シオは魔物討伐のためある地へ訪れていた。何の変哲のない街道沿いの小さな村に、ぽつんと立っている魔物が一体。そしてそれに怯える村人が十数人。  
「うーん、たしかに奇妙」  
 やや離れた場所で腕を組んで考える。こうして様子を見ること約1時間ほど。風が青い髪をさらさらと撫で抜ける。  
 今回の内容は『奇妙な魔物退治』。報酬も妥当なところで危険も感じなかった。受付嬢にも「まあ、あなたなら大丈夫でしょう」なんて言われたほどである。  
 けれど――本当に大丈夫なのだろうか。そんな不安が魔物と対峙したときに湧き上がった。  
 全長は2メートルぐらいだろうか。ずいぶん痩せこけているが、胸部のふくらみから辛うじて女性(という表現も妙な感じ)であるとわかる。折れてしまいそうな細い腕には、壊れかけた洋人形が抱かれている。  
 はじめて見る魔物である。このような事態には、たいていは国家の兵あたりが数人来てもいいところであるが、幸か不幸か――この魔物はぼんやりと立っているだけで、何も行動をしないのだ。  
 勇気ある周辺の住人が遠くから石を投げても、行商人が近づいて見ても、動かない。まるでサーカスのパントマイムのようにも見える。  
 魔物はいるが被害はない。このため、国家を素通りしてギルドへ降りてきたのだ。  
「どうして指名手配モンスターになってないかなぁ」  
 内容通り奇妙で、動かない。愚痴ったところで、動かない。さっきから周囲をぐるぐる回っているが、動かない。  
「でも仕事だし……うー、ちょっと怖いけど」  
 おそらく、これ以上様子見をしても変化はないだろう。だとしたら実力行使。するりと背中の剣を抜く。  
 
 いっそ暴れまわってくれたほうがやりやすい。などと、やや不謹慎気味なことも考える。剣を構えて、じりじりと地面を擦りながら距離を詰める。剣先と魔物との間が数歩と迫ったところで――  
 それは起こった。  
『アッ……』  
 魔物が鳴いた。シオはざりっと地面を蹴り、離れる。  
『アッ、アッ……』  
 かくかく。がくがく。がたがた。魔物の震えが次第に大きくなっていく。  
『アアアアアアアアアアアアアアア!』  
 ざざざざ。木々や草草が揺れてしまいそうな鳴き声。そして―― 魔物は頭上から塵となっていった。  
「なに……何なの?」  
 目の前で消失した魔物。初めてだらけの体験で、シオはやや混乱気味に剣を収める。  
「まあいいか。ラッキラッキ」  
 わざわざ手を下すこともなく依頼を成功させた。とりあえず日ごろの行いが良かったのだろうと納得させた。  
 ――このとき、彼女にそれなりの魔力があれば、魔物の異変後のことを見ることができただろう。  
 魔物が塵となる際、腕の中の洋人形からぽわりと薄い黄緑色の火の玉のような物が飛び出し、ふわりとシオの中に入っていったことを。  
 
 足取りが重い。帰路をとぼとぼと歩いているシオは、イシュワルドに入ってからずっと感じていた。どこかに座って休みたいところだが、もうすぐ陽が落ちる。夜になる前には帰らないと野宿するハメになる。  
 地面が赤く染め上げるころ、ようやく海猫亭が見えた。手伝いだろうか、イヴが水撒きをしている。  
「おー、おかえりシオー」  
 一時期の関係から思えば、今はずいぶんと丸くなったものだ。……まあイヴが一方的にライバル視していた、と言えばそこまでだが。  
「あ、ただいま……」  
「うん? 元気ない?」  
「ちょっと、疲れちゃって」  
 シオは言葉少なげに海猫亭へ入る。  
 作り置いていた物を食べ、手早く入浴し、ベッドに横になる。この間わずか一時間未満。疲れているのによくまあこれほど機敏に動けるものだと感心する。  
 ぽうっと黄緑色が光ったような気がした。それと共に睡魔が圧し掛かる。  
 ああ、疲れているんだな。シオはベッドと眠気に身を委ねた。  
 
『ん、んんー……』  
 上下左右前後、どこを見ても黄緑の世界。立っているのか、寝転がっているのか、止まっているのか、動いているのか。それもわからない。  
 腕を回して体をほぐしていると、自然に起き上がった――ように感じた。少なくとも、足を動かして歩いているのだから、立っているのだろう。  
 シオは「ああ、今私は夢の中にいるんだな」と自覚できた。  
『変な夢……自覚しているのに現実みたい』  
 これは率直な感想。  
『こんにちわ』  
 背後から声が聞こえた。振り向くと、そこには小さな少女の姿。ひらひらとした生地の、赤色の服を着た少女。  
『あ、こんにちわ』  
 シオも返す。時間の概念も感じないため、たぶん「こんにちわ」で良いのだろう。  
『どうしたの? こんな……というか、たぶん私の夢の中で』  
『これ、あげようと思って』  
 少女が突き出したのは、水色のビーダマのようなもの。飴玉なんだろうなと、根拠のない自信があった。  
『くれるの? うわー、ありがとー』  
 飴玉を口に入れた瞬間、黄緑の世界から開放された。  
 
 とっぷりと暗闇に落ちた時刻。たいていの人なら寝ているこのとき、海猫亭の一室で変化が現れた。  
 この部屋の住人、シオは目を覚ました。  
 空腹すぎて目を覚ましたことも何度かある。身体の要求を満たして横になればすぐにまた眠れる。  
 しかし、今回は今までに経験したことがない、特殊な状況だった。  
「ん……」  
 熱い。たしかに季節柄そう感じることもあるだろうが、気温ではなく体温が高い。  
 これはおそらく、経験上だと――欲情。  
「うずうず……するぅ」  
 ぱたりとうつ伏せになり、両手で恥骨辺りを押さえる。まだ移民する前、シオがそちら系の雑誌で学んだ自慰の方法だが、シオ自身はあまりそういったことに興味がなく、週に一度すれば多いぐらいだった。  
「ん、んっ」  
 体が熱い、頬が熱い、息が荒い。指に力が入り、痛いぐらいぐいぐいと押す。  
「う、あ、あ、あ、ぁ、ぁ、ぁ」  
 おそらく自分は感じやすいのだろう。しばらくするとぴくんと体が震えるような感じがして、火照りが消える。  
 だが、それはいつもの話。  
「うそ、まだ、足りない……」  
 目を閉じ、まるでこんな自分から目を背けるようにして、再開する。  
「あー、あ、あっ、ああっ!」  
 シオは数度絶頂を迎えた。こんなことは初めてで、まだ満足しないことも初めてだった。  
「どう、しよ……」  
 ぼうっとする思考が、正常に機能してくれない。よろよろと立ち上がり、部屋から出て行った。  
 
 少し場所が変わり、ここはイヴの部屋。嫌味にならない程度にカラフルな色合いで、ところどころにぬいぐるみが置かれている。いたってフツーのオンナノコという表現がしっくりくるだろうか。  
 両親が厳しいため就寝時間も決められたりしているが、イヴは静かに雑誌に目を落としていた。  
 寝癖がつかないようにきっちりと乾かし、櫛でとき、なかなかめずらしいストレートという髪型。誰からか頂いたクマのパジャマ。すぐそばにはお菓子が数個と雑誌が数冊。  
「小悪魔系ブーム再来……また私の時代到来ね」  
 スティック状のジャンクフードをがりがりとかじり、世間の主流を確認。流行を追うわけでないが、なるべく合わせるのが良い、これはイヴの信念。  
 と、そのとき。  
 ドンドン。  
 ひっぱたいたようなノックの音。乱暴な音がイヴの聖域に乗り込んだ瞬間だった。  
「あーい……て、誰?」  
 小声でひっそりと問う。両親はとうに眠っている。こんな夜中の来客は初めてだ。  
『……私』  
(シオ?)  
 まあ安全だろうと思いドアを開くと、もちろんそこには見慣れたシオの姿。  
 考えてみれば、パジャマ同士の対面は初めてだろうか。  
「こんな時間にどうしたの?」  
「ちょっと、おしゃべりしたくなって」  
 こんなキャラだったろうか。イヴは疑問に感じながらも、さっきまで寝転がっていたベッドに座らせ、間を空けてイブも座る。  
「ガガリコは食べていいけど、プリンはダメだかんね」  
「うん」  
 どうもキャラが違うような気がした。どことなく物静かな、いつもの騒がしさのない彼女。  
 夕方の様子から見るに、疲れているはずなのだが……  
 
「恋愛相談は乗らないからね。私そういうの嫌いだし」  
 もちろん嘘。本当は噂やゴシック、都市伝説が好きなのだが、シオの恋愛相談は確実にあの少年が絡んでくる。わざわざ心のかさぶたを捲るようなことはしない。  
「ち、違うよぉ。え、えーと、少しおもしろい遊びを覚えたから、それを見せたくって」  
「はぁ、遊びデスか……どんなデスか?」  
 何もこんな時間に来なくてもと思った。どうもとってつけた理由なような気もした。が、よっぽどおもしろい遊びなのかもしれない。追い返すのは楽だが、聞いてからでも遅くないだろう。  
「で、どーするのさ」  
「まず背中を向けて」  
「あいあい」  
 ベッドの中央に移動し、ぺたんと座って背中を見せる。  
「次に目を閉じて」  
「あいあい」  
 シオには見えないが、イヴはキチンと目を閉じる。付き合いがいいなぁとイヴは自画自賛。  
 シオは無防備な背中を見て――意外とぺらぺら嘘が出てくるものだなぁと感心していた。  
 華奢な肩に、小さな背中。年下ということもあるが、何ら鍛えられていない体が妙に新鮮だった。  
 鼓動が高鳴る。禁忌を犯そうとする好奇心にも似た高鳴りと、三大欲求の一つが告げる興奮による高鳴り。  
(……ごめんね)  
 後ろからイヴを抱きしめた。  
「ちょっ、なに――」  
 驚きにまかせて叫ぼうとしたイヴを、シオはその口に指を挟んで止めた。  
 
「大きな声出さないで」  
「んぐっ……」  
 声を出すのは簡単だろう。が、ここは宿屋、今日も何人か客はいる。  
 宿屋の娘が同姓との情事――イメージダウンになるに違いない。  
 イヴがあれこれと考えるうちに、シオは体温、香り、息づかいを感じ取っていた。  
(かわいぃ……小動物みたい)  
「ぁ、あぁっ……」  
 かぷりと首筋を噛む。まるで吸血鬼に血を吸われる劇画のヒロインのように悲鳴をあげた。  
「シ、オぉ、何で……こんなこと……」  
「ごめんね。なんか……我慢できなくて」  
 かぷかぷと甘噛みをしながら、つぃっと首筋を上昇する。髪の香りが良い。同性でも生活サイクルの違うこの少女が、シャンプーにも気をつかっているのがわかる。  
 シオは向き合うようにイヴを回した。このとき、イヴはシオの表情を見て『我慢ができない』ということが真実であることがわかった。  
 恍惚と。宝石好きの富豪がめずらしい宝石を目にしたような、うっとりとした表情。まさに今のシオがそれだった。  
「そんなに飢えてるなら、フィルくん襲えばいいのに……」  
「こんな夜中じゃ、迷惑だし」  
「こっちだって迷惑だっつーの!」  
「ううー、ごめん」  
 たしかに謝っているが、肩や手をつかむ力から考えると素直に離す気がないことがわかる。  
 謝罪に意を込めてだろうか、イヴの口を唇で塞いだ。  
「うっ、あ……」  
(ううっ、キスされたぁ……)  
 抵抗を試みたが、両手で頭と頬をがっちりと押さえられている。ぴたりとついた唇が柔らかくて気持ちがいい――  
(って、どうして気持ちいいなんて――あああ!)  
 
 イヴの唇が舌で割られ、侵入を許してしまった。  
「ぅ……ん」  
 鼻から抜けるような甘ったるい声。更に舌を深く入れ、二人の舌が絡み合う。  
 大人のキスをしているが、二人からはそこまでの淫靡な香りはしない。子猫がじゃれあうような、そんな可愛さがあった。  
 ようやく唇同士の間が空いた。  
「……ぁ」  
 イヴは倒れた。シオに押し倒されたわけでなく、ただ力が抜けて崩れていった。  
 ぼんやりとしていた。予想もできないような展開が、イヴの思考を鈍らせているのだろう。  
(続けるチャンス……なのかな?)  
 イヴのパジャマのボタンを外していく。少しずつあらわのなっていく素肌に、シオは興奮を、イヴは恥ずかしさを増していく。  
 パジャマの上着が開かれると、シオの手には余るぐらいの胸が露になる。  
 シオはそろりと触れた。  
「ぁん……」  
 小さな声が漏れる。シオの手が冷たかったせいもあるが、妙に敏感に反応してしまった。  
 数度、ふにふにとこねる。初めて触れる他人の胸を、大事に大事に扱う。  
 シオは顔を近づけて硬くなりつつある突起を舐め上げた。  
「やぅ、あ、ふぅう………」  
 ぬめりと温度。イヴの神経が反応する。この体は何度か異性の相手になったことはあるが、そのときとは違う刺激がそこにあった。  
「いい香り……それに、やわらかい」  
 舐め上げていた突起を、ぱくりと口に含む。れろれろと舌で擦り、歯で甘く噛む。空いている胸は手で弄る。  
 
(イヤだ、嫌だ……!)  
 イヴはシオの愛撫から放たれる快楽を必死で拒んでいた。けれど体は正直で、その快楽に身が傾こうとしている。  
 うずうずと、イヴの秘所が欲している。ほしいほしいと、粘液を分泌して訴えている。  
「そろそろ脱がすね」  
「ぁ、ぃや……ぁ、や、やぁぁぁぁぁっ」  
 腰の部分の圧迫がゆるくなり、するすると下ろされていく。  
 口と頭は拒絶している。けれど、体がまるで動こうとしない。いや、動きたくないのだろうか。この続きを期待しているのだろうか。  
 同時に下着も下ろされていた。イヴは一瞬にして全裸にされていた。  
「やだっ、やだっ、やめて、もうやめてぇ……」  
(……こんなに濡れちゃってる)  
 シオは聞き入れない。ねっとりとしたイヴの秘所に触れ、くるりと円を描くようになぞる。  
 意図したわけでないが、シオは自分の秘所に触れた。  
(あ、私も……こんなに……)  
 シオは中指と薬指を舐める。  
 そして、シオの中指が埋まっていく。イヴはか細い声を出す。  
 中指はイヴの体内をこりこりと掻いている。だが、その手つきはまるで手馴れたもの(偶然だろうが)で、イヴのウィークポイントをピンポイントについてくる。  
「ぅ、ぅ、ぅ……!」  
 やや暗い部屋なのに、ちかちかと光が見える。  
 
 少しずつ、理性が快楽に負けようとしている。  
 シオの手が止まった。でろりとイヴの愛液で満ちる指を口に含み、イヴの味を堪能する。  
「や、やめるの……」  
「ううん。本当に続けていいのかなって……」  
「ぅ……」  
 これは焦らしているのだろうか。タイミングも、聞き方も、まるで手本を見ているようだった。  
「つづ……けてよ」  
 目を合わせづらい。すっと横を向いて答えた。  
 シオはでろでろに濡れた二本の指をイヴに沈め、こりこりと上部を掻く。残った手は、熱を静めるのか高めるのか、自分の秘所へ向かう。  
「くぅ、あ、あ、あ、ぃい、あぁぁぁぁっ」  
「ん、んぅ……」  
 イヴの手は抵抗のために働かない。己の感覚を高めようと、自らの性感帯を触り始める。  
「シオ、シオ、シオぉぉぉぉぉぉ」  
 ぴくぴくと体が震えるころ、イヴはシオを引き寄せてキスをした。  
「! っ! っ!!!」  
 びくり。唇が触れ合ったまま、イヴは大きく跳ねた。  
(あ、イったんだ……)  
 口の端から荒く息を出すイヴを、シオは優しく髪を撫でてあげた。こうしていると、年の近い妹のような感じを抱いた。  
「シ、オ……」  
「ん?」  
「シぃぃぃぃぃオぉぉぉぉぉっ」  
 
 おそらく渾身の力がこもっているか、シオが動けないほどイヴは腰に手を回している。  
「よくも、よくもっ……不覚、女の子にイかされるなんて!」  
「え、あ、あはは……」  
「あはは、じゃないし!」  
 ぐりん。腰を抱かれたまま回転され、二人の位置は逆に、イヴが乗っかかるようになる。  
「ちょっと、目覚めちゃったかもしれないじゃない……」  
 そして、イヴは軽く触れ合うだけのキスをした。  
 ――その後、吹っ切れたイヴはシオを攻め抜き、シオは何度か絶頂を向かえた。気だるさが体を包みベッドに転がることになったが、お互いの体に触れ、抱き合い、数度キスをした。  
 シオはイヴへのちょっとした罪悪感とフィルへの秘密を一つ抱えることとなったが、まどろむ意識の中で徐々にそんなことも薄れていった。  
 
『ああ、まただ……』  
 シオは先ほどの、黄緑色の世界にいた。  
『こんにちわ』  
『あ、さっきの……』  
『飴、おいしかった?』  
『うん……妙な感じだったけど』  
 ぐにゃりと世界が曲がった、気がした。  
『そろそろ起きるみたいだね』  
『……起きる?』  
『じゃあまたね』  
 少女はすたすたと離れていく。距離感がないが、そんな感じがした。  
『ね、ねぇ!』  
『?』  
『また、飴玉くれる……? ちょっと病みつきになったかも』  
 少女はシオから見えないように、笑った。ニタリ、ニタリと。  
『いいよ。いくらでもあげる』  
 こうして、シオは黄緑色の世界から、消えた。  
 

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