イシュワルド近辺の森をがさがさと突き進むと、苔やツタが生え茂る中でぽっかりと、いかにもひんやりとしていそうな洞窟がたしかにあった。  
 そこの前には、青髪の、華奢な体だが剣をしっかりと背負っている少女――シオ=ミサキはやれやれと言わんばかりに服についた汚れや葉っぱなどを払っている。  
 ひとまず払い終え、軽く満足。次にシオはじろじろと洞窟を観察する。自然にできた洞窟であることには違いない。が、洞窟の前や周囲の草木は人工的に処理された形跡、妙に踏みしめられた地面や草木の綺麗な切り口が見られる。  
 間違いない。ここは、人の出入りがある。ようやく見つけた、盗賊のアジト。  
 シオは本来、魔物討伐関連の仕事しか受けない。別に信念があるわけでもないが何となくそう決めていて、現に生活も出来ていた。それが十数日前の話。  
 最近はタイミングが悪いのか、魔物討伐の仕事がめっきりと減り、少し手持ちが寂しくなり始めた。このままではマズイと即決し、こうして慣れない盗賊退治+盗品の奪還の仕事を受けることになったのだ。  
 剣の柄を握りながら、ゆっくりと、小股で地面の擦りながら入っていく。仕事中だろうか、門番がいない。それに、奇妙なほど気配もない。  
 変だ。チャンスかトラップか。二つの選択肢が浮かび、シオは前者を選ぶ。普段は人間の数倍の腕力や体格を持っている魔物を相手にしているんだ、人間なんてどうってことはない――と、油断に近い自信があったからだ。  
 
 洞窟はさして深くなく、枝分かれもなかった。ほぼまっすぐに歩き、数分と経たないうちに頑丈そうなトビラにぶつかった。  
 この奥に何かある。経験と勘がうんうんと鳴っている。鍵穴もない。シオはトビラを蹴りあけた。  
するとそこは、簡素なベッドに、数個の本棚。ツルツルと磨かれた床に、こうこうと部屋を照らすランプがいくつか設置されている。  
そして最重要。イスに座って読書に興じている男が一人。  
「お、や?」  
 男が気づいた。シオの手に力が入る。まだ剣は抜かない。ひょっとしたら盗賊でないかもしれない。けれど、本当は人間を退治する、ということにためらいがあった。  
「すみません、まだ収穫がないもので。日を改めてもらえますか?」  
 妙なことを言っている。収穫がない? そんなバカな。  
「私が何をしに来たか、わかりますよね?」  
「だから収穫がない、て言ってんだろっ」  
 男の口調がいきなり荒くなる。シオは警戒しつつも、ふと考えた。  
 どうやら会話が噛み合っていないらしい。……ここは他人の家かもしれない。  
「えとー、私はギルドの依頼で来たんです。盗賊討伐、ならびに盗品のペンダントの奪還。 心当たりはありますか?」  
 
「盗……賊?」  
 今度は男に混乱が起きた。盗賊? なんだそれは?  
 男は考える。ここに来たのは数日前。ちょうどいいねぐらを見つけて、前の住人には実力行使で出て行ってもらった。街からは少し遠いけど研究に没頭するのならちょうどいいなぁ、おや、なんだこの箱、おお、なかなか小奇麗なペンダントだ、暇があれば換金しよう。  
「……ああっ」  
 男の中に一つの結果が出た。  
「あいつら……盗賊だったのかよ……」  
 シオには聞こえない小声で男は悲壮する。  
 まあ悲しむのは後でもできる。さて、どうしたものか。「やだなぁ、盗賊じゃないですよ」と表側の口調で弁解することも考えたが、盗賊ではないにしても爆発物やドラッグなどの禁止事項の錬金術で裏稼業にどっぷり漬かった身。犯罪者には変わりない。  
姿を見られたからには口止めしないと厄介。  
(よし、ここは一つ……こちらのやり方でいくとするか)  
 男は読んでいた本のページを破り、指でぐりぐりと何かを描き、シオには見えないようにぽいっと捨てる。不思議なことに、それはすぃっと風に乗ったかのようにシオに向かって進む。  
 簡易式だが、まあ問題ないだろう。  
 
「あ、ああ、なるほど。なら丁重に相手しないとな」  
 軽い演技のあと、リンゴを向いていたペティナイフを握ってみた。剣に覚えはないが、一応様になっているだろう。  
 刃先で丸を何度も作る。よし、これでいい。あとは――  
「覚悟、してくださいね」  
 シオが剣を抜いた。今こそ、相手が最も自分に集中し、最も周囲への警戒心がなくなる瞬間!  
 男がナイフをきゅっと引く。するとシオの後方で光が生まれた。  
「……――!」  
 どんっ。鈍い音と共に、シオは前を吹き飛んだ。手にしていた剣がからんからんと転がり、一度バウンドし、うつ伏せに倒れた。  
「……と。まだ読んでいないからなくしたら大変」  
 ひらりと舞い戻ってきた本のページをしっかり受け止め、ポケットにしまう。頭でも踏みつけながらこの仕掛けの種でも語ってやろう。ナイフをリンゴの横に戻し、男は意気揚揚とすぐそばまで近づいた――ところで驚かされた。  
「ど……う、して……」  
 息がある。手加減した覚えはない。こいつは不死身か!? い、いや――  
(……剣の端でかろうじて防いだか。あと、わずかに身を翻した。たいしたヤツだな)  
 とはいえ後頭部直撃。しばらくは声は出せても指さえ動かせないだろう。  
「……ふうむ」  
 
 男はすぐ下でうずくまる、不幸な侵入者をしげしげと観察する。  
 まだ幼さの残る横顔。仕事と割り切れない、ためらってしまう甘い心。体はガキっぽいが、決して悪くはない。特に脚。このむっちりとしていて、かつツヤのある肌。平均点が高く、しかも要所要所もきっちりと高得点を出している。  
――上玉、それもとびっきりのヤツだ。  
「くく、これはいい収穫だ」  
 遠い地へ来たことで人脈や施設を失い途方に暮れていたが、なかなか幸先のいいスタートではないか。ようやく運が回ってきたようだ。  
 男はすばやくイスに戻り、近くに置いていたカメラと三脚を手にして戻る。話しやすいようになるべく目線を合わせられるように座り込み、シオの前髪を掴みぐいっと持ち上げる。  
 聞き逃してしまいそうな、小さく苦しむ声。ああ、これこれ。かわいい声を上げて苦しむ女を見るたびに興奮してしまう。徹底的に、肉体、精神、すべてを犯し、屈服させ、誰が主人であるのかを叩き込み、従わせる。  
 汚れを知らない少女は、例えるなら白い紙や綺麗な水。それらを、黒いインクを垂らして黒い点をつけたり、一片の泥を落としてどんよりと濁らせる。ああ、たまらない。我ながらいい詩人っぷりだ。  
 
 最初は飴だ。まず主人と認識させなければならない。表側の口調に戻して接しないと。  
「盗賊だって魔法は使いますよ。あと、フィルムの現像も、ね」  
 この言葉が何を意味するのか。シオは容易に想像できた。盗賊=野蛮という先入観、男に完敗したこと、そして、これから起こる出来事――  
「ぅ、くっ……」  
 シオの体が小さく動く。おそらく全力で抗っているつもりだろうが、実に無意味無意味。  
「まず名前を聞こうか。キミの名前は?」  
「………」  
 答えない。そりゃそうだ。誰だって答えないだろう。  
殴る蹴るは楽なもの。しかし、女性に暴力を振るうのは最低。まだ穏便にいこうじゃないか。  
「名前ぐらい教えろよ。なあ? 別に減るもんじゃねぇだろ?」  
「……シ、シオ。シオ=ミサキ……」  
 少し口調を荒くしてしまったが、名前を知ることはできた。  
「そうか、シオちゃんか。いい名前だね。さて突然だけど、キミは処女かい?」  
「ん、なぁ……」  
「あ、まだ答えなくていい。処女って言葉の意味、知ってる?」  
 気の強い娘はまず精神の表面を削る。肉体面での痛覚は我慢できても、精神面での打撃にはしばしば弱い。  
「し、しらなぃ……」  
「おい」  
 
 髪を掴む力を強め、喉元にもう片方の手を置く。さすがに印なしでは何もできないが、ブラフにはちょうど良い。  
「事態を飲み込め。強いのは俺、質問しているのは俺、死に損ないはお前、質問されているのはお前。わかるよな?」  
「はっ、い……」  
 シオは舌先が痺れているような感じがした。体の震えが舌先に集まっている。  
恐い。この男が恐い。恐い恐い恐い!  
「もう一度聞く。処女って言葉の意味」  
「あぅ、ぅぅ……しょ、処女、とは……男の人と、い、いちども寝て、いない女性の、こと、でです……」  
『一度も寝ていない』。かわいい表現だ。なるほど、この少女はなかなか純粋らしい。  
「さて最初に戻って、キミは処女かい?」  
「ぅ……く……」  
 恥ずかしい。女友達にさえ言わなかったことを、見ず知らずの男に言えるわけがない。  
 だが、黙ってこの場を逃れるとも思わなかった。  
「……まだわからねぇのかよ」  
 男は体をずらし、手を伸ばしてシオのスカートに触れる。  
 いや、スカートが目的じゃない。これは――!  
 
「っ、しょ、処女ですっ、私は、しょ、じょですっ」  
「最初からそう答えればいいんだよ」  
 今、男は直接調べようとした。答えなかったら、指を使っていたに違いない。  
ぱちり。男はシオの顔をカメラでとった。シオが浮かべた、悔しさと怒りで歪んだ顔がフィルムに焼き付けられた。  
「……いいねぇ、その恐怖と、怒りに満ちたかおぉ」  
 こいつ変、変だ。シオの警告灯がびりびりとそう伝える。今は、かちかちと震えて鳴る奥歯を噛み締めることしかできない。  
 屈してはいけない。わずかでもいい、抗わなければ、心さえ負けてしまいそうになる。  
「次、キスはしたことあるのかな?」  
「な、なぃ……です」  
 耐える。今は耐えて、突破口を見出す……! そうなると、なるべく男の機嫌を損なわないようにしないといけない。  
「なら、どんな風に初めてのキスをしてみたい?」  
「え、ぅ…………」  
 さすがに答えることをしぶるシオ。男はそれを見逃さない。  
「答えたくない。つまり、何らかの希望のシチュエーションがあるわけだね」  
「うう……」  
 
「答えろよ。ずぅっと考えていた夢のシチュエーション聞かせろ」  
「え、と……よ、夜の浜辺で、星を見ながら、その……不意打ち気味に、して、ほしぃ……」  
 ぎりり。奥歯が鳴った。頬が熱い。真っ赤に染まっているのだろう。目を逸らしたかったが、男の手がそれを許さなかった。  
「ふぅん、あいにくファーストキスとか興味ないんだよね」  
 男の手が前髪から離れた。髪の生え際がひりひりとして軽く涙が出たが、男から目を逸らせた、という安堵のほうが大きかった。  
 男はというと、シオの向かい側に三脚でカメラを立たせ、シャッターを押すスイッチの延長コードを取り付ける。これである程度カメラから離れていてもシャッターを切れる、なかなかの優れもの。  
「わうっ」  
 空いた両手でシオの体をぐいっと引き、男の腕がシオの腹部をがっちりと固定する。だらりともたれかかる女に、それを受け止めあぐらで座る男。親子、というほどの年齢は離れていない。仲さえ良ければ恋人とも言えるだろう。  
「ほうら、これでシオちゃんの全身が写るね」  
「………っ」  
 レンズには、たしかに自分がぼんやりと写りこんでいる。動こうにも動けず逃げられない。  
 まだだ、まだ、耐えるときだ。  
 
「ひ、ぃ」  
 息を吸い込んだような鋭い声。男の空いた手がシオの胸を掴んだとき、シオの口から漏れた。  
「へん、たぃ……」  
「あぁ、いい。柔らかい、それに良い香りだ」  
 ぱちりぱちりとシャッター音が鳴る。それは男のボルテージにも思えた。  
「シオちゃぁん、この胸のサイズはいくつだい?」  
「はち、じゅぅ、です」  
「へぇ、好みのサイズだ」  
 男がぐいぐいと服をひっぱると、シオの腰が衣服による締め付けが和らいだ。そして出来た衣服の隙間をくぐり、手がシオの肌に触れた。  
「さわ、さわらないでっ」  
「若いうちに触られたほうがいいらしいよ」  
 まったくのでまかせだが、ついつい言ってしまうのが悪い癖だ。  
「あっ」  
 シオはアンダーバストの締め付けがなくなったことに声を上げて驚いた。男は慣れた手つきで下着の金具を外したのだ。  
 自由になった胸が、男の手で鷲づかみにされた。  
「いっ、つ、いた……いたぃ!」  
「いい張りだっ、ほんと、上玉だよオメェは」  
 
 ぐいぐいと揉み、その弾力を何度も確かめる。その柔らかな胸にある固い突起を、くりくりと二本の指で程よく力を込め、弄りまわした。  
「く、ぅ。ふ、ん、ぅう」  
 シオだってその方面の知識がないわけでもない。そういった行為には快楽はつきもの、と思ってはいた。けれど今あるのは、痛い、苦しい、恥ずかしい。快楽にはおよそ無縁の感情だった。  
「おや、喘いでいるのかな?」  
「そん、なわけない! はな、して、離して!」  
「気丈な女は好きだぞ」  
 特にそいつの顔がぐちゃぐちゃに歪ませるのが。あえてここは黙っておく。  
「さて、次のポージングいこうね」  
 もぞもぞと服から手を引き抜く。胸を解放されたシオは一旦の安堵をつく。  
 だがそれも束の間。男の手がシオのスカートに触れた。  
「あぅっ、う」  
「動きにくくない? これ」  
 そう言うと、男がひらりとスカートを捲った。男からは見えないが、シオの下着がレンズに写り込んでいる。むろんそこを激写。  
 シオは、どうしてこんな目に遭っているのかわからなかった。いや、単に自覚がないだけでもあった。考えようとすれば、少しずつ目頭が熱くなるような感覚が生まれた。  
 泣かない。泣き顔すら、男を悦ばせるものになるからだ。  
 
「さて、そろそろこちらのお口も様子見ようか」  
「……っ! いっ、つっ」  
 男は急に手を離し、シオの体をぐりんと回した。シオは背中を受け身なしで打ってしまい、天井と向かいあった。  
 男がシオの脚を持ち上げ、下着に手をかけた。  
「やだ、このへんたいっ、やめ、やめて!」  
 当然止まらない。この男との最悪の行為が頭を過ぎり、すぅっと頭から血が引いた、ような気がした。  
「……ぃ、いや、やだ! お父さん、お父さん!」  
 脚がわずか、ほんのわずかに動き、邪魔をした。シオの息が荒い。これが全力なのだろう。  
 この小さな抵抗が、男の理性を崩すのには充分大きなものであった。  
「がたがた言ってんじゃねえよ! その頭ぶち抜くぞ!」  
「ひっ……!」  
 シオは黙った。男は、本気だ。この荒い口調のとき、目や気配、それらすべてが、常人のものを超えている。  
(フィルくん……!)  
 誰に助けても、男の動きは止まらない。下着がずるずると降下していき、ついには下着が男の手に渡り、そしてぽとりと床に落ちた。  
「……おやぁ、感じていたのかな? 濡れているじゃないか」  
「………!?」  
 
 本能的な体の防衛。愛撫を受けても無感な女性でも、いざ生殖行為が始めると愛液を分泌し始める。シオにはそんな知識があったのだけれど、それでも……1パーセントでも、快楽に押し流されたのかもしれない。  
(見ないで……見ないでっ……!)  
 声が出ない。口が金魚のようにぱくぱくと動くだけで、心の叫びが外に出なかった。  
「さぁあて。さてさてさてさてさて」  
 待ちきれない。そんな感情が男からは見て取れた。  
 カメラを自分の真横に移動させ、アングルも調整。被写体の女優様も準備が整っていらっしゃる。  
 もうすぐだ、もうすぐ苦痛の顔で歪ませられる。男はチャックを降ろし、すでに固さと熱を帯びている一物を取り出した。  
「あぅ、あぁ……!」  
 まるで凶器。そしてその凶器が誰を捉えるのか――恐怖からか、体が動かない。  
 シオの脚をぐいっと開き、秘所に己の欲望を押し当てる。  
「ふぃ、ひ、あ……!」  
「ああそうだ。忘れていたよ」  
 押し当てたまま、身を屈めてシオの顔を覗き込む。その顔は――まったくの無感情。  
 
「初体験の理想を語るんだ。声高らかになぁ。理想の相手なんていらん。ただ理想だけを言うんだ」  
 人は、ここまで人を追い詰めることができるのか……!  
 いざ死のうと思えば、この舌を噛み切ることもできる。吟遊詩人の唄にありがちな展開も、思わず身がすくんでしまい、歯が舌を挟まない。  
「私は…………」  
 一度呼吸を止め、意を決した。  
「私は……! 私は、大好きな人と、結ばれたいっ。あんたなんか、あんたなんかに……私は屈しない!」  
 どうなろうと、これだけは揺ぎはなかった。  
「……そうかい」  
 ぐぶっ。欲望の先端が、シオの中へ埋まった。  
「ぃ、ぃっ……!」  
「たいした『理想だった』よ。いやはや、感動した」  
 ある程度入ったところで止まる。おそらく先端にあるのは、シオの最後の抵抗。  
「ま、けど――」  
 ず、んっ。  
「あっ!!!」  
 何一つの躊躇もなく、一片の優しさもなく。男は貫かれた。この瞬間、純潔は散らされ、シオは男を知った。  
 
「俺が、お前の、初めての男だ。それを刻む。外からも、内からもな」  
 男はシオの腰を掴み、前後に動き出した。最初はスライドを小さく、それを放物線の如く加速していき、数度往復するころには腰と腰がぶつかり合う音が響くまでの動きとなっていた。  
「が、がっ、あ゛、うあ゛、あああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」  
男性経験のないシオは男をきつく締め上げる。けれど同時に、シオも切り裂かれる痛みを受けていた。  
「い、てぇ。やっぱきつぃな。おい、もっと、感じろよっ」  
 片手で胸をぎゅうぎゅうと掴み出す。だが、男は愛撫ではなく単なる鞭打ちの一環として放っていた。  
「いたっ! い! む、り! むり、むりむりむりりぃぃぃぃ!」  
「しゃ、あ、ねえな。すべり、よくしてやるよ!」  
 そう言って動きをどんどん早くしていく。  
「う、ぐ、あ、ああ、イくぞ!」  
 びくり。男のものが大きく震えると共に、最深まで貫かれる。そして、マグマのようにどろりとした、熱い液体が撒き散らせれた。  
「ぁ、あっ、いやあああああああああああ!」  
 これが何であるか。何に辿り着くか。シオは一瞬で覚醒し、一度で結びついた。  
「ほう、ら。これで滑りがよく、なっただろう」  
 男はぜいぜいと息を切らすが、再び動き出した。欲望は今だ大きく、主張を誇示している。  
 
「やめ、て……」  
「さ、第二ラウンドだ、シオちゃぁん」  
「やめて……やめてっ、いやぁぁぁぁぁ!」  
 部屋は、シオの悲鳴と水がぶつかり合う音で響きだした。  
 
「ぐ、う、イく、イク!」  
 男は粘液をシオの体内に叩きつけ、それから大きく呼吸をするために止まった。  
 さすがに三度目となると、男も体力や精力が落ち始め、相当な疲労を感じていた。  
「ぃ、ゃ……ぁ……」  
 シオは――かすれた声で、ぽろぽろと目の端から涙を流していた。喉が枯れて声が出ず、体が動かないので涙も拭えない。  
時間も経ち、体調も回復し、自分の意思で動けるはずであるのだが、彼女を覆う絶望が先ほどの物理的な麻痺以上によって制限されていた。  
「さ、あ、最後の写真だ」  
 二人の接合部にカメラを向け、男はゆっくりと引き抜いた。  
 ぶ、ごぽっ――  
 シオの秘所からは泡を立てて糸を引くように濃い白濁液と、血管のように伸びる赤い線が漏れ出した。カメラはそれを納め、フィルムがくるくると巻かれ始めた。  
 
「さ、これで終わりだ」  
 服装を正し、カメラを片手にふらついた足取りでイスまで戻り、机の引き出しに入ったペンダントを手にして戻る。  
「ほら、お目当てはこれだろ?」  
 シオの真横に、かちゃんとペンダントが落ちた。  
「こ、れ……?」  
「お前はこれを持って戻る。盗賊も事実討伐されている。これで依頼は達成。まあ反故するなり承諾するなりはそっちで決めろ」  
 男の一方的な提案(?)を、よく理解ができなかった。  
「で、だ」  
 あの目。シオが何度も恐怖した、感情がないような目。  
「お前は今日から俺の奴隷だ。俺は写真でお前をゆすり、好き勝手した楽しむんだ」  
すぅっと一呼吸置いて、男は続けた。  
「……自分の立場、わかりましたか?」  
「ぁ……」  
 
 理解はできた。けれど、悲しみも恐怖も、何もない。感覚が遅れているのだろうか。おそらく、将来に大きな影響を及ぼす提案なのに、何の感想もなかった。  
「わかったら早く帰りなさい。それとも、もう一度してほしいのかい?」  
「あ、ううっ……」  
 よろりと体を持ち上げ、ゆっくりだが急いで下着を履き、剣を拾う。剣を持って暴れることも考えたが、剣士が魔道士に勝てるとは思えない。  
 ――こぷ。  
 それに、動くたびに股から男の欲望が漏れ始める。  
 早く帰ろう。ひりひりとする股を引きずるように、部屋を後にした。  
 
 

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