イヴがシオと共に水色の塔へ昇り初めて十数日。こうしてマメに付き合うようになったのは、もちろん理由があってのことだった。  
 本来イヴは冒険などには毛ほどの興味もなく、そこらの男と合コンなどをしているほうがよっぽど楽しいのだが、図書館にあった一冊の本がそんなイヴを変えた。  
『カルヴァーンは世界でも有数の富豪であり、同時に古代遺産などのコレクターでもあった』。つまり、水色の塔には主人のカルヴァーンが残した遺物が残っている……かもしれない、と考えた。  
 古代遺産と言えば……正直想像もつかないが、おそらく色々と便利な物などがあるだろう。そう、例えば惚れ薬、とか。  
 たいていのことは薬物を使用すればどうにかなる。きっとお目当ての彼を落とすのも容易だろう。もちろんそんな薬物に頼らずとも、持ち前の美貌と知性と性格さえあれば落とすぐらいも簡単なことだが、まあ念のため、である。  
 冒険を始めたころは筋肉痛や極度の緊張による疲労で毎日へとへとになっていたが、今ではモンスナイフの扱いもそこそこ手馴れてきたし、魔法だって唱えることができるようになった。一人前、までは行かないにしても、半人前程度にはなっただろう。  
 このぐらいなら一人で行っても大丈夫だろう。もちろん惚れ薬の探索である。シオと一緒では早々古代遺産の捜索ばかりしていられないし、それに知られたくない。あくまで虎視眈々と狙う、というスタイルなのだ。  
「そぉれにしても、いつ来ても居心地が悪いってゆーか……」  
 ぶつぶつと言いながらも、イヴはしっかりと部屋の隅々まで丹念に調べている。錆びたコインがあったので、皮袋の中へ入れておく。  
 
 こうした捜索は今回を含んでまだ数回。惚れ薬はもちろんのこと、古代遺産に及ぶような代物はまだお目にかかっていない。来る日も来る日も錆びたコインに木の枝。錆びたコインは磨けばいいが、木の枝は何の役にも立たない。  
 そろそろ手足や体に疲労が溜まってきていた。皮袋も錆びたコインでいっぱいになっている。今日も収穫のないまま終わりそうだ。  
「あーあ、嫌になっちゃ――」  
 言葉の途中で、イヴはモンスナイフを取り出してきりっと構えた。最近感じることができるようになった魔物の気配――何であろうと、油断はしてはいけない。  
 部屋のちょうど影になっているところから出て来たのは、一言で表せば『筋肉だるま』だった。  
高くない身長に隆々とした筋肉、イヴの腰ぐらいの太さはあるかもしれない腕や脚に、大木のような胸囲。『獣』という単語が似合う不細工な顔と、手に持つごつごつとした棍棒が威圧感を放っていた。  
「な、なによぉ、これぇ……」  
 シオと二人で来ていたときに出会った魔物は、小さいキノコや赤や青のぬるぬるとした物。せいぜい子供のようなゴブリン程度。それなのに今日は、まるで次元の違う怪物が目の前にいる。  
 たしか、オーク。詳しくはブラックオーク。知性は高くないが、筋力はそこらのヤツらと比べれば郡を抜いている。また、異種族を区別できる程度の理解力はある。本から得た知識がイヴの中を駆け巡る。  
ぎろり。オークの視線にイヴは震え上がった。  
「か、かくごしなさぃよぉ……」  
 
 みっともないぐらい声が震えている。これだけ震えていては、逃げ出しても足がもつれて転んでしまうかもしれない。少しでも手負いにしてから逃げる算段を立てよう。  
 だがあんな棍棒の射程範囲内に斬り込む自信はない。では、ちょこまかと動き回って魔法を当てるしか……  
 イヴはわずかに後ろへ下がり、簡単な呪文を唱えて数粒の炎を投げつけた。火の属性の魔法では初級のものだが、まずはこれで様子見。相手の技量ぐらいはわかるはず。  
 オークは棍棒を振りかぶり、上半身をめいいっぱい使って大振りした。炎は風圧と棍棒にぶつかってすべて消えてしまった。  
まるで通用していない。最悪。考えうる限り最悪の事態だった。イヴはモンスナイフを構えたまま、じりじりと間合いをとる。唇は知っている魔法の中で一番強力なものを唱えている。  
 オークが薪を割るように棍棒を振り上げた。マズイ――と判断した瞬間、体は思いっきり跳躍していた。たたらを踏んで着地し、次にイヴが見たものは、つい先ほどまで立っていたところがぼこりとえぐられている光景だった。  
 イヴは魔法を唱えることをやめない。しかし心の中では、オークと自分との大きな差への深い絶望と、たった一人で探索した自分への憤りを感じていた。  
 だが、ようやく魔法は完成した。イヴは強い意志を保ち、それをオークへ放った。ゴム製のボールを壁にぶつけたような音が響いた。けれどそれだけだった。オークは直撃した箇所を少し撫でた程度で、ゆっくりとイヴへ接近してくる。  
「あぅ、ああ、あっ……」  
 おそらく逃げられない。肉体も精神も敗北を認めている。次の棍棒の一撃は避けられないだろう。確実に訪れる、死――  
 
「あ、あは、あはははっ」  
 イヴは笑った。自我が崩壊したのか、それとも何か意図するものがあるのか。オークはこの急変した態度に、やや興味深そうに見入った。  
「えへへ、実は、私、オークさんと、仲良くなり、たいんですよーっ」  
 モンスナイフを投げ捨て、敵意がないことを示す。勤めて明るく振舞っているが、言葉は途切れ途切れで紡がれている。  
 もちろん嘘。少しでも生存確率を上げる演技であるが、意思疎通ができているのか危うい。だが死になくない。そんな強い思いがイヴを行動へ奮い立たせていた。  
「ほらほら、その証拠に……こんなことだって、できるんですよっ」  
 イヴは惜しげもなく、着ている服を脱ぎ始めた。そして下着も外し、魔物がひしめく水色の塔で全裸となって、オークの前に立った。  
 オーソドックスだが色仕掛けと呼ばれる手法。相手がオスという確信もなく、異種族相手にこの魅力的な裸体が通じるかはわからない。これぐらいの賭けは仕方ないだろう。  
 相手は人間とは違う。かぼちゃの前で裸になっているのと変わりない……自分自身へ言い聞かせ、じっと耐える。  
「…………」  
 オークは棍棒を落とした。イヴの中に喜びが一気に膨れ上がった。だが接近は止まらない。膨れた喜びはずるずると萎み、逆に恐怖が膨れ始める。  
 歩幅にして一歩半。その距離でオークは止まり、なんとそこに座った。イヴは何が何だかわからない――と判断しようとした瞬間、オークの腕によって引き寄せられていた。  
「いたっ……このぉ」  
 いきなりだったので地面に膝を打ってしまった。それに顔面をごつごつとした脚の筋肉にぶつけた。  
 
 オークの行為が、単なる痛覚を生むだけならよかった。  
「ひぃぃっ……」  
 イヴは真横にあったモノ――股間からにょきりと屹立している肉棒に、息を詰まらせた。  
 こいつ、興奮している……異種族の裸体で性的な何かを感じ取っている。狙い通りにはなったが、いざ目の前に訪れれば驚愕と恐怖しかなかった。  
 ほぼ真上からオークの鋭い目つきが降ってくる。ここで逆らったりしたら、その太い腕と大きな手で首の骨が折られる可能性がある。なら――  
「あはっ、大きい、ですねっ」  
 人間のモノと比べれば一回り程大きいが、これぐらいなら大人の玩具にありそう……場違いな感想を抱いていた。  
 イヴは両手で包み込むようにモノに触れ、ゆっくりと上下に動かす。オスの匂いがむんむんと舞っている。それだけで気がおかしくなりそうだった。  
 何度か動かしているうちに、先端からねとりと透明な汁が出ていた。ここいらは人間と造りが同じだった。  
「じゃ、あ、次はお口で、しますね」  
 まだ体中の筋肉が張っている。つまり、警戒しているのだ。こんな状態では逃げる素振りは見せられない。まだ、続けないといけない。  
 イヴは少しためらったが、それでもオークのモノへキスをした。それも何度も何度も、求愛するようにキスの雨を降らす。  
 キスの次は舌。唇を肉の柱に押し付けてちろちろと舌を使って舐め始める。  
「うっ、きつ……」  
 精液の臭いか、または別の臭いか。つんとした臭いがイヴの鼻につく。それでも愛撫を止めない。何度も舐めた舌が味覚障害に陥ったように、びりびりと麻痺しているように感じられた。  
 
 イヴは体を起こし、オークのモノを先端から咥え込んだ。太いがそれでも無理ではない。しかし人間のモノよりは長いため、根元までは届かなかった。  
「んふ、んん……」  
 咥えたまま、口内を占めるモノを舌でべろべろと舐め、竿を両手でごしごしと摩る。すでに唾液でべとべととなっているため、ちょうどよく潤滑する。  
「ぐぅ、ぅ」  
 オークが疼いた。異種族の愛撫を受けて快楽を感じているのだ。イヴは『このまま欲望をぶちまけさせてしまおう』と考えた。このモンスターの精力はわからないが、人間と同じで一発放てば多少は治まるかもしれない、と考えた。  
「ぷは、気持ちいいですか? ……イヴ、がんばりますね」  
 えづきを我慢し、さらに奥まで突っ込んだ。じゅぼじゅぼと出し入れし、手の動きも早める。  
「ぐ、ぁがああぁ」  
 びくり。オークの体、モノが震えたような気がした。イヴはモノを口から出し、ラストスパートと言わんばかりに手を動かした。そして、そのときは訪れた。  
「きゃっ、ぅわ……っ」  
 オークのモノから、まるで噴水のような精液が飛び出した。イヴはシャワーを浴びるように、その精液が全身へ浴びた。  
 先ほどより濃いオスの臭い。そして、体に悪そうな熱と片栗粉を水で溶かしたようにどろどろとした粘度。何もかもが人間と違い、イヴは軽い目まいを感じた。  
「えへ、へ……もう、気がすみました、かぁ……?」  
 腕や体についた精液を拭うように床に捨てる。これだけ排出すればさすがに満足しているだろう。  
 
 ぎろり。また、あの目。しかし、心なしか鋭さはマシになっているような気がした。イヴに希望の光が差した――ようにも見えたが。  
「い、いつつつつつっ!」  
 イヴはオークの強靭な腕で肩を捕まれた。「マズイ、死亡フラグ……!」と考えたが、それはすぐに払拭された。  
 イヴの股の下に、今だ衰えのないオークのそそり立つモノ。まるで絹の布地に、今まさに突き刺さろうとしている毒針のようだった。  
ああそうか。イヴは直感した。  
『この魔物は、私と交尾を望んでいるのだ』  
「う、うくっ……う……」  
 イヴの目からは少しずつ涙がこぼれていった。そして程なくして、すすり泣きとなった。オークは不思議そうに(あくまでイヴの主観だが)こちらを眺めている。  
「もう、いいわっ」  
 まだ体にまとわりついていた精液を手のひらに集めて、それを自らの秘所に塗りたくった。  
即席とは言え、相手の精液をローションに代用。これだけで孕んでしまいそうだったが、『使い物にならなくなる』恐れがなくなった。  
 妙な決心があった。ここで交尾を恐れ暴れて殺されるぐらいなら、どんなことにも耐え切って生き延びてみせる……!  
「ほらっ、早く入れなさいよ!」  
 両手を使って秘所を広げる。オークはようやく下品な笑みを浮かべたあと、イヴを降ろしていった。  
「うあ、あ、あ、入る、入、るぅぅぅぅっ」  
 
 ずぼりと先端が刺さった。もちろんそこでは止まらず、ゆっくりと押し刺さっていく。  
「うあ、うあ、ああああああああああっ!」  
 入った、入った! 子宮の入り口に先端が押し当たり、すべては入らないまでもしっかりと肉棒を咥え込んでいる。  
 犯されている。街では男たちの憧れの華である天才の私が、こんな知性もルックスも社会的地位などすべてにおいて最底辺の魔物に!  
「くっ……こ、のぉ……」  
 唯一できる抵抗。しかし、泣きじゃくった顔で睨んだ顔はさぞかし被虐心を刺激したことだろう。  
 オークはイヴの肩を掴んだまま、上下上下と動かした。今までの性交では聞いたことのないような液体の音と、オークの口から漏れる喘ぎと吐息で脳がぐらぐらとした。  
「うく、いた、いたっい……はやく、イきなさい、よ……」  
 不本意ながら、イヴは下半身に意識を集中させて膣に力を込めて締め上げた。オークの喘ぎは大きくなり、口からはだらだらと唾液が漏れ出す。  
「ぐぅっ、ぐぅぅぅっ」  
 低いうめきと共に、オークの動きが止まった。イヴはひやりと寒気を感じた。  
「――あひぃ!」  
 来た。やはり、来た。イヴの膣内が、あのおぞましい粘液で満たされ始めた。入りきらなくなった精液は泡を生み出して結合部から漏れ出し、ぼとぼとと下へ落下した。  
「ぐっ……イヴは、もっといい男と付き合えるのに……こんな、こんな獣、に」  
 オークが手を離した。バランスを崩して地面に落ち、イヴは背中を痛めた。だがそれ以上に、秘所から花弁をどろどろと伝う精液の感触と温度に、鳥肌が立った。  
 オークは立ち上がって、イヴの腰に腕を回して、捕縛した。じたばたと暴れてみたが、太い腕は少しも動かなかった。  
 ずんずんとオークは歩き始める。転がったモンスナイフと、脱ぎ捨てた衣服。そしてばら撒かれた精液が遠ざかっていく。  
 おそらく、住処へ連れて行くのだろう……イヴは、これからの自分の役割を理解し始め、オークにも聞こえるような声を上げて泣いた。そして心の中では、少しずつ脱出の決意が揺らいでいた。  
 
 

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