「……さて」
邪魔者がいなくなったところで、ヤヨイは話し始めた。
「クリック君、例の豊胸薬はできたッスか!?」
ヤヨイの目が輝く。本当はクリックが(間違えて)
飲んでしまったのだが……
「あ〜あれな、危険なんでやめてもうたんや」
「えー、それでも飲みたいッスよ」
それでもヤヨイは食い下がる。
「ヤヨイちゃんの気持ちもわかるわ。でもな……」
クリックはゆっくりとヤヨイを抱きしめる。
「!!?……ク、クリック君!?」
突然の行動に動揺するヤヨイ。クリックは耳元で
ささやくように言う。
「ボクは……自然なヤヨイちゃんが一番なんや」
顔に血が上って真っ赤になる。それはクリックも
同じであった。そしてゆっくりと腕を緩める。
「……ヤヨイちゃん?」
「……」
固まって動かない。しばらくして我に返る。
「……あ、そろそろ 私帰るッス」
未だ心の整理がつかないため、声も小さかった。
「あ〜じゃあ送るわ。もうこんな時間やから女の子の
一人歩きは危ないやろうし」
「……ありがとうッス」
声は小さいが、ヤヨイは嬉しそうだった。
「手ぇ……つなごか?」
クリックは右手を差し出す。
それを見たヤヨイは少し笑って、
「ふふっ、今日のクリック君はなんだか積極的ッス。
何かあったッスか?」
そう言って左手を出してつなぐ。
「……秘密や♪」
二人は歩きはじめた。外は真っ暗で、人はいない。
途中でも楽しそうに話をしながら、帰路につく。
――明日もイシュワルドの一日が始まる。