慌ててしまうようなときこそ、落ち着いて冷静に対処しないといけない。ひとまず経緯と状況を把握しよう。チェリシェはおまじないのように高鳴る胸へ「落ち着いてっ……どきどき」と言い聞かせる。  
 まず憧れの(それと同時に片思いの)先輩をお茶に誘った。向こうにしてみれば後輩との軽いコミュニケーションだろうけど、自分として少ない勇気を振り絞ったデートのお誘いだった。  
そして先輩は快く承諾してくれたので、自室に招き入れた。こうして二人でお茶を飲んで楽しくお話をしていた。  
 たしか、ぼーと先輩の顔を眺めていた。ちゃんと会話はしていたけれど、整った顔立ちに見とれていたのだ。  
 ――そうしたら、先輩の顔が急接近して来て、その次に見たのは天井を背景にした先輩だった。  
「あのあの、イヴ先輩っ……?」  
「こういうこと、望んでいたんでしょ?」  
「え、ええ?」  
 こういうこと――いくつかの行為を思いつき、チェリシェの顔はぼっと火がついたように赤くなった。実際には経験したことのない行為だが、憧れの行為として得ていた知識。  
「オ、オロオロ……」  
「図星? 正直に言ったら?」  
 イヴはチェリシェの腕を万歳させるように持ち上げ、がっちりと拘束した。イヴは平均的な女性の腕力しか持ち合わせていないだろうが、平均より小柄なチェリシェは抵抗できず動けなくなった。  
 
完全に固めたチェリシェの唇は、憧れの先輩に奪った。  
「んっ!? んんー、んっ……」  
 驚愕、驚愕。とにかく驚愕だけが押し寄せていた。だが、抵抗はしなかった。もちろん、憧れの先輩、片思いの君だからである。  
(気持ち、いいっ……)  
 イヴのキスは、ずいぶんと経験が重なっているような、濃厚で、それなのに馴染みの良いものだった。  
 舌が何度も捕らえられ、がこね合った。イヴの抜けるような吐息がほおをくすぐり、心がじとりと濡れるようだった。  
 イヴが唇から離れると、でろりと唾液の糸が引いていた。それが唇へ落下し濡れていくと、ああ本当にキスを――と自覚させられ、鼓動はどんどんと高くなっていった。  
「せ、んぱい……」  
「あらあら、物欲しそうな顔しちゃって。もっとしてほしいの?」  
「あぅ……」  
 これも図星。けれど恥ずかしくてとても自分の口からは言えなかった。  
 そんなチェリシェを察してか、イヴは両手での拘束を左手だけに切り替え、空いた右手でチェリシェの頬に触れた。  
「ぁっ……」  
 まるで王子が姫に求愛をするような仕草。優しさがびりびりと伝わってきた。  
「どうしてほしい?」  
 先ほどからの、似たような質問。あれだけ守っていた理性は、キスによってぱりんと崩れていた。  
「先輩に、愛してほしい、です……」  
「はい、よく言えました」  
 イヴは再びキスをした。右手はチェリシェの服にかかり、少しずつ脱がせていく。  
「あの、先輩……部屋、暗くして下さい……」  
 チェリシェの言葉に、部屋は少しずつ暗くなっていった――  
・・・・・・・  
・・・・・  
・・・  
・・・  
 ・・・・・  
 ・・・・・・・  
「ん、んん、ふっ……」  
 暗い部屋で、1人の少女がベッドの中でもぞもぞと鳴いていた。  
 うつ伏せになり、両手で股付近を押さえ、固く目を閉じて想像を膨らませている。  
「先輩……私、私……あぁぁぁぁぁぁっ」  
 びくり。大きな震えと、そのあとに小さな震えが数度。少女は体内の器官がびくびくと震える様を感じていた。  
「はぁ、はぁ……ふぅぅぅぅ」  
 チェリシェは起き上がり、乱してしまった服を正して明かりをつける。  
 ああ、また1人で……慰めてしまった。しかも、片思いの相手とはいえ同性で。  
 自己嫌悪。それもこれも、さっさと振り向いてくれないあの人が悪い。チェリシェは相手を落とす方法を目まぐるしく考え始めた。  
 
 
 

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