ここは、海洋都市イシュワルド。  
 穏やかな気候と多くの人口に恵まれた大都市。  
 外はすっかり夕焼けに染まり、もうすぐ夜が訪れる。  
 労働者は仕事を切り上げ、各々の時間を過ごし始めるだろう。  
 
 レミュオール地区の一角にひとつの店がある。見た目はごくありふれた店のようだ。  
 店内にはごく普通の日用品や食料、武器がそろっている。  
 だがよく見ると、何かの薬や性玩具、拷問具など、いわゆる「裏」的な商品も扱っているようだ。  
 店の名前は――「シバの便利屋」  
 
「これを買い取って頂きたいのですが……」  
 客らしき中年男がカウンターに何やら紙束を置く。  
 金髪の店主――シバがそれらをしばらく鑑定したあと、難しげに結果を話す。  
「ウチは確かにチケットの買い取りはしている。確かに、このチケットは価値があるが、  
 有効期限がねぇ……これじゃ、全部あわせても15000£が関の山だな」  
「そんな……もう少しどうにかなりませんか?」  
 男は食い下がるが、  
「これでも他のトコよりは高いハズだぜ。お客さん、あきらめ……」  
 言いかけた言葉が止まり、シバは何かを考えこんだ。  
(待てよ……もしかしたら使えるかもな)  
 しばらく考えて、ニヤリと笑う。そして、  
「思い切って30000£でどうでしょう、お客さん?」  
「え……は、はい!!喜んで!!」  
 男は店主の豹変に少し戸惑ったが、予想外の高値がついたので深く考えないことにした。  
「毎度〜♪」  
 快く客を見送った後、急いで店を閉め、チケットの束を握りしめて駆け出した。  
(クク……こいつからはカネの香りがしてきたぜ)  
 
 
 ――ティコ魔法堂――  
 商店街に数多く点在する魔法専門の店。  
 この日の販売を終え、店の扉には『CLOSE』の看板が下ろされる。  
 この時間には、時々二人の冒険者が雑談をしにやってくる。  
「こんばんは〜♪」  
「こんばんは」  
 冒険者といっても、二人ともまだ十代後半である。  
「あら、シオちゃんにフィル君、いらっしゃい」  
 カウンターに肘をついてけだるそうにしている女店主――ティコが二人を迎える。  
「おお、シオにフィルか」  
 店内を掃除している男――ルヴェルも同じく、二人を迎える。  
「ギルドの方はどうかしら?」  
「全然、楽勝ですよ〜」  
 景気を聞かれ、明るい笑顔で答える青髪の少女はシオ。  
「お、俺は……まあまあかな」  
 自信なさ気に答える茶髪の少年はフィル。  
「ふふっ、順調そうね」  
「まあ、ウチも似たようなもんじゃがの」  
 掃除を終えたルヴェルも話の輪に加わる。  
 そして、いつものような雑談になる。  
 その時――  
 
「よ〜ティコ♪おっ、シオとフィルも一緒か、丁度いい」  
 突然シバが入ってくる。この男にしては珍しい程の笑顔で、足取りも軽い。  
「あら、守銭奴さんもいらっしゃい」  
 ティコは嫌な顔をしながらも、とりあえず店に入れる。  
「誰が守銭奴だ……まあいい」  
 いつもなら突っかかっているところだが、それを堪える。  
「今日は『いい話』を持ってきて――」  
「断るわ」  
「――ってオイ!!話くらいきけ!!」  
 ティコの即答にすかさず突っ込むシバ。  
「だいたいあんたの『いい話』ってのはロクな話がないのよ!!」  
「そーよ!!ヘンな薬飲まされたり物買わされたりで……」  
 ティコの反論にシオが同意する。  
「グッ……そこは置いといて……話ってのはコレだよ!!」  
 図星ながらも強引にかわし、カウンターに紙束を叩きつける。  
「何これ……アルハン温泉『シルフ荘』?」  
 四人はそれぞれチケットを取り、読んでみる。  
「一泊二食付宿泊券?}  
「この温泉、確か10000£は下らないと聞いたけど……」  
「シバお主どうやってこんなにチケットを?」  
「とことん怪しいわね」  
 口々に四人がいうと、シバは威張ってみせる。  
「どーよ?このシバ様が皆を温泉旅行へと連れていこうではないか!!  
「信用できないわね」  
「同感ね」  
「ハァ!?10000£だぜ。行きたくねーのかよ?」  
 ティコとシオに冷たい視線を浴びせられ、シバは不満そうにする。  
「このチケット一枚で10000£の価値があるんでしょ?なら、シバが換金しないはずがないもの。  
 それなのに私たちを誘うなんて……やっぱり怪しいわ」  
「ぐっ……」  
 シバの言葉が詰まる。確かに、シバという男は金のためなら何でもするが、  
 金にならないことは一切しようとはしない。何か裏でもあるのか、貸しでも作ろうとしているのか  
 いずれにしろ、タダでは済まなさそうだ……と二人は考えたのだろう……  
 しかし、シバにも言い分はあった。  
「ココを見ろ!!有効期限はあと10日なんだよ!!これじゃ売れる気がしねーよ」  
「あ……ホントだ」  
 四人は改めてチケットを確認する。  
「だろ!?こんな機会めったにねーぞ」  
 しつこく食い下がるシバに根負けしたのか、  
「俺……行こうかな」  
「ワシも……こんないい旅館に泊まれる機会はそうないからの」  
 フィルとルヴェルが立候補する。  
「おおっ、行ってくれるか!!うう……お前らいい奴だーー!!」  
 ウソ泣きしながらシバは二人に飛びついた  
「フ……フィル君が行くならあたしも……行く」  
「全く、しょうがないわねぇ……ま、丁度リラックスしたいと思ってたし、行こうかしら」  
 シオとティコが折れたところで、意見は一致した。  
「よーし、じゃあ今週末、三日後な」  
 日取りもまとまったところで、シバは心の中でこう呟いた。  
(クク……まず二人か)  
 表ではそんな素振りは見せないで、普通を装う。  
「でよ、まだ券が8枚余ってんだよ。他の奴も誘おーぜ」  
「それもそうね」  
「じゃああたしはイヴちゃんとサラサさんを誘うねっ♪」  
「じゃあワシはクリックとヤヨイちゃんを……」  
「私はめんどくさいから皆に任せるわ」  
「俺は――」  
「まぁお前らに頼むわ。三日後だからな」  
 フィルの言葉を遮ってシバが締めたところで、一同はいったん解散した。  
 
 
――三日後 朝――  
 天気――快晴  
 風――微風  
 絶好の外出日和。  
 
「よう、きたか」  
 集合場所に一番乗りで来たのはシバ。  
 そこに、シオ、イヴ、サラサの三人が到着する。  
「あー、シバさーん、チケットアリガトー。てか怪しいトコじゃないよね」  
「珍しいわね。便利屋のご主人からのお誘いなんて」  
 赤髪のギャル風の少女はイヴ。眼鏡をかけた大人びた印象の女性はサラサ。  
「あっ、ヴェルっちょ達も来た」  
 イヴが指差した方からはルヴェル、クリック、ヤヨイ、ティコが到着する。  
 ティコはよほど眠いのか、ルヴェルに半分ひきずられている。  
「いやーシバさん、誘ってもらってホントにうれしいですわー♪」  
「シバさん、有難うッス」  
 少し訛った喋りの少年――クリックと、おとなしい印象を受ける少女―ヤヨイが  
 そろって礼を言う。  
「そーいや、フィルはどうした?あいつ遅刻すんじゃねーのか?」  
 シバがイライラしながら待っていると、  
「あ、いた、ハア、ハア……」  
 息を切らしてフィルが走ってくる。  
「よお、おせーぞ。他には連れてきたのか?」  
「うん、ソフィアさんと――」  
「シバ殿、よもや貴殿から旅行に誘われるとは。どうかしたのでござるか?」  
(ゲェェッ!!!ヘルシンキ!!?)  
 シバは心の中で絶叫する。  
 生真面目で正義感の強い男――ヘルシンキ。この男だけは呼びたくなかったようだ。  
(てめええっ、フィル!!余計なヤツ連れてきやがってえええっっ!!)  
 心の中ではそう言うものの、表面では平然と装う。  
「よう、ヘルシンキ。お前が仕事休んでくるなんて珍しいな」  
「ははっ、フィル殿やソフィアにまで誘われると、断るわけには……」  
 ヘルシンキの横には、教会のシスター――ソフィアもいる。  
「シバさん、誘って頂き有難うございます。よろしくお願いしますね」  
「あ、ああ……」  
 ソフィアの笑顔に、とりあえずシバは会釈を返す。  
「で、全員そろったか?」  
「そのようじゃな」  
「十一人か。チケットが二枚余っちまったが、まあいいだろ。  
 んじゃ、出発すんぞー!!」  
 表面では引率者を装うシバだが、心の中では……  
(女が六人か……上出来だな。ヘルシンキが邪魔だが、まあいい。  
 試練はつきものだ。うまくやれば儲けがデカいぜ……クククク……)  
 
 迎えの馬車が到着し、乗り込む一行。と、ここで運転手がシバに聞く。  
「予約主のシバ様ですね?」  
「ああ」  
「護衛のギルド様方はどちらに?」  
「ああ、乗り込んだよ」  
「そうですか、では、出発いたします」  
 何やら意味ありげな会話を交わす二人にフィルは気づく。  
 そして出発後、シバに聞いてみる。  
「ねえシバ……さっきの会話の『護衛』って……?」  
「ああ、道中はアルハン山地を通るからな。魔物に襲われる危険がある」  
「護衛って……俺達の他にもいるの?」  
「んあ?いねーぞ」  
「じゃあ、まさか……」  
 フィルは恐る恐る自分を指差す。  
「当ったり〜〜!!冴えてるなフィル。つまり、お前とシオ、ルヴェル、  
 ティコ、ヘルシンキが護衛も兼ねてるってワケよ」  
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!?」  
 馬車の中が騒がしくなる。  
「ちょっとシバ、そんなの聞いてないわよ!!」  
「温泉行く前に死んでしまうかもしれないわい!!」  
「なんで私まで入ってるのよ」  
 非難の嵐が飛び交う中、シバは叫ぶ。  
「護衛のギルド雇う金なんざねーんだよ!!お前ら他のギルドの奴等よりは  
 強いじゃねーか!!どっちみち雇う必要ねーんだよ!!」  
「ふむ……一理あるでござるな」  
 ヘルシンキの意外な一言で、馬車の中は静かになる。  
「もしこの馬車が魔物に襲われたとすれば、貴殿らはどうするでござるか?」  
「そりゃあ……馬車を出て戦います」  
「私もです」  
「ワシも……見とるわけにはいかんのう」  
 ヘルシンキの問いかけに、ティコを除く三人が答える。  
「たとえ護衛を雇っていたとしても、貴殿らは迷うことなく魔物に立ち向かうでござろう。  
 それに、貴殿らは拙者も認める相当の実力者。そこらの魔物には負けはなし。  
 ならば、ギルドを雇わずとも同じ。シバ殿はそこまで考えていたのでは……?」  
「お、おう!そうさ!!」  
 シバがすかさずハッタリを張る。  
「なに、大抵の魔物は拙者たちで十分でござる」  
 その言葉で、フィルたちのやる気が上がる。  
「うん、一応装備は持って来てるし」  
「まっ、だいじょ〜ぶだねっ」  
「なるほど、たしかにのう」  
 皆がまとまったところで、温泉行きの馬車は再び出発する。  
 
 ――アルハン温泉『シルフ荘』――  
 秋の紅葉と清流に囲まれた、趣のある一流旅館。  
 イシュワルドから離れたこの旅館は、景観、温泉、料理ともにすばらしく、  
 夏は避暑地として人気が高い。  
 
 シバたち一行を乗せた馬車は旅館の入り口に着く。  
「はぁ〜〜、やっと着いたぁ」  
 最初に出てきたフィルを始め、一行の表情は疲れを隠せない。  
「ほんと、スカイドラゴンとかカゼノマジンとか……大変だったわよ!!」  
「そう言うな。結構楽に勝てたではないか」  
「まあ、こちらが複数だから無傷ですんだけど……」  
「よし、それじゃ、入ろうぜ」  
 シバを先頭に、一行は旅館に入る。  
「いらっしゃいませ〜」  
 中で、従業員の声が元気よく響く。  
「よし、部屋割りしようぜ。二人部屋が四つ、三人部屋がひとつだ。  
 うらみっこなしでくじ引きな」  
 シバの突然の提案で部屋を決めることになったが、ここでサラサがシバに  
「もちろん男女別よね?」  
「はあ?それじゃ面白味がねーだろ。もちろん、ごちゃ混ぜだ」  
「なんでよ!!」  
「ふざけないでよ!!」  
「ルヴェルとは絶対イヤッス!!」  
「ヤヨイちゃん、それはあんまりじゃ……シクシク……」  
 主に女性陣からクレームがつけられる。  
「チッ、分かったよ!!」  
 仕方なくくじを分けるシバ。  
 
 くじ引きの結果、  
 シバ・ヘルシンキ  
 フィル・ルヴェル・クリック  
 シオ・サラサ  
 ティコ・イヴ  
 ヤヨイ・ソフィア  
 という組み合わせに決定する。  
 
「兄さんと一緒ですか〜、フィル君、よろしくです♪」  
「うん、よろしく」  
「あら、同室はシオちゃんね」  
「じゃ、部屋に行きましょ、サラサさんっ♪」  
「ティコお姉様と一緒なんて……うれしいっ」  
「はいはい」  
「よろしくお願いしますッス」  
「こちらこそよろしくね、ヤヨイちゃん」  
 各々文句はなく、それぞれの部屋に向かう。  
 ……ただ一人を除いては。  
「さてシバ殿、我々も部屋へと向かいましょう。……シバ殿?  
 顔色がよくないでござるな。どうかしたでござる?」  
「いや、大丈夫だ。ちょっと疲れたかもな……」  
(チクショオオオッ!!よりによってコイツとかよ……計画が進まねーじゃねーか!!)  
 心で地団駄を踏むが、もう遅い。  
 内心ガックリしながら部屋に向かう。その時、  
「シバ殿、拙者このような旅館には大変興味がある故、少し中を見て回ろうと候。  
 あとで部屋に戻る故、先に部屋に行ってくだされ。」  
 そう言ってどこかへと行ってしまう。  
「子供かよ、あいつも」  
 ともかくほっとしたシバは、部屋へと向かう。  
 
 ちょうどシオ達の部屋を通りかかったとき、  
「サラサさん、先にお風呂入りましょうよ」  
「あら、いいわね。夕食まで時間があるし」  
「そうだ!ティコさんやイヴちゃんとかみんなで入りましょうよ」  
「そこはシオちゃんに任せるわ」  
 こんな会話をシバが聞き逃すはずがない。  
(よっしゃ!!ヘルシンキの野郎も今はいねえ……チャンス!!)  
 急いで自分の部屋に入り、バッグの中から黒く光るカメラを取り出し、  
 自分の着替えの浴衣とバスタオルの中に隠す。これが、今回のシバの狙い。  
(クク……女性方よ、いい写真撮らせてもらうぜ……うまくいけば  
 高値で売れるからな。裏モノだろうがな……)  
 荷物を抱えて真っ先に温泉へと向かう。その時、  
「あ、シバも風呂に入るの?」  
 バッタリとフィルとクリックに鉢合わせてしまう。  
「あ、ああ。ここは温泉がメインだからな」  
(う……一人では無理だったか……しゃあねー、こいつらもちょうどな  
 年頃だしな。うまく言いくるめれば楽勝だな)  
 と、余裕で温泉へと向かう。  
 
「おや、皆で風呂に行くのか」  
「では、我々もご同行よろしいかな?」  
 温泉までわずか30メートルというところで、ルヴェルとヘルシンキにまで  
 遭遇してしまう。  
(ッオオーーイ〈怒〉!!ふざけんなあああ!!)  
「ええ、いいですよ」  
(てめっフィル、またかよオイコラァ!!)  
 決して口では言えない怒りを心で叫ぶしかないシバ。ルヴェルだけならともかく、  
 ヘルシンキがいては目の前で悪さはできない。  
「先に入っててかまわん。後で行く」  
 そんなシバの心境など知るはずもない四人。  
 結局、温泉盗撮をあきらめざるを得ないシバであった。  
(チクショウ……盗み聞きしかできねーよ……)  
 カメラは誰にも見つからないように脱衣所で服の中に隠しておくのが精一杯だった。  
 
 ――温泉――  
「おー、絶景ですねー♪」  
「本当だ、人もいないや」  
「おいおい、貸切かよ」  
 露天風呂の扉を開け、クリック・フィルが外に出る。少し遅れてシバも続く。  
 天然の露天風呂からはアルハン山地の紅葉が広がる様が見える。  
 イシュワルドからは見ることのできない絶景。天然の露天風呂。  
 湯加減もよく、旅の疲れを癒すには絶好である。。  
「いやー、来て良かったですね」  
「ホント、シバが持ってきた券だからどうなるかと……」  
「おいフィル、俺はそんなに信用ならねーか?」  
 ギロリとフィルを睨む。  
「い、いや、そんな事ないよ」  
 本当は肯定したかったフィル。よく怪しい薬を飲まされ、何度悶えただろう……  
 と考えたが、意志の弱いフィルはそんなことは言えない。  
「おお、いい景色でござるな」  
「お主らここにおったんじゃな。どうりで内風呂にはいなかったのか」  
 ヘルシンキとルヴェルも加わり、露天風呂は一気に賑やかになり、五人が雑談する。  
 普段このような機会がないため、いろいろな話に花が咲く。  
「む……」  
 ヘルシンキが何かの気配に気づいた。  
「?……どうしたんですか?」  
「しっ!!静かに」  
 ガサガサッと音を立てて何かが近づいてくる。  
「まさか……魔物!?」  
「え……?」  
「くそっ、ヤベェんじゃねーか?」  
 シバが舌打ちする。  
 アルハン山地は魔物、特に強力な魔物の巣窟としても知られている。  
 五人は腕はあるとはいえ、ここは露天風呂。丸腰である。  
 ブラドラドのような怪物だと、勝ち目はない。 そうこう迷ううちに音は近づいてくる。  
 
 五人に緊張が走る。ルヴェルとクリックは魔法を溜めて臨戦態勢をとる。  
 
「ウキャッ」  
「……?」  
 警戒する五人の前に現れたのは、二組のサルの親子だった。  
「ハア……びっくりしたぁ」  
「温泉に浸かりに来たらしいな。脅かしやがって」  
「害はないようじゃ」  
「ほら、こっちへおいで」  
 思いがけない珍客に、緊張した空気が一気に和む。  
 五人入ってもまだ余裕があるほどの広さがあるので、サルの親子は遠慮なく入った。  
 そしてまた雑談に入るかと思いきや、突然、  
「しっ!!静かに」  
 今度はシバが皆を黙らせる。  
「……今度は何?」  
 フィルが聞くと、シバはニヤリと笑い、仕切りの壁を指す。  
「来たぜ」  
 
 
「わぁ、いい景色!!」  
「誰もいないから貸切ッスね」  
 いきなり壁の向こうから黄色い声が響く。  
「まさか……シオ?」  
「ヤヨイちゃんも……」  
 固まるフィルとクリック。  
「よぅ、どうしたよ二人とも。女湯の声を聞くのは初めてか?」  
 鼻で笑ってからかうシバ。それでも二人は固まったままだ。  
「シ、シバ殿!!」  
 シバを咎めようと声をかけたヘルシンキだったが、いささか声が小さい。  
「堅ぇコト言うなよ。ここは露天風呂だぜ?盗み聞きになるかよ」  
 そうこうしてるうちに他の女性陣も入ってくる。  
「へぇ、なかなかいい所じゃない」  
「あーシオちゃん達いたー」  
「すばらしい景色ですわね」  
「あんまりはしゃぐんじゃないわよ」  
 サラサ、イヴ、ソフィア、ティコが加わり、とたんに女湯の方が賑やかになる。  
 対照的に男湯の方はみな無言。というよりはシバ以外は硬直しているといった方が正しい。  
 
 そんなことは露知らず、女湯では過激な話題で盛り上がる。  
「うわぁ、やっぱりティコさんの胸って大きいッス!!」  
「前にも温泉に来た時に見たでしょーが。そんなに珍しいのかしら」  
「珍しいんじゃなくてうらやましいんですぅ!!」  
 ヤヨイとシオはティコの胸に視線を向けるばかりだ。  
 確かに彼女の胸は90cmを超える大台で、二人がうらやましがるのも分かる。  
「ティコさんだけでなく、みんな大きいんだもの……」  
サラサ・イヴ・ソフィアの胸もティコには及ばないが、十分に豊満だといえる。  
「何言ってんのよ。女の価値は胸だけじゃなくってよ」  
「そうですわ。胸が大きいからって良い女性とは限りません」  
 サラサとソフィアが正論を言う。  
(……何かトゲのある言葉ね)  
 イヴとティコがソフィアの言葉にピクリと反応する。  
「それに――」  
 サラサはいきなりシオの背後から手を回す。  
「ひゃっ、何!?」  
 
「私達だってシオちゃんの白い肌がうらやましいもの」  
 そう言って軽くラインに沿うように胸を撫でる。  
「く、くすぐったいですよぅ」  
 サラサの手は撫でるのみで飽き足らず、シオの胸を揉みしだく。  
 始めはゆっくりと、徐々にペースを速める。  
「あっ、もう、サラサさんたら……」  
 突起を摘まれ、シオの顔が紅潮する。  
「ほら、コリコリしてて可愛い乳首ね。感じるんでしょ?」  
「ん……そんなこと、あ、ないですって、あ、ばあっ」  
「ふふっ、敏感なのね。ここも弱いのかしら」  
 左手でを胸を揉みながら、右手を下へ這わせる。  
「やっ、そこは……あっ」  
 右手が秘所にたどり着くや否や、中指で弄り始める。  
「ひゃ、やめ……あ、ああっ」  
「あらあら、これくらいで喘いじゃうなんて……可愛いわねぇ」  
 サラサの顔に薄い微笑が浮かぶ。  
「んもうっ、怒り、ますよ、んんっ」  
「その顔で言われてもねぇ」  
 シオの表情は泣きそうな、しかしどこか気持ち良さそうな表情だった。  
 それがさらにサラサの嗜好をくすぐり、指の動きを加速させる。  
「ひゃああ、あん、んあっ」  
「大きな声なんか出して……みっともないわよ」  
 サラサは構わず攻め続ける。  
 
「シオちゃん、なんか気持ち良さそう……」  
 シオとサラサのやりとりを見ていたイヴが呟く。  
(あんなの見せられたら、こっちも変な気分になっちゃうよぅ)  
 自然と手が秘所に伸び、自慰を始めるイヴ。  
「ん……んん……」  
(他人のを見ながらするのって、普通より……イイ……)  
 そう思いながら続けていると、突然背後から、  
「うふふ、イヴちゃん。気持ちよさそうねぇ」  
「!!……お姉様っ」  
 周囲に気づかれないようにしていたつもりだが、ティコに気づかれてしまったようだ。  
 固まるイヴに対してティコは、  
「一人よりも二人だともっと気持ちいいわよ」  
「えっ?あっ……」  
 おもむろに胸を揉み始める。  
「成長がいいのね、うらやましいわ」  
「そんな……お姉様程では、あん……」  
 シオとは対照的にイヴは抵抗せず、ティコに体をゆだねている。  
 乳首を弄り、摘み、吸うなどしてイヴを攻めるティコ。  
「やあ、あ、んあ……」  
「シオちゃんに劣らず敏感ね」  
 さらにティコの愛撫は加速する。人形を扱うかのように慣れた手つきで  
 イヴの体のあちこちを弄っていく。  
「どうかしら。お湯の中で攻められる感想は?」  
「ふああ……お姉様、もっとおっ」  
「あらあら、ふふっ、いやらしい子ね。キスはどうかしら」  
「んふっ……ん、ん、んん」  
 微笑みながらも手を休めず、口を合わせて舌を絡めあう。  
 
「ふわあ……四人ともすごいッス」  
 顔を赤らめて成り行きを見ていたヤヨイと、笑ったまま見守るソフィア。  
「あらあら、どうしましょう」  
「止めなくていいッスか?」  
「あら、仲のよろしいことなので。止める理由はありませんわ」  
「はあ……都会の女の子ってスゴイッス」  
 
 そんな二人をよそに、二組の風呂レズは白熱する。  
「ほらほらイヴちゃん、指が二本入っちゃったわ」  
「や……あ、あ、あ、ああん……ひうっ」  
 ティコの攻めは秘所の一カ所に集中する。  
「そんなに、された、らああっ……イ、イくううっ」  
 
「ほらシオちゃん、クリが一番敏感みたいね。攻めるわよ」  
「あっ、ひゃっ……見な、いで、はあああっ!!」  
 中指を動かしながら豆粒のような突起を弄っていく。  
「ら、らめぇっ、なん、だかあっ……イっちゃ……ううっ!!」  
 何かがこみ上げてくるのをシオは感じた。それを察するように、サラサは加速する。  
「いいわよ、イっちゃいなさい!!」  
 
「あ、ああっひあああああああっっ!!」  
 シオとイヴはほぼ同時に声を上げ、力尽きたように寄りかかる。  
「はあ、はあ、はあ……」  
 
 
「……終わったか」  
「……すごかったのう。まさか師匠とイヴがそんな関係だったとは……」  
「ギルドの受付嬢の姐さんも然りだな。……おい、意識あっか?  
 そこのお子ちゃま二人!」  
 奥にいるフィルとクリックは意識が半分抜けかかっている。  
「刺激が強すぎるから無理もないわい。ほれ、起きんか」  
 ルヴェルは二人の肩を揺さぶる。  
「……ふあっ!?」  
「…………はっ!?」  
 なんとか意識を取り戻す二人。しかし、動揺は止まるはずもない。  
「大丈夫か、お前ら?」  
「う、うん。何とかムグッ!ちょ、シバ何――」  
 声を出しかけたフィルの口を再び塞ぐシバ。  
「まだだ。静かにしろ」  
 そう言われ、男湯はまた沈黙する。  
 
「――もう、サラサさん!!」  
 イかされたのがよほど恥ずかしかったのか、ぷりぷりとおこるシオ。  
「あら、なかなか感度が良かったじゃない。……なんだかシオちゃんも途中から  
 おとなしくなってたわ。気持ち良かったんじゃない?」  
「もう……しらないですぅ……」  
 意地悪そうに微笑むサラサに対し、顔を赤らめてそっぽを向くシオ。  
 そんな二人とは対照的に、ティコとイヴの二人は  
「はあ……お姉様、もっとしましょうよおっ」  
「ふふ、困った子ね」  
 すっかりベタベタな魔女と小悪魔。  
「続きは今夜……『二人きり』でね」  
「はあ〜〜い」  
 今やれないのが残念だが、イヴはそれでよしと思う事にした。  
「あの……」  
 ここでヤヨイの口が開く。  
「……女の子同士でもこんなコトするッスか?」  
 いまいちそっち方面の知識に乏しいヤヨイにとって、  
 四人の行為は珍しいのであろう。  
「そーよ。ヤヨイちゃんにはちょっと早いかもね〜。それとも今ヤっておく?」  
 イヴの目が光る。その目にヤヨイは少したじろぎ、  
「い、いえ……今は遠慮しとくッス……」  
「なによ〜、ツれないわね〜」  
「も、もうちょっと胸が大きくなったら……」  
「なーに言ってんの」  
 ティコが軽くおでこをこづく。  
「い、痛いッス!!」  
「別に胸が大きくなくっても、クリック君がヤヨイちゃんを好きなら  
 それで十分じゃない?それともまだ何か望むわけ?」  
「い、いえ……」  
「だったらありのままの自分で行きなさい。巨乳だなんだに頼ろうとするのは  
 単に臆病なだけじゃない」  
「ハ、ハイ!!ありがとうございまッス!!」  
「それに……」  
 ティコはちらりとシオを見る。  
「シオちゃんとフィル君にだって、同じような事がいえるかもよ?」  
「……っなんでそこでアタシとフィル君が出るんですかあっ!?」  
 シオは赤面し、声が裏返る。  
「そろそろのぼせそうだわ。上がりましょう」  
「それもそうね」  
 サラサの言葉に女性陣は脱衣所へと向かう。  
 
 
「……よう、どうだよクリック君?」  
「うう……この色男め」  
「やめてくださいよ〜」  
 男湯ではシバとルヴェルがクリックをからかい始める。  
 ルヴェルの方は少し悔しまぎれだが。クリックもまんざらではなさそうだ。  
「それに、フィル君の意見も聞きたいな〜」  
 矛先がフィルにも向けられる。  
「お、俺は……」  
 未だ動揺していて言葉の収拾がつかないフィル。  
 からかいながらも、シバの胸中は……  
(チクショオオオオ!!!絶好の獲物だったのによおおお……これでうまくいってれば  
 ボロ儲けのチャンスだったのにいいいっ!!!これも全ては……)  
「ようヘルシンキ、お前さっきから静かになったな。まさかお前も……?……オイ……」  
 返事がない。向き直ってみると……  
「!!!」  
 水面に突っ伏して浮いている。どうやら意識をいつの間にか持ってかれたようだ。  
 鼻からは大量に出血しているようだ。今度は男湯が蜂の巣をつついたような騒ぎになる。  
「オイ!!風呂から出せ!!」  
「息してないよ!!」  
「心臓マッサージじゃ、ワシに任せろ!!」  
「とりあえず脱衣所に運ぶぞ!!」  
「コイツに一番刺激が強かったのかもな……」  
 
 てんやわんやの脱衣所。ヘルシンキは10分後に気がついたそうだ。  
 
 

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