様々の人が抱く、イーヴルージュ=フラフのイメージ。  
 
・いやぁ、アカデミー始まって以来の天才ですよ、彼女は。(アカデミーの先生たち)  
・いい子ですよね、明るいし。(彼女の知り合い)  
・どーも猫かぶってる感じ。好きになれない。(アカデミー同級生の女子学生)  
・愛してます。結婚してください。(アカデミーの男子学生とかいろいろ)  
・あのチチがいい(そこらの酒場で飲んだ暮れてるオジサンたち)  
 
 イシュワルドアカデミーには13歳で入学、2年間でその全課程を修了。現在卒業して、両親が経営する宿屋でお手伝い。  
 素敵な彼氏を作る事が夢、願望で、その為なら二股三股もかまわない。(年上が好み)  
 家の門限は18時。  
 とまあ、あといろいろあるけれど割愛。今回は、こんな彼女の一日を追う。  
 
 
 
『AM9:00』  
「いってきまーす」  
 7時に起床、しっかりと2時間宿屋の手伝いをして眠気覚ましに身支度。そして9時には家を出る。行儀が悪いと思いつつも、歩きながらイシュワルドパンとコーヒーを食す。わき腹が痛くならない程度の速度で歩き、消化できたかなと感じたぐらいにギルド前に到着する。  
「フィルくん、おはよう!」  
 朝一番、その日一番の笑顔を向けられたのは三股目ぐらいの候補。ギルドの前で軽くおしゃべりをして(とはいえ、彼女が一方的に話しているように見れる)、彼の本命と思われる女性が来る前に別れる。  
「じゃあ、また今度ね!」  
 ぱちんとウィンク。三股目ぐらいの候補にしては、扱いはずいぶんと良いほうだろう。  
 
『AM9:39』  
「おはよーございまーす」  
 ギルドから少し歩けば、イシュワルド名物(?)の海に着く。そこの港の、少し外れたところに物置代わりにされている壊れかかった小屋がある。人目を忍んでイヴが入ると、そこにはどこから見ても海の男(以下:海の男)がタルに腰掛けてニヤついた笑みを向けている。  
「おう、イヴちゃん、さっそく頼むよ」  
「はーい♪」  
 海の男の足元に跪き、馴れた手つきでイヴの海の男の一物を取り出す。  
「あは、もうこんなに硬いっ。我慢してたんですか?」  
「ああ、このところ忙しくてね」  
「たっくさん、出してあげますからね」  
 裏筋に唇を当て、柔らかな舌先でちろちろと刺激する。か細い指はまだ竿に添えられたままで動かさない。  
「ん、ん……あん、べたべた」  
 亀頭の先から滲む先走りを指ですくい、ぺろりと舐める。塩水を薄くしてとろみをつけた液体が口内を奇妙に主張する。  
「な、なあ、丁寧にするのは二回目からでいいから、まずはさっさと抜いてくれねぇかな?」  
「あ、はぁい」  
 イヴは亀頭の先頭に唇と押し当てたと同時に、一気に小さな口に入れた。  
「うお、おおっ」  
「んんぅ……はぅ」  
 えづいてしまうぐらい押し込み、舌の平で裏筋を満遍なく舐め上げる。そして、ゆっくりゆっくり引いていく。ぬめりと、一物はイヴの唾液で差し込む光をてかりと妖しく光らせる。  
 亀頭のみを口に入れた状態で、今度は先ほどよりも動くことできる舌が、乱暴に、弄ぶように刺激していく。  
「奥、奥まで入れてくれ……そろそろ……」  
「ぅん……ん」  
 再度一物を飲み込み、どうしても飲み切れない竿の部分は指で上下に動かす。このとき、なるべく鼻息を荒くし、生暖かい空気を相手の肌に当ててさらに敏感にさせる。  
「あ、イく、イくぞ!」  
「―――!」  
 喉奥で焼き焦がすように熱い液体が吹きかかり、イヴは一物を抜き取って、やや顔を上げて残さず飲んでいく。  
「ん、あぁ……にがくてどろどろ♪」  
「さ、次からは丁寧にやってくれな」  
「はい♪」  
 
 なお、イヴのメモはこんな感じ。  
『海の人:おフェラが好き。体には興味ないみたい。胸でしてあげても気持ち良くないみたい。変なの』  
 
『AM10:53』  
「うー、いたたた」  
 あの後、海の男を口で相手すること4発、さすがに口の疲労が隠せない。心なしか、タンパク質の過剰摂取で腹痛のような、お腹の重いような感じもあった。  
(それにしてもぉ……)  
 直接愛撫されたわけではないが、男の象徴を視覚、触覚、味覚で受け止めたのだ。胸の内がじんと熱くなってしまうのは仕方ないと言えば仕方がない。これは今日に限ったことではないが、本日はどうも心の温度が高い。  
 イヴは路地裏に入り、壁にもたれかかりながらそっと胸に触れる。  
「うぅん………」  
 右手はその柔らかな胸に沿い、すでに固くなった突起を掻く。  
「あぁ、あんっ」  
 左手は服の上から、秘所のやや上あたりを強く押さえる。するときりきりとした電流がへその上あたりに帯電のような、放電のような感覚に襲われる。  
 けれど、ここは路地裏とはいえ屋外。彼女が満足できるほど、この行為に耽るわけにはいかない。  
「……たりなぁい」  
 当然と言えば当然。イヴが次の行動に移るまで時間は要さなかった。  
「うん、よしっ」  
 昼前ということもあり、街中の混雑は第一次ピークを迎えようとしている。そんな人ごみを、イヴはじっくりと品定めをする。  
「きーめたっ」  
 どうやらお眼鏡に適う相手がいたらしい。イヴはさっさと人ごみを掻き分け、目標の相手の前に行き、止まる。  
 中肉中背の、30歳前後の髭の似合う紳士(命名、髭紳士)。イヴはその髭紳士の手を取り、こっそりと言った。  
「オジサマ、今お時間ありますか?」  
 
『AM11:12』  
 裏通りに入れば、いわゆる出会い茶屋のような宿を多くある。その中には宿屋の娘のイヴが認めた、お気に入りもいくつかある。  
 ある宿の最安値の部屋には、髭紳士が落ち着かないような面持ちと態度でベッドに座っている。  
「あらら、そわそわしちゃって」  
 イヴはシャワーを浴びながら、ガラスの向こうの髭紳士を見つめる。目が合ったので、笑顔で手を振って応える。  
 せいぜい「こんなとこ見られたらおしまい」程度のことを考えているのだろう。イヴの経験上、ああいった立場の人はそう考えることを知っている。  
「おまたせ〜」  
「ああ、うむ」  
 イヴは体を軽く拭き、髪からぽたぽたとしずくが零れるのを気にせず、バスタオル一枚で髭紳士の横に座る。  
 ぴったりと密着して座り、わざと胸元を開けるようにバスタオルを緩める。そして極め付けが、  
「さ、どうぞ召し上がれ」  
 バスタオルをぱさりと落とし、イヴは髭紳士に抱きついた。  
 
『AM11:43』  
「あんっ、あんっ、あんっ、あんっ!」  
 部屋の中に響く女性の嬌声、ぬちゃぬちゃと水のぶつかり合う音。イヴはベッドのシーツを強く握りながら、何度も貫く肉棒をしっかりと咥えていた。  
「はぁ、はぁっ、どうだ、ここはどうだっ」  
 腰を強く何度も動かしながら、髭紳士はイヴの手に収まるような胸を掴む。それを円を描くようにこねあげ、顔を落として吸い付く。  
 どうやら髭紳士は一度スイッチが入ると豹変するタイプの人間だったらしく、最初はじわじわとイヴが責めていたが、ある瞬間を境に立場が逆転した。  
「あぁぁぁんっ! いいの、胸が気持ちいいのぉ!」  
「そうかそうか、なら――」  
 髭紳士は突然動きを止めた。イヴの惚けた頭はすぐに理解できなかった。  
「オジ、サマぁ……どうしてやめちゃうの?」  
「ちゃんとお願いしてみな、その可愛いお口でね」  
 と、ニヤリと笑う。イヴの直感は働いた。こいつは性行為でなく、相手を支配することに快感を覚えるタイプっ!  
「はぁ、はぁ……イヴのぉ、イヴのおまんこに、オジサマのおちんちんで突いてぇ……」  
「よく言ったな。ほら!」  
「あ、あああ!」  
 先ほどより激しく、しかもへその舌あたりを押さえて、女性の感じやすい膣内の上部を肉棒に擦り合わせる。  
「あああああ! や、や、こわれ、ちゃうぅぅぅぅ!」  
「は、はぁ、イくぞ、顔に出すからな、避けるんじゃないぞ!」  
「来て、たくさん来てぇぇぇぇっ!」  
 きゅっと膣内が締まると共に髭紳士は肉棒を引っこ抜いて、イヴの顔まで持っていって己の欲望をぶちまけた。粘度のある黄色じみた精液がびゅるびゅると、イヴの鼻先から頬、口までを汚していく。  
「ああ、あつい……あん、お口に……」  
 口の中に進入した精液をこくりと飲み、放心状態で天井を見上げている。  
「何をぼさっとしている。俯けになって、腰を上げろ。今度はバックだ」  
「もう、元気なオジサマ♪」  
 顔からしたたる精液をそのままに、イヴは言われた通りの体勢になり、秘所を指で広げて誘う。  
 精液と愛液にまみれた肉棒は、ずぶずぶとイヴの中に沈んでいった。  
 
 イヴのメモはこんな感じ。  
『髭紳士:実はサド気の強い人。ちゃんと外に出してくれるあたり紳士〜』  
 
『PM1:06』  
 イヴと髭紳士は3ラウンドを終え、ルームサービスで昼食を摂った後に休憩時間の2時間が経過した。宿を出て適当にプロフィールを交換し、二人は別れた。  
「えっとー、次は……」  
 すでに二人相手にしたイヴだがまだ暇はないらしい。小さなスケジュール帳をぱらぱらと向かう。  
 この後の予定のページを見つけたのか、手が止まる。が、目線は別のほうへ行っていた。  
 手帳とはまったく別、すぐ目の前の人間に向いていた。  
「よ〜う」  
「うわ、シバ……………さん」  
 妙に目につく赤い服、金の逆立った髪。シバの便利屋店長のシバがいた。  
「おい、なんだよその間は。さては俺のこと影で呼び捨てにしているな?」  
「ま、まぁさか」  
 図星というのはお約束。シャワーを浴びたばかりのイヴの背中は冷や汗で濡れていた。  
「私、忙しいのでこれで……」  
「ちょと待てやお嬢さん。どうせ男のとこ行くんだろ? ならその前に頼まれてくれねぇか?」  
「………」  
 おそらく断る権利はないのだろうで無言で頷くイヴ。  
「シバ特製おたのしみセット、羞恥プレイ用試供品〜」(おなじみのリズム)  
「て〜れて〜れてれれれ〜てって、じゃない。何よ、その『羞恥』って!」  
「『拘束&SMプレイごっこセット』に続く第二弾だ。モニター頼む、礼は弾むからよ〜」  
「外道にも程がある……」  
「またまたぁ、興味ぐらいあるだろう?」  
 ないと言えば嘘になる。イヴの常連には、羞恥プレイを楽しむような酔狂はいない(というのもさっさと股を開いてしまっているから)。  
「鬼畜にも程がある……」  
 と言いつつも、しっかりと受け取る。  
「じゃ、そこらの公衆トイレでも着用してくれい」  
「言われなくてもしますよーだ」  
 あかんべーの一つを投げ、さっさとイヴはシバから逃げるように離れていった。  
 
 イヴのメモは……シバの項目は罵詈雑言の嵐のため解読不能。とりあえずひどい扱い。  
 
『PM1:24』  
「とは言ったものの……」  
 イシュワルド公園の綺麗めな公衆トイレを選び、個室に入ってさっそく開封してみたが……  
 中身は、リモコンローターにお手軽亀甲縛りロープ、ローション&いぼいぼつき極小バイブ、そして、プレイあとの癒しのためかパインジュース一本。  
「リモコンローターなんて一人じゃ意味ないし。ロープはこの服じゃさすがに目立つし……」  
 ちらりとローションとバイブ。  
「下着がべたべたになったら親にばれるっつーの」  
 つまり一人では無理という結論。それもそのはず、羞恥プレイはされる側と見る側がいないと成立しない。シバにしてはめずらしいミスと考えてもいいだろう。  
「シバには悪いけど、今回はパスということで」  
 せっかくなのでパインジュースは頂いておこう。  
 
『PM1:58』  
 次の約束まで時間があるため、イヴはふらふらとウィンドウショッピングをしていた。もちろん眺めるだけでなく、自分を磨くための買い物や情報収集も兼ねている。あと、常連発掘もである。  
 だが、イヴの体に小さな異変が感じられた。  
「…………」  
 気にしない。が、いずれ我慢できなくなる、という感じもあった。  
「シバのやろぉうぅぅぅ」  
 あのパインジュースだ。あれに何か――絶対媚薬だ――が混入されていて、それが効き始めている。というか、おそらく羞恥プレイセットはおとりで、目的はあのパインジュース一本だったのかもしれない。いや、そのはず。  
 少しずつ、足取りが重くなっていく。息が荒くなっている。ぼうっと、腹を中心にじわじわ熱の波が走っている。  
「う、ぁ……これきつすぎ」  
 路地裏へ行こう、ここからは遠い。ならいっそここで、いやいや、さすがにそれはできない。思考がうまく作動していない。  
 顔すら上げられない。気を緩めれば倒れそうになる。  
 そして突然の衝撃。  
「?」  
 衝撃はおかしい。物理的な症状はないはず。  
「おい、なにぶつかってんだよ!」  
「ぁ、ごめんなさい……」  
 どうやらぶつかったようだ。しかも、ゴロツキ。とことん運が悪い。  
「はんっ、礼なら向こうで聞いてやるよ」  
「わ、や、やだ!」  
 手首を掴まれ、おそらく人のいないところに連れて行かれようとしているのだろう。ぼんやりとした頭でもそれぐらいわかった。  
「た、助け――」  
 不意に黙った。周りには憲兵はいない、そして他人は知らぬふり。騒いだところで助けてくれる人はいない。  
「…………っ」  
 助からないとわかればポジティブに考えよう。相手は誰でもいい、この体の熱をとってくれれば――  
「何をしているのじゃ!」  
 ゴロツキでない、もちろんイヴでもない、誰かの声。  
「あ………」  
 薄れ始めた意識と視界の中、かろうじてその声の主を確認することができた。  
「ヴェルっちょ……だぁ」  
 
『PM2:41』  
「あれれれ?」  
「あら、目覚めたようね」  
 見知らぬ天井――より早く、ティコの顔が飛び込んできた。  
「うわ! お姉様だ!」  
「私は恐竜か何かかしら? まったく、迷惑な子ね」  
「………………ごめんなさい」  
 朦朧としていた思考が回復していたようで、少しの間のあと、イヴは素直に頭を下げた。単純に考えれば、あの後ルヴェルが助けてくれて運んでもらったのだろう。そして、ここはティコの部屋かもしれない。  
「ほんとにごめんなさい……」  
「誤るぐらいなら、ほいほい人に付いて行かない」  
「は、ははは、そうですよねぇ、あははは」  
 厳密に言えば違うのだが、あえて口にしない。そんな二人の間に、ノックの音が乱入した。  
 トントン。  
『師匠、イヴは目を覚ましましたかのぉ?』  
「あと30秒待ちなさい。でなければマジックミサイル回避の刑」  
『了解ですじゃっ』  
 扉越しの命令。姿は見えなくとも、身をすくめているルヴェルの姿が容易に想像できる。  
「ふぅ。ルヴェルくん、さっきからあんな感じなのよ?」  
「ええっ!?」  
「すごく心配してるみたいよ」  
「ヴェルっちょが……」  
「本人から訊いてみればどうかしら?」  
 30秒が経過したのか、ルヴェルがドアを開けた。  
「おおイヴ。目が覚めたようだな」  
「あ、ども……」  
 イヴのリアクションにティコは噴出しそうになるが、ぐっと堪える。  
「あ、そだ。そろそろお得意様が来るから店番変わってあげるわ」  
「はて、そんな予定ありましたかのぉ?」  
「黙りなさい鈍感キング。いいこと? 3時間ぐらいしたら戻るから」  
 この後もルヴェルは何か言っていたが、ティコはさっさと出て行った。二人に対しての気遣いだろう。ルヴェルは気づいていないだろうけど。  
「……まったく、師匠は」  
「あは、はぁ。はぁ……」  
「しかし……まるで知り合ったときのようだな。またゴロツキなんぞに絡まれおって」  
「絡まれてない! ちょっとぶつかっただけだし……」  
「似たようなものだろう」  
 ここで無言。素直になれない女、その女に手を焼く男。二人にぴったりのポジションだ。  
「イヴ……まだ、続けているのか?」  
 ルヴェルの言葉に主語はない。が、それがイヴの日々の行動というのは、ルヴェルの言い方から明白だった。  
「あ、うん……」  
「イヴ。お主は、ちゃんとした恋愛をしたほうがいい」  
「……」  
「へその下だけの付き合いでなく、なんというか……こう、精神的な、アレじゃ」  
「そんなベタなこと言わないで」と、普段のイヴなら言っているところだろう。けれど、イヴは黙ったままそれを聞き、じっくりと今までのことを振り返った。  
 というのも、さすがに先ほどの一件はルヴェルに迷惑をかけてしまった(彼の師匠ならさも当然のように振舞うだろうけど)。そのことを無視するほど、イヴの人格は破壊していない。  
「……もう遅いよ」  
「まだ間に合う。まだ16歳じゃろう」  
「無理だって」  
「無理じゃない」  
「ならどうするのさ? どうにかしてみてよ!」  
 無言。二人は居たたまれなく、下を向いた。  
「ヴェルっちょ……こっち来て」  
 
 イヴは体を起こしベッドに腰掛けた。脚の上で軽く手を握り、少し目を伏せがちにルヴェルを待つ。ルヴェルはというと、どうしたものかと考え――イヴの右隣に、握り拳二つ分ぐらいの間を空けて座った。  
「もう少しこっちに来てよ」  
 と言われて、一つ分詰める。それでもイヴは何か言いたそうにしているため、ルヴェルはそのままもう一つ詰めた。  
 二人の間は完全に詰まり、超近距離。意識すれば、相手の体温が感じれるかもしれない。  
「………」  
「…………」  
「手、出してくれんかのぉ?」  
「……うん」  
 イヴから差し出された手を、ルヴェルは両手で包み、まるで猫を撫でるかのように、イヴの手の甲をさする。  
「あっ……」  
「ん、どうした?」  
「ううん、続けて」  
 イヴの頬が赤くなっていることをルヴェルは気づいていない。ルヴェルはただ丹念に手を撫でている。  
(うわー……どきどきする)  
 心臓の鼓動が激しい。がらにもなく、男性と接して緊張しているようで、自分にもこんな一面が残っていることに、イヴは我ながら関心する。  
 撫でていた手を離し、ルヴェルは左腕をイヴの背中に回した。  
「きゃっ!」  
「す、すまんっ」  
「う、ううん……いいよ」  
 好きにして――という言葉を喉奥に留めておく。この言葉は何か違う。確信はないが、そんな感じがした。  
 ルヴェルはイヴの肩に手を置き、しかしすぐに腰に移動させた。イヴの体はぴくりと反応するが、ルヴェルはそこを責めるわけでもなく、ただ手を添え、少し自分の方へ引き寄せる。  
 この状態で二人は硬直した。無言で、俯いて、ただじっとしている。  
 二人は相手の心理をわかるはずはないが、偶然――いや、当然のように、二人の感情は同じだった。友人の一線を超えようとしている、そんな状況で平静を保てる者はそうそういない。  
「………」  
「……」  
「ヴェ……」  
「うん?」  
「ヴェル……」  
 ルヴェルはようやく気がついた。隣の少女が、耳まで真っ赤にしていることを。  
「ル、ルヴェ……ルヴェル……」  
 イヴはルヴェルに体を向け、勢いよくルヴェルの胸の倒れかかった。ルヴェルは難なく受け止め、自然に手を回して抱きしめる。  
「こ、こうしてていいかなぁ……」  
「ああ、いいぞ」  
 ルヴェルは、あだ名でなくて名前を、真っ赤になってまで言った彼女を非常に愛しく感じた。抱きしめながらも、彼女の頭も撫でた。綺麗でつやのある髪が指をくすぐらせる。  
「な、なんか照れるね……」  
「そうだな」  
「……冷静じゃん」  
「そうでもないぞ。まぁ……昔いろいろしてしまったからのぉ」  
 ルヴェルはあまり過去を語らない。誰かに聞いた話だと、故郷を追い出されるほどのやんちゃだったとか――まあ、イヴにはあまり関係はない。  
「もう少し、こうしてて」  
「ああ」  
 それから二人は、抱き合ったまま話をした。実に他愛のない世間話。時に笑い、時にどちらかが呆れるような、平和なひと時。ただ普段と違うところは、二人の距離だけであった。  
 そんな話はしばらく続き、ある時を境に二人は黙った。気恥ずかしさからでなく、単に話題が尽きたようだ。  
「イヴ……」  
 名前を呼ばれ、イヴは顔を上げた。すると、それは一瞬だった。ルヴェルの顔がすっと近づき、二人の唇が触れ、すぐに離れた。  
「あっ……」  
「もっとしたいのじゃが、良いだろうか……?」  
「うん……いいよ」  
 イヴは目を閉じ、顔を上げたまま固定させた。ルヴェルの行為を静かに受け止めようとする。  
 彼女の顎を両手で支え、唇にそっと口付けをした。柔らかい感触。繰り返し繰り返し、優しいキスをして愛していく。  
 イブからしてみれば、感触を覚えたいのか単に焦らしているだけなのかよくわからない。が、丁寧に接してくれることはわかった。  
「あぅ……」  
 何度キスをしただろうか。見当すらつかなくなったころ、イヴは薄く目を開け、舌先を滑らせるように出した。  
 聞かずともルヴェルは理解し、唇を付けると共に己の舌を出し、絡めあう。  
「ぅん、ん」  
 力のこもっていない甘ったるい声。絡め、唾液が混ざり合っていくにつれどんどんと大きくなっていく。  
 ルヴェルは舌を絡ませたままイヴの肩にそっと手を置き、ゆるりとイブの体をベッドへ倒していった。  
 
「ぁ……」  
 ぽすりとベッドの感触が背中から広がる。イヴは、ごく自然にルヴェルを見た。  
 ルヴェルの手が胸に触れ、優しく形を変えられる。唇が唇から離れ、頬に、まぶたに、首筋へ移動する。  
 今までの誰よりも丁寧に扱ってもらっている。ルヴェルの気遣いが、イヴの心を大きく刺激した。  
「……イヴ?」  
「あ――」  
 イヴの目からぽろぽろと涙がこぼれていた。イヴはルヴェルを心配させないように黙っていたが……隠し通せるはずはない。  
「ううん……ちょっと昂ぶっちゃって。続けて」  
「じゃが……」  
「なら暗くして。カーテン閉めるだけでいいからさ」  
 おそらく心配はないだろう――ルヴェルはベッドから降り、カーテンを閉めにゆく。あと、ティコの部屋にひっそりと備えられている、ダイヤルで光の量を変えられる照明を抑える。  
 イヴはその間に、ルヴェルの背中を見ながら服を脱ぎ始める。  
「……イヴっ」  
 部屋を暗くして振り返ると、そこには生まれたばかりの姿になったイヴがぼんやりと見えた。うつむき加減に、弱く腕を組むように胸を隠し、恥ずかしそうに――そこには、小さな少女がいた。  
「えへへ……どう、かな?」  
「綺麗じゃ……天使――とは少しおおげさじゃけどな」  
「もうっ、一言多い!」  
 ルヴェルはベッドに戻り、横になってイヴを抱きしめた。柔らかい肌を服を通してもよくわかる。ルヴェルはたまらなくなり、胸への愛撫を再開させる。  
「あ、ぁあ……」  
 激しさのない愛撫。それなのに、刺激は今まで味わったことのないような強さだった。精神、精神的に愛し合うとは、こんなことを言うのだろうか――  
「あっ! あああ――」  
 ルヴェルの指が秘所を沿う。が、指の感触はない。ぬるぬるとした液体――愛液が、指の感触を伝えていなかった。  
「ひぁぁぁぁっ」  
 ずるりと指が自分の身体に入り込む。  
「痛くないか?」  
「だいじょぶ……」  
 性感が凄すぎるけど。イヴは小さく加えておく。  
「ならもう一本入れるぞ」  
「ぅ……はぁぁぁぁ」  
 指の腹を内部の上辺りを擦る。気持ちいい。が、それ以上にそこからくちゅくちゅと水っぽい音が聞こえることが恥ずかしかった。  
 ルヴェルは指を抜き、服を脱ぐ。そんなルヴェルをイヴは気づかれないように凝視する。ほっそりとしたイメージがあるのに意外と鍛えられているように見える。  
「……どうした?」  
「ううん。ちょっと惚れ直した」  
「アホか」  
 なんて会話を交わしながら、ルヴェルはイヴの脚を両手で広げてそこに身を置いた。  
「……やぁ」  
 イヴは自分の大切なところを隠したが、すぐにその包囲を解いた。恥ずかしがっている自分が、とても恥ずかしかった。  
「いいよ、ごめんね……」  
「いや、気にしておらん」  
 ルヴェルは腰を引いたまま上半身を倒し、イヴを抱きしめ、キスをして――腰を沈めた。  
「あああ、あつ、ぁあああぁっ!」  
 ルヴェルの物が愛液をまとい、イヴの中にすっぽりと収まった。  
「お、おお。イヴ……イヴ……」  
 ルヴェルは熱烈にキスをする。イヴもそれを受け止め、背中に手を回して彼の体温を己の肌で感じ取る。  
 イヴの両肩を持ち、身体を前後に動かし始める。  
「……っ! んっ……ぁあ!」  
 ぐらぐらと体、心が揺れる。気持ちよさが飛び越え、理解不能と思考が訴えている。絶頂とか、そんなものではなく、ただルヴェルを感じていたかった。  
「いいっ……イヴっ……も、もう……」  
「いいよ……中に、イヴにちょうだいっ」  
「う、うう、イく、イき、そ、あああっ!」  
 ルヴェルの息が止まり、動きが止まった瞬間。イヴの中がぶるりと震えるように温かいものが広がっていく。  
「ルヴェルっ……」  
 イヴはルヴェルの顔をそっと持ち上げ――  
「好きっ」  
 彼の唇にキスをした。  
 
『PM5:28』  
「まだこうしているのか?」  
「えへへ、いいじゃない」  
 あのあと二人は軽い眠りにつき、先に目を覚ました。そしてルヴェルは叩き起こされ、こうして数十分ほど抱き合っていた。  
「ねーね、私たちってどんな関係なんだろうね」  
「どうじゃろうな」  
「……ちぇー」  
 二人はずっとこのやりとりを繰り返していた。イヴにしてみれば、おそらく恋人にでもなりたい(というか、もうなっていると信じているのかもしれない)と思っているのだろうけれど――  
 ルヴェルにしてみれば将来豊かなこの少女、自分なんか束縛していいのだろうか、と考えていた。このことを言えば、彼女は怒って殴りかかってくるだろう。たぶん。  
「あう……もうちょっとこうしてたかったけど、もうすぐ門限だ」  
「そうか。残念じゃな」  
「ねね、今日最後のキスでばいばいね」  
「『今日最後』は何度目じゃろうな」  
「いいの!」  
 イヴは勢いよくキスをして、ベッドから降りて服を着始める。ルヴェルも追うように降りて着る。  
「ん、じゃあな、イヴ」  
「うん……ばいばい」  
「なんつー顔をしているのじゃ。すぐ会えるじゃろう」  
「うん、そだね……うん、わかった! それじゃ!」  
 元気よく、イヴは部屋を飛び出して帰路へついた。  
 
 

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