまま蒸発してしまった。  
 そしてその蒸気の後ろに、シオはその男の姿を見た。よくは見えないが、よく知っているあの人に似ている。あの人とは、誰か思い出せない。  
 男は辺り一面に次々に魔除けの聖水をまいている。  
 王の消滅により、ジェリー達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。  
 それでも逃げ遅れたジェリー達は聖水を浴び、断末魔の叫びのような音とともに蒸発していく。  
 ものの1分足らずで、部屋はシオと男、そしてシオの体を這い回る数匹のジェリーだけになった。  
 男はやれやれ、といった風にシオに近付いて、残りの聖水を頭からまとめて浴びせた。  
 かけられた聖水が、こびりつくジェリー達を全て浄化し、それでようやくシオは魔物から解放された。  
 男は倒れそうになるシオを抱きとめ、優しく抱きしめた。  
 シオは、その時初めて父以外の男性に抱きしめられた。厚い胸板と、暖かい抱擁。父に似ているが、それとはまた違う温かさ。  
 薄れる意識の中、シオは男にお礼の言葉を精一杯言おうとしたが、口を動かすことができなかった。  
 頬に、何か冷たいものが滴った。ジェリーのとは違い、なにか悲しみに満ちている滴が。  
 男はしきりに何かを言おうとしているようだったが、シオは男の顔を見ることも、その声を聞くこともなく、気を失った。  
 
 
 気づくとシオはベッドで寝ていた。それも、海猫亭の自分の部屋ではなく見知らぬ部屋のベッドで。  
 シオは記憶の糸を必死に辿るも、何も思い出せなかった。落石と爆発の罠に同時に巻き込まれたあたりは覚えているのだが……。  
 こうなったいきさつは後で思い出すとして、それよりもここは一体どこだろうか。  
 とりあえず上半身を起こすと、その時はじめてシオは男物のワイシャツを着ていることに気づいた。  
 恥ずかしさのあまり、慌ててはだけた胸元を隠して周りを見るも、部屋には誰もいない。  
 とその時、部屋の隅にあるコートスタンドに、見慣れた紅いロングコートがかかっているのを見た。  
 
 続く  
 

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